見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか   作:てぬてぬ@TSF

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90.策術は蛮勇の中に

『っしゃあ!』

 

気合の入った声と共に、トラルテクトリのチェーンソーがユエユーを捉えた。連鎖刃の回転に巻き込まれ千切れ飛ぶ左腕部。ツィイーは後退するが被害は甚大である。彼女が立て直す前に、シオンは畳みかけるように真っすぐ突っ込んだ。

 

『まずっ!?』

 

ツィイーの焦ったような声にも構わず、キックから銃火器を連射する。堅牢な装甲を有するユエユーもこれには耐えきれず爆散。直後、戦闘シミュレーターの終了音が鳴り模擬戦闘の終了を告げた。

 

「あーもう、更に強さに磨きがかかってるなぁシオンは!もう私じゃ歯が立たないよ」

 

「あーまぁ、トラルテクトリのアセンを変えたお陰もあるな。それにツィイーだってミサイルの撒き方いい感じだったぜ?そのせいでグレネードの圧力が増しててやり辛かったよ」

 

久しぶりの模擬戦闘はシオンに軍配が上がっていた。コックピット型のシミュレーター機器から降りながら互いの健闘を讃え合う。と、そこにアーシルが歩み寄り、二人にドリンク用のボトルを手渡した。

 

「二人ともお疲れ。改めてしっかり見ると、どちらも操縦技術や判断力が向上してるのが分かるよ。オペレート越しだと気付けない細かい所も、凄く洗練されてる」

 

「おだてないでよアーシル。私はまだここからなんだから。シオンにも、必ず追いついてやる」

 

そう言いながらも屈託の無い笑みを浮かべるツィイー。いつも以上の威勢には理由がある。彼女のAC、ユエユーはトラルテクトリと同じくアセンを変更されていた。

 

まず、パルスシールドを外した上で肩部には二種のミサイルを装備。右肩には8分裂ミサイルであるBML-G2/P16SPL-08。左肩には三連式の双対ミサイルであるBML-G1/P32DUO-03。それに伴い、FCSも汎用性の高いFCS-G2/P05に換装されている。

 

更に、近接格闘に特化したブースタであるKIKAKUをより汎用性の高いBST-G2/P04に換装。重武装を施しながらも機動性の向上に成功していた。

 

対MT戦では武装が増えたことで向上した制圧力を以て火力支援。対AC戦では中距離を保ちつつミサイルで攪乱し、隙を見せたらすかさずグレネードを叩き込む。それが新生ユエユーの戦闘構想だ。

 

アセンが変更されたユエユーを、ツィイーは懸命に使いこなそうとしていた。フレームこそ変わっていないものの、武装の追加にFCSとブースタを換装したユエユーは最早別ACと言っても間違いでは無い。当然乗り心地もまるで異なる。ジェネレータとブースタを変更しただけのトラルテクトリと比べて、慣れるのにはかなりの時間がかかるだろう。

 

「よし!シオン、休憩挟んだらもう一戦お願い出来る?少しでも早くこのユエユーを乗りこなしたいんだ」

 

しかし、ツィイーは全く怯まない。むしろ戦闘中にやれることが増えたのを喜んですらいる。豊富な実戦経験を重ねた彼女は、戦士の素質を完全に開花させていた。

 

「おう、当然!今日は待機命令も無いしいくらでも付き合うぜ!」

 

「やりぃっ!ありがとね、今度何かお礼するよ」

 

「そんなんいいって、俺達の仲だろ?それに、俺の方だってツィイーさんと似たようなもんだ。トラルテクトリの機動力が上がった分、咄嗟の判断をもっと磨かなきゃいけない。その為にはひたすら回数こなすしかないからな。こっちからお願いしたいくらいだよ」

 

意欲十分なツィイーに、シオンも負けず劣らず返事をする。ひたすら戦闘シミュレーターをこなし実力をつけてきた彼は、試行回数が正義だと身に染みて分かっていた。と、

 

「やっているな。俺も混ぜてもらえないか?」

 

「お、フレディさん!」

 

シミュレーター室に入ってきたのはリング・フレディ。相変わらず険しい表情をしているが、纏う雰囲気はそれ程尖っていない。ただ、普段よりもやや憔悴しているようだ。

 

「参加してくれるのは嬉しいけど・・・・・・どうしたんだ?なんか、ちょっと疲れてるか?」

 

「・・・・・・シオンが気にする必要は無い。リトル・ツィイーも構わないか?」

 

「わ、私は大丈夫です」

 

ツィイーの返事を聞いたフレディは、シオンの疑問に答えずさっさとシミュレーターに乗り込む。自身の感情を見抜かれたのが癪だったらしい。

 

フレディが憔悴している理由。それは精神的なものだ。先日、帥父ドルマヤンは彼に告げた。ラスティを弟子に取り、自身が持つ全てを伝えると。フレディはドルマヤンの弟子ではない。傍に侍るるのは許されているものの、明確な戦闘指導を受けたことは無かった。

 

「ルールはそちらで好きに決めてくれ。今はとにかく、操縦に集中したい」

 

彼は、ドルマヤンの心を少しでも癒したかった。孤独な老人の魂に寄り添いたかった。だが、その想いはドルマヤンの救いにはなっていない。帥父はただ一人で立ち上がり、再び戦場に身を投じていた。思惑をフレディに伝えないまま。

 

そして、今回ドルマヤンはラスティを弟子に迎え入れた。それが示すのは一つ。フレディの実力ではドルマヤンの眼鏡に適わなかったのだ。そのこと自体は悔しいが、道理だと思っている。ラスティとは模擬戦を共にしたが、操縦技術も指揮能力もトップクラスだ。帥父の薫陶を受けるに値する程の実力があるのは間違い無い。

 

納得はしている。ただ、己の無力が辛かった。ドルマヤンの魂には寄り添えず、実力ではラスティと比べるべくも無い。塞がるような気分を抱えたまま、フレディは戦闘シミュレーターを起動する。自分ではラスティに追いつけまい。だがそれは、努力をしない理由にはならないのだ。

 

シオンも、ツィイーも、相応以上に努力していることは理解している。しかし、その二人もラスティを上回る可能性は低い。何故、努力するのか。何故腕を磨くのか。フレディは、己の無力を理由に積み上げることを諦めるつもりは無い。しかし、そうしなければならない理由を見失っていた。

 

シミュレーターの画面に今回の模擬戦、そのルールが表示される。形式は1vs1vs1の乱戦。制限時間は無し、3機の内2機が撃墜されるまで終わらない。エリア及び開始地点はランダム。分かりやすいルールだ。

 

「最後まで生き残ればいい、か」

 

呟いて、フレディはキャンドルリングのデータをシミュレーターに具現化させた。シオンやツィイーのACと違いアセンの変更は無い。元々、キャンドルリングのアセンは完成されていた。当然だ、このACを組んだのは帥父ドルマヤンなのだから。

 

雑念を振り払うよう集中しながら開始を待つ。ランダムに指定されたエリアはバートラム宇宙港。かつて621とラスティが制圧し、その直後アイスワームの襲撃を受けた場所だ。建造物や兵器の残骸が点在しているものの、比較的開けた空間が多い。キャンドルリングの機動力を活かすには絶好である。

 

開始の合図と共にフレディは加速、滑るようにヘリの残骸へと身を隠した。まずは二人の出方を伺わなければ。潜伏しての睨み合いになる可能性も高いが、そうなったら次の行動に移ればいい。目視とスキャンで周囲を警戒していると、真っ先に反応があったのはシオンのトラルテクトリだった。建造物の影から飛び出しこちらに向かってくる。

 

『さぁ、やり合おうぜ!』

 

まだツィイーの所在が掴めていないがそれはシオンも同じはず。接近戦に持ち込む為誘いをかけているのか。受ける道理は無い。しかし、フレディはあえて乗ることにした。アセンを変更したトラルテクトリの性能を見極めてやる。

 

「いいだろう、本気で来いシオン!」

 

啖呵と共にハンドミサイルを発射し、シオンの突撃をいなすように回り込んだ。キャンドルリングに装備されているハンドミサイルは高い誘導性を持ち、タイミングをずらしつつ放てば相手の回避機動を誘発出来る。その動きを予測しグレネードを叩き込むのがフレディの基本戦術だが、シオンには筒抜けだろう。ここから先は読み合いになる。

 

『おっしゃあ!』

 

果たしてシオンは、ミサイルをアサルトブーストで強引に振り切りながら突っ込んできた。その速度は以前よりも増している。ブースタを変えたからか。だが、対応出来ない程ではない。チェーンソーの一撃を避ければグレネードを撃ち込めるはずだ。それを分かっているのか、シオンはそのままアサルトブーストで突っ込んでこずにチェーンソーを振るうタイミングを測っている。やはりただの猪突猛進ではないようだ。

 

牽制に片方の二連グレネードを放ちつつ、持ち前の機動力を以てシオンからの射撃を避けていくフレディ。この距離は相手の土俵だ。機体構成からして分が悪いが、今のフレディは合理的な思考を投げ捨て撃ち合いを続ける。鬱憤を晴らすかのように。と、

 

『私も忘れてもらっちゃ困るよ!』

 

チェーンソーを構えたトラルテクトリにミサイルが降り注いだ。ツィイーの乱入、それも先にシオンを狙ったのはそちらの方が強敵だと判断したのだろう。以前は威勢のいいだけの小娘だったツィイーは、今や解放戦線の主戦力に数えられる実力となっていた。

 

理解と納得は出来るが気に食わない。彼女が、シオンよりもフレディの方が下だと判断したことが。言いがかりなのは自覚している。思考の筋が通っていないことも。脳裏によぎるのは孤高の雰囲気を纏った老人の顔だ。帥父ドルマヤン。貴方に自分は必要無いのだろう。

 

「───おおおおおおおぉぉっ!!!」

 

腹の底から吼えたフレディは標的をツィイーに変更した。隙を見せればチェーンソーで墜とされかねない状況での選択に、シオンとツィイーは虚を突かれる。理外の動きは二人の判断を僅かに遅らせ、グレネードの四連撃がユエユーを呑み込んだ。

 

『っぐぅ!?』

 

スタッガーしたユエユーにキャンドルリングがキックを見舞う。後方から迫るトラルテクトリにも構わず、追撃のミサイルを発射した。

 

『無視し過ぎだ!』

 

当然、シオンはチェーンソーを展開しフレディに肉薄。回転する刃を叩きつける。キャンドルリングの薄い装甲が削れ、APの減少と共にスタッガー状態に陥った。しかし、フレディは同時にパルスアーマーを起動。スタッガーを回復させると共に二人の追撃を振り切り離脱に成功する。

 

結果、ユエユーはAPの3割以上を喪失。キャンドルリングも手傷を負い、トラルテクトリは健在という状況になっていた。フレディの無謀さが引き起こしたものだが、彼に戦術的打算があったわけでは無い。ただ、鬱憤を晴らすように感情的に立ち回っただけだ。

 

何を子供染みたことを。自己嫌悪に苛まれつつも、フレディは冷静さを取り戻す。これは模擬戦であり、戦う以上は勝利を求めるのは当然だ。ならば、この状況下で選ぶ道は一つしかない。下賤な策なことは理解している。だが、勝つ為にそれが必要ならば、例えなんであろうと飲み込むべきだ。弱き己を補う為に。

 

シオンはフレディを追撃するも振り切られた為、三者の間に距離は出来ていた。交渉するならこのタイミングしかない。シオンに聞こえるのも理解した上で、オープン回線に声を乗せる。

 

「・・・・・・。リトル・ツィイー、提案がある。このままではシオンの一人勝ちだ。俺達は協力するべきだと思うが、どうだ?」

 

『えっ!?あんなにやっておいて・・・・・・』

 

あまりにも図々しい提案。ツィイーも思わず敬語を忘れ、困惑混じりの声を漏らした。彼女にとって、フレディは解放戦線の中でも縁遠い存在だ。帥父ドルマヤンの男娼。そう侮蔑混じりに囁かれているのは知っている。

 

何よりも、フレディ自身が他のルビコニアンから距離を置いていた。だからツィイーは彼をよく知らない。分かるのは、相応の実力者だということだけである。

 

「分かっている。だが、君はこの状況でシオンに勝てるか?これは模擬戦だ。模擬戦だからこそ、本気で勝利を追い求める必要がある」

 

『っ』

 

「俺は正面からシオンに仕掛ける。共闘するつもりがあるなら、君は後方から挟み撃ちを試みてくれ」

 

それだけ告げて、フレディは追い縋ってくるトラルテクトリへと向き直る。先ほどの通信はシオンにも届いていた。行動を変化させるか、否か。見極めようとしつつ、キャンドルリングを前進させる。

 

『上手いやり口だなフレディさん!だったら速攻であんたを墜とすだけだ!』

 

「乗るかどうかは彼女次第だ。さぁ、来い!」

 

使えるものはプライド抜きでなんでも使う。それは奇しくも、ドルマヤンではなく帥淑フラットウェルの手法に似通っていた。あるいは、決定的な才能やセンスを持たない者が辿り着く境地なのだろうか。実力だけで勝敗は決まらない。策術を張り巡らせながらも、フレディは再びシオンと交戦を開始した。




此度も迷えるリング・フレディ。なんか書き始めた頃からは想像もつかない程味わい深いキャラクターになっている気がします。
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