見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか   作:てぬてぬ@TSF

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95.カラス狩り(中編)

『行くぞ、戦友!』

 

吼えると同時に突撃するのは、ラスティの駆るスティールヘイズ。自ら一番槍を努めると決定した彼は並々ならぬ覚悟を以て前進する。帥父ドルマヤンとの鍛錬の成果は未だ出ておらず、単騎で621に対抗出来る力は身に付いていない。それでも前に進まなければならないのは、恐怖以外の何物でも無かった。

 

しかし。この程度で立ち止まってはいられない。戦友達とルビコンの未来を拓く為に。621に少しでも近づく為に。幾度も心に刻み付けた覚悟は、撃墜の恐怖程度では揺らぎもしない。

 

武装の射程内に入るとほぼ同時、621のACからライフルが放たれる。精密な狙いのそれを、あえて避けずにそのまま突っ込んだ。ライフルの威力は低いとしても、軽量故に脆いスティールヘイズでは本来ありえない選択だ。

 

これでいい。僅かな衝撃を感じる中、ラスティは己に言い聞かせる。今の自分の役割は621を引き付けること。数の利を活かすには、彼女の凄まじい機動を一時の間封じ込める必要があった。だからこそ距離を詰めるのが最優先。相手の武装が最も有効に機能する接近戦を挑むしかない。

 

【じゃあ、こっちからも】

 

ACの性能ではスティールヘイズが上回っている。だというのに、621の踏み込みは信じられない程鋭かった。何故そのような動きが出来るのか。改めて対峙すると数倍以上の速度差があるように感じてしまう。

 

三方向から放たれるミサイルを巧みに掻い潜りながら実弾オービットを起動する621。彼女の判断は明確だ。誰でもいい、速戦で一機墜とし数的不利を埋める。戦術的には正しい。しかし、621はラスティ達が罠を張っているような感覚を覚えていた。

 

第一に、耐久力に乏しいスティールヘイズが真っ先に突っ込んできたこと。その役回りは耐久に優れる上、近接戦に特化しているトラルテクトリが適任のはずだ。確実に何かある。繰り返しで磨かれた嗅覚で感じ取るが、621はあえて無視した。何があるのか見せてもらおう。そう思いながら、パルスブレードを生成しスティールヘイズへと斬りかかる。

 

『そこっ!』

 

パルスブレードがスティールヘイズに触れる直前、ツィイーのユエユーからグレネードが放たれた。距離と信管を調整された榴弾は、丁度621の目の前で爆発する。即座に斬撃をキャンセルし避けようとするが、逃げ道を塞ぐようにミサイルが降り注いだ。

 

しかし、それでも621は捉えられない。ミサイルの弾幕をすり抜けるように回避し、グレネードの爆風の先にいるスティールヘイズへ再び踏み込んだ。猶予は与えない。ここで墜とす。

 

『そっちを選ぶと思ったぜ野良犬っ!』

 

しかし、グレネードとミサイルの爆風に隠された銃撃が621を襲う。ヘッドブリンガーから放たれたリニアライフルのチャージショットだ。もしこの状況で彼女が攻勢を継続するのならば必ず通る場所。イグアスは、必中の射撃位置にマニュアルエイムで狙いを付けていた。

 

スタッガーまで至らないまでも、621のACが衝撃で数瞬硬直する。その隙を逃さず、ラスティはレーザースライサーを起動し突撃した。621は即座に反応しパルスブレードで迎撃。スティールヘイズの左腕部ごとレーザースライサーを斬り落とす。

 

『ぐっ!?』

 

誘い込まれた。あの硬直は621が仕掛けた罠だったのか。だが、最低限の役目は果たした。肉薄するスティールヘイズに彼女が対応した結果、今度こそ本当の隙が生まれている。どれだけ感覚を研ぎ上げてもどうしようもない近接攻撃後の隙。621の死角から突っ込んできたのは、シオンの駆るトラルテクトリだ。

 

『獲るぜぇっ!』

 

ギリギリまで展開を遅らせていたチェーンソーが回転し、轟音を立てて621へと襲い掛かる。ミサイルの爆音と煙によって存在を秘匿した上で接近し、一気に仕留める。練り上げた戦術の一つだ。

 

仮に621がアサルトアーマーを起動しチェーンソーの直撃を回避したとしても、ラスティのアサルトアーマーで上書きしてかき消してしまえばいい。どちらにせよ621をスタッガーに追い込める。後は全員で追撃すれば、撃墜とまでいかずとも大打撃を与えることが出来るはずだ。

 

目論み通りチェーンソーの刃が621のACを削っていく。その衝撃力は凄まじく、どれだけ姿勢安定性能が高いACだろうとスタッガーしてしまうものだ。621も例外ではなく、ACSが機能を停止し動きが止まる。好機。四機のACが殺到した瞬間、あり得ないことが起こった。

 

621のACが動き出す。止まっていたのは一秒にも満たず、取り囲むラスティ達の攻撃は装甲に掠りもしなかった。アサルトブーストにより包囲を抜け、ラスティ達に向き直る。

 

『んな馬鹿なっ!?』

 

シオンが驚愕の声を上げるのも当然だ。ACS・・・・・・姿勢制御システムに負荷がかかりスタッガー状態になった場合、その機体は必ず数秒の操縦不可状態に陥る。ACもMTもその他兵器も、ACSが採用されているのならば例外は無い。スタッガー状態に動くなどあり得ないのだ。

 

多かれ少なかれ驚愕しているシオン達に、621は実弾オービットを再展開し襲い掛かった。彼女が動けるのには理由がある。単純な話だ、姿勢制御システムの全てをマニュアルで操作してしまえばいい。他者には不可能な、621だけの強引な解決方法である。

 

彼女が迫るのはラスティのスティールヘイズ。敵ACの中で最も脆く、直撃さえ出来れば墜としやすいからだ。しかし、進路を阻むように割り込んでくる者がいた。G5イグアスがパルスシールドを展開しつつ吼える。

 

『ボケっとしてんじゃねえ!俺がこいつを抑える、立て直せ!』

 

『っ、任せるぞ!』

 

迎撃すべきか否か。僅かな逡巡を振り切ったラスティは即座に移動を開始。次いでシオンとツィイーも動き始めた。既に当初の戦術は崩壊しており、事前に確認した通り「出たとこ勝負」でやるしかない。パルスブレードの一閃がヘッドブリンガーを焼き斬る中、彼らは勝利の為に戦闘を再開した。

 

 

 

 

 

 

 

シミュレーター室内。多くの観客が大画面の戦闘映像に目を奪われる中、G6レッドも他と同じく大画面を食い入るように見つめていた。付け焼刃にしてはハイレベルな四機の連携に、それを覆した621の超機動。そして、

 

「イグアス先輩・・・・・・!」

 

多大な損傷を受けながらもイグアスが621を食い止めている。その間に残りの三機は散開し再び包囲を形成するが、621は攻勢を中止しアサルトブーストを吹かし包囲を離脱。建築物が並ぶエリアへと逃げ込んだ。

 

一旦小休止となった戦況は、しかしひりつくような緊張感に包まれていた。ACの常識を塗り替えるような動きを魅せる621に、組織間の軋轢を超えて協同するイグアス達。このような戦い、中々見れるものではない。

 

レッドは拳を握り締める。自分では、仮に参加しても足手纏いにしかならないだろう。それ程に模擬戦はハイレベルだった。しかし、彼は決して目を逸らさない。己の糧にしようと、5機のACの一挙手一投足を脳裏に焼き付けていく。

 

621の力は強大だ。何度か依頼を斡旋したことはあるが、ここまで絶対的な、ある種の恐怖を掻き立てる程の存在とは思っていなかった。洗練されているどころではない、根本から異質なACの操縦技術。自分では決して辿り着けない境地。

 

だが、だからこそ知る必要があった。知識も経験も力になる。操縦技術で劣るからこそ、別の部分で補わなくては。末席とはいえレッドガンとして、務めを果たす為に。と、

 

「いやぁ、凄まじいですねぇ。見ているだけで全身が総毛立つような感覚を覚えますよ」

 

「五花海先輩。貴方も見に来たんですか」

 

飄々とした声にレッドが視線を向けると、そこには胡散臭い笑みを浮かべた五花海が立っていた。レッドガンがベイラムを離反する流れを作った彼は、笑みに似合わぬ鋭い視線で大画面を見つめている。釣られて視線を戻すと、建築物の陰から621が飛び出すのが確認出来た。

 

アサルトブーストを起動し、陣形を整えているイグアス達へと真っすぐに突っ込む。無謀にも思える選択だが、クイックブーストを交えたその機動は映像越しですら捉えることが難しかった。パーツの性能を遥かに超えているとしか思えない。

 

レッドが敬愛しているG1ミシガンですら、ACの性能を100%引き出せるだけだ。どのようなAC乗りでも100%を上回ることはあり得ないはず。しかし、現に621は実践している。如何なる手法か、レッドには想像もつかなかった。

 

「先輩、G13のあの動きはどのような技術なんでしょうか?」

 

「さて。生憎、私にも見当が付きません。独立傭兵レイヴンの力は常軌を逸している。枠組みから外れている怪物を理解しようとしても、徒労に終わるだけです」

 

やや棘を感じさせる物言い。そのような感情を五花海が面に出すのは珍しい。気にはなるが、それ以上に目の前の戦いを見逃すわけにはいかなかった。レッドは五花海への違和感を棚に上げ、シオンのトラルテクトリに襲いかかる621の機動を目に焼き付ける。

 

ミサイルやライフル、マシンガンにグレネードで形成された弾幕でも621を止められない。パルスブレードがトラルテクトリの装甲を焼き溶かすと同時、斬撃の勢いそのままに後方から迫るラスティへ振り返った。レーザースライサーの連撃を回り込むように掻い潜りアサルトアーマーを起動。トラルテクトリとスティールヘイズがパルスの奔流に飲み込まれる。

 

直後、イグアスはアサルトブーストで突っ込んだ。スタッガー状態のシオンとラスティは無防備であり、追撃を受ければ撃墜は必至。数の有利が無くなれば621に蹂躙されるだけである。ならば、ここで再び彼女を引き付けるしかない。アサルトアーマーの効力が消えた瞬間、一気に肉薄した。

 

『こっちを見やがれぇ!』

 

ブーストキックはかわされるが、マシンガンとリニアライフルを乱射し牽制する。回避を優先し僅かに距離を置いた所に、間髪入れずミサイルとグレネードが降り注いだ。ツィイーのユエユーだ。

 

『私も忘れて貰っちゃ困る!』

 

怒涛の反撃を受け、621は損耗を避け再び後退する。既にユエユー以外のACにはかなりのダメージを与えた。ここで無理をせずとも、襲撃と離脱を繰り返せば自ずと勝利出来るはずだ。合理的な判断は、しかし想像以上に戦っている相手が手強い故でもある。

 

本来、621は速戦で終わらせるつもりだった。それが出来なかったのはラスティ達の動きが見事だったからである。互いが互いをフォローし合い、致命的になり得る場面で踏み込ませない。急造のチームにしては破格のコンビネーションだ。

 

だからこそ、621は危険を避けた。全力で抗ってくる相手には、こちらも全力で応えなくては。彼女の強みは完全制御だけではない。繰り返しの中で培われた膨大な戦闘経験。特に、ラスティとイグアスとは数え切れない程戦ってきた。だからこそ手の内は透けて見える。例え連携が洗練されていたとしても、負けるわけにはいかない。と、

 

『レイヴン、体力を想定以上に消耗しています。どうか無理はしないでください』

 

心配そうなエアの声。彼女の言う通り、長時間に渡って完全制御を行うのは負担が大き過ぎる。シミュレーターということを差し引いても限界は近い。

 

【大丈夫。皆の相手は、一番強い私がしたいから】

 

それでも、621は手を抜くつもりは無かった。全力を受け止めようとしてくれていることが嬉しいのだろう。交信で繋がっているエアには、彼女が心から喜んでいることが伝わっていた。

 

【次か、その次。そこで終わらせる。だから、お願いエア。こんなに楽しい戦いは、初めてなんだ】

 

『っ』

 

自分では、621をここまで喜ばせることは出来ない。ACに乗ることの出来ない自分では。心の底が疼くのを感じつつも、、エアはそれを抑え込んだ。今は621自身の方が心配だ。

 

『それでも、限界を超えてはいけません。バイタルを見るに、次で決めなければ危険域に達してしまいます』

 

【分かった、エア。次で決めるよ。心配してくれてありがとう】

 

無邪気な621に、出かかった言葉を呑み込むエア。闘争とはある意味人類の歴史そのものとも言える。だが、それを楽しむのは本当に正しいのだろうか。あるいは、繰り返しの果てに楽しまざるを得なくなったのか。人ならざるエアには、答えを導き出すことは出来なかった。




621は意図的にスタッガーの硬直キャンセルバグを使えます。チートやんこんなの。
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