見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか   作:てぬてぬ@TSF

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79.それぞれの向き合い方

半ば壊れかけのガレージで、一人の女性がACの状態確認を行っていた。彼女の名はメーテルリンク。ヴェスパー部隊の一員であり、V.Ⅵの番号を割り振られている。

 

「ここの損傷、思ってたより酷い・・・・・・パーツ足りるかな・・・・・・」

 

ブツブツと呟きながら、愛機であるインフェクションの内装を確認していく。本来なら整備士の仕事であるはずなのだが、現状人手が足りなさ過ぎた。整備士の殆どは解放戦線の捕虜になり、残った僅かな者は大気圏脱出用の大型ロケットの整備で忙しい。故に、メーテルリンクは一人でインフェクションの修理を試みていた。

 

「うわ、これは駄目っぽい。エネルギーの伝導効率が落ちるけど、仕方ないか」

 

現在、アーキバスが辛うじて確保した臨時拠点ではV.Ⅲオキーフが指揮を執っている。V.Ⅰフロイトは失踪、V.Ⅱスネイルは彼に攫われた。上位ナンバーがオキーフしか残っていないのである。そして、V.Ⅳラスティは裏切りV.Ⅴホーキンスは解放戦線に捕えられた。惨憺たる有様だ。

 

アーキバスグループ内でも最精鋭と称されたヴェスパー部隊。未だに健在な隊長は自分とオキーフ、後はドルマヤンに落とされ重傷を負ったV.Ⅷペイターのみ。最早部隊としての体すら成していない。MT部隊も殆どが壊滅し、小規模な戦闘さえ困難な状況だ。

 

それでも、メーテルリンクは黙々とインフェクションの修理を進める。修理用のACパーツは殆ど無いが、最低限動けるように誤魔化さなければならない。最悪、今にでも解放戦線が攻め寄せてくる可能性もあるのだ。物資も設備も足りない為、彼女に出来ることは少なかった。

 

臨時指揮官のオキーフは、交渉による降伏も視野に入れているらしい。星外と連絡が取れない以上、現場で判断するしかないのは理解出来る。しかし、解放戦線に降伏した場合どうなるか。積もり積もった積年の恨みから、私刑にかけられるかもしれない。それはメーテルリンクにとって身が震える程の恐怖だった。

 

彼女にとって、ヴェスパー部隊での任務はただの仕事だ。AC乗りとしての誇りや矜持は持っていない。ヴェスパーの、ひいてはアーキバスの命令を忠実に守り続ける。そうすれば、除隊後は裕福な暮らしが待っているはずだと信じていた。

 

メーテルリンクは元々、アーキバスグループの一社員だった。どこにでもいる平凡な社会人であった彼女の運命が変わったのは、アーキバスグループ内で一斉に行われた新型強化手術の適性検査である。幸か不幸か社員随一の適性を有していたメーテルリンクは、ほぼ強制的にAC部門へ転属することになってしまう。

 

第8世代強化手術はコーラルを使用しない安全なものである。医師からどれだけ説明されたとしても、恐怖心が消えることは無かった。が、そんな思いとは裏腹にすんなりと強化手術は成功。あれよあれよという間にパイロット養成課程を通過し、ヴェスパー部隊へと配属された。

 

言わば、大きな波に流されるままにこんな所まで辿り着いてしまったのが今のメーテルリンクだ。仕事と割り切りルビコンで作戦活動に勤しんだ結果が現状なのだとしたら、きっとバチが当たったのだろう。それでも彼女は死にたくなかった。除隊後の安寧すら脅かされている今、せめて生き残らなくては。

 

だからこそ、彼女は一人でひっそりと修理を進めている。力が必要だ。何が起こるか分からない未来に、抗う為の力が。力と言えば、メーテルリンクにはACしか思い浮かばなかった。半ば巻き込まれる形で強化人間になったというのに、最後に縋るのがACとは。自虐的な気持ちになりながらも手は休めない。縋れるものならなんにでも縋りたい程追い詰められているのだ。

 

「廃棄予定のMTから装甲を流用すれば・・・・・・いや、ACSが機能しなくなるよね。せめて内装剥き出しだけは避けたいけど、どうしよう」

 

独り言を漏らしながら、インフェクションの応急修理案を模索する。今のままではまともに稼働することは不可能だ。仮にこのまま戦場に出たら、ライフルの弾一発で機能を停止する可能性がある。内装が剥き出しな上にACSが働いていないとはそういうことだ。

 

この窮地をどうすれば乗り越えられるのか。自分が考えても仕方ないと思いつつも、メーテルリンクは思考せずにはいられなかった。あるいは、オキーフの言う通り降伏するのが一番マシなのかもしれない。捕虜としてまともに扱われるのなら、少なくとも死ぬことは無いはずだ。

 

だが、不安の拭えないメーテルリンクは応急修理を続けていく。慎重故に臆病な為、楽観することは出来ないのだ。己の弱さに再び自虐的な気持ちになり、目元に涙が滲む。いっそ誰かに助けてほしい。その願いは、まだ叶うことは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ、ぐうぅ・・・・・・!」

 

全身に走る激痛。こみ上げる呻き声を噛み殺しながら、コックピットの男はゆっくりと己のACを操作した。ブーストを吹かし移動するだけで、四肢が千切れるような痛みに襲われる。しかし、それだけだ。痛みを覚えた所で彼に止まる気は無い。

 

「やはり無茶です、同志ダナム!どうか静養してください!」

 

「問題無い。この程度ならば、今までに何度も味わってきた」

 

インデックス・ダナム。ルビコン解放戦線の中でも古参である戦士は、グリッド012の戦いで重傷を負った。全身が潰される寸前までいったがなんとか一命を取り留め、回復に努めているはずだったが・・・・・・。今の彼は、愛機であるバーンピカクスのコックピット内で戦闘シミュレーターを起動している。体のあちこちに包帯や固定具が取り付けられており、酷く痛々しい。

 

「何故そこまで・・・・・・!怪我の影響で全身の神経に多大な負担がかかっているんです、本来ならば絶対安静なんですよ!?」

 

「早晩、企業の連中は動きを見せるだろう。その時にもベッドで横になっていろと言うのか?」

 

「そ、その通りです!医師として、出撃を許すわけにはいきません!」

 

ダナムの低い声に、ルビコニアンの医師は怯むこと無く言い返す。彼からしてみれば、今のダナムの行いは無謀に過ぎる。怪我の治りを遅くするだけの愚行だ。

 

「・・・・・・そうか。お前の言葉はきっと正しいのだろう。だが、俺が出撃することで他のルビコニアンの命を救えるなら安いものだ。頼む。ここは無理を通させてくれ」

 

モニター越しに頭を下げるダナム。これには医師も言い返せなかった。元々、先の大反攻の際にはダナムも大人しく治療を受けていたのだ。ルビコンの未来を左右する戦場に立てないのを、心の奥底から悔やんでいるのも知っている。戦士として死んだも同然だと、先日漏らしていたことも。

 

「あぁもう・・・・・・一日30分だけです。それ以上は看過出来ません。それと、シミュレーターの負荷も最低限まで落としてください。それ以外の時間は絶対安静にし、こちらの指示に従うこと。これが、譲歩出来るギリギリです」

 

絞り出すように言い、医師は深い溜め息を吐いた。戦士の信念は医学と相容れない。だが、ルビコンの転換点である今は不合理こそが道を切り開くのかもしれない。そう、自分に言い聞かせるしか無かった。

 

「すまない、医師の本分を曲げさせてしまった。感謝する。必ず、同胞を守ってみせよう」

 

「いえ、自分自身も守ってください。仮に出撃出来るまでになったとして、生還は絶対条件です。戦いが集結した後の復興は、貴方に指揮を執ってもらわなくては」

 

「む、むぅ・・・・・・いいだろう。その時は、新たなグリッドを建てるとしようか。ルビコニアン達が安全かつ快適に過ごせるものを」

 

「期待しています、同志ダナム。その時の為に、決して無理はしないでください。戦闘シミュレーターは明日からにしましょう」

 

医師の言い分に、苦笑しながらダナムは頷いた。ここまで言われては従わないわけにもいかない。無理を通そうとしているのはこちら側なのだ。やはり、焦っているのか。非才であるダナムは毎日の鍛錬を怠れば怠る程に弱くなっていく。少しでも遅れを取り戻そうと、怪我を無視して戦闘シミュレーターを起動したのである。

 

コックピットを降りたダナムは、ストレッチャーに乗せられ治療室へと運ばれていく。来るはずの戦いに向けて、少しでも傷を癒す為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは、また。愉快なことになってきましたねぇ」

 

「どこが愉快だ。ふざけてんじゃねえぞ五花海」

 

胡散臭い笑みを睨みつけ、イグアスは悪態を吐きつつ合成肉を噛み千切った。食感は酷いが濃い目の味付けは悪くない。現在の食糧事情からすればマシな方だろう。

 

レッドガン臨時拠点の食堂は、昼下がりという時間だからか閑散としている。自主鍛錬を終えたイグアスは遅めの昼食にやってきたのだが、そこで面倒な人物に見つかってしまった。G3、五花海である。

 

対面の席に座るや否や、「交流会」のことについて根掘り葉掘り聞いてくる五花海。思わず手が出そうになったが、その行動は読まれているはず。避けられるのもダサいので、イグアスは仕方なく食事の合間に事情を話す。どうせ、話さなければ鬱陶しく付きまとってくるのだ。

 

「いや、愉快ですよ。三陣営の優秀なAC乗りが集まって模擬戦や連携の訓練とは。少し前までは想像もつかないことです。しかも、その立役者は我らがG5!はっはっは、吉事ですねぇ」

 

「殴るぞてめぇ」

 

「おっと失礼。ですが、実際に交流会は意義のあるものになるでしょう。独立傭兵レイヴンに元V.Ⅳのラスティ、そしてシオン。錚々たる面子ではないですか」

 

大袈裟な身振り手振りで話す五花海を無視し、固いが食べ応えのあるパンを飲み下す。621達と対面した時と違い、イグアスの激情は鳴りを潜めていた。五花海が鬱陶しいのはいつものことだからか、はたまた別の理由があるのか。考える気にもなれず、ミネラルウォーターで水気を失った口内を潤す。

 

「ん、ごくっ・・・・・・どいつもこいつも面白がりやがって。いい迷惑だぜ、俺は巻き込まれたってのに」

 

「総長直々の提案だ、何か考えがあるはずです。まぁ、貴方の成長を願ってのことだとは思いますが」

 

「あぁ?あのクソ親父がそんなことするかよ、馬鹿馬鹿しい。同盟だかなんだか知らねえが、俺を利用しようって腹だろう」

 

しかめっ面で言い返すイグアスは、しかし内心ではそのように思っていなかった。ミシガンは厳格かつ暴力も辞さない気に食わない男だが、部下の全員を気にかけている。つまり、五花海の推測は当たっているのだろう。それを彼が受け入れられるかは別として。

 

「全く、素直じゃないですねぇ。いいですか、イグアス。攻撃的なばかりでは幸運は呼び込めない。周囲と調和してこそ気脈が整うのです。部屋に飾る観葉植物でも用意しましょうか?勿論、レッドガンである貴方から代金は頂きませんとも」

 

「うるせえ黙れ口を縫い付けるぞ。ヴォルタと同じようにいくと思うなよ、俺はてめえの口車に乗らねえ」

 

「これは手厳しい。あぁ、そう言えばヴォルタの件ですが。細かい調整も終わり安定してきたので、こちらの拠点に移動してくるそうですよ。無論、キャノンヘッドも一緒に」

 

胡散臭い話の後にさらりと告げられ、定食を平らげ終えたイグアスは五花海に視線を戻した。この詐欺師はいつも重要な話を後出ししてくる。口で人を操るテクニックの一つなのだろうか。

 

「先に言えや詐欺野郎。まぁいい、いつ着くんだよ。病み上がりのあいつをぶちのめしてやる」

 

「コーラル輸送が最優先故、それなりにかかるでしょう。どうやら、解放戦線の部隊も共にアーレア海を渡るようですから。協調路線を内外に示したいのか、はたまた・・・・・・」

 

「なんだって構わねえ。はっ、少しは気が紛らわせそうだ」

 

獰猛な笑みを浮かべ、イグアスは席を立ちトレイを返しにいく。そうだ、ヴォルタを交流会に巻き込んでもいいかもしれない。そうすれば多少は溜飲が下がるだろう。大怪我を負って尚、復帰が叶った腐れ縁の悪友。遠くない再会に、イグアスは胸を躍らせていた。




殆どの重要人物が生き残っているので、情勢がどんどんややこしくなっている気がします。どうなるルビコン。
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