メランサ視点です。
今回でメランサ編は取り敢えず終わり。
――トゥオーノさんのことは前々から知っていた。
ドーベルマン教官との訓練中、茶色い毛並みをしたループスの男性が訓練室を覗いていることがあった。訓練が終わってから探しても、その時にはもう訓練室から去っている。教官に聞いてみると、トゥオーノという名前のオペレーターだと知らされた。
「どうして、その、トゥオーノさんという方は私たちの訓練を見ていたのでしょう……?」
「さてな。彼の考えは私には分からない。大方、自分の戦い方に活かせないか観察していたのだろう」
「えっと、教官から学べばいいんじゃないでしょうか?」
「彼には我流が染みつき過ぎている。私の『訓練』は合わないだろう」
その時の教官の目を覚えている。どこか遠くを見つめているような、悲しさを含んだような、そんな眼差し。トゥオーノさんと肩を並べたことがあるのだろう。その時のことを思い出しているようだった。
目の前のトゥオーノさんは、あの時の教官と似た目をしている。コーヒーに落とした視線が、何処か物憂げで、寂しそうだ。
「私に、人殺しの剣は似合わない、というのは」
「気を悪くしたか。悪い」
「いえ、そんなことはありません。ただ、トゥオーノさんの剣は、そういうものには見えなかったので……」
「……ああ、そういうことか」
そう問いかけると、彼はコーヒーを口に含む。漂ってくる香りはあまり嗅ぎ慣れないもので、ただ、良い匂いだと言えるものだった。
「メランサは、俺の剣が自由に見えたんだったな」
「はい」
脳裏で思い返す、トゥオーノさんの太刀筋。
オリジムシを蹴り上げ、その腹部に剣を叩きつけ、斬り捨てる。荒々しい動きだけれど、洗練されてもいる。剣士というより、戦士の戦い方。
その印象をそのまま伝える。すると、彼は一瞬だけ目を見開き、そして笑った。
「鋭いな。少し見ただけで、そこまで分かるのか」
「えっと……?」
「俺は、ここに来る前は傭兵をやってたんだ。多くの人を殺した。感染者かどうか関係なく、戦えるかどうかも関係なくな」
傭兵。そういう職業があるのは知っているし、腕に覚えがあれば稼ぐことができるという意味で、傭兵以上に割のいい職業はない、と聞いたことがある。
ただ、彼は言った。感染者かどうか、戦えるかどうか関係なく殺したと。
「それは……」
「俺の剣は、相手を殺す剣だ。身を守る相手を、布団にくるまっている相手を、子どもを連れて逃げようとしている相手を、俺は殺してきた」
気付いた。彼の眼差しは、物憂げな表情は、きっと、彼の過去に向けられている。
彼が殺めてきた命を、彼は憂いているのだ。
「だから、俺から剣を教わるのは止めておけ」
「……はい。分かりました」
トゥオーノさんのその言葉に、私は頷かざるを得なかった。それに対して、彼はふわりと笑った。その笑みがあまりにも儚げで、少し怖くなった。せっかく任務を通して知り合ったのに、何処かに行ってしまいそうな感覚。
「でも、手合わせするくらいなら、構いませんよね……?」
「……そうだな。それくらいなら、いいか」
「本当、ですか?」
「嘘はつかねえよ」
「なら、ロドスに戻ったら早速お願いします」
「分かった。が、先にすることがあるんじゃないか?」
「先に……?」
ちょうどそのタイミングでチーズケーキが運ばれてくる。ちょこんと皿に乗っている、シンプルなケーキ。そういえば、頼んでいたんだった。
「食って食休みしたら、手合わせしてやるさ」
「分かりました。じゃ、じゃあ、いただきます」
「おう。食え食え」
フォークで一口分に切り分けて、口に運ぶ。しっとりとした口どけとほんのりとした甘み、酸味が任務の疲れを癒してくれる。
「美味しい……!」
「それはよかった」
トゥオーノさんが再び笑みを浮かべる。今度の笑みは、陽だまりのような暖かいものだった。
ちなみに、一度書いたオペレーターも気が向いたら続きを書きます。
特にテキサスは推しの一人でもあるので、タイミングを見計らいつつ書きます。