ついでに次回に続きます。
「ふぅ……」
「……終わったな。お疲れさん」
「あ、はい。お疲れ様です、トゥオーノさん」
残心、そして血振りを終わらせたメランサは、戦闘中に見せた
「……目撃情報はこのオリジムシ達のことだったんでしょうか」
戦い方の擦り合わせを終えた後、目撃情報があった地点に赴いた俺達は、オリジムシの群れを発見した。ただ、術士に操られているような様子はなく、また、亜種の姿も確認できなかったので、そのまま二人ですべて斬り伏せた。
「おそらくな。けど、他にいないとも限らない。とりあえずは経過報告をしておかないとな」
「そうですね。本部に連絡します」
メランサが無線機を取り出して通信を始めるのを見ながら、剣にこびりついたオリジムシの体液を拭う。彼女の様に綺麗に血振りができるほどの腕は俺にはない。何せ俺の剣術は我流だ。何なら剣術と言うのも憚られるくらい、目も当てられないものだという自覚もある。
それに比べてメランサが戦闘中に見せた剣撃は、綺麗だった。動きに淀みがなく、するりと感染生物を斬ってみせる姿は思わず見惚れるほどだった。
「報告、終わりました。引継ぎの部隊と交代して良いそうです」
「お、そうか。なら改めてお疲れ様」
「はい。……あの、トゥオーノさん」
「ん?どうした?」
「その、お時間があれば、でいいのですが……」
こちらを見上げ、目を伏せ、視線をあちらこちらへとやり、ややあって、切り出した。
「少し、付き合っていただけませんか……?」
◇
龍門の天気は相変わらず曇り。ロドス本艦には戻らず、近衛局で軽く汗を流す。流石は大都市の公的機関のシャワー室といったところで、随分と設備が充実していて逆に困った。ただ、髪や尻尾の手入れに気を遣う隊員にとっては至れり尽くせりなんだろう。同じループスでも、俺の堅く荒れた尻尾とテキサスのしなやかな尻尾を比べれば一目瞭然だ。まあ、テキサスが気を遣っているというよりかは、俺が気を遣っていないということに他ならないのだが。
近衛局のエントランスの一角に腰掛け、鞘から相棒を引き抜く。隊員達がこちらに警戒の視線を向けるのを尻目に手入れ道具を広げ、刃の状態を確かめていく。本格的な調整はヴァルカンに任せているが、長年扱った武器だ。研ぎ方くらいは理解している。
そうこうしている内に、ぱたぱたという足音が聞こえてきた。視線を上げると、微かに湯気を漂わせたメランサがこちらに向かってきていた。湯
「お待たせしました」
「いいや。丁度やらなきゃいけないこともあったしな」
「えっと、ご自分で手入れされてるんですか?」
「ああ。といっても軽めにな。ヴァルカンの方が上手いし、俺がするべきことって訳でもないが」
「でも、随分と手際が良いように感じます」
「ずっと使ってるからな。嫌でも覚える」
「私も覚えた方が良いんでしょうか」
「今はいらないだろうが、覚えておいて損はないな。ロドスを長く離れないといけない時、こういう技術が役に立つだろう」
「……見ていていいですか?」
「いいけど、俺のやり方を真似するなよ。結局は我流だからな」
「はい。でも、トゥオーノさんのやり方も気になるので」
「そうか」
隣にメランサが腰掛ける。それを見てから、止めていた手を動かした。刃の状態は悪くはない。
「待たせたな」
「いえ。見たいと言ったのは、私なので……」
「ならいい。それで、わざわざ待ち合わせなんてして、一体俺は何に付き合わされるんだ?」
「あ、えっと、その、少しお話が聞きたくて」
ちらりと辺りを見る。数人の隊員がこちらを注視している。今更別に何とも思わないし、それに、視線の数も少ないからどうってことはないが、その視線はメランサの左肩――正確にはそこに露出した源石結晶に視線を向けている。一応は感染者に対する認識も変わってきているのだろうが、水面下はそうもいかないというところか。
「そうだな。そういうことなら場所を変えよう。良いカフェを知ってるんだ」
「カフェ、ですか?」
「人が少なくて、コーヒーが美味いんだ。頼んだことはないが、紅茶も置いてあったと思う。スイーツも充実していたはずだ」
「スイーツ……!」
そう言葉を漏らしながら目を輝かせる様はまさに年頃の少女そのもの。内向的な少女にこのような表情をさせるのだから、やはりスイーツは偉大だ。
近衛局から出て曇り空の下を歩く。今日の天気予報は確か必ず豪雨になると言っていた。今日も外したようで、友人とした賭けの結果もこれでは思いやられる。また飯を奢らされることになるだろう。しばらくあいつの部屋付近には近寄らないでおこう。
テキサスと出会ってから幾度か通っているため、カフェへの道のりはかなりスムーズだ。記憶が覚えているというよりは足が覚えているという感じ。龍門もかなり歩き慣れてきたが、またしばらくすると離れなきゃいけないんだろうな、と少し寂しさを覚える。
カフェに入るといつも通り店内は客が少なく、コータスの店主が微笑みを浮かべる。
「いらっしゃいませ。おや、今日はお連れ様がいらっしゃるようですね」
「ああ。俺はいつも通りで、この子にはヴィクトリア産の紅茶を。デザートはどうする?」
「えっと、じゃ、じゃあ、このチーズケーキで」
「だそうだ」
「かしこまりました。いつもの席が空いていますよ」
「助かる。メランサ、こっちだ」
店内を勝手知ったるという風に進む。窓際の一角に腰を下ろし、その正面にメランサも腰掛ける。端末を起動しようとして、止める。一応は彼女の話を聞くということだった。
シラクーザの豆の香りと、ヴィクトリアの茶葉の香りが交わって、少し不思議だった。運ばれてきたそれをお互いに一口含み、落ち着いたところで、メランサが口を開く。
「あの、トゥオーノさん」
「何だ?」
「良ければ戦い方を教えてもらえませんか」
カップを傾ける手が止まる。ちり、と頭を何かが掠めていく。それは昔の記憶だ。
「どうしてまた急に?ドーベルマンの訓練を受けているんだろう?それに、BSWから来たオペレーターにも教わっていると聞いたが」
「それは、そうなんですが……」
「……今日の任務で何か思うところがあったか」
そう言うと、こくんと頷いた。その表情は今日の戦いを思い出しているのか、それとも他のことを考えているのか。
「私の剣は、よく綺麗だと言われます」
確かに。脳裏によぎった彼女の剣閃は、綺麗な銀だった。
「ただ、戦い方に柔軟性がないと言われて」
「それで、どうして俺に?」
「トゥオーノさんの剣は、その、率直に言うと、自由に見えたので」
随分オブラートに包んだものだ。それとも、本当に自由に見えたのだろうか。
無言で続きを促すと、メランサは続けた。
「防ぐのも、斬るのも、型破りと言いますか、そもそも型に嵌まっていない気がして。それで、その戦い方を教えてもらえれば、私の剣にも幅が出るんじゃないかって」
「……なるほど」
一理、というか、かなり真っ当な意見だ。確かにメランサの剣は、見たところ
ただ、私情としては、あまりお勧めしたくなかった。
「そうだな。確かに幅は広がるかもな」
「なら――」
「ただ、悪いが俺の剣は合わないと思う」
「えっと、それは、我流だからですか?」
「よく分かったな。確かに俺は何処かで剣術を習った訳じゃない。ただ、理由はそれだけじゃない」
「どんな理由ですか?」
どう言ったものか。少し悩んで、コーヒーを含む。結局、思ったことをそのまま口にすることにした。
「メランサが使っているのは、多分、相手を制圧する、謂わば活人剣という奴だ。対して俺が振るってるのは、どんな手でも使う、ある意味で卑怯な剣だ」
そう口にすると、メランサも理解したのか、気付いたような表情を見せる。
軽く頷いて、端的に口にした。
「君に、人を殺す剣は似合わない」
言ってみると、何だかそれが一番的を射ている気がした。
トゥオーノ 個人履歴
トゥオーノは、シラクーザ出身の自称傭兵。
ペンギン急便のメンバーであるテキサスの紹介によってロドスで治療を受けており、同時に前衛オペレーターとして加入。単独戦闘や撤退戦、偵察任務に赴くことが多い。