ポケットモンスター 遥かなるチャンピオンロード 作:メンマ46号
sideミテキ
「うん!少しずつだが良くなって来たな」
「サンキュータケシ」
ポケモンセンターのロビーでこの間サメハダーに噛まれた腕の傷をタケシに看て貰い、包帯を巻き直して貰う。俺はスーパーマサラ人じゃないが、この世界の人間も中々におかしいスペックをしているので、多少の怪我は割とすぐに治るものだ。サメハダーに噛まれて多少で済む訳がない?それは本当そう。
そうしていると宿泊室から遅れてハルカが欠伸をしながら出て来た。
「さて、俺達もそろそろ行くか」
「ん。で、ハルカは何持ってるんだ?」
「へ?…わっ!?ポケモンセンターの枕持ってっちゃう所だった……」
どうやらハルカは寝ぼけて枕を部屋から持って来たらしく、それに気付いて顔を赤らめてる。かわいい。
そしてふと、ここには俺達三人しかいないという事に気付いたようで周囲をキョロキョロと見回す。
「あれ?サトシとマサトは?」
「先にムロジムに向かったよ」
サトシはずっとジム戦のお預けをくらっていたから、もうウズウズしているんだろう。それに付き添う形でマサトも着いて行った。
そんなこんなでサトシとマサトを追って俺達もムロジムに向かうと道中で肩を落としてトボトボ歩くサトシがマサトと一緒に引き返して来ていた。
なんでもムロジムに着いた瞬間にジムリーダーとジムトレーナー達が次々とジムから出て遊びに行ってしまったらしい。ジム戦を頼むとよく分からない若者言語で断られたんだとか。要するに今日は休みだから明日来てくれって事だろう。
「まぁ休みなら仕方ないな。ジムリーダーだって年中無休でジム戦できる訳じゃないし」
「そりゃそうだけどさ……折角やる気出して来たのに!あれでもジムリーダーかよ!?」
「でも生活をエンジョイしながらジムリーダーをやってるのもアリかも!私達も泳ぎに行きましょうよ!」
不満タラタラなサトシに対してジムリーダーへの理解を示したのはハルカだ。ハルカは父親のセンリさんがジムリーダーをやってるからな、ジムリーダーの仕事の関係で寂しい想いをした事があるのかもしれない。だから生活にそうやってメリハリを付ける事には共感できるのかもな。
そんなこんなでハルカも海に行きたがり、タケシも水着のお姉さん目当てに賛同した為、急遽俺達も海に遊びに行く事になった。まぁ俺もまだジム戦に使うポケモンを決めてないし、今日はサトシのバトルを観戦するだけのつもりだったから別に良いか。
****
そうして海にやって来た俺達だが、周りは当然泳いでたり、サーフィンをしている客で溢れ返っている。ムロ島はリゾート地と聞いていたが、噂以上だな。
「海よ海!早く泳ぎに行こ!」
そう言ってハルカはポーチを外して服を脱ぎ出した。
「ぶっ!?」
俺は堪らず飲んでいたサイコソーダを噴き出した。慌ててマサトもハルカを止めようとする。
「だ、駄目だよお姉ちゃん!こんな所で着替えちゃあ……」
「大丈夫!ちゃんと中に水着着てるわよ!」
服をその場で脱いで露わになったのは緑色のおニューの水着だ。……安心したような、残念なような……。いや人の目の事を考えたら残念とか思っちゃいけないんだけども。
ハルカは俺の前に来て少し顔を赤くして軽くモデルみたいなポーズを決めて聞いて来る。
「ど、どう?ミテキ。似合う?」
「あ、ああ……似合ってる。凄えかわいいと思う」
ドキッとしながら答える。
うん。本当にかわいいし、似合ってる。だけどさ……一応サトシがジム戦に向かって、そのジムが休みだから直接ここに来た訳だけど、まさかポケモンセンターにいた時点で服の下に水着着てたの?なんで?最初海来る予定無かったよね?
なんかハルカがぴょんぴょん跳ねて喜んでいるが、今はリフレッシュ期間にする事にしたので早速俺はモンスターボールを出す。
「よーし、今日は思いっきり遊ぶぞお前達!!」
俺はサメハダーに噛まれた傷があるから泳げないけど、そのサメハダーの件でのんびり遊ばせるはずだったのを台無しにしちゃったからな。
俺はポケモン達をボールから出す。現れたのはゴウカザルにフローゼル、イーブイ兄妹にメタング。そしてミロカロスだ。
当然、ミロカロスを見てマサトは目を輝かせる。殆ど自慢する為に出したようなもんだから気分が良い。
「ミロカロスだぁ!ミロカロスは最も美しいポケモンって言われてるんだよ!」
物珍しそうにミロカロスを見ている群衆の視線が心地良い。ふっふっふ。俺が手塩にかけて育てたミロカロスはコーディネーターのポケモンにだって引けを取らない。てゆーか実際にコンテストで優勝した事だってあるのだ。
「あれ?ミテキ、マニューラはどうしたの?」
「ミロカロスと入れ替えた。ムロ島は暑いからこおりタイプのマニューラにはキツいからな」
そろそろ一旦引っ込めないとニャースへの煽りもマンネリ化しそうだしな。読者に飽きられたら困る。
とにかく今日はフローゼルとミロカロスに存分に海を満喫して貰う事にする。
「自分の愛のウェーブにもライドして下さぁーい!!」
タケシはサーフィンをしているお姉さん達を発見すると目をハートにしてナンパに行ってしまった。
「じゃあタケシが失敗して帰って来るまで俺達もビーチバレーでもするか」
「賛成!面白そうかも!」
「失敗する前提で話してる……」
だってタケシのナンパが成功するアニポケなんてないだろ。かなりの優良物件なのに見る目ないよなぁ。
すると今度はサトシが別の方向にある人物を発見する。
「あ!さっきのジムリーダー!」
その視線の先にいたのはムロジムのジムリーダーのトウキさんという人だ。ポケモンリーグのジムリーダーリストの顔写真とも一致しているし間違いなさそうだ。
「よーし、マクノシタ!テイク・オフ!」
トウキさんが出したのはマクノシタだ。良いマクノシタだ。今日はマクノシタと一緒にサーフィンをしに来たようだ。
にしてもあのジムリーダー、サーファーなのか。かくとうタイプの使い手って聞いてたし、ゲームでもジムにはトレーニング器具が結果あったし、ボディビルダー的な方向性かと思っていたんだけど……。
「でも俺の挑戦を断ってサーフィンで遊んでるなんて!あんなんでワールドジムリーダーズトーナメントを勝ち抜けると思ってるのかよ!?」
別に全てのジムリーダーがワールドジムリーダーズトーナメント優勝を目指してる訳じゃないんだけどな。基本自由参加だし。
「絶対ジム戦を受けて貰うぞ!」
「せっかちだなぁ。明日には受けてくれるって言ってたのに」
サトシはジム戦よりもサーフィンを優先される事が不満なようで、ジム戦をしてくれと叫びながらジムリーダーの方へ行ってしまった。タケシもナンパに行っちゃったし……仕方ない。俺達だけで遊ぶか。因みにピカチュウは残って俺達と一緒に遊ぶ事にしたらしい。結構ドライだなお前。
しばらく俺達はビーチバレーで遊んでいたが、その間サトシがトウキさんにジム戦を強請るのをやめる事はなかった。向こうも律儀で「今日はバトルはしない」と返してくれるだけ、真摯に対応してくれてるんだけどな。
「良くやるわねー…」
「全くだ。……マサト、落としたのを誤魔化そうとしても無駄だからな。減点だ」
「うえっ!?」
不正を働こうとするマサトに減点を突きつけながら、サトシの様子を見ているとサトシは海に飛び込んで波に乗ってサーフィンをしているトウキさんの元に泳ぐ。本当によくやるわ。
あ、マクノシタの足元に出たサトシが波に呑まれた。
「って、おおい!?」
軽く見てたけど、呑気に眺めてる場合じゃねぇ!?波に呑まれるとか洒落にならんわ!!
俺達は急いでサトシの元に向かうといつの間にか海に潜っていたらしいミロカロスがぐったりしたサトシを背に乗せて浜まで上がって来た。
「ミロ……」
「あ、ありがとうミロカロス……」
「は、はは……」
自由に泳がせるつもりで海に連れて来たが、どうやら海で無茶をしそうなサトシを気にかけてくれていたらしい。
波からサトシを救出したのはお手柄だぞミロカロス。
見ればサトシに驚いて一緒に波に呑まれたらしいマクノシタもぐったりしてトウキさんに介抱されている。
「サトシ……今日はもうやめとけって。サーフィン中に足元から出られたらびっくりしてマクノシタだってこの有様だし」
「でも……」
てかこれは普通に謝った方が良いと思う。諦めの悪いサトシを見てトウキさんも困った様子だし……
「っ!殺気!」
「ピィカ!?」
何やら良からぬ気配を感じたので、その矛先と思われるピカチュウの手を引いて抱き寄せる。その次の瞬間にピカチュウを拘束するのに丁度良いサイズのネットがピカチュウの立っていた砂浜に着弾した。
「「「こらーーっ!!」」」
海の方から怒声が響き、そこにはボートに乗って捕獲網を発射したロケット団の姿が。
もうお約束なレベルでキレ散らかしてくるロケット団。やっぱりこいつらの仕業だったか。
「アンタねぇ!口上だけに飽き足らず、ピカチュウゲットまで毎回邪魔すんじゃないわよ!!」
「そうだ!いつもいつも邪魔するなんて酷いぞ!!」
「そのピカチュウはニャー達のものなのニャー!!」
もう相手するのも面倒臭いな。そろそろ本当に豚箱にぶち込んだ方が良いよなぁ。
するとムサシがサトシを背に乗せているミロカロスに気付いた。
「ん?何よあの綺麗なポケモン」
「えーと…確かミロカロスって言って世界一美しいポケモンとか」
コジロウがポケモンのカードでミロカロスについて説明するとムサシの目の色が変わる。あークソ、目を付けられたか。
「世界一の美しさ……ミロカロス……この私に相応しいポケモンじゃないの!あのミロカロスでコンテストリボンゲットしまくりよ!!」
「寝言は寝て言え。鏡って知ってるか?便利だからお前も一度使ってみるこった」
「ちょっと!アンタそれどーゆー意味よ!?」
そのまんまの意味だ。俺のミロカロスがお前に相応しい?どうやら分不相応という言葉を知らないらしい。釣り合う訳ねーだろ。お前が手にしたって豚に真珠そのものだ。自分のアーボックの魅力すら引き出せないお前に俺のミロカロスの魅力を引き出せる訳ねーだろ。
「丁度良いのニャ!ピカチュウと一緒にそのミロカロスも頂いていくのニャ!きっと良い金に……」
「ミロカロス、フローゼル!ハイドロポンプ!!」
聞くに耐えないのでフローゼルとミロカロスにハイドロポンプを使わせてロケット団の乗っているボートを物凄い勢いで沖まで流し出してやった。そしてボートの粉砕を狙ってゴウカザルにもはどうだんを指示。遠くから微かに「やなかんじー」と聞こえた気もするが、確かめる術もない。離岸流には気をつけな。
****
その後、サトシの熱烈なアピールに負けたトウキさんはジム戦を受諾。
ナンパに失敗したタケシを見つけてからムロジムに来た俺達はそのままサトシのジム戦を観戦する事にした。
「よーし、二つ目のバッジもゲットだぜ!」
「サトシったら凄い自信ね。何か良い作戦があるのかしら」
「うーん、無いんじゃないかな」
「きっと無いね!」
「絶対無いな」
タケシ、マサト、俺とで満場一致でサトシに作戦なんて無いと断言する。そもそもがチマチマ策を練るタイプじゃないからな。悪く言えば行き当たりばったり。
「ミテキはジム戦しないの?」
「んー…まだ戦わねえ」
ハルカに聞かれたが今日は普通に遊ぶつもりだったし、何よりムロジムでのジム戦メンバーを俺はまだ決めかねていた。いきなりシンオウリーグで公式戦デビューをしてまだジム戦の経験がないメタングを使うか、はたまた……。
ベルトに装着してある二つのモンスターボールを見つつ、バトルフィールドに眼を向ける。
「とにかく油断しちゃダメだよサトシ!」
「かくとうタイプを使うトレーナーはパワー任せで一直線ってのが多い。まずここはかくとうタイプに有利なひこうタイプとフェアリータイプだな」
「そんな事は分かってるさ!スバメのひこうタイプの技とマリルのフェアリータイプの技で一気に決めてやるぜ!」
流石にタイプ相性は理解しているので、サトシは今回のジム戦はスバメとマリルを選出したようだ。
「そんなに上手く行くのかしら……」
「相手を舐めてかかると痛い目見るぞ」
相手はジムリーダー。レベルこそこちらのポケモンに合わせてくれるが厳しい資格試験を乗り越えた一流トレーナーなんだ。ポケモンのレベルが近いからこそ、トレーナー自身の技量が求められる。ジム戦ってのはそういうもんだ。
「なぁに!波乗りなんかして遊んでるような奴に負けるもんか!」
どうしてそんな負けフラグ建てちゃうかな。
「それではこれよりジムリーダートウキとチャレンジャー、マサラタウンのサトシによるジム戦を始めます!使用ポケモンは二体!ポケモンの交代はチャレンジャーのみに認められます!」
俺はポケモン達を全員出してジム戦を観戦させる。バトルを観るのも修練の内だからな。
「俺の一体目はこいつだ!スバメ、君に決めた!」
「かくとうタイプ対策にスバメで来たか。まぁまぁの作戦だな。ならばこちらは…マクノシタ、テイク・オフ!」
スバメを出したサトシに対してトウキさんが出したのはさっきのマクノシタだ。俺も野良バトルで何度かバトルした事はあるが、重量級のポケモン故に使い熟せている奴はあまりいなかったな。
「スバメ!つばさでうつ攻撃!」
先手を打ったのはサトシだ。ひこうタイプの一致技で効果抜群を狙いに行った。スバメの技をマクノシタは正面から受けた。
「このまま一気に行くぜ!スバメ、もう一度つばさでうつだ!」
サトシは勢いに乗ってスバメに連続でつばさでうつを命じるが、俺はこの状況に違和感しか感じなかった。ジムリーダーが弱点への対策をしない訳がない。現に何度もひこうタイプの技を受けてるマクノシタはピンピンしている。
「……ん?」
「相手の反撃する暇を作るな!連続してつばさでうつ!」
何度つはざでうつを受けてもマクノシタは何でもないように立ち上がる。流石におかしいと気付いたサトシも困惑している。
「スバメのつばさでうつが当たってないんじゃないの!?」
「いや、当たっている」
「じゃあなんで効いてないの?」
「……そうか。当たってはいるけど、受け流されているんだ」
ここに来て俺もやっと気付いた。スバメのつばさでうつに合わせて身体を捻る事で受け身を取り、ダメージを最小限に抑えた上で逃している。だから効果抜群なのに大してダメージになっていない。
「だったらスピードで勝負だ!スバメ、でんこうせっかだ!」
「マクノシタ、かみなりパンチ!」
正面からまっすぐ向かうスバメに対してそれに合わせてマクノシタがかみなりパンチを繰り出した。いくら先制技と言えど、馬鹿正直にストレートで行けば見切るのは容易い。近接戦に長けたかくとうタイプの使い手なら尚更だ。
それに今のは攻め続けた事でスバメは息を切らしていた。それで生まれた隙を突かれてのカウンターだった。恐らく急所にも当たっている。物理アタッカーであるマクノシタのかみなりパンチはスバメにはキツい。
「スバメ、戦闘不能!マクノシタの勝ち!」
「ひこうタイプはかくとうタイプに有利なはずなのに……」
「そうか!相手の攻撃を受け流す技術はサーフィンに通じているのか!マクノシタのあの動きはサーフィンをする時、波の動きに合わせて足腰をコントロールする動きと同じなんだ!」
「言われてみれば……」
「だったらみずタイプの技を使うマリルも厳しいんじゃないか?みず技の流れを読まれる可能性があるぞ」
タケシの解説に俺もマリルが不利である可能性を付け加える。少なくともアクアジェットなんかで先制しようとしても読まれて躱される可能性は高い。普段から波に乗って水流というものに慣れているのだから。
ここで更に計算外の出来事が起きた。今のバトルで経験値が溜まったのか、マクノシタが進化してハリテヤマになった。
「そんな……ここに来て進化しちゃうなんて」
「サトシ、トウキさんに力押しは通用しない!やり方を変えた方が良いぞ!」
「いいや、攻撃を躱す内にいつかは疲れが出るはずだ!ここは真正面から連続攻撃だ!マリル、君に決めた!」
だがサトシはハリテヤマの体力切れを狙うつもりのようで、正面突破を選択。繰り出したマリルに早速先制技を命じる。
「アクアジェット!」
「あっ馬鹿!」
読み通り、ハリテヤマは紙一重でアクアジェットを躱してしまう。スバメのでんこうせっかを迎え撃った時よりも余裕があるようにも見える。やはりみず技への対処法もサーフィンの中で学んでいたんだ。
「だったらマリル!じゃれつくだー!」
アクアジェットが通用しないなら、弱点のフェアリー技をと思ったようでじゃれつくを指示。進化したばかりで重量の増しているハリテヤマはみず技であるアクアジェットではない事が逆にネックになったらしく、躱される事も受け流される事もなく、攻撃がヒットした。
「良し!……効いていない!?」
だがマリルのじゃれつくを受けてもハリテヤマは微動だにせずに耐えていた。
ハリテヤマの耐久力は凄まじい。いくらフェアリー技のじゃれつくがあっても特性がちからもちではなく、そうしょくなサトシのマリルにはキツい。俺のちからもちマリルリで挑むとしてもはらだいこで確実にバフをかける。当然、アクアリングも必須だ。
「ハリテヤマ、はっけい!」
ハリテヤマの反撃。いくらマリルがフェアリータイプだからって、まひの追加効果の恐れがあるはっけいは受けたくはないだろう。だがトウキさんも遠慮はしてくれない。
「ハリテヤマ、つっぱりとはっけいを組み合わせろ!!」
そう来たか。つっぱりは二回から五回ほどの連続攻撃。それを全てはっけいと組み合わせて喰らわされたら……
「リ、リル……!!」
かなりの高確率でまひ状態を引いてしまう。
「サトシ、冷静になれ!!マリルはまひ状態になってしまったぞ!」
タケシの言葉も届かない。焦りが更にサトシを加速させ、視野を狭めている。
そこから先は正にワンサイドゲームだった。マリルがみずタイプの技であるアクアジェットで攻め、隙を突いてじゃれつくを決めようにもサーフィンで水に慣れ、足腰を鍛えてバランスを取れるハリテヤマ相手には陽動になり得ず、弱点のフェアリー技を当てる事ができない。そもそもまひ状態で素早さが下がっているから対処もしやすい。
逆にみず技で攻める事で流れを掴ませてしまい、次々とカウンター感覚でハリテヤマの技が面白いようにマリルに当たる。
「なんで……なんで当たらないんだ!」
「熱くなり過ぎだなサトシ君。波はオーバーヘッドでボードが跳ね上がっちまうバンビーな荒波ほど、ライドしがいがあるってもんさ!」
荒々しく攻めるほど、今のサトシはトウキさんにとってカモって訳か。そして最後のトドメにかみなりパンチを叩き込まれた。
結局ハリテヤマにマリルはこてんぱんにやられてしまい、このジム戦はサトシの敗北に終わった。
****
その後、マリルとスバメをポケモンセンターに連れて行ったのだが、マリルは思いの外ダメージが大きく、ここまで戦わせるのはどうなのかとサトシはジョーイさんに苦言を呈された。まぁあのバトルはサトシが熱くなり過ぎた事で引くに引けなくなったのが大きかった。
だがサトシはトウキさんを遊んでばかりのジムリーダーと評していた事もあり、バトルの結果に納得ができず、タケシの言葉にすら耳を貸せずにポケモンセンターを飛び出してしまった。
「いたいた。こんな所に」
俺はポケモンセンターを飛び出したサトシを追って先程の浜辺に来ていた。特に根拠があってここに来た訳じゃないが、気持ちを落ち着けたいなら海を眺めた方が良いと思い、サトシも同じ事を考えているんじゃないか……そう思ってここに来た。
その考えは的中していたようで、サトシはピカチュウとキモリと一緒に黄昏ていた。
「ミテキ……俺、マリルに酷い事しちゃったよ。だけど……俺……」
「まずはマリルに謝るしかないだろ?ジム戦云々はそれからだ。なぁに、マリルだってサトシの事大好きなんだからきっと許してくれるさ」
本当にさっきのバトルを反省しているのなら、誰より何よりまずマリルにその気持ちを伝えるべきだ。
そう話していると海辺の方からトウキさんの声が聞こえてきた。
「よしハリテヤマ、もう一度だ!」
「ハリーテ!」
昼間と同じくハリテヤマと一緒にサーフィンをしている。だが、マクノシタだった昼と違い、ハリテヤマはバランスを崩して海に落ちてしまう。
「気を抜くな!お前は進化して体重が増えているんだ!波の力を利用して、足腰の使い方を身に付けるんだ!」
「!」
トウキさんがハリテヤマに飛ばしたアドバイスを聞いてサトシの身体が強張った。
「今日のバトルはなんとか勝ったけど、もしサトシ君が冷静だったらどうなっていたか分からない。しっかり修行しようぜハリテヤマ!」
「……」
サトシもトウキさんの話を聞いて、認識を改めたのか、暫く考え込む素振りを見せてから俺に問いかけて来た。
「ミテキはあのサーフィンが特訓だって分かってたのか?ミテキはトウキさんがジム戦よりもサーフィンって言っても俺と違って怒ったりしてなかったよな……?」
「いんや、俺だってそこまで深く考えて見ちゃなかった。でも本当にどうしようもないジムリーダーとそうでないジムリーダーの区別くらい付く。実物を見た事があればね」
実際チャレンジャーとバトルしても燃えなくてつまらないからってジム戦拒否ってバッジを無償で配布なんていうゴミみたいな事した最低なジムリーダーもいたからな。そうやって押し付けられたバッジなんてその場で地面に叩き付けて踏み潰してやったわ。お陰でアニオリに該当するであろう全く別のジムを探す事になった。フェアリータイプのジムだった。
バトルを通じて相手を導く立場のジムリーダーが一番やっちゃいけない事だ。それを自分の気持ちが燃えないからって放棄するなら最初からジムリーダーになんてなるなって話だ。
因みにそのジムリーダーはジムリーダー資格を剥奪された。きっちりシンオウのポケモンリーグに報告したからな。ゲームなら最後の関門?知った事か!
トウキさんはあいつとは違うのはすぐに分かった。遊びとトレーニングを両立させる事でポケモンを鍛え、共に強くなっていく。お手本のようなジムリーダーと言えるだろう。
サトシは居ても立っても居られなくなったのか、トウキさんの元まで走り、サーフィンの特訓の詳細を尋ねる。遊んでばかりいるなんて評したのを恥じたからこそ、素直に聞きに行けたんだろう。
何でも体重の重いポケモン達にとってサーフィンは足腰を鍛えるのにとても役立つし、この自然の多いムロ島でなら遊びを修行にする事ができる。ただ闇雲に鍛えるよりも心身共に伸び伸びとポケモンを成長させる事ができる。それがトウキさんの持論だった。
いつの間にかここに来て話を聞いていたらしいタケシ達も納得の表情だ。
「やっぱりトウキさんはただ遊んでいるだけじゃなかったんだな」
「流石ジムリーダーだね!」
タケシ達が来た事でサトシはポケモンセンターでの八つ当たり気味な態度を謝り、ある希望を述べる。
「みんな……さっきはごめん。それと、みんなが許してくれるなら暫くこの島でポケモン達と一緒に修行をしたいんだ」
「許すも何も」
「勿論大賛成よ」
「どの道俺もジム戦するしな。一緒に強くなろうぜ」
「うん!この島、珍しいポケモンもいそうだしね!」
サトシの希望を拒否する奴なんていない。この島の自然で鍛えたいのは俺も一緒だしな。この島で鍛えるというのなら、それに合わせて俺もポケモン達のトレーニングを本格的に再開する。スズラン大会前以来のな。
「よーし、俺もトウキさん達に負けないように頑張るぞ!」
「ピィカ!」
ジム戦には負けたものの、ポケモン達との修行に燃えるサトシ。これは俺もうかうかしていられないな。
「そろそろお前らも次のステップに進んで良いはずだしな」
二つのモンスターボールを握り締めて俺は小さく呟いた。
12.ミロカロス(♀)
特性:かちき
備考:ヒンバスの時、テンガン山で捕獲。何故かヨスガシティに向かうルートにいた。迷子だったのだろうか?