見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか   作:てぬてぬ@TSF

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82.混迷乱戦シミュレーション

「南西方向、ラスティさんが来る!対処してくれ!」

 

『ガキが命令するんじゃねえ!』

 

シオンの指示に言い返しながらも、イグアスは高速で前進してくるラスティを迎え撃つ。戦闘シミュレーターが形作っているエリアはバートラム旧宇宙港。そこで、計6機のACが鎬を削っていた。

 

「レイヴンさんは、ええと・・・・・・!」

 

全体の戦況を把握しつつ僚機へと最適な指示を飛ばす。今までにない体験に、シオンの脳内は大混乱に陥っていた。ただでさえ一傭兵としてしか戦場に出たことが無いというのに、いきなり指揮を執ろうとするのは無謀である。しかし、だからこそやる意味があった。

 

ルールは3vs3のチーム戦。シオン・イグアス・621とラスティ・スッラ・フレディで分かれて戦っている。チーム分け及び「リーダー」の決定は完全にランダムであり、今のリーダーはシオンとラスティが務めていた。かつてヴェスパーの第4隊長だったラスティはともかく、シオンには指揮能力がまるで無いように見える。事実、酷い醜態をさらしていた。

 

『ちんたらしてんじゃねえよ!枯れ木ジジイが回り込んできてるぞ!』

 

「じ、じゃあレイヴンさんはそっちに向かってくれ!俺は前進して牽制を、っ!?」

 

あたふたしながらなんとか指揮をしようとするシオンだが、代わりに自身の周囲把握が疎かになっていた。突っ込んでくるフレディのキャンドルリングに気付いた時には、既に回避出来る間合いに無い。グレネードの爆風に飲み込まれつつ彼は思う。どうしてこんなことになっているのだろう、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様、フレディさん。すげぇいい勝負だったよ」

 

項垂れながらシミュレーターを降りてきたフレディに、シオンは忖度無しの純粋な感想を告げた。事実、勝負は紙一重だった。スッラの実力を鑑みればフレディはよく健闘したと言えるだろう。

 

「・・・・・・そうか。だが、勝ててはいない。またしても届かなかった」

 

顔を上げたフレディは、呟いた言葉に対してどこか晴れ晴れしたような表情だった。次いでシミュレーターを降りてきたスッラに、深々と頭を下げる。

 

「どういう風の吹き回しだ、犬?」

 

「感謝を。俺の弱さ故の我が儘に、わざわざ付き合ってもらった。これからは同盟関係にある僚友だ。どうか、よろしく頼む」

 

「・・・・・・くくく。私情を呑み込むか。お前が下げる頭に価値は無い、そんな暇があるのなら精々精進することだ。これからもな」

 

嘲るように言いながら、スッラはフレディに背を向けた。車椅子に乗った621の元に戻り、近くの椅子へと腰を下ろす。

 

【スッラ、貴方が楽しそうで私も嬉しいよ】

 

「そう見えるか?随分と視界が煙っているようだ。まぁ、所詮は戯れだ。どうせすぐに殺し合うことになる」

 

【それは、いやだな。みんなと一緒に平和に暮らすのが、私の願いだから】

 

幼く純朴な願いに、口の端を吊り上げ喉の奥を鳴らすスッラ。危うい。この猟犬は、純粋さに見合わぬ鋭い牙を持っている。あまりにも、危うい。

 

「っくっく・・・・・・大き過ぎる願いだな。ウォルターの猟犬よ、心することだ。救える命、その数には限界がある。救いたい者を全て救える程、この世界は御伽噺のように出来てはいない」

 

【分かってる。ずっと、繰り返してきたから。でも、諦めたくない。だから私はここにいるんだ】

 

力強い返答。どうやら、覚悟は決まっているようだ。ならばこちらから口を出すことも無い。スッラは給水ボトルを手にし、水分を少しずつ摂取する。味も何も感じないそれは、それでも何故か美味に感じた。

 

一方、フレディは汗を拭いつつ先の戦いの映像を確認していた。何故負けたのかは明白だ。データに無かったエンタングルのコア拡張機能。パルスアーマーの存在を見落としていたからである。しかし、気付いていたとして勝てただろうか?スッラの実力は底知れない。あのまま押し切るのは難しかったはずだ。

 

「・・・・・・シオン。お前から見て、パルスアーマーがあると分かっていた場合の立ち回りはどうするべきだと思う?」

 

「んー・・・・・・どうだろう、フレディさんがやった一撃離脱が最善に思えるけど。逃げ道を塞がれないようにかなり無茶してただろ。あれ、相手からしたら普通に厄介だと思うんだよな」

 

シオンの目から見ても、先の戦いはかなり高度なものだった。マップの構造を利用した戦い方は、確かにスッラに通じていたように思える。だとすれば、改善するべきは・・・・・・。

 

「緩急、かな。普通に突撃するのと無茶苦茶やるのを織り交ぜれば、もうちっと翻弄出来るかもしれない。まぁ、俺も出来てないんだけど」

 

「緩急か。それにも読みが必要になるな。一旦後退しつつ釣り出すのも選択肢としては有りか」

 

「釣り出した上で通常通り突撃するか強引にいくかの選択を押し付ける感じなら、相手の判断を少しは鈍らせるかも。いやでも、スッラさんに通じるか・・・・・・?」

 

フレディと意見を交わしながら、シオンは多少の驚きを覚えていた。因縁のある相手に敗北した直後に、ここまで冷静に戦いを見返すことが出来るとは。失礼な話、シオンはフレディを気難しい人物と認識していた。他人に対して壁を作りやすく、孤独を好むのだと。

 

しかし、今の彼からはそういう鬱屈さを感じない。スッラとの戦いで棘が取れたかのようだ。藪蛇になると思いながらも、シオンは聞かずにはいられなかった。

 

「なぁ、フレディさん。心境の変化でもあったのか?なんか、いつもと雰囲気が違う気がするんだけど」

 

「・・・・・・まぁ、な。俺は弱い。それを改めて思い知っただけだ。このままでは、帥父の傍にいるのもおこがましい。頑なになっている場合じゃないと、ようやく気付けた」

 

「そっか・・・・・・。俺は、なんというか、フレディさんがいつも苦しそうに見えてたんだ。もう少し肩の力抜いてもいいんじゃないかって。力入れっぱなしは疲れちまうだろ?だからさ、今みたいに俺とかを頼ってくれよ。役に立てるかは分からないけど、出来るだけ力になるからさ」

 

「あぁ、これからも協力を請おう。利用出来るものはなんでも利用させてもらう。その代わり、お前も俺を利用しろ。借りを作るのは性に合わない」

 

明け透けな物言いに、シオンは目をぱちくりさせた後思わず吹き出した。つまりはそれが、フレディの落とし所なのだろう。方法はともかくとして、彼も前に進もうとしているのだ。

 

「何を笑っている、こっちは真剣に・・・・・・」

 

「いや、ごめんごめん。おーけー、それじゃあ俺からも頼らせてもらうよ。それじゃあさっきの続きを」

 

「何勝手にやってやがる!」

 

怒鳴り声がシオンの言葉を遮り、荒々しい足取りでイグアスがシミュレーター室に入ってくる。次いで苦笑を浮かべたラスティ、レッドガンの制服を来た数人が続く。そういえば模擬戦が交流会のメインだった。本来の目的を思い出したシオンは、フレディに視線を戻して囁いた。

 

「続きは拠点に戻ってからにしようぜ。本命の交流会、始まりそうだからさ」

 

「あぁ、分かった」

 

頷き合った後、二人は皆の元に歩いていく。いつも通りイグアスが騒いでいるが、そもそもここまで来ている時点で参加の意思はあるのだろう。彼に加えて621、スッラ、ラスティ、シオン、フレディ。計六人が今回の参加者のようだ。

 

「どうやら集まったようだ。さて、今回の交流会は」

 

「なんでてめぇが仕切ろうとしてんだよ蝙蝠野郎。目立ちたがりも大概にしやがれ」

 

「他ならぬ戦友に頼まれてね。今回は戦闘シミュレーターを用い、3vs3の模擬戦を繰り返す予定を立てている。そこで・・・・・・」

 

イグアスの言葉をさらりと受け流し、ラスティは手元のタブレットを操作する。表示されたのはチーム分けの為の、いわゆるくじ引きだ。

 

「ランダムでチームを組み替え続け、ひたすらに繰り返す。また、チームの内一名を臨時のリーダーと定め他の二名に指示を出してもらう。チームワークを高めると共に、個々の即時判断能力を磨くのが狙いだ。我々は協調路線を歩んでいるが、それ故に指揮系統の混乱が発生する可能性もあるからね」

 

「成程・・・・・・って、もしかして俺もか?リーダーっていうか、そもそも誰かを指揮した経験無いんだけど・・・・・・!」

 

他人事のように頷いた後、事態を呑み込んだシオンは不安げな声を上げる。部隊を率いた経験のあるラスティやイグアス、フレディと違いシオンは指揮官としては初心者だ。助けを求めるように621に視線を送ると、彼女は無表情のまま微かに頷いた。

 

【私も、今まで指示に従ってばかりだったから。人工音声だしみんなに迷惑をかけるかもしれないけど、折角だから挑戦したいなって】

 

「お、おぅ・・・・・・。うぅん、俺も覚悟決めるべきか。むむむむむ・・・・・・」

 

621は随分と前向きのようだ。ならば自分もやってみなくては。可愛らしい唸り声を漏らしつつ、シオンは思考をフル回転させる。3vs3のチーム戦で味方に指示を飛ばしつつ、自身も戦闘に参加する。無理だ。出来る訳が無い。

 

しかし、戦場では何が起きるか分からないのだ。自分が指揮を執らなければいけない可能性は0じゃない。模擬戦でどれだけ無様を晒したとしても、それを経験として次に活かすべきだ。分かってはいてもしり込みしてしまう中、くじ引きによりチーム分け及びリーダーが選定された。

 

「げっ」

 

Aチーム、シオン・イグアス・621。リーダーはシオン。Bチーム、ラスティ・フレディ・スッラ。リーダーはラスティ。初っ端から見事リーダーを引き当てたシオンは、指揮することになるイグアスの顔をおそるおそる伺った。険しい表情でこちらを睨み着けている。

 

「よ、よろしく」

 

「けっ。こんなガキに従えだ?頭沸いてんじゃねえのか。大体、まともな指示出せんのかよてめえは」

 

「そ、それはまぁ。初めての経験だけども・・・・・・」

 

今にも噛みつきそうなイグアスと自信無さげなシオンの間に、ラスティがさっと入り込む。あくまでにこやかに告げる言葉は、明確にイグアスを煽る内容だった。

 

「経験を積むことで全体的な向上に繋がる。何より君自身の練度も高まるだろう、G5イグアス。まぁ、チーム戦では私に敵わないと逃げるのならば引き留めはしないが・・・・・・」

 

「殺されてえかよ蝙蝠野郎。そんな安い挑発に乗ると思ってんのか」

 

「ただの事実さ。それとも、本当に逃げるのか?尻尾を巻いて、負け犬のように」

 

「・・・・・・上等だ。そこまで煽られちゃあレッドガンとして黙っていられねえ。虎の尾を踏んだぞ、てめえ」

 

殺気すら纏って告げるイグアスに、ラスティは人好きのする笑みを浮かべる。感情を叩きつけるイグアスに、本心を隠すラスティ。相反する二人は再び火花を散らす。それを間近で浴びながら、シオンは酷く不安を感じていた。ラスティ率いるBチーム相手に、自分がリーダーとして指揮しつつ戦う。やれるのか?いや、そもそも勝ち目があるのかすら分からない。

 

しかし、こちらには621がいる。シオンが出会った中で最強のAC乗りが味方なのだ。彼女が力を発揮出来るように指揮を執れば、必ず勝てると信じるしかない。

 

「れ、レイヴンさんにイグアスさん。作戦会議しよう、作戦会議。模擬戦やる前に大まかな作戦を立てとかないと」

 

【そうだね。ブリーフィングは大事。イグアス、こっちに来て】

 

シオンの提案に621が賛同し、ラスティに噛みついているイグアスを呼ぶ。怒気を孕んだ顔がこちらに向けられ、今にも爆発しそうな声を上げた。

 

「なんだ野良犬。てめえも俺に喧嘩売るってのか」

 

【ううん。イグアスとは同じチームだから、ブリーフィングをしないと。ラスティのチームに勝つ為に。イグアスは、勝ちたくないの?】

 

「・・・・・・チッ。ガキのお守りかよ、笑えねえ」

 

621の視線が真っすぐイグアスを射抜き、彼は悪態を吐きながらもこちらに歩いてくる。どうやら、イグアスは621に随分と甘いようだ。実力を買っているのか、別の理由なのか、シオンには分からない。ただ、イグアスの手綱は621に握ってもらった方がスムーズにいきそうだ。

 

「よし、それじゃあ・・・・・・」

 

三人は顔を突き合わせ、模擬戦の戦略を練っていく。シオンと621は近接志向のACであり、イグアスは近~中距離の射撃戦を得意とする。つまり、距離を置いた削り合いより接近戦に活路を見出すべきだ。それならば豊富な経験がある。シオンはやや安堵しながらも、二人と意見をすり合わせていった。

 

「くっそ、逃がすか・・・・・・!」

 

そして今。ラスティ率いるBチームの想定外の突撃戦術により、事前のブリーフィングを白紙に戻されたシオンは、離脱を図るフレディに懸命に追い縋っていた。

 

ラスティはともかく、フレディとスッラのACは接近戦に優れているというわけでは無い。二人による模擬戦の際は接近戦が頻発したが、あれはフレディによる苦肉の策だ。戦術の常道ではない。だというのに、ラスティ達は全機が突撃を掛けてきていた。こちらの思惑を読み切っていたとしか思えない。

 

「んぐぐぐ・・・・・・!」

 

フレディを捉え切れず、悔しげな声を漏らしつつ後退するシオン。これ以上突出してしまうと包囲される危険がある。ラスティもスッラも一旦距離を取ったようだ。

 

「イグアスさん、北西から大きく回り込めるか?牽制してこっちの突撃を支援してくれ。場合によっちゃあイグアスさん自身にも突っ込んでもらうかもしれないけど・・・・・・」

 

『チッ、今度はつまらねえヘマするんじゃねえぞ!』

 

語気は荒くとも、イグアスはシオンに従い機動を再開する。これ以上の隙は与えない。次はこちらが攻める番だ。この状況で守勢に回れば勝利は無いとシオンは判断、イグアスを囮に自身と621で接近戦に持ち込もうとしていた。

 

「レイヴンさん、突撃の先陣は俺が切る。相手が崩れたところで狙いやすい奴を落としてくれ。頼んだ」

 

【分かった】

 

相手がシオンの策を見抜いてくる可能性は高い。しかし、結局はどこかのタイミングで仕掛けなければいけなかった。経験不足の自分では、長期戦になればなるほどボロが出てしまう。この局面で決める。一機でも落とし数の有利を押し付けるのだ。

 

「よし、いくぞ!」

 

自責と怯懦を呑み込んで、シオンはアサルトブーストを起動する。狙いは大型施設付近に潜んでいるであろうラスティ達だ。ブースタが唸りを上げ、トラルテクトリの咆哮のように轟いた。




ACⅤ系列の、プレイヤーがオペレーターもやれるシステムが好きでした。でも領地戦は苦手。
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