見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか   作:てぬてぬ@TSF

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94.カラス狩り(前編)

『大丈夫ですか、レイヴン?少し緊張しているようですが』

 

【うん、大丈夫。実は、ちょっと楽しみなんだ。みんながどうやって私を墜としにくるのか。こんなこと、今までは無かったから】

 

レッドガンの拠点、通い慣れた通路を進みながら621はエアに答える。車椅子を押すスッラには感知出来ない、交信による会話だ。主に星外の情報収集を続けているエアだったが、今回は621が心配でついてきていた。

 

【戦場での殺し合いじゃなくて、シミュレーターでみんなと戦える。私の本気を受け止めようとしてくれる。うん。やっぱり、嬉しいな】

 

『・・・・・・ですが、心配です。貴女の「完全制御」には強い負担が伴う。例えシミュレーターだとしても、深く消耗してしまうのでは・・・・・・』

 

【心配してくれてありがとう、エア。でも、問題は無いよ。ちょっと疲れるだけで、死んだりするわけじゃないし】

 

『それは、そうなのですが』

 

無理はしてほしくない。もし叶うのならば、エアは621が戦場に立つのを止めたかった。人は人と戦う為の形をしている。戦場での621は美しく、力強かった。エアが見惚れる程に。しかし、それは個人的な感情だ。

 

戦いの果てには必ず人が死ぬ。それは、621やウォルター、イグアス達がいなくなるのを意味している。いくら皆が実力者だとしても、闘争の螺旋が永遠に続けばほぼ全てが死に絶える。かつて、ルビコンを呑み込んだアイビスの火のように。

 

エアは、今の状況を喜んでいた。初めて交信が届いた621に、次いで言葉を交わせたイグアス。人工音声を用いて、ウォルターやスッラ、他の人間ともコミュケーションが行えるようになった。それは、長く孤独に過ごしてきた彼女にとってかけがえの無い経験である。

 

「さて、もうそろそろか。犬、覚悟は出来ているか?お前以外の全てがお前の首を狙っている。くくく、随分と高値を付けられたものだ」

 

【うん、出来てるよ。どんな戦い方をしてくるのか、楽しみ】

 

「ほぅ、剛毅なことだ。これは、想像以上に愉快なことになるだろうな」

 

上機嫌な様子のスッラに押され、621とその傍に漂うエアは進んでいく。シミュレーター室は、すぐそこだ。

 

 

 

 

 

「さて、大方の戦術は共有出来たが・・・・・・もうすぐ戦友もここに来るだろう。最後に、何か質問等はあるかな?」

 

シミュレーター室の一角、椅子とテーブルが並んでいる場所に各勢力のAC乗り達が集まっていた。その数は四名。ラスティ、イグアス、シオン、ツィイーだ。

 

「一ついい?私はリング・フレディの代わりということになってるけど、本当に大丈夫?火力はともかく、機動力じゃキャンドルリングには敵わないし・・・・・・」

 

初めて交流会に参加するツィイーは、しかし臆することなく訊ねた。質問以外の感情が込められているように思える視線を、ラスティは正面から受け止める。

 

「問題は無いさ、リトル・ツィイー。本来フレディはミサイルとグレネードの爆発による圧力をかけてもらう役割だった。そして、君のユエユーはその条件を満たしている。多対一の包囲戦を仕掛ける以上、直線的な機動力は必要性が薄いからね」

 

「・・・・・・了解。言われた通りやってあげる」

 

どこか反抗的な様子を隠さないまま頷くツィイー。爽やかな笑みを浮かべたままのラスティ。そんな二人の様子を見て、イグアスがつまらなげに舌打ちをした。

 

「チッ。どうでもいいが足だけは引っ張るんじゃねえぞ。野良犬の泣きっ面を拝むには、業腹だが全員で纏めて潰すしかねえんだからよ」

 

「大丈夫だって、イグアスさん。ツィイーさんの実力は俺が保証する。連携も上手くいくはずだ」

 

二人の会話の違和感に気付いているらしいイグアスに、シオンは慌ててフォローを入れる。いつものように激情を見せられては余計拗れてしまいそうだ。そんな懸念を他所に、イグアスは腕を組んだまま背もたれに体を預ける。

 

「そうだといいがな。おい、蝙蝠野郎。相手は野良犬だ、何をしでかすか分からねえ。戦術がまるで通用しなかったらどうするつもりだ?」

 

「決まっている。その時はただ戦うだけだ。一度崩れた戦術を補うのは、今の私達の連携では厳しいものがある。まともに為せない戦術で雁字搦めになるよりは、いっそ好き勝手に戦った方が活路が見出せるはずだ」

 

ラスティは笑みを消し、真剣な表情で答える。確かに、ここに集まったメンバーの連携は付け焼刃だ。ツィイーに至ってはシミュレーターで協同すらしていない。下手に動けば、互いに足を引っ張ることにもなりかねなかった。

 

「出たとこ勝負かよ。・・・・・・まぁ、悪かねえ。所詮俺らは行きずりだ。この程度が関の山だろうさ」

 

そう告げて鼻を鳴らすイグアス。存外に機嫌は悪くなさそうだ。状況を見守っていたシオンはほっと胸を撫で下ろしながら、自分の役割を思い返す。戦術の要はトラルテクトリだ。一撃で戦局を塗り替えられるチェーンソーは、当てずとも多大なプレッシャーをかけられる。多対一の戦いならばその影響はより大きい。

 

届くか否か。あの時見せられた621の力は、まるで神か何かに等しいものだった。人間業とは到底思えない。ひょっとすれば、彼女さえいれば全ての戦場で勝利を掴めるではないのかと錯覚する程に。

 

だが、シオンは知っている。戦場では何が起きるか分からないと。621のような存在もいれば、かつて自分を攫い、「雇い主」となったオーネスト・ブルートゥのような狂人もいる。戦いの場では一人一人の思惑が絡み合い、予想外の事態が起きるのは避けられない。

 

もしも621が墜とされるような状況になったとして、自分は何が出来るだろうか。何も出来ないでは話にならない。だからこそ、神の如き強さの621を墜とさなければならないのだ。少しでも彼女に肉薄すること。それこそが621を救うことにも繋がるはずだと、シオンは信じている。

 

彼女の力や境遇に寄り添えるかは分からない。それでも何もしないよりは遥かにマシだ。それに、仮想敵としては最上級の実力である。例え僅かでも食らいつき血肉とする。そうしなければ、わざわざ多対一を引き受けてくれた621に申し訳が立たない。と、

 

「はっ。来たか、野良犬」

 

イグアスの声に我に返ると、丁度621とスッラがシミュレーター室に入ってくる所だった。華奢で病的、しかしシオンと同じ顔の少女は、無表情ながら嬉しそうな雰囲気を纏っている。

 

【お待たせ、みんな。早速始めよう。私が、全員を相手するよ】

 

 

 

 

 

 

 

 

シミュレーター室の大画面に映る映像を眺めながら、スッラは口角を吊り上げていた。模擬戦のルールは4対1の形式で、エリアはランダム。時間制限無し、リペアキットも無し。どちらかが全滅するまで続くデスマッチだ。

 

ただ一機の621に対し、ラスティにイグアス、シオンにツィイーの四人がかり。普通に考えれば戦闘が成り立たない程の戦力差だが、それでも621の方に分があるとスッラは感じていた。飼い主の思惑を超えた猟犬は、生半可な戦力や策では落とせない。本気で墜とすつもりならば、弾薬の枯渇を見越して物量で押し潰すくらいしかないだろう。

 

だからこそ、笑みを絶やさぬ老兵は楽しみにしていた。果たしてラスティ達の牙は621に届くのか。それとも、圧倒的な実力差に蹂躙されてしまうのか。いずれにせよ面白い戦いになる。

 

「さて、見届けてやろう。犬どもが、どこまで辿り着くのかを」

 

呟くと同時、戦闘開始のカウントダウンが始まる。映像越しにも分かる緊迫感を味わいながら、スッラは皴だらけの瞳を見開いていた。

 

「始まったか。どう見る?ハンドラー・ウォルター」

 

『・・・・・・』

 

同時刻、簡素な造りの指揮官室にて。秘匿通信を用い、G1ミシガンとハンドラー・ウォルターは模擬戦を観戦していた。ミシガンの問いにウォルターは答えず、食い入るように映像を見つめている。いつもと同じ、いや、いつも以上に固い表情だ。

 

「先が持たんぞ。息を抜け、でなければ映像を遮断する」

 

『・・・・・・分かってはいる。だが・・・・・・すまん』

 

「謝る必要は無い。貴様の偏屈は昔からだ。それで、どう見る?」

 

先程と同じ質問に、ウォルターは目元を揉みながら考える。ここまで複数のACを相手にした経験は621には無い。いや、繰り返しの中で経験しているのだろうか。どちらにしろ、彼女の実力はズバ抜けている。敵である四人も優秀なAC乗りだが、621の優位は動かないだろう。

 

『序盤で全てが決まるだろう。数の差がある内に仕掛けられるか。最低限均衡させなければ、一瞬で決壊する』

 

冷静を装いながら、621の力を絶対的なものと捉えている答えにミシガンは僅かに目を細めた。彼も先日の映像記録は確認している。長く戦場で戦い続けた中でも、唯一と言っていい程の戦闘力。自分を以てしてもまともにやれば敵わない。ミシガンはそう認識していた。

 

しかし、やり様はいくらでもある。戦争とは手段を選ばないもの故に。突出した実力を有する個人ほど、戦力として信頼出来ないものは無い。

 

「では、賭けるか。貴様はG13に。こちらはG5達に」

 

『戯れはよせ、ミシガン』

 

「本気だとも。自信が無いのならば、無理にとは言わんが」

 

ミシガンにしては珍しく挑発的な言い方に、通信先のウォルターは怪訝な表情を浮かべた。このような物言いをする男だっただろうか?それとも、昔馴染みである自身を慮っているのか。声だけでは表情が読み取れない。

 

『・・・・・・。いいだろう。621に賭ける』

 

「ならば、今度こちらに来い。どちらに転ぶにしろ、酒を酌み交わす理由にはなる」

レッドガン総長、G1、歩く地獄。そのような通り名に相応しくない穏やかな声色でミシガンは言う。彼は、通信先の苦悩する男が抱えているものに勘付いていた。かつて出会った少年は、今も過去に囚われている。

 

『そのような情勢ではあるまい。俺を気遣うとは、さしもの歩く地獄も老いたか』

 

「同盟相手にいつまでも腑抜けられてはレッドガンとしても遺憾なだけだ。それとも、自分が腑抜けているのにも気付けないか。手綱を握る手が緩んだわけでも無いだろうに」

 

『・・・・・・』

 

「まぁ、構わん。それより接敵するぞ、何を思い煩おうが目だけは開いておけ」

 

ミシガンの言葉通り、エリアの中央に悠然と佇む621を四機のACが包囲していた。急造にしては見事な連携で徐々に包囲の幅を狭めていく。そして、四機の内の一機が突如突っ込んだ。621が動き出すと同時、銃火の音が一斉になり始める。4対1の戦い、その火蓋が切って落とされた。




実質レイドバトル。vs621戦、開幕です。
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