〈R〉【祝・追放100回記念】自分を追放した奴らのスキルを全部使えるようになりました! ~失われたギフト~   作:高見南純平

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第28話

 シヲヌの頭上に、魔力が集結し始める。それは水へと変換され、ある形を作り始める。4本の脚に、勇ましい猛獣の顔。

 水で出来た不確かな体ではあるが、それが虎を模していることは、初見でも理解できることだろう。

 

「暴れまわれ、トラノスケ」

 

 無の表情を崩さずシヲヌは両腕を振り上げる。そして「ガオー」と口を開きながら、その腕を振り下ろした。

 それを合図に、彼女が作り出した水虎が動き出す。

 

 そして同時に、デイダイオウも小型の【マッドブレス】を連発し始める。

 

 空中を駆け抜ける水虎に向かって、泥の弾丸が迫りくる。

 水の体に直撃する、瞬間だった。水虎は脚を使って空を蹴り、右方向へ急転換した。これにより、【マッドブレス】は当たることなく通り過ぎていく。その先にはナゲキスやゲッキがいるが、距離が離れているのでなんなく避けることが出来ている。

 

 また泥がぶつかると思われたとき、水虎は左へと回避して進み続ける。まるで本当の生き物のように、繊細な動きで走っていた。

 

 これがわざわざ水を生物の形に生成する理由の1つである。この虎は自分の意志で動いているわけではない。

 スキル使用者である水虎使いのシヲヌが的確に指示をしているのだ。

 

「いっけぇ、トラノスケ」

 

 助走をつけて走りぬく水虎は、ついにデイダイオウ本体へと接近する。

 水虎はさらに大きな口を広げて、デイダイオウに突進していく。しっかりと牙も再現されている。

 

 デイダイオウの泥まみれの顔面に、水虎が攻撃した。すると水の体は弾けて、敵の体を飲み込んでいく。

 助走をつけているので、ただ発射するよりも威力が上昇している。

 衝撃が凄かったようで、デイダイオウの体は少しだけ後ろへと下がった。

 

 だが、ただそれだけだった。

 

「あれ……」

 

 シヲヌはまるで手ごたえを感じていなかった。スキル攻撃は見事に成功したのだが、いまいち達成感がない、不思議な感覚だった。

 彼女は目を細めて、デイダイオウの状態を確認する。

 

 すると敵の体に秘密が隠されていたことを知る。

 

「ロォォォォォロロ」

 

 喉を鳴らすデイダイオウ。その体にまとった泥が、水分を吸収してさらに膨らんでいた。流動性が強まったので地面へ流れていくが、それでもデイダイオウの表皮が露わになることはなかった。

 つまり、デイダイオウ本体に対してはダメージが入っていないことになる。

 

「まじか、シヲヌの虎でもダメかよ……。

 土も炎もダメだし……」

 

 光焔万丈のリーダー・ゲッキは、メンバー3人のスキルがまるで効いていないことにショックを受けていた。彼らはカエル退治なら問題なく処理できる。実際、ここに来る道中、カエル軍団を蹴散らしていた。

 水を操るゲゲガエルであっても、焼くことは可能だ。

 だが、デイダイオウのように、不利系統の力で体をコーティングされれば、本体に止めを刺す手段が乏しくなってしまう。

 

 これがデイダイオウの恐ろしさであり、そして奴を代表するスキル【マッドフォース】の効果である。

 

【マッドフォース】詳細

 効果……物に泥系統の力を与える。

 

 

 対象は武器でもいいし、自分の体でもいい。しかし、そもそも体に耐性がないと、大惨事になる危険性もある。

 例えば【フレイムフォース】で人間の体に炎を纏わせても、大火傷するだけだったりする。

 

 デイダイオウの皮膚は泥が付着しやすく、泥をかき分けて歩き泳げる体の構造をしている。つまり、体の性能と使えるスキルがあらかじめおおよそ決まっているのだ。だいたいのモンスターは個体差が少ないとされている。が、人間や獣人は、扱える武器や魔法に個体差が多すぎる種族なのである。

 

 

「そっちがダメなら、こっちは……」

 

 盾殴りのナゲキスが、自分たちの持つ手札を確認する。

 まず自分の盾スキル。泥を防ぐことはできるが、そうするたびに盾の重みは増えてしまうだろう。

 次に雷心デュペルの雷と槍。槍は盾同様、泥が付着する危険性がある。が、放電で遠距離から攻撃すれば泥には対処できるだろう。

 だが、肝心の【マッドフォース】を突破するには、雷では泥に不利だろう。

 

 そして精霊使いのアシトンだが、彼女は今は見守ることしかできない。

 彼女が使役する【精霊召喚・爆破】で生み出したマノワルならば、泥コーティングをはじけ飛ばすことが可能かもしれない。泥は水を含んではいるが、火力で勝っていれば爆破することも出来るだろう。完全に相性勝ちする必要はなく、泥の鎧を破壊できればまずはいいのだから。

 しかし、そのマノワルは【ディスキル】によって封印中である。

 

「はぁ、クインクウィがいてくれれば。

 あんな奴、一発なのに……」

 

 雷心デュペルは、唇を噛んでぽろっと呟く。これは不安から来る弱音ではない。単純に、相棒の力であれば、デイダイオウに対抗できると考えたからだ。

 

 風心クインクウィ。彼女の風スキルがあれば、なんらかの作戦が立てられるはずだ。これが【デュアルシフト】の強みなのだが、今は使用不可。

 異なる系統の力を持っているということは、それだけ多様な相手に対処できると言う事。

 【デュアルシフト】はレベルや現在の体の状態などを引き継ぐが、装備やスキルは全く別のものになる。

 

「どうにか、突破口を見つけるしかないね」

 

 ナゲキスは盾に付着した泥を煙たそうに振り払う。彼女もリーダーのクインクウィがいれば、と考えてしまう。

 

 そんな彼らはまだ知らなかった。

 

 すでに、【ディスキル】によって封印されたスキルを取り戻す戦いが繰り広げられていることを。

 

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