見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか   作:てぬてぬ@TSF

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85.迫る争乱

『ボス、エア及びブランチからデータが届いた。そちらの端末に送信する』

 

「ようやくかい。さて・・・・・・」

 

チャティを通じて送られてきたデータに、RaDの頭目にしてオーバーシアーの一員であるシンダー・カーラは目をやった。ガレージの片隅は風通しが悪く、むっとした熱気が籠っている。

 

現状、真っ先に優先するべき課題はコーラルの潮位を引き下げることだ。それに関しては、解放戦線とレッドガンが総力を上げてルビコン各地へコーラルを輸送。総量に大きな変化は無くとも分散させることで対応している。

 

次善の策としては上々だ。企業によってコーラルを星外に持ち出されるよりはずっといい。しかし、オーバーシアーの目的とはかけ離れていた。「破綻」を防ぐ為にコーラルを根絶する。組織の理念として、コーラルとの共存は一切考えられていない。

 

カーラとしては、現状のルビコン協調路線は想定外である。621とそれを取り巻く状況、Cパルス変異波形であるエアの存在。まるで土台からひっくり返すような情報と事実に、オーバーシアーの計画は大幅な軌道修正を余儀なくされていた。

 

そして、何より。あのハンドラー・ウォルターが使命を捨てたのだ。それ自体は喜ばしい。幼い頃から色々と面倒を見てきた少年は、鉄の如き意志を以て使命を背負ってしまった。痛々しく、見ていられないと常々思っている。元よりウォルターが背負うものでもない。親の罪に、子は関係無いのだから。

 

・・・・・・だが。カーラとしては、ただ現状に甘んじるわけにもいかない。彼女は「アイビスの火」、その当事者である。罪を背負うべき者がいるのならばそれは自分だ。もしも解放戦線やレッドガンが間違えた時は、オーバーシアーの使命を果たさなければならない。と、

 

「こいつは・・・・・・またぞろ、厄介なことになりそうだ」

 

送られてきたデータの中に不穏な情勢が記されている。それはルビコン星外、ベイラムとアーキバスの動きが活発化していることだ。どうやら両企業は盟約を結び、ベイラムを矢面に立たせルビコンへの全面侵攻を画策しているらしい。

 

企業勢力が手を結んだのならば、封鎖機構による惑星封鎖を掻い潜るのは容易だろう。解放戦線側が星外に影響力を持たない以上、侵攻は避けられないということだ。アーキバスのバックアップにより補給の問題が無くなったベイラムは、圧倒的物量で攻め寄せてくるに違いない。

 

対するこちらの防衛戦力は、主軸となるのはルビコン解放戦線。先の戦いを超えて尚多数の兵器を抱えている。次いでレッドガン。G1ミシガン率いる精鋭部隊は未だに健在だ。そして、621やブランチを含む独立傭兵達。解放戦線側に協力していない傭兵達も、この状況では協力するか隠れ潜むかの選択肢しか無い。

 

最後にドーザー勢力。ジャンカー・コヨーテスが壊滅した今、RaD以外は小規模な組織ばかりだ。一応保有する兵器は雑多と言えど数だけはある為、RaDに取り込む手回しを行っているが・・・・・・どこまで戦力になるか。

 

「全く、ベイラムも懲りないねぇ。使い潰されるのは分かり切ってるっていうのに。お陰で面倒事が増えちまったよ」

 

言葉とは裏腹に、カーラの口元には薄く笑みが浮かんでいる。「生きてるなら笑え」。それがシンダー・カーラのモットーであり、実際に面白いことになってきたと精神を高揚させている。このモットーこそが、長い年月を乗り越える為に彼女が身に着けた処世術だった。

 

「チャティ、データを丸々ウォルターに送ってやりな。あいつの頭痛に拍車をかけることなるだろうが、仕方ないさね」

 

『了解だ、ボス』

 

チャティの返事を聞き頷いたカーラは、軽く肩を回しつつガレージを見渡した。RaDのメンバーが総出になって兵器群のメンテナンスをしているが、人数はいつもより少ない。オーバーシアーの目的を知る者達は、ほぼ全員ザイレムに向かわせているからだ。

 

データが正しいのであれば、甘く見積もっても半年以内には企業の侵攻が開始されるだろう。星外に展開出来る兵器が手元にあれば迎撃も可能だが、生憎そう都合良くはいかない。衛星軌道まで掌握され、企業の本隊がルビコンに降下するのは確定事項と思われた。

 

ならばどうする。RaDの頭目として、オーバーシアーとして、どのように動くべきか。企業にコーラルが渡るのは絶対に避けなければならない。だが、ルビコン星外に広く支配力を持つベイラムの総兵力は膨大である。圧倒的物量で攻め続けられれば、解放戦線もレッドガンもひとたまりも無いはずだ。

 

いっそ、そうなる前に全てを燃やしてしまうか?ザイレムを浮上させ集積コーラルに突入させれば・・・・・・いや、駄目だ。解放戦線が企業に勝利した段階で、バスキュラープラントの延伸は望めなくなった。大気圏外まで吸い上げずとも、ルビコン各地にコーラルを輸送する手段はいくらでもあるからだ。

 

コーラルの大部分が技研都市にある以上、着火の手段は限定される。実行は現実的ではない。カーラは額の汗を拭いつつ、愛機であるフルコースを見上げた。結局は正面戦争で企業に打ち勝つしかないのか。しかし、リスクが高過ぎる。

 

「ま、構わないさ。精々楽しませてもらおうか」

 

それでもカーラはニヤリと笑う。隠れ潜みながら機を伺っていた頃と違い、今は協力者が無数にいる。オーバーシアーとしてでは無く、RaDの頭目としては願ったりだ。

 

「その時が来る前に、我が子達を存分にめかし込ませなきゃね。RaDの技術力で、企業連中を度肝を抜いてやろうじゃないか」

 

宣戦布告のように呟いて、カーラはフルコースの整備を再開しようとする。と、そこに巨躯を揺らしながら男が近付いてきた。肩に担いだ機材は相当な重さのはずだが、意にも介していないようだ。

 

「ボス、言われたやつを持ってきましたぜ。ここに置いときゃいいですかい?」

 

巨躯の男・・・・・・インビンシブル・ラミーはへらりと笑いながらカーラに問いかける。コックピットに収まりきらない程の筋肉と脂肪が全身を包み、瞳はコーラル摂取の影響か爛々と輝いていた。

 

「あぁ、傷付かないようゆっくり置きな。それで、マッドスタンプの調整は順調かい?折角パーツを新調したんだ、出撃の時はきっちり働いてもらうよ」

 

「任せてくださいよお、無敵のラミー様がどんな奴でもぶっ潰してやりますんで!」

 

ドシンという音と共に胸を叩くラミー。彼にはムードメーカー的な側面がある。こんなのでもランク外の傭兵を蹴散らせる程度の実力も有しており、戦場の賑やかし程度にはなるだろう。それに、生存力は贔屓目無しに高いのだ。ACの修理代を加味しても、先陣を切らせるのにうってつけである。

 

「そうかい、楽しみにしてるよ」

 

「へっへへ、俺とマッドスタンプは無敵なもんですから!ボス、たっぷりの報酬を期待してますぜぇ!」

 

やや呂律が回っていない返事に、カーラは苦笑を浮かべた。技研都市から運び出されるコーラルの一部を、ドーザーの運び屋達はこっそりくすねていた。それは純度が高く、通常のものより心地良い酩酊を引き起こすらしい。

 

「・・・・・・やれやれ」

 

巨大なラミーの背中を見届けて、今度こそフルコースの整備を再開する。コーラルに対する複雑な想いを抱えながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『レイヴン、一体何があったのですか?その、酷く落ち込んでいるように見えるのですが』

 

【ちょっとね。大丈夫だよ、エア。気にしないで】

 

ハンドラー・ウォルターが確保している拠点、その一室。621にあてがわれた清潔な部屋で、彼女は車椅子に乗ったまま悄然としていた。表情はいつもと変わらないものの、明らかに雰囲気がおかしい。エアが情報収集に奔走している間に何があったというのか。

 

今日は「交流会」の日だったはず。そこで621にショックを与える出来事があったに違いない。エアはレッドガン拠点のサーバーに接続し、模擬戦の一部始終を確認した。無論ハッキングである。

 

『これは・・・・・・』

 

映像資料に映し出されていたのは、鬼神の如き動きで敵機を屠る621の姿。交信が通じたあの日から今まで、このような彼女をエアは見たことが無かった。ある種芸術的な美しさすら感じさせる戦闘機動に、人ならざる変異波形は目を奪われてしまう。

 

ACは何故人型を模しているのか。その理由に思い至ったエアは、621の動きを放心したように眺め続けた。人は人と戦う為の形をしている。無限の選択と淘汰を繰り返し、闘争の螺旋を巡りながら生命は進化していくのだと。

 

『・・・・・・はっ』

 

陶酔から正気に戻るエア。今は思索に耽っている場合ではない。とにかく、状況は理解した。絶対的な実力を見せつけた621に、周囲の者達が意気消沈してしまったようだ。疎外感を感じているのだろう、621はぼんやりと虚空を見つめたまま微動だにしていない。慰めたいが、エアにはその方法が分からなかった。

 

『レ、レイヴン。先ほどの模擬戦記録を確認しました』

 

【・・・・・・そっか。エアはどう思った?】

 

なんとか言葉を捻り出すと、621は寂しげに訊ねてきた。機械音声では無い思念での対話。見た目からは想像出来ない程、彼女の思念は感情に彩られている。幾度繰り返しを超えてきたとしても、まだ幼子なのだ。

 

『私は、とても美しいと思いました。全ての機能を十全以上に駆使し闘争を制する姿は、芸術的ですらあったと感じています。あらゆる生命が生き残る為に戦っている。その極致が、人間なのですね』

 

【そんな綺麗なものじゃないよ。人間は、きっと綺麗じゃない。私も含めて】

 

隔世的な雰囲気を漂わせ、621は中空に舞う赤点を目で追った。交信が届いた者にのみ見える、Cパルス変異波形がそこにいる印。つまりはエア自身である。

 

『そんなことは・・・・・・!』

 

【ううん。ウォルターを助けたいのも、コーラルを燃やしたくないのも、みんなと仲良くしたいのも。全部全部、私のわがままだから。綺麗じゃ駄目。駄目なんだよ】

 

『それでも、貴女の願いはかけがえの無いものです!わ、私は、今までたった一人で戦い続けてきた貴女にもっと報われてほしい・・・・・・!』

 

思念が乱れ、感情的になっている自覚を覚えつつも、エアの想いは止まらなかった。ずっと考えていた。こんなに小さな体に、621はどれだけの重荷を背負い込んでいるのだろう。少しでも彼女の助けになりたい。彼女の苦痛が和らぎ、幸福を掴み取れるように。

 

『レイヴン、貴女は私達を否定しなかった。受け入れてくれた。友人として接してくれた。それで私がどれだけ救われたか、伝わり切ってはいないのでしょう。だから、貴女にも救われてほしいんです。貴女の友人として幸福を願わずにはいられない。だから、辛いことや苦しいことも共有させてください』

 

【エア・・・・・・】

 

621は知っている。エアはとても優しいのだ。自分に害を為す存在が相手でも、対話を諦めない程に。

 

【・・・・・・うん。ありがとう。でも、本当に大丈夫だよ。少しだけ落ち込んだけど、心配はしていないんだ】

 

『そう、なのですか?』

 

【そうだよ。だって、イグアスもラスティも強いから。絶対に立ち上がってくる。分からないけど、シオンやフレディもきっとそう。いつか追いつかれるんだろうな。楽しみ】

 

本当に楽しそうな雰囲気で、621はエアに語る。自分の強さは繰り返しを生き残ってきたが故だ。経験の差が縮まれば、イグアスやラスティは自分を凌ぐかもしれない。むしろ、そうであってほしい。ウォルターを救い、ルビコンに平穏を取り戻す為には仲間の力が必要不可欠なのだから。

 

『・・・・・・私もACに乗れたら良かったのですが。先日の作戦でC兵器は処理してしまったので、以前レイヴンから聞いていたことは実行出来そうにないですね』

 

【ごめんね、エア。ちょっとでも残しておくとオールマインドが悪用するかもしれないと思ったから。それに、エアには情報収集でもオペレートでも助けてもらってるし。本当、助かってるんだ。ありがとう】

 

慰めるつもりが慰められている。やはり、621は優しい人だ。自分も621からそう思われていると知らないまま、エアは存在しない手を伸ばすように彼女へと近付いた。固まり切った表情筋、無機質に感じる顔立ちは幼いながらに整っている。まるで精巧な人形のようだ。

 

『こちらこそ、感謝します。私と出会ってくれて。私に、意味を与えてくれて』

 

まるで口づけをするように、赤い光点が621の頬を撫でる。温もりも何も与えられない無駄な行為。けれど、621は確かにエアの想いを受け取っていた。

 

【ふふふ。なんだか、あったかいな。エア、これからもよろしくね】

 

『はい、レイヴン。どうか、貴女の行く末を支えさせてください』

 

密やかな、二人だけの会話。それは、621が眠りにつくまで続いた。




エアちゃん号含めたC兵器はブランチが爆散済みなので、現状ではエアが621と共闘する可能性はありません。現状では。
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