ポケットモンスター 遥かなるチャンピオンロード 作:メンマ46号
今回ちょっと短めです。
side三人称
「たった一体でああもあっさりやられてしまうとは……電撃ジムリーダー人生のブレーカーを落とす時が遂にやって来たか」
キンセツシティの外れにある海辺の岬。そこの灯台近くで項垂れる初老の男はそう呟く。
彼の名はテッセン。このキンセツシティのキンセツジムのジムリーダーである。
昨日、アローラ地方出身のチャレンジャーがジム戦に訪れたのだが、結果はテッセンの惨敗。
『ジムリーダーの癖にこの程度か。トレーニングにもなりやしない』
軽蔑と失望が混じった目を向けられて放たれた言葉は己の不甲斐なさを実感させるには十分だった。
若い頃からの衰えを痛感したテッセンはジムリーダーの引退を検討する程に思い詰めていた。そんな時、何処からか野生のラクライが近寄って来て、テッセンに擦り寄る。
野生なのに人懐っこいラクライだと思いつつ、受け入れてその頭を撫でる。ポケモンフーズを与え、膝で寛ぐラクライを撫で、テッセンは少しだけ癒された気がした。
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sideミテキ
クロスの馬鹿は本当に余計な事しかしねぇ。
ジムトレーナーによると昨日のジム戦でクロスはじめんタイプのポケモン一体で三タテしたらしいのだが、あっという間にストレート勝ちしたのを良い事にジムリーダーをトレーナーとして不甲斐ないと罵倒したらしい。
でんきタイプのジムで……それもレベル制限がかかっているジム戦なんだからじめんタイプを使えばぶっちゃけそれくらいできて当たり前だ。圧倒的有利な条件で勝ってそんなデカい顔してバトルしてくれたジムリーダーを貶す行為はトレーナー同士の敬意など欠片もない。そんなんだからホウオウを見ても認められずに羽を貰えないんだよ。
「次会ったらまたボコボコにしてやろうかな。メンタル面を」
「何する気なのさ……」
出会った頃のコウヤにもムカついたが、クロスはその比じゃない。今度会ったら色違いスイクンを見せつけてコンプレックスを致死量まで弄り倒してやる。スイクンはホウオウの眷属だぞこの野郎。そのスイクンに俺は認められてお前はホウオウに羽を貰えなかったという事実を受け止めろ。
因みにサトシはホウオウの羽を持ってるらしい。何故山に行かなかったのか。ソウジに会わなかったからか?ソウジ元気にしてるかな。
何はともあれ、それですっかり意気消沈したジムリーダーのテッセンはブレーカーを落とす時が来たという妙にでんきタイプ故の拘りの見える表現をした手紙を置いてジムから出て行ってしまったそうだ。
取り敢えず俺達はジム戦をして貰う為、キンセツシティを練り歩きながらジムリーダーのテッセンというじいさんを探す事にした。
「つっても何処にいんだよ?よくよく考えなくても面識のないじいさんの行き先なんて分かるわけねーし」
「先生ならきっとあそこにいるかもしれません…!廃棄された発電所のある小島なんですが……、先生が良く修行に使う場所なんです」
そう言って俺達を案内してくれるのはジムトレーナーのワットさんという人だ。なんか極自然に同行している。まぁ案内してくれんなら良いけども。
そうして案内して貰った発電所に普通にジムリーダーのじいさんがいた。どうも野生のラクライと戯れていたようだが、ワットさんの顔を見ると途端に哀愁漂う腑抜けた表情になってしまった。
「先生、ジムに戻って下さい!!」
「それはできん……老兵はただ去り行くのみじゃ」
……何?この空気。なんで安いドラマみたいになってんの?そんなん良いからとっととモチベーション回復させてジム戦やってくれりゃ良いんだよ。そもそもトレーナーに老兵がどうとかは関係無いだろう。
それでもワットさんが説得をするが、じいさんはジムリーダーを引退すると言って聞かない。なんでもクロスの馬鹿にストレート負けしてこんな不甲斐ない自分ではトレーナー達の模範となる事はできないと悟ったんだとか。
クロスはポケモンを捨てるクズトレーナーなのであいつの言葉には一銭の価値もないと説明しても首を縦には振らない。
「お願いですテッセンさん!俺達、ホウエンリーグ優勝を目指してるんです!ジム戦をして下さい!」
「ならば尚更できん。儂のような衰えたジムリーダーとバトルしても成長にはならん……。上を目指すならば他のジムリーダーに挑戦して限界を越えるバトルをしてこそ、高みに近付けるのじゃ。儂から得たバッジでは出場はできてもその先には行けん……」
サトシの嘆願にもあれこれ理由を付けて断るテッセン。要するに他のジムに行けという事だ。ある意味ではあのクソ野郎に爪の垢を煎じて飲ませたくなるような言葉だが、俺はそれ以上に苛ついていた。
俺は自分でも驚くようなドスの効いた低い事を出していた。
「さっきから聞いてりゃあ……」
ハルカとマサトがギョッとしているが、今の俺はそんな事は気にならなかった。
どうしてこう俺が挑戦しようとするでんきタイプのジムリーダーは腑抜けてバトルをしなくなるんだ。
「腑抜けた事ばっか言いやがって!全てのトレーナーの模範になるのがジムリーダーだって自分で言ってただろ!それが不良トレーナーにいびられたくらいで意気消沈してんじゃねえ!!ここでアンタがジムリーダーを辞めたらアンタを慕ってついて来てくれたポケモン達はどうなる!?クロスに負けて散々な事言われて!それで悔しい想いをしたのがアンタだけだとでも思ってんのかよ!?」
「っ!」
チャンピオンどころか四天王でもない癖に自分の実力に天狗になってチャレンジャーを雑魚と決め付けてやる気失くしたクソ野郎を思い出した俺はモンスターボールを突き出してジム戦を申し込む。
「今回のジム戦は本気のバトルだ!ジムリーダー側の交代制限無しでバトルしろ腑抜けジジイ!!」
ここまで来たら腑抜けた根性を俺が叩き直してやる!あのジムリーダーもどきの二の舞にはさせやしない。
俺の気迫に気圧されたテッセンは固まってしまい、俺と俺の持つモンスターボールを交互に見てから声を絞り出した。
「儂は……」
その瞬間、俺達の背後にある廃棄された発電所に大きな振動が走り、凄まじい轟音が響いた。このタイミングで変な事をする奴らと言えばロケット団しかいないだろう。
『『『ナーッハッハッハ!!』』』
馬鹿丸出しの笑い声と共に現れたのは巨大な掃除機のようなメカ。掃除機の先端部分を発電所の扉に叩きつけてこじ開け、発電所のでんきポケモン達を吸引して乱獲し始めた。どうやら今回はピカチュウではなく発電所を溜まり場にきているでんきポケモン達が目当てらしい。普段のピカチュウの電撃対策を流用しているのか、でんきポケモン達の抵抗も意味を成さない。
「お前達、何なんじゃ!?」
じいさんの問いに反応してあの馬鹿共はマシンのハッチを開いてその姿を晒し出す。
「何なんじゃと聞かれたら!」
「答えてあげるが世の情け!」
「ケンタロス!すてみタックルだ!!」
サトシは問答無用でモンスターボールを投げ、出てきたケンタロスのパワーでロケット団の掃除機みたいなメカをぶっ飛ばして横転させた。馬鹿丸出しで外に出ていたロケット団は空中に放り出されて地面にべしゃりと落ちた。
「今の内にポケモン達を助けるんだ!」
タケシの指示に従って俺達はでんきポケモン達を閉じ込めている網を破壊して外に出してやる。どうやら電気を通さないだけでそこまで頑丈ではないらしい。
「さ、早く逃げろ!」
ポケモン達を逃がしていると俺達の後ろでその様子を呆然と見ていたじいさんの視線が何か変わった気がした。
当然、ロケット団が黙っている訳がなく、いちゃもんを付けてくる。
「ちょっと!ジャリボーイ4号!」
「あん?」
「あん?じゃないわよ!アンタのせいで遂にジャリボーイまで口上の最中に攻撃して来るようになったじゃないの!!」
「そうだ!こっちはお前達のあのゴロツキボーイとのバトルやフルバトルを邪魔しないで陰ながら観てやっていたんだぞ!」
「ピカチュウ!おミャーもマニューラにゃんかに良いようにやられてんじゃにゃいのニャー!!」
「……ピィカ?」
それは成長って言うんだよ。時間を無駄にしなくなったのは良い事じゃないか。てかお前らあのバトル観てたんかい。乱入してきたらやなかんじーにしてやるだけだけども。つーか誰も観戦なんか頼んでねーし。
そしてマニューラが大嫌いなニャースに惨敗を指摘されたピカチュウがイラッとしたのが分かった。
「もうこうなったら実力行使よ!いっけー!アーボック!パルシェン!」
「お前達もだ!マタドガス、ウツボット!……だから俺を呑むなーー!!」
コジロウはウツボットに呑まれるワンクッションを挟んで、手持ちの中で比較的レベルの高い四体を放ち、結局いつも通りにポケモンバトルを仕掛けて来る。
「ゴウカザル、フローゼル!ぶちのめせ!」
「ピカチュウ!アイアンテールだ!!」
先に出ていたケンタロスを筆頭に俺達もゴウカザル、フローゼル、ピカチュウを投入して四対四の乱戦が始まる。……と言っても普通に俺達の方が強いのでゴウカザルがほのおのパンチでアーボックを、フローゼルがアクアブレイクでマタドガス、ピカチュウがアイアンテールでウツボット、ケンタロスがレイジングブルでパルシェンをそれぞれワンパンする。弱えなぁ……。
「ちょっと!?あっさりやられてんじゃないわよアンタ達!?「ピィカァ!!」ってあばばばばっ!?」
だがそこでピカチュウだけは止まらずにロケット団に追撃の10まんボルトをお見舞いしている。ニャースにマニューラへの負けについて文句を言われたのが本気でムカついたんだろう。声からしてもマジギレしてるのが良く分かる。マニューラのトレーナーの俺が言うのもなんだが、本当に悔しかったんだろうなぁ…。
時間が勿体無いので俺とサトシはそれぞれ相棒にロケット団へのトドメを指示する。
「ゴウカザル、だいもんじ!!」
「ピカチュウ、かみなりだ!!」
「え、ちょ…ま…」
コジロウが慌てて静止しようとするが、聞く耳持たん。容赦なくだいもんじとかみなりをお見舞いし、横転したメカ諸共爆発。いつものように吹き飛ばされて空高く舞い上がる。
「「「やなかんじーーー!!」」」
キラーンと空の彼方へ飛んでいくロケット団を無視して俺はテッセンと向き直る。
「……話が逸れた。バトルを受けねえってんなら…「いや、受けて立つ」…ん?」
バトルを受けると言ったじいさんの顔は憑き物が取れたかのようだった。
「君に説教され、そしてポケモン達を助ける為、全力を尽くして戦う君らを見て思い出したわい……。ポケモン共に全力で歩むべきトレーナーの姿……トレーナーとポケモンは助け合って生きてゆくもの。今回の負けは儂が落ち込むのではなく、同じ思いをしたポケモン達を儂が支えるべきだったんじゃ。模範となるべきジムリーダーが逆に教えられてしまったわい」
そう。クロスとのジム戦で落ち込む程のショックを受けたのはじいさん以上にじいさんが起用したポケモン達の方なんだ。トレーナーが落ち込む事なんていつでもできる。まずはポケモン達の事を第一に考えないといけない。
「儂とした事が近頃は守りに入り過ぎておったわい。ここらで心機一転!電撃人生の巻き直しじゃ!!」
「では先生!ジムリーダーは続行ですね!良かった!本当に良かった!」
泣いて喜ぶワットさんにこういう時は笑えというじいさん。すると今度は俺に向き直る。
「時に少年よ」
じいさんはニヤリと笑いながら、モンスターボールを取り出してさっきの俺同様に突き出してきた。
「ジムリーダー側の交代制限無しでの本気のバトルと言っておったな?男に二言は無い……そうじゃな?」
どうやら昔の熱い気持ちを思い出したじいさんは復活記念の本気バトルの相手としても俺を選んだらしい。勿論サトシともジム戦はするが、俺は特別なんだとか。
「……上等!腑抜けが本当に治ったか確かめてやんよ!」
元々今回はでんきタイプのジムという事もあってシンオウでの消化不良部分の払拭も兼ねて本気のバトルをするつもりだったんだ。ジムリーダーがポケモンリーグさながらの交代有りのガチバトルをしてくれるのなら願ったりだ。
ジム戦が決まり、キンセツジムに戻る道中、ハルカが不思議そうな顔をして耳打ちしてきた。
「ねぇミテキ、さっきのテッセンさんとの話なんだけど、どうしてあんなに怒ってたの?そりゃポケモンの気持ちになれっていうのは私もなんとなく分かるけど……何て言うか、本当にそれだけだったの?」
女の勘は鋭いと言うがハルカもそうらしい。上手く言語化はできていないみたいだが、俺の言葉の中に違和感を感じていたようだ。
「……別に、じいさんのポケモン達が可哀想だったから。それだけだよ」
まだ何処か違和感はあっただろうに、それでもハルカは一応は納得してくれて、今度はマサトやタケシと夕飯の話で盛り上がる。
……みみっちいプライドで俺はハルカに本音は話さなかった。好きな女の子にカッコ悪い過去話なんて話したくなかったから。
確かにじいさんのポケモン達の事を思って言ったのは事実だが、ハルカの言う通りそれだけじゃない。
本当はハッキリ分かっていた。このじいさんの腑抜けた様を見て苛ついたのは、あの日の俺とヒコザルの姿とダブって見えたからだ。もしかしたら俺達が歩んでいたIFの姿かもしれないと思ったから。
俺と当時ヒコザルだったゴウカザルの旅は、強い敗北感に打ちのめされて始まったんだからな。
だからこそ、苛ついた。まるであの瞬間から立ち直れなかった自分を見てる気がしたから。でんきタイプのジムリーダーがどうとかなんて、それを誤魔化す為の建前だ。
一緒に旅をするのを頑なに断ったのも振り回されるのが嫌だからじゃない。次に会った時に、ちゃんと強くなった所を見せて、その上で絶対に負けたくなかったからだ。俺も。ヒコザルも。
アレはあいつにとって……いや、誰がどう見たって勝負でも何でもなかった出来事だった。だからこそ、余計に自分達が惨めに思えた。
「……あいつにはもう二度と負けたくねえ」
誰にも聞こえないような極小さな声で俺は無意識に呟いていた。
次回、ジム戦です。