見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか   作:てぬてぬ@TSF

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86.偶像、再会、アセンブル

ベリウス地方中部に存在する一大拠点。解放戦線、企業共に「壁」と呼んでいる交易の要衝は、度重なる戦闘の末再びルビコニアン達の手に渡っていた。

 

621とラスティにより二機のジャガーノートを撃破された後はアーキバスが。惑星封鎖機構の介入後は封鎖機構が。そして、封鎖機構の撤退後は再びアーキバスが管理下に置いていた「壁」は、今は解放戦線の人員で賑わっている。彼らの表情は一様に明るく、活気に満ち溢れていた。

 

輸送用の車両にヘリ、汎用兵器にMT。再度設置された固定砲台群。技研都市から運び出されたコーラルをベリウス各地へ行き渡らせる為、人と機械の群れは動き続ける。それは、抑圧され虐げられてきたルビコニアンの凱歌とも言えた。敵を打ち倒す為では無く、コーラルの恵みを届ける為に。企業の侵攻以前に行われてきたルビコンの営みが戻ってきたのだ。

 

そんな中、彼らの口の端に上るのは企業を打ち破った戦士達の雄姿だ。最前線で活躍した帥父ドルマヤンは言わずもがな、重傷を負いつつも帰還を果たした帥淑フラットウェル。遊撃として前線を駆け回り戦果を上げたフレディに、ベリウス地方で奮戦したツィイーと六文銭。他にも無数の戦士が名を上げていた。

 

その中でも特にルビコニアン達の興味を引いたのは、謎めいた経歴を持つシオンである。ある日突如として解放戦線の元に現れた彼女は、フラットウェルの隠し子という噂もあった。実際は大気圏突入用ポッドでガリア多重ダムに飛来したのだが、その事実を知る者は数少ない。

 

来歴は分からず、しかし努力家で勤勉。シオンが投入された戦場は必ず勝利で終わり、何よりもその姿は芸術品の如く愛らしかった。先の戦いでもヴェスパー部隊の実質的指導者であるスネイルを撃破し、更に窮地に陥ったフラットウェルを颯爽を助け出したと言う。

 

人の口に戸は立てられない。誇張された噂は際限無く膨れ上がり、事実と著しく乖離しながらやがて真実となる。シオンという戦乙女の「伝説」は、勝利に湧き立つルビコニアン達の間で爆発的に広まっていった。

 

恐らく、ルビコニアン達は求めていたのだろう。明確な勝利の象徴を。長い間続いた苦境を打破してくれた、神にも等しき偶像を。彼らがシオンに向ける想いは、帥父ドルマヤンに向けられているものと似通っていた。尊敬、崇拝───あるいは、盲信。

 

かくして、シオンは解放戦線の新たなアイコンとして急速に地位を確立していった。ルビコンという星が遣わした救世の戦士。侵略者に天罰を与える麗しき天使。ドルマヤンにも、フラットウェルにも、勿論シオン本人にも止めようが無い流れは、岩が山肌を転がり落ちるように加速していく。

 

この流れはどこに行き着くのだろうか。ルビコンの未来に、どのような影響を及ぼすのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「シオン!ひっさしぶりだねぇ!」

 

「むごっ!?つ、ツィイーさん苦しいって・・・・・・!」

 

人目を憚らず抱き着いてきたツィイーに、シオンは苦しげな呻き声を漏らす。頭を胸元に抱え込まれ、上着越しの柔らかな感触に頬を赤らめてしまう。その様子を、アーシルとポッド内のメッサムが微笑ましげに見つめていた。

 

レッドガンと共にやってきた解放戦線の輸送部隊は、弾薬やパーツ等の物資を拠点の倉庫へと運んでいる。ここで全ての積み荷を降ろし、少しでも多くのコーラルをベリウス地方へと輸送する手筈となっていた。ツィイーの愛機、ユエユーもガレージに移動されている。

 

『こうして、皆生きて再会出来るとはな。本当に嬉しいよ』

 

「・・・・・・うん。メッサムも、義体に適応しているみたいで良かった。リハビリはいつ頃から?」

 

『安定化の兼ね合いもあって一週間程先になるだろう。出来るだけ早く戦線に復帰したいが、こればかりはな。それに』

 

言葉を切り、メッサムは再びシオンに視線をやった。彼女の活躍は耳にしている。些か誇張も含まれているようだが、過酷な戦場を生き残ったのは純然たる事実だ。以前とは比べ物にならない程成長しているだろう。そして、それはツィイーも同様だ。置いていかれるような寂寥感はあるが、後進が育つのがメッサムは嬉しかった。

 

『若い者達がぐんぐんと力を付けてきている。ルビコンの未来は明るいな。俺が出張る必要も無くなるかもしれん』

 

「・・・・・・出来れば、ここにいる全員が戦う必要の無い世界にしたい。ツィイーも、シオンも、メッサムも、他のルビコニアン達も。全員が穏やかに日々を過ごせるように。夢物語だと、分かってはいるけど」

 

『ははは、そいつはいい!夢は壮大じゃなきゃな!何、今だって昔と比べれば夢みたいな状況さ。つまり、アーシルのそれも叶えられるってことだ』

 

もしも動けるのならば、背中をバシバシと叩きながら言っていただろう。そんなメッサムの朗らかな言葉に、アーシルは懐かしそうに微笑んだ。手酷い拷問を受け、その身の半分近くが義体になったとしても、メッサムの心は挫けていない。昔と同じままだ。その事実が何よりも喜ばしい。と、

 

「ちょ、話し込んでないで助けてくれぇっ!」

 

情けない声でシオンが二人に助けを求める。見れば、ツィイーにがっちりとホールドされたまま頬ずりされていた。周囲には隠しているがツィイーは可愛いもの好きであり、久しぶりにシオンと会ったことで抑えが利かなくなっているらしい。

 

過酷な戦場とは違う和やかな光景に、メッサムとアーシルは顔を見合わせた後笑い出す。その笑い声にシオンの悲鳴が混じり、空に響き渡るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「交流会?」

 

「あぁ。レイヴンさんの提案でな、解放戦線にレッドガンのAC乗り達で模擬戦とか連携とかをやってんだ」

 

シオンがツィイーにもみくちゃにされた後。拠点内の食堂で、医療設備の確認に行ったメッサムを除く三人は話し込んでいた。先の戦いに関する内容やウォッチポイント・アルファ周りの情勢、コーラル輸送の進捗等々・・・・・・いくら話しても尽きない話題は、621主催で行われている交流会の件へと移った。興味津々という表情のツィイーに、シオンは参加者を教える。

 

「今の所の参加者は、主催者のレイヴンさんにその護衛のスッラさん。レッドガンからG5のイグアスさん。で、解放戦線から俺と、追加で参加させてもらったフレディさんだな。後は・・・・・・ラスティさんもいる」

 

最後だけ歯切れが悪くなったのは、ラスティとツィイー達の過去をある程度聞いていたからだ。かつての同胞であり、ヴェスパー部隊に所属してからはルビコニアンの虐殺に加担していたラスティ。ツィイー達がどのような想いを抱いているのか、シオンには想像も出来ない。

 

「・・・・・・そっか。うん、分かった。それにしても、あのレイヴンがねぇ。「壁」を落とした奴と協力するってのは、なんか変な感じだけど」

 

果たしてツィイーは、複雑そうな雰囲気を漂わせながらも笑みを浮かべる。横に座っているアーシルは既に知っているからか、彼女を心配そうに見つめていた。

 

「私も参加したいけど、大所帯になり過ぎそうだから遠慮しとこうかな。その代わりシオン、たっぷりと戦闘シミュレーターに付き合ってよ!」

 

「おぅ、こっちから頼みたいくらいだ。ツィイーさんがどれだけ強くなったか、楽しみだな」

 

ラスティについては触れたくないという意志を感じ取ったシオンは、ツィイーの言葉に乗る形で話題を変える。彼女やアーシルとは随分と親しい仲になってはいたが、流石にこれ以上は踏み込めなかった。そもそも、知った所でどうこうなるものでもない。

 

「そういや、トラルテクトリのアセンを調整しようと思ってるんだけどさ。二人とも、ちょっと意見くれないか?」

 

タブレットを取り出して操作し、二人に画面を見せる。そこにはトラルテクトリのアセンブルが映っていた。変更されたパーツはジェネレータとブースタ。それぞれ大豊製ジェネレータの三台と、シュナイダー製ブースタのBUERZELに換装されている。

 

「どれどれ・・・・・・ふーん、いいんじゃない?距離を詰めて撃ち合いしやすくなりそう。よっぽど相手が逃げに徹しない限り、アサルトブーストで追いつけるね」

 

「代わりに通常の移動速度が減っているのか・・・・・・シオン、相手が退きながら攻撃を継続してきた場合の対応は?」

 

「被弾覚悟でアサルトブーストで接近するしかないかな、そいつは。結局、今から戦い方を変えられる程器用じゃないし。鍛えてきた技術を活かすには、シンプルに一つの戦術を極めた方がいいと思ったんだ」

 

アーシルからの質問に答えつつ苦笑を浮かべるシオン。彼が相応の実力を身に着けたのは、戦闘シミュレーターで膨大な時間反復練習を行ってきたからだ。今更戦い方を変えてしまうのは、積み上げてきた技術を根本から崩してしまうのに等しい。少なくともシオンはそう思っている。

 

「まぁ、実際にパーツを入手するのは厳しそうなんだけど。レッドガンの方もこっちも、鹵獲したACパーツはかなり少ないみたいだから。各地のアーキバスとベイラム傘下の企業達も降伏してるらしいけど、工場で新規パーツを作るにはそもそも材料が足りないんだってさ」

 

「あちゃー。残念だな、余裕があれば私もユエユーを強化したかったんだけど。動きが軽いのはいいんだけど、攻撃武装がグレネードだけってのは立ち回りが難しくて」

 

「確か、肩部の小型ミサイルならパーツが余っていたかもしれない。それならユエユーに乗せても問題無いだろうし、確認してみようか?」

 

「えっ、ほんと?さっすがアーシル!」

 

かつてのメッサムのように、ツィイーはアーシルの背中をバシバシと叩く。嬉しそうな表情を浮かべる彼女につられて、アーシルも口元を綻ばせた。そんな光景を見ていると、胸が暖かな安堵で満たされていくようだ。二人が生きて再会出来て良かったと、シオンは束の間であろう平穏を噛み締める。と、

 

「すまない、歓談中失礼する」

 

低く落ち着いた声。聞き覚えのあるそれに視線を向けると、車椅子に座りギプスを複数身に着けたフラットウェルが近くまで来ていた。ツィイーとアーシルも気付いたようで、慌てて立ち上がろうとする。

 

「いや、楽にしていてくれ。急に訪ねてきたのはこちらの方だ」

 

「フラットウェルさん、出歩けるまで回復したんだな。良かった・・・・・・」

 

緊張で固まる二人と違い、シオンは気さくにフラットウェルへと話しかけた。彼に対する尊敬と感謝はあるが、自身はルビコニアンではない。必要以上にかしこまらなくてもいいだろう。周囲から無礼だと思われるかもしれないが、格式ばった振る舞いは苦手だった。

 

「あぁ、シオンのお陰でな。今回はその件に対しての感謝もあるが・・・・・・メッサムから改めて聞いたぞ。リトル・ツィイー、獅子奮迅の活躍だったそうだな」

 

「あっ、えっと、私はそんな大したことは・・・・・・」

 

先程までの威勢はどこへやら、わたわたとツィイーが頭を下げる。ここ数年でAC乗りとして頭角を現してきた彼女だが、目上の人物にはやはり委縮してしまうようだ。

 

「顔を上げてくれ。我らは同胞であり、本来立場の優劣は無い。君の活躍で多くのルビコニアンが命を落とさずに済んだのだ。賞賛されてしかるべきだろう」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

緊張が残ったままの返事に苦笑しながらも、フラットウェルはシオンへと視線を向けた。活躍。そう、活躍だ。彼女がいなければ自分は死んでいた。まさか、使い捨てるのも厭わないと思っていた相手に助けられるとは。運命とは数奇なものである。

 

「そして、シオン。改めて感謝する。私の命を救ったのは他ならぬ君だ。何か望むものがあるのならば、可能な限り尽力しよう」

 

「いや、それこそ気にする必要は無いですって。俺が戦場で死にかけても、フラットウェルさんは助けられる範囲で助けようとしてくれるはずですし。お互い様って奴ですよ」

 

「そうだとしても、組織としては示しがつかん。善く働いた者を適切に遇さなければ、ルビコン解放戦線の面目が潰れてしまう」

 

「いやいや、大袈裟な・・・・・・」

 

真剣な表情で言ってくるフラットウェル。どうやら本気のようだ。しかし、そう言われても・・・・・・シオンは眉根を下げ、困り顔で腕を組んだ。と、フラットウェルが来る前に話していた内容を思い出す。丁度いいかもしれない。

 

「んー、だったら無理を承知で頼むんですけど。このACパーツ、入手出来ませんか?」

 

タブレットを差し出したシオンはフラットウェルを上目遣いで見つめた。視線の高さの違いから無意識の内にねだるような恰好になっているが、本人は気付いていない。

 

「ふむ・・・・・・分かった、私個人の伝手も含めて当たってみよう」

 

「やりぃっ!あ、じゃあついでにツィイーさんの方のパーツも・・・・・・」

 

「ちょ、シオン!?」

 

「ふ、構わんさ。要望を聞こう、リトル・ツィイー」

 

微かな笑みを浮かべるフラットウェルに慌てるツィイー。ハグの意趣返しとばかりにニヤリと笑うシオン、それらを眺めて穏やかな表情を浮かべるアーシル。解放戦線の食堂は他のルビコニアン達も賑わっており、その活気は中央氷原の寒さを吹き飛ばすかのようだった。




見た目可愛い上に強いしほぼ全ての戦場で勝利している美少女パイロット。推されない訳が無いんですよね。
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