見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか 作:てぬてぬ@TSF
「ぐっ、そぉ・・・・・・!」
アサルトアーマーの衝撃に苛まれる中、シオンはカメラ越しに正面を睨む。トラルテクトリとスティールヘイズに多大なダメージを与えた621は悠々と離脱し、再度こちらの様子を伺っていた。
限界は近い。ツィイーの駆るユエユー以外はどのACも損耗しており、特にスティールヘイズは撃墜寸前だ。スタッガーに追い込まれずとも、多少撃ち合うだけで墜とされてしまう程度のAPしか残っていない。
このままでは負ける。何か、何か無いか。この窮地をひっくり返せる策は。鉄火場でいつものように思考を回すシオンだが、今回ばかりは何も浮かんでこない。そもそも、隔絶した実力差の前には全てが無意味なのではないだろうか。何をしようと考えようと、勝ちの目は0ではないのか。
いや。いや、そんなことは無い。現に一度、チェーンソーを直撃させるのには成功していた。621がスタッガー状態で動くのを想定していなかった為追撃こそ出来なかったが、一度は届いたのだ。ならば、もう一度それをするだけである。
「・・・・・・俺のチェーンソーで仕留める。頼む皆、隙を作ってくれ」
『同じやり方が通じる程甘くねえぞ。分かった上で言ってんだな?』
「やるしかないだろイグアスさん。多分、俺が一番チャンスがある。ほんの少しだけ、俺に対しての対応が雑な気がするんだ」
ここまでの戦いで、シオンは微かな違和感を覚えていた。621はラスティやイグアスには完璧に対応するが、自分とツィイーが相手だと僅かに粗が見えるような感覚。一呼吸分にも満たない隙が生まれているような気がしていた。
『私は賛成だ。このまま座して死を待つのは耐え難い。自爆覚悟でアサルトアーマーを起動し、戦友のカメラを僅かでも目潰ししよう。その為には誘い込む必要がある。イグアス、ツィイー、頼めるかな?』
『囮なら任せて。一番損傷が少ないのは私だ、好き放題撃たれてやる』
『けっ、どいつもこいつも死にたがりかよ。まぁいい、乗ってやろうじゃねえか。クソガキ、てめえが失敗したら精々笑ってやるよ』
三者三様の返答に、シオンは固い笑みを浮かべ頷いた。成功するかは分からない。何せ相手は621だ。ただ、全力でやる。あらゆる全てを振り絞り、手を伸ばすのだ。
「任せろ!レイヴンさんをあっと言わせてやるからさ!」
次で決める。エアの不安を払拭する為にそう判断した621だったが、どうやらあちらも考えは同じらしい。迎え撃とうと陣形を組むラスティ達の動きに気合が迸っている。
【よし。行くよ、エア。ちゃんと見ててね】
『・・・・・・どうか、ご武運を』
噛み締めるようなエアの言葉を受けながら、621は前進する。既に突撃戦術が見抜かれているのならば、アサルトブーストに奇襲性は求められない。間合いに入るギリギリまでEN消費を抑えておくべきだろう。
狙いはスティールヘイズ。片腕を切断した上で多大なダメージを受けている為、パルスブレードを振るわずとも墜とし切れる。問題は相手がどのような罠を張っているかだが・・・・・・今更削り合いに持ち込む気はあちらにも無いはずだ。
最も瞬間的な火力を有するのは、シオンの駆るトラルテクトリである。先ほどのチェーンソーの直撃は、ACのAPを何割か吹き飛ばしていた。スタッガー時に受ければ撃墜されてしまうのは間違い無い。一番の警戒を向けるべきだ。
幸いトラルテクトリの機動力はそこまでではない。常に行動を監視していれば問題は無いだろう。それよりも厄介なのは損耗を避けてきたユエユーだ。どれだけ機体を完全制御したとしても、ACSが稼働しているACを一撃で墜とすのは難しい。純粋に手間がかかるのだ。
が、ユエユーの兵装ならば避け切れる自信があった。ミサイルは少々面倒だとしても、信管を調節していることが分かっていればグレネードの回避は容易である。残るはイグアスのヘッドブリンガーだが・・・・・・リニアライフルのチャージショット以外はそこまで警戒する必要は無いはずだ。
ほんの数瞬の内に思考を巡らせながら、621は迎撃態勢を整えている陣形に吶喊する。621の戦い方は基本的に誰が相手でも変わらない。機を伺い飛び込む。装甲が触れ合う距離での接近戦こそ、彼女が磨き上げ積み重ねてきた戦術だ。
ミサイルと銃撃の弾幕を潜り抜け、621はラスティールヘイズへと迫る。ラスティが狙っているのは自爆覚悟のアサルトアーマーだろう。彼らの陣形も、ラスティの元に誘い込むように組まれている。つまり、スティールヘイズは釣り餌だ。そう理解しながらも621は決して躊躇しない。前にしか道が無いかのように前進する。
近接武装の間合いに踏み込んだ直後、パルスブレードを生成し斬りかかった。アサルトアーマーを誘発する為だ。パルスの奔流、その予兆が見えた瞬間に斬撃を中断、離脱すればいい。周囲からの攻撃が少々煩わしいが、スタッガーに陥る程ではなかった。あるいはそれすらも誘いの一つなのか。
予想通りラスティがアサルトアーマーを起動しようとする。そして、621の回避経路にはグレネードが飛来していた。ツィイーからだろう。ここから逃がすつもりは無いようだ。ならば、グレネードは甘んじて受け入れその爆風を利用して離脱すればいい。常識の外である対応は、しかしこの戦況において正しいものだった。
爆風を受けつつクイックブーストを吹かし、アサルトアーマーの範囲内から離脱する。損傷は軽微、問題は無い。しかし、息つく暇も無くツィイーのユエユーが突っ込んできた。ミサイルをばら撒きつつブーストキックを狙っているようだ。
『にがっさない!』
その動きは、記憶にある彼女からは想像も出来ないものだった。ツィイーはAC乗りとして凄腕という程でも無い。少なくとも今まではそうだった。きっと、今回の繰り返しでは今までに無い経験を積んできたのだろう。実力が数段上がっている。
が、それでも621は捉えられない。キックが当たらないギリギリの距離で避け、逆にパルスブレードの刃をコアに突き刺した。
『しまっ・・・・・・!?』
ツィイーは格段に強くなっている。だがそれは、あくまで以前の彼女に比べてというだけだ。ブーストキックを避けられた時、致命的な隙を晒してしまったのは接近戦の経験に乏しいのが大きかった。コアを貫かれたユエユーは機能を停止、爆散し撃墜される。
最もAPが残っていた筈のユエユーが墜とされた瞬間、爆炎を切り裂くようにリニアライフルのチャージショットが撃ち込まれた。クイックブーストを吹かし回避する621の目に映るのは、スティールヘイズを庇うように立ちふさがっているヘッドブリンガー。通信越しに聞こえる声は些かも怖気づいていない。
『次は俺だ、野良犬』
感情に任せたものでは無く、冷静さを保ったままの声。漲る闘志が伝わってくる。残る一人であるシオンのトラルテクトリは、621の背後で機を伺っているようだ。動向を伺いつつも最優先で対応すべきはイグアスと判断、警戒をシオンに向けながらヘッドブリンガーへと突撃した。
予想通りシオンも距離を詰めてくるが、イグアスはどっしりと構えたまま動かなかった。何を企んでいるのだろうか。自らを囮にするのはイグアスの性格では考え辛い。しかし、最近の彼の成長は著しいのだ。捨て駒になることを受け入れる可能性はあった。
どちらにしろ、火力的にはトラルテクトリのチェーンソーを避ければ問題無い。次点ではヘッドブリンガーのリニアライフル。チャージショットは衝撃負荷が大きく、スタッガー時に動けるとしても厄介だ。つまりは正面と後方、どちらも警戒する必要がある。
621は周囲の全てに神経を走らせながら、イグアスのヘッドブリンガーへと襲い掛かった。パルスシールドは厄介だが、ライフルと実弾オービットで負荷をかけつつ、防御されていない部分をパルスブレードで斬り裂いてしまえばいい。本来不可能な挙動も完全制御下であれば容易だ。
『へっ・・・・・・』
迫る621のACを前に、イグアスは激情に呑まれる事無く冷静さを保っていた。今必要なのは激情故の力ではない。機を伺う冷徹な判断力こそが必要である。勝つ為ならばなんでもやってやる。例えそれが、愚かしく見える戦法であろうとも。
ヘッドブリンガーはパルスシールドを展開し、621のACに向けて前進する。相手の手の内は予想が付くが、問題は速度と精度だ。どれだけ動きを予測しても捉えられなければ意味が無い。だからこそ、馬鹿げたやり方を試すしかなかった。
イグアスは口角を吊り上げる。621の実力は自身を遥かに超え、あるいはミシガンすら凌いでいるかもしれない。上等だ。野良犬が化け物だろうとなんだろうと叩き潰してやる。冷静さに戦意を上乗せし、彼は621と肉薄した。
パルスシールドが銃弾を受け止める中、パルスブレードの刀身はシールドを掻い潜りヘッドブリンガーのコアへと到達する。パーツの性能を超えた速度と精度に、しかしイグアスは回避しない。下手に避けようとしても無駄ならば、完璧に受け切ってやる。
コアへの斬撃で視界がスパークしつつも、621のACの腕部パーツを自身の腕部とコア、人間でいう腋の部分で挟み込む。当然621は対応して腕を引こうとするが、そのタイミングで三発の銃弾が621のACに直撃。動きを阻害され捕獲されてしまった。
『逃がさん!』
既に限界間際のスティールヘイズが放ったバーストライフルの三点射撃。イグアスと621のACが接触している状況で完璧な妨害を成し遂げたのは、ラスティという男の執念か。だが、ここまでやっても621は止まらない。対人における体術のような動きでヘッドブリンガーを引き剥がす。
ほんの数瞬。多大な犠牲を払いラスティ達が手にした、唯一の勝機。そこに突っ込んできたのはシオンのトラルテクトリだ。チェーンソーの轟音を響かせ、621の背後に迫る。
『俺ごとやれ、ガキぃッ!』
「おおおおおおおぉぉぉっっ!!!」
奇跡のような連携に押され詰みに近い状況の中、621は本能的に思考する。拘束を振り解き離脱する時間と、チェーンソーが直撃するまでの時間。僅かだが回避が間に合うはずだ。ここさえ凌げば勝てる。ヘッドブリンガーを振り解いた瞬間、即座にクイックブーストを、
【っ!?】
衝撃。回転する二重の刃が621のACを捉え、コア背部の装甲を削り取る。何故。621の経験はこれが異常だと報せてきた。こちらの回避より先に直撃するのはあり得ないはず。
【あ】
撃墜されるのを直感しながら、どうして避けられなかったのかを理解する。突っ込んできたトラルテクトリはチェーンソー以外の全ての武装をパージしていた。軽量化による僅かな加速。それこそが、621の予測を上回ったのだ。
【・・・・・・あはは。すごいな、みんな】
撃墜判定を受け、621は無表情のまま笑う。心の底から満足した彼女は、相手への称賛と共に意識を手放すのだった。
カラス、墜つ。いや、四機がかりで紙一重の勝負になってる時点で化け物です。1vs1で621に敵う存在はいないでしょう。