見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか   作:てぬてぬ@TSF

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8.襲撃者

慌ただしく、かつ殺気立った雰囲気が充満している施設内。いつものようにシミュレーター室に籠っていたシオンは、疲労も厭わずダナムの元へ急いで向かっていた。

 

「シオン、こっちだ!」

 

途中でこちらを探していたらしいアーシルと合流し、手を引かれ走る。まさか、ACが届く前にこのようなことになるなんて。焦燥感を堪えながら、シオンは乱れる息のままに走った。

 

レッドガンのAC部隊がガリア多重ダムへと向かっている。その情報がもたらされたのが今から十分程前。哨戒中だった解放戦線の小型ヘリが、撃墜される直前に通信してきたものだった。AC輸送ヘリが三機、低高度で多重ダムに接近中。輸送ヘリに描かれたエンブレムは、ベイラムの精鋭AC部隊、レッドガンのもので間違い無い。

 

「敵の狙いは恐らくライフライン設備の破壊だろう。戦闘配置はタイプC!持ち場を堅守せよ!」

 

ようやく指揮官室に到着すると、先日の傷も癒えていないインデックス・ダナムが通信越しに命令を下していた。解放戦線の者達が忙しなく動き回り、蜂の巣をつついたような騒ぎになっている。

 

「ダナムさん、状況はどうなってるんです!?」

 

「シオンか。敵性ACは三機、内二機はレッドガンの所属だ。残りの一機は独立傭兵だとは思うが、詳しい情報は無い。そして、交戦距離までは残り五分も無い。ええい、よりにもよってこのタイミングで・・・・・・!」

 

あらかた指示を飛ばし終えたダナムは悔しげに唸った。現状、多重ダムの戦力は中規模のMT部隊に汎用兵器群、及び多数のガードメカと各所に配置された砲台で構成されている。AC一機ならば容易く返り討ちに出来るだろうが、相手は音に聞こえしレッドガンだ。そこに独立傭兵を含めてACが合計三機。あまりにも分が悪い。

 

「同志ダナム、帥淑への連絡は?」

 

「真っ先にしたとも。だが、他所から増援もしてもらおうにも間に合わん。MTや他の部隊を引き連れていない以上、奴らの目的は占拠ではない。ここの設備を蹂躙し、ライフラインを破壊する気だ」

 

故に、機動力に優れた兵器であるACを投入してきたのだろう。ライフラインの破壊後は速やかに離脱してしまうはずだ。ある程度の経験があるシオンが理解出来るのだから、言葉にしたダナム本人が気付いていないわけが無い。そして、相手の作戦を妨げるには戦力としてACが必要不可欠であることも。

 

「帥淑も何か手を打つと言ってはいたが・・・・・・果たして間に合うかどうか。ぐぅ・・・・・・!」

 

迎撃に出たくても、怪我が治り切っていない状態ではかえって足手まといだ。だが、ルビコニアン達の窮地に戦えず、後方で指示を飛ばすことしか出来ないという事実がダナムを苛む。血が滴りそうな程に拳を握り締めている彼に、シオンは怯まず話しかけた。

 

「ダナムさん、一つ頼みがある」

 

「・・・・・・なんだ。貴様が乗る予定のACはまだ」

 

「分かってますよ。だから」

 

ダナムの言葉を遮り、恐怖と決意がない交ぜになった表情で告げる。

 

「あんたのバーンピカクスを貸してほしい。そうすりゃ、時間稼ぎくらいは出来るぜ」

 

その提案に、ダナムは目を丸くした。横にいたアーシルもそうだ。何故ならば、通常であれば決してありえない選択だったからである。

 

「何を言っている、あれは俺用に調整されている!他人のACに乗るなど、自殺行為だ!」

 

「同志ダナムの言う通りだ、シオン。私はAC乗りではないが知識としては知っている。自分用にチューニングされていない機体に乗っても、まともに動かすことは出来ないはずじゃあ・・・・・・」

 

「分かってる、分かってるけどこれしか無い。怪我でまともに動けないダナムさんが出撃するよりは多少なりともマシなはずだ。俺・・・・・・この体のポテンシャルは凄いからな」

 

そう言って口角を吊り上げるシオンは、しかし明らかに虚勢を張っていた。当然だ。ACはパーツを組み替えることで様々な状況に対応することが出来る。だが、それは逆を言えば『パーツの組み合わせによって操作感が変わってしまう』ということだ。いかに一線級のAC乗りと言えども、慣熟訓練も無しに別のACに乗るのは難しい。周知の事実だ。

 

「動く的にしかならん!死ぬぞ!?」

 

「だからって、このまま何もしなかったらライフラインがぐちゃぐちゃにされちまいます。そうすれば遠からず死ぬ。遅いか早いかの違いだ。まぁ、死ぬつもりは毛頭無いけど」

 

「むぅ・・・・・・!」

 

確かに、今のバーンピカクスは宝の持ち腐れだ。整備士達の不断の努力により、いつでも出撃出来るようにはなっている。しかし、己を差し置きシオンを死地に送るのは許しがたい。ダナムが思考を僅かな時間で駆け巡らせていると、開放したままの通信回線から声が聞こえてきた。

 

『いいだろう、やってみるがいい』

 

「帥淑!?しかし・・・・・・!」

 

『責任は全て私が負う。シオン、と言ったな。すぐにガレージに向かえ。話はこちらで通しておく』

 

「っ、感謝するよ帥淑フラットウェル!」

 

「ま、待てっ!ぐうぅっ・・・・・・!」

 

駆け出したシオンに手を伸ばそうとして、肩の痛みに呻くダナム。しかし、間髪入れずに口を開きフラットウェルを問い詰め始めた。

 

「何を考えているのです、死にに行くようなものだということは分かっているでしょう!?」

 

『当然だ。しかし、他に方法が無い。すまんな、私の差配が迂闊だった。よもや、ガリアのダムをレッドガンが複数で襲撃するとは』

 

「しかし、何故彼女の出撃を許可したのです!撃墜されるまで戦うとしても、僅かな時間稼ぎにもなるかどうか・・・・・・!」

 

『見込みは薄いだろうが、それでもやってもらうしかない。現状ライフラインを潰されるわけにはいかないのだ。使えるものはなんでも使う。我らルビコニアンの為に』

 

冷徹な物言い。リアリストであるフラットウェルは、最悪の場合シオンが捨て石になっても構わないと思っていた。得体の知れない事情を抱えた、信用出来ない傭兵。ここで死んだとしても、大した痛手にはならない。そもそも、シオンを引き入れたのも危険な任務で使い捨てにする為であった。星外企業がそうするように。

 

「っ・・・・・・!」

 

ダナムとて、シオンの怪しさは理解している。彼女は解放戦線の同志では無く、あくまで外様の傭兵という扱いだ。ならば、フラットウェルの言い分は正しい。・・・・・・正し過ぎる。

 

だが、元はと言えば己が怪我をしたせいで招いた状況だ。だからこそ、ダナムは口をつぐむしかなかった。自分に出来ることは後方からの指揮だけ。せめてそれだけはこなそうと片手で己の頬を引っぱたく。あらゆる感情を飲み込み、彼は前を向いた。

 

「ならば、シオンにはアーシルをつけます。あいつはオペレーターの経験が何度もある。いないよりはマシでしょう」

 

『よし。では、こちらも動くとしよう。襲撃してくる独立傭兵を金で引き込む。それまでには、シオンの出撃準備を済ませておいてくれ』

 

「了解」

 

下劣な策に嫌悪感を覚えつつも、ダナムは何も反論しない。己が身を焼かれるような、魂が焦げ付くような感覚を味わいながら、通信には乗らぬように呟く。

 

「・・・・・・コーラルよ、ルビコンと共にあれ」

 

縋るような声色の警句は、本人にしか届かなかった。

 

 

 

 

 

「ぐうぅっ!?」

 

整備員達に許可を取り、バーンピカクスのコクピットに乗り込んだシオンは急いでコネクタを繋ぐ。瞬間、怖気とも痛みともつかない感覚が全身に走った。

 

『システム、緊急起動。インデックス・ダナムによる承認を確認、一時的に操縦権限を譲渡します』

 

機械的なCOMボイスが響き脳内を反響する。こみ上げる吐き気を抑えながら、シオンのこぢんまりした肉体に合っていないゆとりのあるコクピットの確認をした。不便はあるが、どうにか操縦出来そうだ。

 

「あぁまったく、ままならねぇなぁ!」

 

今は時間が惜しい。侵攻してくるAC部隊を、可能な限り早く迎撃しなければならないのだ。機体の癖は移動しながら確認するしかない。あまりにも無謀な状況に、シオンは湧き上がってくる恐怖と焦燥を飲み込む。

 

彼がかつて依頼を受けていたのは、精々がMTや汎用兵器相手のものだった。敵対ACと遭遇することはあったが、その度に作戦地域を離脱し逃走していたのである。この体になってからシミュレーターで修練を重ねたものの、AC相手の命のやり取りは初めてだ。それも、乗り慣れていない他人の機体で。臆する気持ちが全身に伝わり、震えてしまいそうになる、と、

 

『こちらアーシル、臨時オペレーターとして支援する!』

 

「へっ、そいつはありがたい。頼むぜ、アーシル」

 

曲がりなりにも知り合いである彼の声に安堵するシオン。この体になる前はオペレーターも無く孤独に戦ってきた彼にとって、戦場を共にする者の存在はありがたいものであった。ゆっくりと息を整え、脳に直接流れ込んでくる奔流に対処する。ダナム用に最適化されたこの機体を、最低限戦闘出来るように調整しなければならない。

 

「出来るだけ早く動かせるようにする。今の戦況はどうだ!?」

 

『敵対AC部隊が第一防衛線に到達。応戦しているが・・・・・・戦況は芳しくない』

 

悔しげな声のアーシル。やはり、このままでは相手の思うがままに蹂躙されてしまう。急がなくては。シオンは逸る心のままバーンピカクスに己を馴染ませていく。それは、今までに受けたことの無い感覚だった。まるで己の肉体が組み代わっていくような、おぞましい感覚。必死で堪えつつ声を上げる。

 

「・・・・・・よし。独立傭兵シオン、バーンピカクス出るぞ!残りは移動しながら最適化する!」

 

『っ、分かった。ガレージを開けてくれ!』

 

万全には程遠いが、こうしている間にも解放戦線の戦力が削られ、人が死んでいる。ルビコンでは容易く命が失われる。そんなことは理解していた。しかし、一度恩を受けた組織のメンバーが蹂躙されるのは耐え難い。平凡ながら善性を伴った感性で、シオンは戦場へと赴いた。そこに打算は無い。ただ、彼は自身が戦うことしか出来ないと自覚していたのだ。

 

「あぁクソっ、着ぐるみでも着てる気分だ・・・・・・!」

 

ガレージからブーストを吹かしながら出撃し、寒風が吹きすさぶ氷湖に着地する。シミュレーターでトレーナーACを駆っていた時とは比べ物にならない不自由さ。肉体の感覚が鋭敏過ぎる故に、逆に枷がかかっているような感じだ。

 

『シオン、変電施設が一基破壊された!やはり襲撃者の目的はライフラインの破壊だ!』

 

「そうかよそりゃ大事だ!畜生、やっぱり都合良くはいかないか!」

 

単純な操縦に四苦八苦しているシオンは、のろのろとブースターを吹かしながら前線へと向かう。本来ならアサルトブーストで急行するべきだが、今の彼では到底出来そうもなかった。とにかく違和感が強過ぎる。こんな状態ではACどころか、MT相手もままならないだろう。

 

それでも。それでも、やるしかない。シオンは解放戦線に対して命を賭ける程の義理は無いはずだ。そうだというのに、己の意志で死地に向かう。何故かは分からない。こうなる前は、ここまで無謀な選択をすることは無かった。解放戦線に保護された僅かな時間で絆されもしたのか。

 

「なんだって構わねぇ、全力でやってやるよ」

 

可憐ながら低い声で呟き、必死の形相で進んでいく。敵性AC達は予想よりも丁寧に進撃しているようで、MTや汎用兵器を残らず殲滅しているようだ。後僅かで接敵するというその時、バーンピカクスに別の通信が入った。

 

『こちらミドル・フラットウェル、独立傭兵の抱き込みに成功した。友軍識別タグを送った機体がそれだ。上手く弾除けに使ってくれ』

 

『帥淑!?』

 

驚きの声を漏らすアーシルから察するに、彼にも伝えられていなかったのだろう。だが、これが事実ならAC数が3対1から2対2になる。独立傭兵の実力は不明ながら、MT部隊や砲台を含めれば勝てない勝負では無い。そのはずだ。シオンは既に切れ始めた息を整え、叫ぶ。

 

「よぅし、感謝しますよ帥淑サマ!いくぞいくぞいくぞぉ!」

 

己を鼓舞し突き進むシオン。レーダーが示すまでも無く、ACのカメラが敵影を捉えた。シルエットから見るに、恐らく中量の二脚型。軽快に宙を飛びつつMTを蹂躙している。やるしかない。心を蝕もうとする怯懦を無理矢理に呑み込んで、シオンは敵AC目がけて突っ込んだ。




ようやく来ました序盤の難関ミッション。次回、ついに例のカラスと邂逅します。
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