おしゃべりしよう   作:渋音符

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思いついたので、のんびりと書きます。


テキサスと 1

 

 

 龍門の天気は曇り。空は分厚い雲に覆われており、風には湿気が含まれている。今にも雨は降り出しそうだが、幸いなことに今日の天気予報では雨は降らないらしい。問題はその天気予報士の予報は六割で外れることくらいだ。

 何の気なしに入ったカフェでシラクーザ産のコーヒーを見つけ、注文する。適当に座ろうと店内を見回すと、窓際に見知った顔を見つけた。

 

「よ、テキサス。相席いいか」

「……構わない」

「助かる。店主、出来上がったらこっちにお願い」

 

 初老の兎人(コータス)にそう告げてから腰を下ろすと、正面に座っていた黒髪の狼人(ループス)が目線を向けてきた。

 橙とも赤とも言い切れない不思議な色合いの瞳。長い黒髪は、特段手入れしているようには見えないのに綺麗な艶がある。一見すると素っ気ないが、本当の所は情に(あつ)いところもある彼女は、名をテキサスという。ペンギン急便という、どう考えても平和な名前してるくせにマフィアやらなんやらとドンパチしてる会社に所属していて、「テキサスに運転で右に出る奴はいないよ(ある意味)!」とは能天気な赤い天使(サンクタ)の談だ。

 

「いつの間にシラクーザから戻ってきてたんだ?」

「つい先日、な。いろいろ落ち着いたから、休みを貰ったんだ」

「そっか。エンペラーには、もう顔見せたか?」

「ああ。変わりなかったよ」

「そうか」

 

 程なくして出来上がったコーヒーが運ばれてくる。鼻を(くすぐ)る香りから、既に風味が感じられた。少し口に含むと懐かしい気持ちに襲われる。シラクーザ産の豆だから、というだけではない。

 

「この店はよく来るのか?」

「向こうに行く前は常連だった。急にどうかしたのか?」

「いや、何。ここにシラクーザのコーヒーがある理由が分かったよ」

「そうか」

 

 向こうで飲み慣れた味。偶然でなければ、テキサスが向こうから持って来たのだろう。ここの店主へのお土産代わりなのか、それとも彼女が単に飲みたかっただけなのかは定かではないが、きっと前者だ。

 暫く、沈黙が続く。お互いにカップを少し傾けてはソーサーに置き、窓の外の喧騒や手元の端末を眺める。こうした時間は珍しくない。他にペンギン急便のメンバーがいなければ、彼女は進んで口を開かないだろう。しかし、こうした沈黙が嫌いな訳ではない。少なくとも俺はこの独特な沈黙を好ましいと思ってすらいる。

 

「ん」

 

 カップの残りが少なくなり始めた頃、チョコレート菓子が一本差し出された。テキサスの好きな菓子の、確か新しいフレーバーだったはずだ。

 ありがたく受け取ろうとして、手が止まる。そういえばここは、曲がりなりにも飲食店の中ではなかっただろうか。

 

「おい」

「どうした。食べないのか」

「いや、一応ここ、カフェだろう」

「ここの店主は気にしないさ」

 

 カウンターに目線を向ける。店主は穏やかな笑みを浮かべ、少し頷いた。それを見て、店主がそういうのであれば仕方がないと、差し出された菓子を受け取り、口に含む。すぐに広がったのは、ブルーベリーの風味だった。

 

「……美味いな」

「だろう?」

 

 やけに自信ありげに笑うのが、少しだけおかしかった。

 




気が向いたら続きます。
主人公の名前は、多分次回には出ます。
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