釘崎野薔薇の頭の中には自称堕天使がいる 作:明月
ぬるま湯に浸かっているかのような思考と共に、釘崎野薔薇は夢を見ていた。
さっきまで何をしていたかも思い出せず、朧にしか見えない視界とこれが夢だという確信のみがある、それが今の彼女だった。
「天皇にすら牙を向くか、いったい君は何がしたいんだ?」
「異物でしかない僕が確かにこの世界に存在したって意味と証拠を残すんだ、それくらい君がわからないはずがないだろう?ねぇ天元」
聞き覚えのある声だった、いつも頭の中で語りかけてくる堕天使の声にそっくりだった。
それが何を意味するかは、茹だった脳では考えられなかった。
一呼吸置いて、少し荒くなった口調で彼は話し出す。
「インターネット、ハンバーガー、ラーメン、何一つない。何もないんだよこの時代には。そんな時代に、現代っ子が転生してきたんだ」
天元と呼ばれた白髪の女性は、黙って堕天使によく似た声の主の話を聞いていた。
二人は畳の上に座っていて、間には囲炉裏があった。
茶菓子のようなものも置かれていて、現代日本ではなかなかお目にかかれない光景だった。
「元の時代になんて戻れやしないのはもうわかってる……なんで僕は生まれ変わったんだ?衛生も食も娯楽も碌なのがないこの時代で、それでも僕は死にたくない。もう一度死ぬのなんて嫌なんだ」
声には熱が籠ってた。
少し冷えた脳みそで考えれば、この声の主の視点から自分は夢を見ているのだろうということがわかった。
その証拠に、天元という女性の姿は見えるのにこの声を発している人はいつまで経っても見えてこない。
自分の声を聞いた時みたいな、くぐもった音が聞こえてくる。
「だから、せめて意味が欲しいんだ。必死にこの時代を生きてきた意味が、死なないように頑張った報いが、あると信じたいんだ。だから僕は歴史を変える、そのために天皇には死んでもらう。前も言ったでしょ?」
「……あぁ、だがそれでは君が
天元が咎めるような声を出す、そういえば天元とは高専結界の要の存在ではなかったかと、野薔薇はおばあちゃんから教えられた知識を思い出していた。
「……まぁ、聞かれるととは思ったけどさ。僕■■だか■■■運■■─────」
ノイズが走る、耳障りな音が夢を妨害する。
そしてようやく、釘崎野薔薇は思い出す。
そうだ、自分は人型の呪霊と出会ってそのまま意識を失って、そして──────