見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか 作:てぬてぬ@TSF
「来るか・・・・・・。スッラは迎撃の用意を。フレディは一旦距離を取り陽動への警戒。恐らく回り込んでくるだろう」
敵機の動きを冷静に見極め、ラスティは手早く指示を飛ばす。ヴェスパーの第4隊長を努めていた彼にとって、戦況把握及び部隊の指揮はお手の物であった。例え、指揮するのが初対面のAC乗りであったとしても。
『了解。陽動は追い払うだけか?』
「いや、可能なら足止めしてくれ。恐らく陽動にはG5が来るはずだ。シオンと戦友を落とした後、そちらに加勢しよう」
『ほぅ。随分とこなれているな、元ヴェスパー。ならば、ウォルターの猟犬は私に任せておけ。あれの癖は多少把握している。お前がシオンを落とすまで、時間稼ぎくらいは出来るだろうさ』
固い口調のフレディに、飄々と宣うスッラ。こちらを信用しているかは不明だが、今の所ラスティの指示には素直に従っている。先の模擬戦の映像記録を確認したがスッラはかなりの腕前だ。フレディも、若いながらに確かな実力を有している。僚機として申し分ない。
「それはありがたい。さて、それでは期待に添えるようにしなければな」
朗らかに呟き、ラスティはスティールヘイズを疾駆させた。迎撃するには多少位置が悪い。シオン達が仕掛けてくる前に有利な位置に移動しなくては。猶予は殆ど無いだろう。経験及び感覚と照らし合わせ、迎え撃つに相応しい場所へと愛機を潜ませる。
「・・・・・・」
暫しの静寂の後、遠くからブースト音が響いてくる。来た。スキャンを飛ばすと、突撃を敢行してきたのはシオンのトラルテクトリのようだ。先陣を努めこちらをかく乱し621に斬り込ませる腹か。シオンの立てた戦術は的確だが、あまりにも素直過ぎた。指揮する立場での場数を踏んでいないのだろう。狡さや外連味が感じられない。
それならば、その隙に付け入るだけだ。手を抜くのは相手の為にならない。共に戦う戦友達には少しでも強くなってもらわなくては。ルビコンの未来は拓けたが、ここから先に進んでいかなければならないのだ。
「ここか」
時間と距離を測り、横合いから急襲するスティールヘイズ。ACの中でも屈指の機動性でトラルテクトリに迫り、レーザースライサーが刃を形作った。シオンもある程度は想定していたのだろう、即座にチェーンソーを展開し迎撃する構えを取ろうとする。が、それでも遅い。クイックブーストによって相手の推測をずらし、チェーンソーを振れないタイミングに斬り込んだ。
『うおっ!?』
幼げな声色で驚愕するも、必死に対応するシオン。レーザースライサーの連撃から逃れようと後方にクイックブーストを吹かすも、ラスティはこのチャンスを逃さない。敵機に食いつくように前進、連撃の最終段まで直撃させつつ射撃へと移行した。流麗な動作には付け入る隙も無く、シオンはスタッガーに追い込まれてしまう。と、
「っ!」
凄まじいプレッシャー。全身の肌が粟立つような感覚に、ラスティは追撃を断念し距離を取った。プレッシャーの相手は分かっている。621だ。
『今はこちらの相手をしてもらおうか。飼い主のいない中、どこまでやれるか確かめてやろう』
が、621がラスティの元に辿り着く前にスッラが立ちはだかる。先ほどの言葉通り、621の動きを読んで時間稼ぎに殉じてくれているようだ。嬉しい誤算である。これならば攻勢を続けるべきだったか。僅かな後悔を一瞬で飲み込み、ラスティは再びシオンへと、
『おおおぉぉぉぉっ!!!』
前進するより先に、トラルテクトリがアサルトブーストで突っ込んできた。スタッガーが解けた直後の蛮勇。無謀だが、そうしなければ勝機を掴めないと判断したのだろうか。実際、その選択は間違っていなかった。ラスティの虚を突いた突撃から、スティールヘイズにキックを叩き込む。
軽量機であるスティールヘイズにとって、重量機のトラルテクトリが繰り出すキックは相応の痛手となった。しかし、追撃は許さない。旋回するような機動でトラルテクトリの射撃を避け、逆に射撃を当ててトラルテクトリのAPを削っていった。
想定外の一撃を喰らってなお迅速に立て直すその力量は、シオンの遥か上をいく。あくまで冷静に敵機の攻勢を受け流し、反撃でダメージと衝撃値を蓄積。常人ならば周囲の視認も不可能な機動力で飛び回りながらそれを行うのだ。速度に特化した軽量ACの操縦において、ラスティはルビコンでトップクラスである。
だが、だからといって勝負を諦める理由にはならない。目まぐるしい動きに翻弄されながらも、シオンは僅かな機を伺う。この至近距離ではパルスプロテクションは意味を為さない。仮に使用したとしても、スティールヘイズのアサルトアーマーによって消し飛ばされるのが関の山だ。
ならば、狙い目はどこか。こちらのスタッガーを待たず斬りかかってきてくれれば、チェーンソーによる相打ちが狙えるが・・・・・・そのような愚をラスティは冒さないだろう。621やイグアスが駆け付けるまでひたすら耐え凌ぐ?いや、攻め気を失って勝てる相手ではない。こちらが撃墜の意思を崩さず足掻き続けているからこそ、ラスティも最後の一歩を踏み出せずにいるのだ。
被害を最小限に抑えつつ、ラスティが隙を見せたら一気に攻め込む。シオンが立てた戦法は堅実であり、だからこそラスティに見抜かれていた。彼女には老獪さが足りない。人としては好ましくとも指揮官としては落第である。Aチームの戦術を見抜いた時と同様に、ラスティはシオンをそう評価していた。
だが、単純な戦士としての力量は中々のものだ。被弾を恐れず距離を詰める勇気に、時間をかけて培ってきたのであろう操縦技術。シオンが駆るトラルテクトリの動きは、荒々しさの裏に丁寧な技量が積み上がっている。
故にラスティは油断しない。シオンを戦士と認めた上で、徹底的に叩き潰す。敗北を糧にして更に成長してほしいからだ。それこそが交流会の目的、その一端なのだから。と、
『すまない、G5がそちらに抜けた!』
フレディからの通信。事前に言い含められていたか、あるいは独断専行か、イグアスはフレディを強引に振り切ってラスティに向かってくる。まだ距離はある、問題無い。フレディのキャンドルリングは機動力に優れている。背を向けたイグアスに追撃を掛ければ、相当の損害を見込めるはずだ。
「そのまま追撃を。足止めよりも火力によるダメージを優先してくれ」
冷静に命じ、ラスティはシオンへの攻撃を継続する。薄皮を一枚一枚剥がすようにトラルテクトリの装甲を削っていった。シオンが反撃出来るような隙は与えない。そして、こちらに突っ込んでこようとしているイグアスにも。
戦局はBチームの圧倒的有利。リーダーの指揮能力の差から、Aチームを圧倒していた。・・・・・・この時までは。
このままではシオンとイグアスが墜とされる。直感的に理解した621は、模擬戦でありながら恐怖の感情を覚えてしまった。嫌だ。もう、誰も喪いたくない。繰り返しの中、数え切れない程の別れを経験してきた。何度味わっても耐え難い悲しみは、621の心を確かに蝕んでいる。
『これは・・・・・・』
彼女と相対していたスッラは真っ先に気付いた。プレッシャーの質が明確に変化している。鋭く研がれた刃から、全てを呑み込む大瀑布へと。
『っ!?』
強引に突っ込んでくる621に、スッラはパルスガンと特殊バズーカを交え弾幕を張った。しかし、当たらない。泡状のパルスはいとも容易く掻い潜られ、特殊バズーカは近接信管による爆発すら許されない。本来ならありえないACの機動に、歴戦の老兵は変化の理由を思案する。ウォルターの猟犬は一体何をしたのか。
621は、全てをマニュアル操作に切り替えていた。AC乗りを補助する機能、姿勢制御やオートエイム、ブースト推力の調整・・・・・・それら全てを、マニュアル入力で操作しているのである。人間業ではありえない。
そもそもACは、オートで最適化させる機能を切ってまでマニュアルでの操縦を行うのは想定されていないのだ。ドルマヤンやフロイトは、一部の機能をマニュアル操作することでスペック以上の出力を発揮させる技術を持っている。だがそれは、621のコレとは別物だ。
脳に埋め込まれたコーラルデバイスを限界まで活用し、まるで人体を動かすようにACを駆動させる。人間の肉体にある細胞全てを意識的に制御し、つま先から頭頂、内臓に至るまで稼働させているかのような操縦の極致。それは、無限に繰り返される戦いの中で621が会得したものだ。
繰り返しの中、撃墜の一歩手前まで追い込まれることは幾度もあった。それでも彼女が勝利し続けてこれたのは何故か。運が良かったというのもある。仲間に恵まれたというのもある。しかし、大部分を占めるのは621自身の卓越した技量が故だ。生と死が隣り合わせの状況で磨き抜かれた感覚は、旧世代型強化人間とは思えない実力を発揮するに至ったのである。
だからこそ、621はACを己の肉体のように動かせる。コーラルデバイスによってACのパーツ一つ一つ、武装の部品一つ一つを自覚的に制御出来る。マニュアル操作などという言葉では到底説明し切れない、制御技術の極北。621しか到達していないAC乗りの完成形。彼女はコレを、ただ「完全制御」と呼んでいる。
『それが隠し玉か、犬。なんともまぁ、痛々しいことだ』
すれ違いざま、エンタングルの頭部と左腕部をパルスブレードで切断されたスッラは、それでも口角を吊り上げ歪な笑みを浮かべる。彼も旧世代の強化人間だ、ACを肉体の延長線上に置く感覚には憶えがあった。だからこそ、621が何をしているのかにも気付けている。それが長く続かないだろうことも。
【分かってる。だけど、やらなきゃいけないんだ】
621が完全制御を使ったのは今回の繰り返しの中では初めてだ。周回で経験を積み上げてきた彼女は、そもそも窮地に陥ることが少なくなっていた。グリッド086やアイスワームとの戦闘の際は精神的な問題で使えず。完全制御は万全の状態でなければ効力を発揮出来ず、かつ心身共に消耗してしまうのが欠点である。
それを何故、模擬戦である今使用に踏み切ったのか。普段は621の傍らにいるエアが忠告ないし心配してくれるのだが、彼女は情報収集の為奔走していた。しかし、たとえこの場にいたとしても止められたかどうか。621は無表情ながら、切羽詰まったような雰囲気でスッラを振り切った。シオンを撃墜しかかっているラスティの元へ吶喊する。
この戦いは戦闘シミュレーターで行われている模擬戦である。そして、模擬戦だとしてもイグアスやシオンを墜とされるのは嫌だ。その為ならばラスティも墜としてみせる。戦闘シミュレーターだから死ぬことは無い。矛盾した思考に気付かぬまま、621は背部のミサイルを放ちつつ実弾オービットを展開。パルスブレードを煌めかせスティールヘイズに襲いかかった。
SCP-650-JPとかまほよの草十郎とかが好きです。拙作の621は、ACに対してのみ似たような能力を発揮出来ます。即ち、意識的な完全制御です。621にとってジェネレータは意識して動かす心臓であり、FCSは視神経、フレームは人体そのもの。更には人体に存在しないブースタや武装さえも、血の通った体の一部として扱えるのです。要は滅茶苦茶強いってことっスね!