見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか   作:てぬてぬ@TSF

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80.海を渡って

二回目の交流会、その日取りが決まった。思っていたよりも早いとやや驚きながらも、シオンは真っ先にフレディへと連絡する。621への打診の結果、彼の参加も認められたのだ。

 

「うーん・・・・・・」

 

その日の夜。シオンはタブレットを操作しつつ、交流会で行われるだろう模擬戦の戦術を組み立てていた。先日の模擬戦では結局イグアスとしか戦えなかった。ラスティやレッドの戦闘映像も確認したが、直接銃火を交わさなければ分からないこともある。さて、どう戦うべきだろう。

 

トラルテクトリの強みは耐久力である。依然として接近戦に活路を見出すべきだが、イグアス相手には通用しなかった。中遠距離の射撃戦にも対応出来るようにアセンを見直した方がいいのだろうか。しかし、チェーンソーを当てる為に鍛錬を重ねてきたシオンにとって、今更戦い方を変えるのは難しい。細かい部分の練度を上げるしかないのか。

 

思考を積み重ねながら、タブレットへ手当たり次第に試案を書き留めるシオン。最新の強化手術が施された少女の肉体は高性能だが、自分自身は非才であると思っていた。今まで生き残れてきたのは、ひたすらに戦闘シミュレーターを反復しつつも考えるのを止めなかったから。ならば、今回もその流儀に則るべきだ。

 

「つっても、レイヴンさんと戦ったら瞬殺されるだろうなぁ」

 

ラスティやイグアスは強い。しかし、621は頭一つ抜けているように感じる。もし戦うことになってもまるで歯が立たないだろう。つくづく味方で助かったと安堵しつつ、それでもシオンは対応策を考えた。折角誘われたのだ、模擬戦だとしても本気で挑まなければ。

 

シオンはトラルテクトリに乗り始めてから、距離を詰めチェーンソーを叩き込む為にあらゆる手段を講じてきた。しかし、こちらの思惑を把握し切っている相手には通用していない。先日のイグアスとの模擬戦でも、翻弄されるばかりでチェーンソーがデッドウェイトと化していた。これでは駄目だ。

 

「いっそ、相性の悪い相手にはチェーンソーをパージするか・・・・・・?いや駄目だ、そもそもブースタの性能が悪けりゃ軽くしても速度が上がらない。」

 

トラルテクトリに搭載されているブースタはAB-J-137KIKAKU。コア理論全盛の頃の旧式パーツであり、近接攻撃推力は最高峰だがそれ以外は惨憺たる性能だ。チェーンソーの直撃を狙うシオンには有力なブースタのはずだが、そもそも間合いに入れないのでは意味が無い。

 

更に言えば、距離を詰める際に息切れもしやすい。ACの心臓とも称されるジェネレータだが、トラルテクトリに搭載されているものはAG-E-013YABA。バランスよく纏まった性能をしているものの、シオンにとってはややEN容量が物足りなかった。

 

いっそ、解放戦線に頼み込んで新しいパーツを用意してもらおうか。すぐに叶うかは別として、要望を出しておくに越したことは無いかもしれない。そうと決まればやることは一つだ。シオンはタブレットにAC用パーツのカタログを表示させ、じっくりと読み込み始めた。

 

今まで、アセンを変更するという考えは浮かばなかった。かつての解放戦線の窮状ではそもそもパーツを用意出来ないという事情もあったが、そう頻繁にパーツを付け替えても対応出来ないというパイロット側の問題も存在していたのである。

 

しかし、ここで頭打ちになるよりは思い切ってアセンを変更するのもいいかもしれない。度重なる戦闘シミュレーターと実戦を重ね、シオンの操縦技術は間違い無く向上している。アセンを変えても乗りこなせる自信はあった。

 

「自惚れじゃなきゃいいけど」

 

呟きつつ、ブースタの細かい項目に目を通していく。近接攻撃推力はそこまで重要視しなくてもいい。どうせ近距離以遠の敵をスタッガーさせることは難しいのだ。必要なのはQB推力とAB推力。通常推力や燃費は切り捨てた方がいいだろう、全てに優れたパーツは存在しないのだから。

 

ジェネレータは何を優先するべきか。やはりEN容量が第一、次いでEN出力か。相手が息切れするまで食らいつくことが出来るのならば、速度の差をある程度は埋められるはずだ。

 

燃費が悪い代わりに高推力なブースタを、豊富なEN容量でぶん回す。重量二脚のトラルテクトリにとってはこれが最適解だろう。下手に機体重量を軽くしようとして耐久力が下がっては元も子も無い。つまり、カタログから選ぶべきは・・・・・・。

 

シオンは目を輝かせながら考え続ける。パーツを選定したとしても、次の交流会には絶対に間に合わないことも忘れて。その表情は、とても楽しそうに見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか、こんなことになるんなんて。少し前からは想像もつかないよ」

 

『そうだな。まぁ、気負う必要も無いさ。恨みを忘れる必要も、また無い』

 

アーレア海上空。複数の輸送ヘリが隊列を組み進んでいる中、その内の一機にツィイーとメッサムが搭乗していた。

 

「・・・・・・うん。私はまだ、企業・・・・・・レッドガンを許せない。今まで散々私達の同胞を殺してきたんだ。忘れようったって忘れられない。だけど、だからって同盟を否定する気は無いよ。血が流れないのが一番なんだから」

 

『あぁ。それに、正直な話助かった面もある。まさか、俺なんぞの為に義体を譲渡してくれるとはな』

 

席に座っているツィイーとは違い、メッサムは組み立て式のポッド内に収納されていた。その肉体は大半が生身ではなく、義体に置き換わっている。元々アーキバスのものだったのをレッドガンが接収、同盟締結の際に解放戦線へと譲渡されたのだ。

 

・・・・・・実際は、五花海がミシガンに提案した結果の産物である。メッサムを思うままに痛めつけた張本人は、しかし遺恨を何よりも憂慮していた。敵対関係でなくなったのならば援助は惜しまない。組織間の不和を起こされるよりは遥かにマシだ。

 

そのことを知らないツィイーとメッサムは、義体の譲渡を歩み寄りの証と認識していた。間違いでは無い。五花海の提案を採用したのはミシガンであり、それ即ちレッドガンの総意であるからだ。

 

「そこはまぁ、私も感謝していいと思ってるけど。でもまさか、こんなにも早くレッドガンと作戦行動することになるなんてね・・・・・・」

 

渋い顔で呟きつつ、ツィイーは強化ガラスの向こう側に目をやった。解放戦線の輸送ヘリとレッドガンの輸送ヘリが、規則正しい編隊を組んで飛んでいる。以前ならばありえない光景だ。コーラルの輸送をより円滑にする為とはいえ、ツィイーが戸惑うのも仕方ないだろう。

 

『そのお陰で俺達も海を渡れているんだ。数奇な巡り合わせだよ』

 

「巡り合わせ、かぁ。もしかして、帥父や帥淑にはこの展開も見えていたのかなぁ」

 

『どうだろう。だが、あの二人なら予測出来ていてもおかしくない。彼らがいなければ、俺達ルビコニアンがここまで来ることは無かった。ルビコンを解放するまであと一歩の所まで』

 

「そう、だね。もうひと踏ん張りだ。でもメッサム、戦場に出るのは駄目だよ。よく分からないけど、まだ義体が馴染んでないとか聞いたし」

 

視線をポッド内のメッサムに戻して釘を刺す。心配しているようなツィイーの口調に、身動きが取れない状態のまま彼は苦笑を浮かべた。

 

『見ての通り、こんなザマだからな。しばらくは休養に徹するよ。今回俺が呼び出されたのも、より優れた医療設備が中央氷原にあるのが理由らしい。早く復帰したいものだ』

 

「だからって無理は禁止。私も代わりに頑張るからさ。早く良くなってね、メッサム」

 

『無理は禁止はこっちの台詞でもあるぞ。先の反攻で大立ち回りを演じたそうじゃないか。ヴェスパーの番号付きを捕縛した上、敵司令部に痛撃を与えたと』

 

メッサムの言葉に、ツィイーは照れ臭そうに頬を掻いた。先の反攻で敵拠点の砲台を無力化していたツィイーは、急行してきたV.Ⅶスウィンバーンに遭遇。激闘の末敵ACのジェネレータを機能停止に追い込み、スウィンバーンを生け捕りにしたのである。

 

「ま、まぁね。でもほら、運も良かったから」

 

『分かっているならいいさ。運が悪ければ死んでいたということが。ストライダーの艦長にも困ったものだ、部下に英雄的行動を期待し過ぎている。彼自身が死をも厭わない戦士だからだろうが・・・・・・』

 

「あの状況でACの単騎突撃は有効だったし、私を信頼してくれてたんでしょ。突撃してなきゃ、もっと沢山のルビコニアンが犠牲になっていたはずだから」

 

真剣な口調。技術面も精神面も未熟だったツィイーは、いつの間にか立派な戦士となっていた。メッサムは一瞬口ごもった後、茶化すように言葉を紡ぐ。

 

『・・・・・・やれやれ。無理は禁止と言った口でよくもまぁ。いつもぐずっていた子供が生意気になったもんだ』

 

「ちょっと、昔のことは関係無いでしょ。私だって成長したんだから」

 

『そうだな。うん、その通りだ』

 

義体故に強張っている顔に笑みを浮かべ、メッサムは軽く頷いた。ふと昔を思い返す。ツィイーやアーシルが物心ついた頃の、遠い記憶を。

 

そこには、二人のお守りを任された自分以外にもう一人いた。やんちゃで奔放、アクセル全開で遊び倒す同年代の彼にメッサムは手を焼いたものだ。実質三人分のお守りをしていたと言ってもいい。そんな彼は、今はラスティと名乗っている。

 

V.Ⅳラスティ。ヴェスパー部隊のエース格であり、抵抗するルビコニアンを無数に屠ってきた悪魔のような存在。そんな彼と、過去の彼がどうしても結びつかない。きっとツィイーも、アーシルも同じはずだ。

 

共に遊び学んだ日々を、メッサムは鮮明に覚えている。ある時を境に、彼が帥淑フラットウェルの元に預けられたことも。しかしまさか、企業の専属部隊に潜り込んでいたとは。その事実は今でも呑み込めていない。

 

中央氷原に着いたのなら彼と再会する機会もあるはずだ。その時、一体どんな顔をして会えばいいのか。それまでに心の整理はついているのだろうか。そして、彼はあの頃の、記憶の中にいる彼のままではない。恐怖に近い感情を覚え、メッサムは目を閉じた。あるいは、今の彼を受け入れたくないからなのかもしれない。

 

「メッサム?どうしたの?」

 

『あぁ、いや、皆との再会が楽しみでな。随分と心配をかけてしまった。そこまで時間が経っていないのに、もう懐かしいよ』

 

目を開けながら咄嗟に誤魔化すと、ツィイーは澄んだ瞳で真っすぐに見つめてきた。メッサムの心情に感づいているのか。視線は逸らさず、不器用に笑う。

 

『気にするな。歳をとると、いらない気を回すようになるんだ。まだまだ老け込むつもりは無いけどな、ははは』

 

「・・・・・・そっか。そういうことにしといてあげる。メッサムは昔から強がりだもんね」

 

いつもの勝気な感じと違い、僅かに甘えるような口調で言うツィイー。AC乗りとして戦場に出るようになってから、ツィイーは意識して強気な態度を取ってきた。が、古馴染みのメッサムの前だと昔の甘えん坊な雰囲気が滲み出るらしい。まだまだ年頃の娘なのだ。

 

二人と様々な機材、コーラル用のコンテナを乗せて輸送ヘリの群れは飛んでいく。ウォッチポイント・アルファ到着まではまだかかりそうだ。




アーマードコアはアセン練ってる時がいっちゃん楽しいんだから。
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