青春記録のハイライト ーその言葉を、あんたは信じるかい?ー 作:神咲胡桃
ヘルメット団の襲撃と、謎の怪物の乱入を退けた先生一行。
そんな彼女たちの姿は、アビドス校舎の一室にあった。
警戒する対策委員会の面々と先生と机を挟み、少女が悠々と椅子に腰かけていた。
「――それで、何が聞きたいんだ?」
「っ! そんなの決まってるわよ! 全部よ全部! あの化け物たちは何! あんたは何なの!」
「セ、セリカちゃん落ち着いて!」
音を立てて机に片手を付き、苛立ちを隠さずに問い詰めるセリカをアヤネが宥める。
そんなセリカに変わって、先生が口を開いた。
“まず一つ。君の名前を教えてほしいな”
「名前? ……そうだな、ギーツ。そう呼んでくれ」
「それは、あの姿の名前じゃないの?」
次に口を開いたのはホシノだった。
キツネのような仮面の姿。あの怪物をいとも容易く倒したあの姿に変わった――否、変身した時に、彼女自身がそう名乗っていた。
「ああ、そうだな」
“教えたくない。そういうことかな?”
「どうだろうな」
それはおおむね肯定の意を含んでいた。
子供の感性を悪く言いたくないが、少女の名前にしては、ギーツは少し尖っている気がしないでもない。明らかな偽名ということだろう。
先生は改めて、尊大に腕を組む目の前の少女に目を向ける。
場所が場所なら王子様のようだと人気になりそうな整った顔立ち。
青と黒のジャケットに包まれながらも、そのスタイルの良さがはっきりとわかる。
しかし、特徴的なのはやはりその長髪だろう。
白黒入り混じった髪は彼女の雰囲気に似合いながらも、どこか不完全さを思わせる。
「どうした?」
見つめていることに気づいたギーツが、先生に問いかける。
あまり見つめすぎるのはよくないと、先生はかぶりを振る。
“ううん。何でもないよ。それじゃギーツ。もう一ついいかい?”
「なんだ?」
“あの怪物について、教えてほしい”
ギーツの正体も気になるが、目下知るべきはあの怪物のことだ。
骸骨のような頭……アビドスに来る前にリンから聞いていた不審者の特徴と一致している。
しかし先生には、あれがただの不審者で片付けられると思えなかった。
キヴォトスの生徒たちはみな頑丈だ。
それこそ銃弾の一発や二発程度では痛いと感じるぐらいだし、中には掠り傷にすらならない子もいる。
そんな生徒たちと比べても異質。どれだけの銃弾を浴びせられても、まるでゾンビのように立ち上がってくる怪物たちの情報は、今すぐにでも知りたかった。
「ジャマト。それがやつらの名前だ」
“そういえば、あの時も――”
――あんたも災難だな。ジャマトに襲われるなんて――
「今回現れたのはポーンジャマト。特に強くもない個体だ」
「ん、そのジャマト?っていうのは、何なの?」
「敵キャラさ」
「敵キャラ?」
「あっ! そういえばあんた、私たちが援護しようとしたら、撃破数がどうのこうのって言ってたわね!」
“まるで、ゲームをプレイしているみたいだね”
その違和感はあの戦闘の時から感じていた。
ジャマトという危険な存在。それをこともなげに倒し、撃破数を気にし、最後に出てきた箱の中身を見て、まるで外れが当たった子供のような反応をした。
先生の頭の中に、突拍子のない一つの仮説が浮かぶ。
“君は、本当にゲームをしてるの?”
ぽろりと先生の口からこぼれた言葉に、ギーツは笑みを浮かべた。
「そうだと言ったら、どうする?」
ギーツが言い放ったその言葉に、ギーツを除いた面々の顔が強張る。
「デザイアグランプリ。それは、世界を救い己の理想の世界を叶えるエンターテイメント。参加者はジャマトを倒したり、ミッションをクリアしながら、デザイアグランプリの優勝、デザ神を目指すのさ」
ギーツが懐から端末を取り出し机に置く。
端末の画面には、KAMENRIDER GEATSの表記と共にいくつかの名前があった。
どれも頭にKAMENRIDERの表記があるため、これが彼女の言う参加者なのだろう。
しかし気になるのは……
“理想の世界っていうのは……”
「文字通りの意味さ。デザ神になった者は、理想の世界を叶えることができる。金持ちになりたい、人気者になりたい、一生身体能力が衰えないでほしい。どんな願いも思うが儘さ」
「そ、そんなの嘘に決まっているでしょ!」
食って掛かるセリカに、その場にいた対策委員会の面々は一斉にセリカを見直した。
なにせ彼女は、対策委員会の中でもアビドスが抱える借金を返済しようという気が一際強い。
それゆえか、よく詐欺紛いのことに引っかかっているのだが、その彼女が調子のいい話に信じないことから入ることに成長を感じたのだ。
ぶっちゃけ、借金がなくなった世界を叶えてやるわ!と言いださないかヒヤヒヤして――
「嘘じゃないさ。実際、オレはデザ神になって理想の世界を叶えてるしな」
「……え、ほんと? じゃあ、アビドスの借金がなくなった世界とかも――」
全員の顔が一斉にセリカに向いた。
「な、なによ……」
「セリカちゃん……」
「まぁ、これでこそセリカちゃんだよねぇ」
「ん、長く持たなかった」
「そんなセリカちゃんも可愛いですね」
「ちょっ……! どういう意味よ!」
ちょっと見直していただけに落胆も大きい。
途端に騒がしくなった空気の中、ギーツは小さく笑みを浮かべていた。
「……変わらないな」
“…………?”
微かに聞こえた言葉の意味が分からず、先生は微かに眉を顰める。
まるでセリカが詐欺に引っかかりやすいことを知っている、もっと言えばセリカたちのことを知っているような口ぶり。
いっそのこと聞いてみようか。
先生が口を開く前に、ギーツが椅子から立ち上がった。
「ま、教えるのはこれぐらいでいいだろ。それじゃ、オレはジャマトを探さないといけないんでな」
「はぁ!?」
「待って。さっきの戦闘を考えると、ジャマトはあなたじゃないと有効打を与えられない」
「そ、そうですよ! あんな化け物がアビドスに隠れてるなら、見つけださないと」
「できれば、私たちと協力してもらえませんか~?」
その場を後にしようとするギーツを、慌てた様子で引き留める。
しかしギーツは気にする様子もなく告げる。
「今もデザイアグランプリが行われている。今のゲームはかくれんぼゲーム。オレたちが鬼となって、隠れているジャマトを見つけて倒すのがルールだ。だから、やつらはそう簡単に姿を現さない。それにもしジャマトと出会っても、火力を集中させればお前達でも倒せる。じゃあな」
部屋から出ていくギーツ。
夕焼けが差し込む部屋の中で、各々の様々な感情が乗せられている視線が、ドアに向けられている。
ジャマトと言う化け物への恐れ。
ジャマトがアビドス隠れていることへの不安。
ジャマトとどう戦うかの策謀。
ジャマトと戦うギーツへの心配。
そんな中、小鳥遊ホシノの細められた目だけが明らかな敵意を浮かべていることに、誰も気づけなかった。
「……ここにもいないか」
日もすっかり傾いた夜。
ギーツは辺りを見渡して、振り子のように糸に吊られた機械の蜘蛛を手の平に受け止める。
「収穫は無しか。スパ太郎でも見つけられないとすると、この辺りのジャマトはあれで打ち止めか」
労うように頭を撫でてやるとスパ太郎――スパイダーフォンは蜘蛛の形態から、アビドスの面々に見せていた端末の形へと変形する。
画面に映ったカウント数は、昼の時と変化がない。
やはりアビドスを襲ったのでこの辺りのジャマトは出尽くしたのだろう。
「さて、どうするかな。他のライダーにはまだ出会ってないし、やっぱり他の場所に移動して「動くな」……へぇ、やるな」
不意に背中に感じる冷たく硬い感触、銃口を突き付けられる。
それでも不敵な笑みを崩さないギーツに、銃の主はどこかのんびりとした、しかし威圧感のある声で話し始めた。
「そのスマホ?すごいね~。おじさんは最近の若い子の流行には疎くてね~。ぜひ教えてくれるとたすかるんだよ、色々と」
「こいつはデザグラ参加者に配られるアイテムだ、ホシノ」
「っ馴れ馴れしく呼び捨てされる筋合いはないよ」
警戒心をにじませるホシノはギーツの背中に、愛銃を押し付ける。
「それで、何の用だ?」
「君、数日前に公園でジャマトと戦ってたよね。忘れたとは言わせないよ?」
「そういえば、そんなこともあったな」
「君とジャマトが戦っているところを見つけたあの時、君はこう言ったよね」
――なんてことはないさ。世界を救ってた。その言葉を、あんたは信じるか?
「確かに君は私を見て、
「間違えただけさ」
「嘘だね。仮に本当だとしても、’アビドスの生徒’じゃなくて’生徒会長’と言ったのはどう説明するの? 今のアビドスの生徒数は私たち5人、対策委員会だけ。だから生徒会の機能もこなしてる状態だけど、
「………………」
「後輩たちに手を出させは……? どうしたの?」
急に黙り込んだギーツに、ホシノは怪しがりつつ背中を突きつけたままの銃でせっつく。
「そうか。生徒会長はいない、のか」
背後にいるホシノからは、ギーツの表情は伺えない。
しかしぽつりと漏らしたギーツの言葉は、どこか悲哀さを感じさせた。
「…………君は、生徒会長を知ってるの?」
「さぁ、どうだろうな」
「またそうやって化かす気?」
「少なくとも、お前が言う生徒会長知らない。だが、その生徒会長は知っている」
「……やっぱり化かす気だ」
「本当のことを言ってるつもりなんだけどな」
「――ジャー」
「「っ」」
暗がりから聞こえた声に、二人は一瞬にして構える。
視線の先の暗闇から出てきたのは、数体のジャマト。
ギーツはデザイアドライバーを装着し、レイズバックルを装填する。
ホシノもまた、ジャマトに向けてショットガンを構える。
「まだジャマトがいたか。下がってろ」
《SET》
「私達でもあいつら倒せるんでしょ? 後輩たちが倒そうとする前に、狐に化かされていないか、確かめないとね」
「これは余計なことを言ったかもな」
言葉とは反対にギーツは嬉しそうに笑みを浮かべ、右手を突き出し指を鳴らした。
「変身」
一夜の共闘が始まった。
小鳥遊ホシノ
・過去にマンモス校として栄えていたが、度重なる災害によって生徒数が激減し、廃校の危機にあっているアビドス高等学校の生徒会長。愛銃はショットガン。戦闘時は先鋒として自ら先頭に立ち敵をかく乱、時にはそのまま殲滅せしめるほどの強さを持っている。また、先輩から受け継いだという盾も所持しており、時には後輩の盾となることも。
・性格に関しては、大分キツく攻撃的で引き締まった言動で校外に通っている。しかしそれは生徒会長としての立場故のいわゆる外面であり、校内では後輩たちには非常に甘い。しかし、一度敵と相対すればその攻撃的な性格が遺憾なく発揮され容赦はしないだろう。
・前任の生徒会長は失踪しているが、当人はこのことに関して自ら口を開くことはない。ホシノを含め5人という生徒数の少なさから、廃校対策委員会に所属する他4人の生徒を実質的な生徒会役員として扱い可愛がっている。
・後輩を庇い、死亡している。