私は、結婚することになった。
弟たちは家を出る準備を始め、1件から仲の良くなれたエーリッヒ、ヴェンデリンも表向きは距離を置いている。
「ヴェンデリン、眠れないのか」
「はい、クルト兄さんは」
「今晩もだ、嫌な予感ばかりだ。モンスター達の中で勢力図が変わったらしい。ドスゲネポス、ドスジャギィ、そして……奥地から出てこなかったジャグラスまで出てきている。おそらくはドスジャグラスに率いられた者達だ。三つ巴の勢力争いだ」
「あの……モンスターは」
「モンスターに魔石はない、モンスターというが、奴等は魔石を有さない古来から自身の進化を続けてきた優良種に過ぎないのだ。だが、その優良種に人間は負ける場合もある、まったく……」
「クルト兄さんはハンターとして動くか、モンスターの話をしている時が一番元気ですね」
「俺は……こんな辺境から出たかった。だから…その気を紛らわせるためにハンターをしているのかもな。でも……俺はハンターだ、自然の調和を守り、戦う」
「……クルト兄さんは残るの?」
「泥舟でも、守らなくてはならない」
「でも、クルト兄さんは」
「……俺に経営の才能はないよ、教えてくれる人も居ない。もし、ここが発展するならお前かエーリッヒの力さ」
俺は自分の限界を知っている、俺はハンターだ。
モンスターハンターなんだ、領主になれる器じゃない。
誰かの上に立つ人間じゃない、ハンターなんだ。
後輩を鍛えることもあるだろうが、俺は……
時が立つのは早いと感じる、俺はなれないスーツを来て、ドレスを着ている妻になる女性アマーリエの隣を歩いている。愛せない、子供は作るが、やはり本気になれないだろう。
弟達はその後、家を出た。
俺個人の餞別として、簡単なものを贈った。
奴等が理解するかわからないが、火竜の鱗はそうそう出回らない。
「……俺は」
ヴェンデリンとも話す時間は無くなっていく。
アマーリエとヴェンデリンは年の離れた姉と弟のようで見ていて気分が良い。
だが、俺と父アルトゥルとの距離は開いていくばかりだ。
親父の前で無能を演じ続け、けして妻には手を出さない。
殴ることも怒鳴ることもしない、この辺鄙な地で女性の立場は低い。
だが、それでも………
「クルト兄さんはアマーリエ義姉さんと話すことは」
「あまりないな、」
「どうしてです?」
「……お前には速いよ、まだ……酒も飲めないお前には」
ヴェンデリンの頭を優しくなで、寝室に向かう。
結婚してから、狩りはできなくなった。
何時か、モンスターの氾濫が起こるだろうか。
わからない、生態系が崩れたら……
「もう……無理かもしれないな」
12歳になったヴェンデリンともここから立ち去ることになる。俺は弟達と同じ様に火竜の鱗を手渡した。
「これは?」
「ソイツは、空の王者と呼ばれるモンスター。リオレウスの鱗だ」
「!」
「俺は、リオレウスと戦い、勝った。その時の戦利品だ。金がなくなれば売れ、ソイツは……かなりの金になる」
モンスターの素材は高値で売れる、魔石は無いが、リオレウスの品ともなれば高価だ。
「なんで……」
「雛鳥は何時か羽撃く。……ヴェンデリン、鳥が何故空を飛ぶかわかるか?」
「そんなの、鳥だから?」
「……きっと、別の答えが見つかるさ。だから、どうか……この答えを何時か聞かせに来てくれ」
翌朝、ヴェンデリンが出立した。
見送りは俺とアマーリエだけだった、父も、母も、お家騒動を想像しているせいだ。
「行ってきます」
「……」
「行ってらっしゃい、ヴェルくん」
涙が溢れてくる、弟の門出だ。
「クルト兄さん、目から汗が出てますよ」
「……茶化すな………泣いてるだけだ」
「あらあら」
笑われるが構わない。
嬉し涙だ、雛鳥は必ず羽撃く、俺と弟のように鎖で繋がれた訳では無い。
必ず、自由になっていく。
「……ヴェンデリン・フォン・ベンノ・バウマイスター。お前が望むならその、家の名すら捨ててしまえ」
「……ありがとう、クルト兄さん」
ヴェンデリンは転移で消えていった、俺は、違うな。
俺の中で弟達がどれほど大きかったかわかった。
「何時も仏頂面な貴方の涙は始めて見たわ」
「……忘れろ、お前には関係無い」
アマーリエとは必ず距離を取る、でなければ俺は………
数カ月後、ヴェンデリンが古龍討伐の報酬により貴族に叙された新聞がブライヒレーダー辺境伯からの支援隊により届けられた。
魔石という話だから、きっと古龍ではなく魔物だろう。
正直、魔物如きが古龍を名乗るのは許せない。
奴等は竜にすら及ばないのに……
「どうすればよいのだ」
そして、悩んでいるのは親父だ。
エーリッヒが結婚するらしい、俺は即座に出張を決めた。
「ブライヒレーダー辺境伯に持参金の支援を頼んできます」
「……うむ、それしかあるまい」
俺はそう、嘘をついて家から出た。
「……猶予はある」
森へと入り、キャンプで装備を整える。
そして、竜紋一式とストームスリンガーを装備してリオレウスに攻撃を仕掛けた。
「出ない」
リオレウスか居ればリオレイアも来る。
火竜の巣を捜索し、卵を手に入れる。
後は用意していたアプトノスの馬車に乗せる。
「ニャー」「ニャー」
「もう、うるさいにゃ〜!ハンターさん!ギルドからの感謝状にゃ、それに許可証にゃ」
「ありがとう、ネコタクさん。ギルドから俺に依頼があれば教えてくれよ」
皆がお馴染みアイルー。
彼等は森の中にテリトリーを作っている。
話していたのはネコタクさん、ギルドから派遣された受付嬢ならぬ受付アイルー♀だ。
この頃、この森の存在が王国にバレそうである為に表に出る一環としてネコタクさんが送られてきた。
無論、ネコタクさんの本業は運び屋だ。
俺が納品した火竜の卵と、リオレウスとリオレイアの装備一式。
それだけでなく大貴族を越える資金を運んでくれる。
ありがとう、ネコタクさん。
《ヴェンデリン》
「エーリッヒ兄さん、あの……コレは?」
「あぁ……コレね」
エーリッヒ兄さんの結婚式で、一際目立つ品が置いてあった。金属と生物的な鱗を加工したと思える装備。
真紅の鎧と緑色のドレスを思わせる鎧。
そして、巨大な卵、謎のキノコ、よくわからない木の実や草花、そして、いったい幾らになるのかわからない程の金。誰が送ったのか人目でわかる。
「……これだけあるならブライヒレーダー辺境伯に返せるだろうに」
「…兄さん、家の事嫌い過ぎでしょう」
「………ヴェル、コレお前の兄さんが」
「うん、まぁ……なんというか」
「嘘だろ、何処にそんな金が」
「……ブランタークさん、ハンターって」
「…わかった、何も言うな。俺は聞いてないし、お館様にも報告はしない。お前たちも良いな、聞くな。絶対だ」
ブランタークさんはわかったみたいだ。
やっぱり、冒険者とハンターは仲が悪いみたいだ。
と言うより、顔色が悪い。
「あの、ブランタークさん。ハンターって」
「聞くな、っても、無理か…ハンターはな。ハンターズギルドっていう組織に所属してる。坊主の兄貴がハンターなら、これぐらい簡単に稼いで渡すさ」
「え?」
「でも、これって見た目も怖くて」
「お前が言えるわけねぇだろ、この鎧の素材になる奴等は火の魔法は効果ねぇ、風で切り刻んでもケロッとしてやがる。教えてやる、ハンターは総じて人外だ。魔法では殺せない。敵対するなよ、死ぬぞ」
魔法でも死なない、兄さんは何百メートルから落下しても死なない様になったとも言っていた気がする。
と言うより、モンスターの火球や雷撃を受けて痺れたりするだけなのもおかしいけど。
「……あー、もしかしたら来るかもよ」
空に向かってスリンガーで救難信号をあげる。
「……モンスターが居ないのに何のようだ」
「……ごめんなさい」
間もなく、眼の前には昔転生前に見たハンターシリーズを着ているクルト兄さんがいる。
クルト兄さんは救難信号を取り消すと、頭を殴ってきた。
「無駄な事に救難信号を使うな!」
「ごめんなさい」
クルト兄さんは本みたいな何かを広げると指笛を吹いた。
そしたら、着た時と同じように翼竜に捕まって消えた。
「……マジでハンターなのかよ」
「ヴェル、あの人凄い……気配なんて」
「……」
クルト兄さんば兄弟を怒らない人だったけど、今始めて叱られたかもしれないな。
「今度会えたら、ちゃんと謝らないと。今度、実家に行こうかな」
クルト・フォン・ベンノ・バウマイスター。
エーリッヒ兄さんと同じく、仲の良い兄弟だから。