見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか   作:てぬてぬ@TSF

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81.食らいつけ

レッドガンの離反を招きルビコンでの影響力を失ったベイラムは、星外に位置する支社の一つで会議を行っていた。議題はルビコン3に対する処置をどうするか。既に三回目を迎える本会議だが、指針は未だに定まっていない。静観か、はたまた粛清か。戦力を投入するか否かで、会議は二分していた。

 

離反したレッドガンを粛清しなければ企業の内外に示しがつかない。しかし、解放戦線と繋がっている可能性の高いレッドガンに対して戦力を投入するのは愚行である。惑星封鎖機構の弱体化により大規模な戦力を送れる可能性もあるが、あまりにもリスクが高過ぎた。

 

紛糾する会議が平行線を辿る中、ベイラムへ急報が届く。犬猿の仲であるアーキバスから支援が提案されたのだ。内容は、ルビコン3に存在する解放戦線との戦闘において弾薬及び物資の支援。場合によって戦闘部隊も貸与する。代わりに、ルビコン制圧の暁にはコーラル利権の20%を譲渡してほしい、とのこと。

 

つまり、ベイラムを矢面に立たせ自分だけ甘い汁を啜ろうという取り引きだ。アーキバスらしい小賢しさに、ベイラム上層部の役員達は疑念を向けると共にメリットを勘案していく。物量による制圧を社是とするベイラムの戦略は、兵站への負担が凄まじく大きい。故に辺境の惑星であるルビコンでは、思うように戦力を展開出来ていなかった。

 

アーキバスが協力するとなればその負担が軽減され、星間輸送中の護衛も最小限で済む。つまり、ベイラム本来の強みを存分に引き出せるということだ。問題は封鎖機構だが、両企業が手を組むのなら監視衛星を無力化することは容易い。衛星砲による危険を排除し戦力を大量に投下する。これが基本になるか。

 

既に乗り気な役員達は、自分達に都合の良いように物事を考え始めていた。例えこの取り引きがアーキバスの罠であったとしても、彼らとてコーラルを諦めるつもりは無いだろう。ルビコンの占領までは協力してくるはずだ。そして、ルビコンを実効支配さえしてしまえば後はどうとでもなる。コーラル利権の20%を譲渡するという約束も、いざとなれば踏み倒せるのだ。

 

物量を揃えられるのならば敗北は無い。この点でベイラム上層部の意見は一致していた。傲慢で稚拙な考えだが、否定する者は会議の場にいない。実際彼らは、ルビコンでの苦戦は大規模な戦力の展開が出来なかったからだと思い込んでいる。社内の権力闘争で凝り固まった頭では現状を把握出来ないようだ。

 

結局、ベイラムは数日の間を置いてアーキバスと組むことを受け入れた。解放戦線と裏切者のレッドガンを攻め滅ぼし、コーラルを手中に収める。それだけの為に、どれ程の命が失われるかも考えずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

「チーム戦?」

 

【うん。みんなの実力だけじゃなくて、連携も強化したいから。ランダムでチームを割り振りながら、何度も繰り返したらどうかなって】

 

二回目の交流会当日。早めにレッドガンの拠点へと向かったシオンは、更に早く到着していた621と言葉を交わしていた。一緒に来たフレディは621の背後にいるスッラを睨みつけているが、一言も言葉を発していない。スッラの煽るような笑みを強引に無視して、空気を改善しようとシオンは621との会話を続ける。

 

「あー、いい案じゃないか。組み合わせを限定するとそれだけ対応力も伸びなさそうだし。即席で連携出来た方が戦場でも有効だしな」

 

【先に相談したイグアスからは、慣れ合いはごめんだって言われちゃったけど。よかった、シオンは賛成してくれるんだね】

 

無表情のまま機械音声で言う621。感情が死んでいるらしいが、シオンはなんとなく嬉しそうな雰囲気を感じ取った。卓越した実力を持つ彼女も、案外年相応の感性をしているのかもしれない。

 

「そりゃまぁ、折角なら色んな人と組んでみたいから。それこそレイヴンさんやスッラさんとも」

 

「・・・・・・ほぅ。好奇心旺盛なことだ」

 

その言葉にスッラは笑みを深める。外連味の無いシオンの態度は、彼にとっても新鮮なものだ。普通ならばルビコンの争乱を到底生き残れないであろう、利他的にも思える性格。どのように育まれたのか興味がある。ねっとりとしたスッラの視線に捉えられ、シオンは思わず身震いした。が、視線は逸らさない。

 

「嫌なら無理にとは言わないけど。一応、協力関係にある仲間ってことだから。スッラさんさえよければ」

 

「待てシオン。その前に、過去の遺恨を清算したい。スッラ、お前に1対1の模擬戦を申し込む」

 

シオンの言葉を遮り、フレディが一歩前に進み出た。戦意がみなぎり全身から噴き出すかのような様に、スッラの笑みが更に深くなる。実に楽しそうな表情で、彼も前に進み出た。

 

「あの時の駄犬が随分と吠えるものだ。さて、私は構わんが・・・・・・」

 

【うん、分かった。まだみんな集まってないけど、シミュレーター室を貸してもらおう。フレディもそれでいい?】

 

「あぁ。ダラダラやるつもりも無い、一戦だけだ。我が儘に付き合ってくれて感謝する」

 

スッラと621に頭を下げるフレディだが、戦意はいささかも衰えていない。むしろさらに激しくなっている。大丈夫だろうか。シオンは不安に思いつつも止める気は無かった。きっとこれは、フレディにとって譲れない一線なのだろう。シミュレーター室に移動しながら、シオンは闘気に満ちたフレディの背中を見つめるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ・・・・・・よし」

 

頭の芯を冷やすように深呼吸を一つ。戦闘シミュレーターが作り出した疑似空間で、フレディは愛機であるキャンドルリングの感覚を確かめていた。事前にレッドガン側にデータを同期させていた為問題は無い。本来は利敵行為になるかもしれないが、帥父ドルマヤンはあっさりと許可してくれた。その際に一言、助言も貰っている。

 

「フレディよ。我を通すのも悪くはない。熱のままに駆け、しかし周囲を省みよ。過去を拭い去ったとて、同胞を振り切ってはならぬのだ」

 

フレディには、助言の意味合いを全て読み取ることは出来なかった。それでも、周囲を省みるべきなのは分かっている。シオンにも、621にも、今から戦うスッラにも余計な手間をかけさせているのだから。この一戦を済ませた後、雑事でも何でも引き受けよう。だからこそ、過去の屈辱や鬱憤はここで全て吐き出す。

 

「いくぞ、キャンドルリング。あの時の敗北を雪ぐ時だ」

 

模擬戦の開始と共に、フレディは滑るように直進した。ランダムに出力された戦闘エリアは、かつて解放戦線の一大拠点だった「壁」。構造物が多い点はフレディにとってやや不利だが、逆にどこに何があるかを把握している点は有利である。

 

構造物の隙間を縫うように、エリア中央へと進出していくキャンドルリング。スッラの乗機エンタングルの姿はまだ見えない。どこかに潜み奇襲の機を伺っているのか。周囲にスキャンを飛ばし索敵するも、何も引っかからないようだ。

 

まさか。脳裏によぎった予感に従いフレディはある地点へと向かう。遠くに視認出来たスッラ側の開始地点に、エンタングルは悠然と佇んでいた。やる気が無いのか、それとも煽っているのか。恐らくは後者だろう。

 

こちらの冷静さを乱したい考えかもしれないが、フレディは依然冷静だった。軽々に突っ込まず、ミサイルを放ちつつビル群へと身を隠す。スッラが何を企んでいるにせよ、あの場から動かすのが先決だ。

 

飛来するミサイルをクイックブーストで躱したスッラは、ビル群に潜んだフレディに向けて前進する。その顔には未だに笑みが張り付いたままだ。オールマインドの尖兵だった頃よりも、彼は状況を愉しんでいた。

 

無邪気な信頼を向けてくる621に、その飼い犬に手を噛まれ苦悩するウォルター。そして若きAC乗り達。まさか、自分がこのような状況に身を置いているとは。血生臭さや陰謀、悪意とは無縁な場でスッラは思う。一時の戯れとしては悪くない、と。

 

『・・・・・・そこか』

 

スキャンによる索敵でキャンドルリングを捕捉し、回り込むように機動するエンタングル。このビル群に逃げ込んだということは何か策があるのだろう。ならば見せてもらおうじゃないか。笑みを深めたスッラが前進した直後、複数の爆発音が響き渡った。

 

「潰れろっ!!」

 

グレネードの4連射により柱が吹き飛ばされビルが倒壊する。フレディはスッラが回り込んでくる方向を予測し、爆破したビルの質量で押し潰そうとしたのだ。かつてオーネスト・ブルートゥが見せた環境利用戦術の応用である。瓦礫を避けようとするスッラに間髪入れず突撃しそのままぶつかる。弾き飛ばした先は、今まさにビルが倒れ込む場所だった。

 

『稚拙だが悪くない。が、詰めが甘いな』

 

しかし、スッラは弾き飛ばされた勢いを利用し倒壊するビルを潜り抜ける。それと同時にフレディが別のビルに隠れようとする動きを予測し、特殊バズーカを撃ち込んだ。直撃こそしないものの、近場での連鎖爆発によりキャンドルリングのAPが削れていく。

 

「くっ!」

 

やはり、一筋縄ではいかない。最初期の強化人間とは思えない動きのキレだ。恐らくはドルマヤンと同質の、膨大な経験によって培われた戦闘力。若輩者である自分では到底敵わない。脳裏によぎる弱気を封じ込め、フレディは次の策を実行に移した。

 

実力が上回るスッラに対して、フレディは正面からの戦いを演じる気は無い。把握している地形・・・・・・ビル群をフル活用し虚を突くつもりである。キャンドルリングは機動力と瞬間火力に優れたアセンの為、延々と撃ち合いを続けるよりは地形を活かした一撃離脱戦術の方が有効なはずだ。

 

スキャンを頻繁に飛ばしエンタングルの位置を把握し続ける。両機の頭部パーツの性能を鑑みるに、スッラ側もこちらの位置を常時把握しているだろう。その上で一方的に打ち込める機を伺うフレディ。連鎖爆発する特殊バズーカを警戒しつつ、一撃離脱を繰り返し削り勝つのだ。

 

「今・・・・・・!」

 

ビルの陰から飛び出したフレディは、スッラの放つ特殊バズーカを辛うじて避ける。そのまま両肩の二連グレネードをぶっ放し、クイックブーストでは避け切れない爆風でエンタングルのAPを削り取っていった。速度を落とすこと無く次のビルの陰に、

 

「ぐぅっ!?」

 

逃げ込もうとしたところで、コックピットまで衝撃が伝わってくる。何が起こったのか把握出来ないままスッラの追撃に晒され、スタッガーを避ける為にパルスアーマーを起動した。今度こそビル群を盾に距離を取るが、APをごっそりと持っていかれたフレディは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

 

フレディの逃げ道に、スッラはマニュアル操作で特殊ミサイルを放っていた。丁度逃げ込むタイミングで炸裂するように。かつてフレディと協同したこともある六文銭が好んで使っていた戦法だが、スッラのそれは六文銭よりも精度が高い。事実、ミサイルの軌道が最も見えにくい撃ち方をしてきたのだ。

 

あれを毎回やられては、先に墜ちるのは自分の方だ。ならばどうする?ビル群の隙間を縫うように移動しつつ、フレディは懸命に打開策を考える。こちらの強みも弱みも変わってはいない。瞬間火力と機動力を活かすべきだ。

 

武装の種類が少ない以上、後手に回ってはいけない。読み合いなど以ての外だ。フレディの内に滾る若さ故の勢いこそが、唯一スッラを上回り得る武器である。

 

打開策が浮かばないままフレディは覚悟を決めた。相も変わらず動きを止めているスッラに向けて、ビル群の合間からミサイルを放つ。エンタングルに回避行動を強要することで隙を作り、その間に回り込み突撃した。

 

「スッラぁ!」

 

咆哮と共に右肩の二連グレネードを地面に発射、巻き上がる爆炎と土埃を切り裂くように真っすぐ突っ込む。目くらましをしながらも直進してきたフレディに、スッラの判断がほんの僅か鈍った。特殊バズーカによる迎撃よりも早く、左肩の二連グレネードが火を吹く。連なる爆発が二機のACを包み装甲が焼かれていった。

 

間髪入れずアサルトブーストを起動したフレディは、地面から離れるように浮き上がりながら一時離脱を図る。特殊ミサイルによる足止めを上昇することですり抜けた。目くらましと即断による強襲。捨て鉢にも近い特攻は、確かにスッラの虚を突くことに成功していた。

 

『ほぅ。多少は躾けられたか、それとも独学か。若いな、やはり』

 

しかし、百戦錬磨の彼を動揺させるには至らない。戦いの最中に成長する若者とは幾度も戦った経験がある。そして、その全てを狩ってきたのだ。半世紀以上の間「狩り」を引き受け続けてきたスッラは、ともすれば繰り返し続けてきた621よりも戦闘経験を積んでいるのかもしれない。

 

故に、フレディの戦術にも即座に対応する。グレネードのリロードが終わった瞬間に飛び込んでくるキャンドルリングを見越して、特殊バズーカによる迎撃の態勢を整えた。今のフレディに対しプラズマミサイルやパルスガンによる牽制は意味を成さないだろう。一度、勢いを止めなければならない。

 

ビルの陰から凄まじい勢いで飛び出してきたキャンドルリングに、スッラは精確な動作で特殊バズーカを叩き込む。直撃。それでも突撃の勢いは収まらない。被弾によって脳内がかき混ぜられるような感覚を覚えながらも、フレディは再びエンタングルへとぶつかった。全武装のトリガーを引く。

 

「借りを返すぞ!!!」

 

超至近距離、グレネードとミサイルの一斉射。ビル群を揺るがす決死の攻撃は、確かにエンタングルを呑み込んだ。───しかし。

 

『確かに牙は鋭くなったか。だが、こちらの隠し玉には気付けなかったようだな』

 

エンタングルを包むのはパルスによって形作られた防壁。コア拡張機能の一つ、パルスアーマーだ。しかし、エンタングルにコア拡張機能は搭載されていなかったはず。一体どうして。

 

『今の「飼い主」は心配性でな。身銭を切ってまで、エンタングルの強化を勧めてきた。哀れなことだ。あれも、お前も』

 

なんとか離脱を図るフレディだが、乾坤一擲の攻撃で仕留め切れなかった彼には気力も体力も残ってはいなかった。パルスガンと二種のミサイルに焼かれ、キャンドルリングはスタッガー。そこに撃ち込まれた特殊バズーカにより勝負は決した。

 

『精々牙を磨き続けるがいい。気が向けば、また相手をしてやろう』




なんでフレディとスッラの因縁が深くなってるんだろう・・・・・・?二次創作の不思議です。
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