見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか   作:てぬてぬ@TSF

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91.諦めぬ者達

リトル・ツィイーは迷っていた。先ほどのフレディからの提案は、確かに理に適ったものだ。しかし、1vs1vs1の乱戦でそれは卑怯ではないのか?そんな思考が脳裏をよぎり、即座に行動に移せていない。

 

だが、戦場は待ってはくれない。既にフレディとシオンは再度交戦を開始し激しく撃ち合っている。数分としない内に決着が付くだろう。・・・・・・恐らくは、シオンの勝利で。

 

「あぁもう・・・・・・!」

 

思考に割ける時間は少ない。シオンと一対一となれば、ついさっきの模擬戦のように墜とされるのが目に見えている。ならばフレディの提案に乗るべきだ。いや、しかし・・・・・・。一般的な良識を持ち合わせているツィイーは苦悩する。戦場で勇ましく戦うのには慣れたが、こういった搦め手に彼女は弱かった。

 

距離を取ってシオンにミサイルを放ち続ければ支援にはなるだろう。だが、本当にそれでいいのか?卑怯かどうか以前に、その程度で今のシオンを墜とせるのか?

 

決断しなければいけない。傍観か、参戦か。参戦するとしてどこまで踏み込むべきか。指示してくれる者はいない。自分だけで決断するのだ。

 

「っ、よーっし!」

 

虚勢の声を上げ、ツィイーはユエユーを突っ込ませる。座して待つのは性に合わない。そして、フレディの策に全乗りもしたくなかった。即ち選択は乱戦。数的有利を捨て、シオンとフレディの両方を敵に回すのが彼女の選択だ。

 

両肩のミサイルを放ちつつアサルトブーストで接近、一定の距離になった瞬間ハンドグレネードを撃ち込む。グレネードの弾は時限信管により爆発する。感覚的に身に付いたツィイーの一射により、一進一退の戦いを繰り広げていたシオンとフレディを爆風が飲み込んだ。

 

『うぉっ!?』

 

『っ!』

 

立て続けに二発目を撃ち込むが、流石に回避されてしまう。だが十分だ。乱戦を告げる宣戦布告には。

 

「私も混ぜてもらうよ!二人纏めてかかってきな!」

 

啖呵を切ったツィイーは更に踏み込んだ。アセンを変えたとしてもユエユーの武装では不利な距離である。それでもあえて突っ込んだのは、少しでもシオンとフレディの動揺を誘う為だ。無茶苦茶な突撃をしてくる乱入者に対してどう動くのか。少しでも隙が出来たのならば、即座にグレネードを撃ち込んでやる。

 

『男前だなぁ!まぁ、譲る気は無いけどな!』

 

「ちょっと、それ褒めてるつもり!?」

 

言葉を交わしつつも機動し続ける二人。フレディはその様子を注意深く伺いつつ若干距離を取った。ツィイーの選択は予想外だったが、やることに変わりは無い。狙いはシオンただ一人。ツィイー相手は牽制に留め、可能であれば利用するのがいいだろう。

 

対するシオンの戦術は明確だ。隙をこじ開けてスタッガーを取り、チェーンソーをねじ込む。乱戦ならばそのチャンスが増えるし、1対1の戦いであっても問題は無い。現在の戦況は望む所である。

 

三者の思考が交錯し、乱戦は激しさを増していく。勝敗の行く末は未だ彼らの間を揺蕩っていた。

 

 

 

 

 

 

 

『・・・・・・』

 

シオンにツィイー、フレディが戦う様を、メッサムはポッド内部から真剣な顔つきで眺めていた。彼の傍にはアーシルが立ち、同じく画面に映る映像をじっと見つめている。

 

『一進一退、か。やはり、誰もが相当に腕を上げているようだ。僅かな時間でここまでとは、余程過酷な戦場を駆け抜けてきたんだろうな』

 

しみじみと呟くメッサムは、しかし苦渋の表情を浮かべた。ツィイー達の成長は素直に喜ばしい。だが、何故自分はあの場にいないのか。己は戦士のはずだ。ルビコニアンを守る、戦士のはずなのだ。

 

「メッサム、そんな顔をしないでほしい。貴方は果敢に戦い続けてきたんだから」

 

『あぁ、すまんな。気を遣わせた。だがまぁ、確かに戦場が恋しいよ。ツィイー達が戦っているというのに、足踏みし続けるのは苦痛だ。命ある限り、ルビコンの未来の為戦い続けられると思っていたんだがな』

 

義体には適合したが、リハビリの成果は停滞している。このままでは戦場に立つなど夢のまた夢だ。メッサムは主にBAWS製の四脚MTに搭乗していたが、操縦難度はACと大差無い。このままでは足手まといにしかならないだろう。

 

本来、アーキバスの義体技術はACパイロットを強化する為のものでもある。が、それは緻密な調整と莫大な資金力の上に成り立っていた。汎用的な義体では、精々が日常生活を送れるようになる程度。強化人間のような性能の向上は見込めない。

 

「・・・・・・それでも、貴方のこれまでの戦いは無駄にならない。私も、ツィイーも知っている。メッサムは本当の戦士だって。だから、今はどうか焦らないでほしい。きっと必ず、貴方の力が必要になる時は来る。絶対に」

 

『慰めなくても大丈夫だぞ、アーシル。何も捨て鉢になっているわけではない。こんな有様でもやれることはある。ただ、まぁ・・・・・・俺だって感傷に浸りたい気分になったりするんだよ』

 

アーシルがこちらを慮っているのは分かっている。だからこそ穏やかに対応するが、本心は違っていた。全身が焼かれるような焦燥感がある。それは、目の前に移る三人の戦いだけが理由ではない。

 

帥父ドルマヤンがラスティを弟子に取った。他ならぬラスティ本人からそれを聞いた時、メッサムは納得と驚愕を同時に覚えた。ラスティならば帥父の眼鏡に適うだろうという納得と、以前は燃え尽きかけていた帥父が再び弟子を取ったという驚愕である。

 

自分が何も為せぬ内にも時は流れていく。周囲の者達は前へと進み、ただ一人取り残されてしまっているような感覚。旧友も、戦友も、可愛い後輩達も自分を置いていってしまう。こんなものはただの気の迷いだ。だが、だからこそ心を苛む。

 

ふと、ドルマヤンの近侍にして懐刀であるフレディも同じ気持ちではないかと感じた。画面に映るキャンドルリングは、先程までの荒々しさから一転して合理的な立ち回りをしているように見える。老いたドルマヤンの傍に最も長く居続けたのは彼だ。恐らく、メッサム以上に思う所もあるだろう。

 

『・・・・・・なぁ、アーシル。一つだけワガママを聞いちゃくれないか』

 

「私に出来る事ならなんでも。でも、一体何を・・・・・・?」

 

『大したことじゃないさ。いつでもいい、フレディと話せる場を設けてくれ。少し、思う所があってな』

 

予想外の頼みに、アーシルは怪訝な表情を浮かべポッド内のメッサムを見つめる。彼はどこか穏やかで、しかし憂いを感じさせる雰囲気を漂わせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソが、まともに動かねぇ・・・・・・!」

 

戦闘シミュレーター内、愛機であるキャノンヘッドを再現した仮想空間でヴォルタは愚痴を漏らした。重装甲のタンクACであるキャノンヘッドは履帯でのろのろと前進している。時折ブースタの噴射光が見えるものの、それが持続していないようだ。

 

『当然だG4!今の貴様は赤子以下だ、久方振りの操縦で戦闘機動が出来ると思うな!マーカー地点まで這いずってでも移動しろ!』

 

「好き放題、言ってくれるぜ」

 

総長の叱咤に顔を歪めつつ、それでもヴォルタは前進し続けた。マーカー地点に到達するまでかかった時間は1分26秒。通常の五倍以上だ。全身の内、義体に置き換えられた部分が悲鳴を上げているのを感じる。

 

「ぐっ、ぅ・・・・・・!舐めんじゃねえぞ・・・・・・!」

 

『次のマーカーを表示!G4、悪態をつく暇があるなら手を動かせ!戦場では誰も貴様を待ちはせん、今のままでは案山子の方がまだ上等だ!』

 

ミシガンはヴォルタの苦痛を理解しながらも、一切温情をかけはしない。レッドガンへの原隊復帰を望んでいるのはヴォルタ本人である。ならば、まともに戦えるようになるまで鍛え直すのがレッドガン総長としての役割だ。

 

「相変わらず鬼だなミシガン・・・・・・分かってるよ、やりゃあいいんだろ!」

 

軋むような痛みを無視し、ヴォルタは前進を再開する。ACに乗り操縦するだけでこの醜態とは。怪我を負う以前とは比べ物にならない。ブースタを吹かそうとすると、義体部分が肉体から引き剥がされるような感覚が湧き上がってきた。無論実際に分離するようなことは無い。だが、体がバラバラになってしまう恐怖は耐え難いものだ。

 

「ぐおおおおおおおぉっ!」

 

絶叫とも咆哮ともつかぬ声を上げ強引にブースタを吹かす。ヴォルタの目は血走り、心臓が限界まで脈動した。ここまでしてようやく通常の速度が出ている。マーカー地点までキャノンヘッドを到達させて、彼はシミュレーター内でぐったりとへたり込んだ。

 

『そこまで!今日のノルマは終了だ、G4』

 

「へっ・・・・・・この程度かよ、案外大したことねえな・・・・・・」

 

『それだけ強がれるならば次からはノルマを増やしてやろう。休息を取り明日に備えろ、ヴォルタ』

 

そう言い残しミシガンからの通信が途切れる。次いでシミュレーターが開き、外気が流れ込んできた。涼しげな空気と共に覗き込んでくるのは、腐れ縁の悪友であるイグアス。そして商売における師匠である五花海だ。

 

「いいザマだなぁ、ヴォルタ。よちよち歩きじゃねえか」

 

「いやいや、大したものです。義体を組み込んで初めての操縦にしては、ですが」

 

皮肉交じりに言いながら、二人はヴォルタの巨体をシミュレーターから引きずり出した。義体によって彼の体重は増しており、担架に乗せるだけも二人掛かりでは一苦労である。抵抗する気力も無いまま、なんとか声を絞り出す。

 

「暇、なのかよ・・・・・・」

 

「これは手厳しい。愛弟子の為、わざわざ担架の手配を名乗り出たというのに。純粋な善意ですよ、えぇ」

 

「恩を売りてえだけだろてめえは。つーか力入れやがれ、俺だけに任せてんじゃねえ」

 

用意されていた担架になんとか乗せられたヴォルタは、二人の会話を聞きつつ呻き声を漏らした。全身を巡る激痛はそう簡単に消えたりはしないようだ。痛々しいその様子に、五花海は悲しげな表情を浮かべる。

 

「もう少し性能の良い義体を入手出来れば良かったのですが。アーキバスも馬鹿ではない、その程度が限界でした」

 

その言葉に嘘は無いように思えるが、彼は生粋の詐欺師だ。どうせ本心ではないとヴォルタもイグアスも思っていた。そのことは五花海自身も気付いている。自分の言葉は信用されない、と。だからこそ、心からの言葉を並べていった。

 

「ヴォルタはレッドガンの後輩にして可愛い愛弟子ですからね。出来る限りのことはしたかった。まぁ、私にはこの程度が限界ということでしょう」

 

「・・・・・・はっ。何を企んでるかは知らねえが、感謝だけはしておくぜ。最悪、あのまま一生ベッドに寝たきりだったからな」

 

「それは重畳。さぁイグアス、彼を医務室に運びましょう。随分と消耗しているようですから」

 

「だからてめえは力抜いてサボるんじゃねぇ!」

 

聞き慣れたイグアスの怒声に、五花海は実に胡散臭く微笑む。かつてと同じ雰囲気に、ヴォルタも僅かに口元を綻ばせた。帰ってこれたんだなと思いながら。




ヴォルタの義体は五花海が直々に交渉して手に入れたものなので、メッサムの義体よりも高性能です。ちなみに両者の義体共に男性用です。女性型にするのを我慢しました。
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