龍門の天気は曇り。空は分厚い雲に覆われており、風には湿気が含まれている。今にも雨は降り出しそうだが、幸いなことに今日の天気予報では雨は降らないらしい。問題はその天気予報士の予報は六割で外れることくらいだ。
何の気なしに入ったカフェでシラクーザ産のコーヒーを見つけ、注文する。適当に座ろうと店内を見回すと、窓際に見知った顔を見つけた。
「よ、テキサス。相席いいか」
「……構わない」
「助かる。店主、出来上がったらこっちにお願い」
初老の
橙とも赤とも言い切れない不思議な色合いの瞳。長い黒髪は、特段手入れしているようには見えないのに綺麗な艶がある。一見すると素っ気ないが、本当の所は情に
「いつの間にシラクーザから戻ってきてたんだ?」
「つい先日、な。いろいろ落ち着いたから、休みを貰ったんだ」
「そっか。エンペラーには、もう顔見せたか?」
「ああ。変わりなかったよ」
「そうか」
程なくして出来上がったコーヒーが運ばれてくる。鼻を
「この店はよく来るのか?」
「向こうに行く前は常連だった。急にどうかしたのか?」
「いや、何。ここにシラクーザのコーヒーがある理由が分かったよ」
「そうか」
向こうで飲み慣れた味。偶然でなければ、テキサスが向こうから持って来たのだろう。ここの店主へのお土産代わりなのか、それとも彼女が単に飲みたかっただけなのかは定かではないが、きっと前者だ。
暫く、沈黙が続く。お互いにカップを少し傾けてはソーサーに置き、窓の外の喧騒や手元の端末を眺める。こうした時間は珍しくない。他にペンギン急便のメンバーがいなければ、彼女は進んで口を開かないだろう。しかし、こうした沈黙が嫌いな訳ではない。少なくとも俺はこの独特な沈黙を好ましいと思ってすらいる。
「ん」
カップの残りが少なくなり始めた頃、チョコレート菓子が一本差し出された。テキサスの好きな菓子の、確か新しいフレーバーだったはずだ。
ありがたく受け取ろうとして、手が止まる。そういえばここは、曲がりなりにも飲食店の中ではなかっただろうか。
「おい」
「どうした。食べないのか」
「いや、一応ここ、カフェだろう」
「ここの店主は気にしないさ」
カウンターに目線を向ける。店主は穏やかな笑みを浮かべ、少し頷いた。それを見て、店主がそういうのであれば仕方がないと、差し出された菓子を受け取り、口に含む。すぐに広がったのは、ブルーベリーの風味だった。
「……美味いな」
「だろう?」
やけに自信ありげに笑うのが、少しだけおかしかった。
気が向いたら続きます。
主人公の名前は、多分次回には出ます。