〈R〉【祝・追放100回記念】自分を追放した奴らのスキルを全部使えるようになりました! ~失われたギフト~ 作:高見南純平
「仲間……ですか」
ララクは感慨深そうに、その言葉を飲み込んだ。彼にとっては、今も昔も大切な言葉だった。
「ララク? 変なこと考えてないよね?」
ゼマは心配にかられる。普段ならこんな誘いを真に受けないと分かっているが、今は大幅に戦力ダウンされた後である。ララクがやけを起こすのではないかと不安なようだ。
「今は、ゼマさんと旅するのが楽しいですから」
ララクは少し振り返って、ゼマに笑いかけた。昔の彼ならば、誰彼かまわず誘われればついていった。けれど今は違う。今のララクは、冒険者パーティー・ハンドレッドのリーダーであり、戦闘医ゼマの仲間でもある。
「なーんだ、損したじゃん、心配して。
じゃあ、はっきり言ってやんな」
嬉しそうにするゼマは、顎をクイッと魔人ハライノスの方へと動かす。
「あなたの誘い、受けるわけにはいきません。
あなたのスキルは魅力的だ。でも、クエストでもないのに人様の大事なスキルを奪うのは、同じ冒険者として許せません」
ララクは自分のスキルが使えなくなってしまった衝撃と共に、【ディスキル】の性能を深く評価していた。今まで加入していたパーティーにいた大勢の冒険者、誰一人として同じスキルを持っていなかった。それはつまり、ララクも所持していない超貴重スキルということだ。
「っち、はぁ。
仲間になんなら、このまま使えないままだぜ? それでもいいのかよ」
まともな勧誘は出来そうにないので、得意の脅迫にスムーズに移行していく。
「それは困ります。
けど、あなたを叩きのめせば、元に戻るんじゃないですか?」
大量のスキルを失ったにもかかわらず、ララクは頭が冴えていた。今はただ、力を取り戻すことしか考えていないようだ。
「っく! あぁ、お前もダメか!
っくそ、二回連続は、きっちぃなぁっ!」
魔人ハライノスは、自分の角を激しく掻き始める。彼が誘うのは、自分が見込んだ相手のみ。それゆえに、無茶な勧誘でも断られるとショックなようだ。
そんなハライノスが思わず吐き出した嘆きに、ララクは敏感に反応した。
「……? まさか、他の人にも同じことを?」
「あん? そうだよ。あの紫の奴は、こっちに靡きそうだったんだけどなぁ~……」
魔人ハライノスの言葉に、いちはやく反応したのはララク、だけではなかった。木の下で待機していた ねんごろのトーマガイ、そして氷刃のシェントルマも敏感に反応していた。
「……トーマさんっ! シェントルマさんっ!
お2人は、クインクウィさんたちを探しに行ってください。もしかしたら、非常にまずいことになっているかも」
ララクは慌てて2人に指示をする。彼は自分の身で、ハライノスの【ディスキル】を受けた。スキルを封印されただけで、いつもの体ではないというとてつもない違和感に襲われている。
もし、他のチームも同じ状況だったら? そう考えただけで、顔が青ざめそうだった。
「いいのか? 君も万全じゃないだろう?」
老戦士トーマガイが、少年ララクを気遣う。指示通り仲間のもとに行きたいところだが、目の前の若者も見捨てておけないのだろう。
「なんとか、手はあると思います。それに、ボクは1人じゃありませんし」
ララクは少し無理をしているようにも思えた。この状況に一番混乱しているのは彼のはずだ。けれど、頭をフル回転して、最適な答えを出そうとしていた。
「すまないっ! いくぞ、シェントルマ」
「は、はいっ! 2人とも~、気をつけてっ!」
トーマガイとシェントルマは、林道に戻っていき、風心クインクウィが率いるチームAを探しに走っていく。別れる前に担当エリアをお互い把握してあるので、それを元に動き出したのだ。
こうしてこの場には、冒険者パーティー・ハンドレッドと、ニールダウンのみとなった。
それぞれの距離は近く、一触即発の空気だった。
「手分けしちゃって良かったのか? 今の状態で、俺たちを倒せると?」
魔人ハライノスは、急激に弱体化したララクを心配するような発言をする。彼が張本人だというのに。
「そうするしかないですから」
ララクは、いかにハライノスを叩きのめすか、ということにだけ頭を使い始める。今自分が使える手札、そして仲間のゼマ、さらにハライノスを含めた3人の敵の力を分析し始める。
「俺の仲間になるって言うなら、スキル解除してやるぜ? まぁ、歯向かわれても困るから、少しずつだけどな」
魔人ハライノスは、ダメもとでララクの勧誘を続ける。が、ハライノスは感じていた。ララクの真っすぐな瞳を見て、自分の声など届いていないと。
「そうやって、他の人にも恐喝を?」
「まぁな~。良い案だと思うんだけどな~」
悪びれもしないハライノスの態度が、ララクには理解できなかった。ララクは明確な怒りを抱いていた。それは自分が圧倒的に弱くなったこと、だけではない。
「絶対に間違っています、そんなの。
仲間っていうのは、生と死を共にする存在です。そこに信頼関係がなければ、いずれ崩壊しますよ」
「あん? ガキのくせに、何が分かるって言うんだよ」
「色んなパーティーを見てきましたから。
少なくとも100個は。
色んな人がいましたし、衝突していた人もいました。
だけど、その奥には、絆があった気がします。
だからボクは、あなたの考えは間違っている、そう確信しています」
淡々と、論理だてて話すララク。確かにララクはまだ18歳の少年だ。けれど、彼が経験したことは、大人にも負けない、いやそれを超える苦行だった。
そんな彼だから、ハライノスの考えを真っ向から否定することが出来た。
「あー、その話し方うぜぇなぁ!
仲間にしてやってもいいけど、このままスキルを使えないままでもいい気がしてきたぜ。
おいお前ら、また引くぞ」
魔人ハライノスは、チームAの時と同様、真正面から戦わずに逃走しようとしていた。スキルを使えない、その苦しみを長期間味わわせて、考えを改めさせる作戦である。
「……逃がしませんよ。
あなたみたいな人はすぐに考えを変えない、と思います」
「へ~、よく分かってんじゃん。俺はこれが正しいって思ってるからな」
「……だから、それが間違いだって認めさせます。力づくで。
徹底的に潰せば、そっちから許してくれって、言ってくるでしょ」
ララクの目は、静かにそして激しく燃え盛っていた。自分の中から溢れそうな憤怒を、どうにか理性で丸め込もうとしていた。
「意外と攻撃的な考え、するんだなぁあ、お前。
いいぜ! どっちが正しいか、鬼ごっこと行こうじゃねぇかっ!」
挑発的な態度のハライノスだが、あくまで考えは逃げ腰。
魔人ハライノスは、即座に動き出し、後方へと逃げ始める。さらにそれを追って闇使いシットニンが動き出し、その2人を守るかのように女戦士マベラが余裕な笑みを浮かべながら走り出す。
「よっし、ララクぶっ潰しちゃおうぜ」
ララクの真横に移動してきて、クリスタルロッドを構えるゼマ。どう話が転ぶのか、様子を伺っていたところだが、彼女好みの物騒な展開になってどこか嬉しそうだった。
「っはい、ゼマさん。けど、今回は今まで以上に慎重に戦わないといけません。
戦いの作戦を考えながら追いかけましょう。
今の体に、慣れる必要がありますし」
ララクはそう言いながら、ゼマの持つクリスタルロッドに軽く触れる。
「おっけい、頼むよ、私のリーダー」
「……全力を尽くしますっ!」
多くの仲間と別れを繰り返してきたララクにとって、ゼマの何気ない言葉は深く胸に刺さった。
今のララクは、以前のような何もできない冒険者ではない。
彼は今持てる全ての力を使って、奪われた大切なスキルを取り返しに挑むのだった。