正月明けから少し血生臭いお話。
最初に書こうと思っていたものとどんどん離れていく気がします。作品タイトルを付け直した方が良いかもしれないですね。
血は水よりも粘性が高い。水は透明でさらさらと流れるが、血は粘着いていて、踏みしめると気色の悪い感覚に襲われる。それは血溜まりにいくらかの肉片が混ざっているからかもしれないが、血飛沫を浴びた時も似た感覚に襲われるのだから、きっと血というものそれ自体に粘着きがあるのだろう。
「……やっと終わったか」
びちゃり、と刃から血肉が
メランサとの任務から数日が経ち、俺は久々の外勤任務に駆り出されていた。荒野に潜む感染者の集団が何やらよからぬ計画を企んでいるという情報を手に入れて、その調査と偵察のために俺が選ばれた。
ただ、ドクターの見立てでは、十中八九偵察だけで終わらないだろうとのことだった。相手の計画がほぼ確実にロドスとは相容れないものであるだろうという読みだった。場合によっては始末しなくてはならないとも。
「こういう任務はラップランドの専門だと思ってたんだが」
シラクーザでの色々があってから、あの銀色のループスの姿は見かけていない。テキサスも彼女のことを気にしているようだったが、心配はしていない様子だった。一番の敵であり友人でもあるテキサスが心配しているのだから、こちらも心配するだけ無駄というものだが、彼女の分の仕事がこちらに回ってくるのはスケジュール的にも内容的にもかなりハードだ。
結局、ドクターの読み通り、計画はかなりの被害を出すものだった。非感染者も感染者も関係なく死人が数多く出るだろうことが予測されるような、その癖にその計画が実行されることで生まれるものが何もないような、そんな
「わぁ、派手にやったねぇ。殺しちゃったのぉ?」
「殺しはしていないぞ。ただ、峰打ちにする余裕もなかった」
「医療班はぁ~?」
「もう呼んでるよ。後はこいつらの捕縛をして任務終了だ、クルース」
「はぁい」
引っ掛け糸を束ね、ロープ代わりにして倒れ伏している感染者を縛り上げるのは、俺とともにこの任務に派遣されたクルースだった。主に外勤任務を受け持っている彼女は、こういった事態にも慣れているようで、非常に手際よく感染者達を縛り上げ、一纏めにし、傷が深い物には応急手当を施している。それを見て俺も剣は手放さないまま、捕縛を手伝うことにした。
殺しは厳禁だと、ドクターからは指示を受けた。身の危険を感じたら迷わず殺害しろ、とケルシー先生からは言われた。結局は殺さないように手加減する余裕も。相手を殺すだけの技量も俺にはなく、結果として半殺し程度に収まった。
「トゥオーノさんはとっても強いって聞いてたんだけどぉ、ここの人達はそんなに厄介だったのぉ?」
最後の感染者を捕縛し終えたところで、手持ち無沙汰になったのか、クルースがそう問いかけてきた。
「……俺が強いってのは誰から聞いたんだ?」
「ロドスでは結構有名だよぉ。『負け無しのトゥオーノ』って呼ばれてるとかぁ」
「呼び名は知らないし、負け無しってのはただのデマだな」
「そうかなぁ?トゥオーノさん、強そうに見えるけどなぁ」
クルースは独特の間延びした声で、心底不思議だ、というような表情を見せる。その疑問を解消してやる義務はないが、別に隠しているような話でもないので、最初の疑問に答える。
「まあ、ここの奴らが厄介かどうかで言えば厄介だったさ。自分達は間違ってない、正しいと思っている。信念のためなら命を投げ出すなんて嘯く。変に覚悟が決まっていて、命を惜しいとも思っていない。そういう奴らが一番厄介だ」
「……そうだね。私もそういう人は嫌いかなぁ」
少し冷ややかな空気を感じ取る。クルースの表情が一瞬だけ、無に染まった気がした。ただ、すぐににこやかなものに戻る。きっとそれはクルース本人が抱えている事情に関わっているのだろうと思ったが、藪蛇をつつく気はなかった。
『――トゥオーノさん、もうすぐそちらに到着します』
無線が繋がる。馴染みの医療オペレーターの声が耳に入り、彼女らの到着を知らせた。
「了解。クルース、医療班が到着した。引き渡しに――」
そうクルースに声をかけようとした瞬間、視界の端に何かが動くのを捉えた。きらりと光るそれは、クロスボウの
ばつん、と弦が弾かれる。装填されている太矢が空を裂き、飛び出した。それは迷うことなくクルースを狙っている。
(――間に合わない)
完全な死角からの射撃。音を聞いたクルースが咄嗟に回避行動をとろうとするが、地面を蹴ったのが裏目に出た。空中に飛び上がったクルースは、二射目を避けることはできない。射撃手の手にはもう一丁のクロスボウが装填済みの状態で握られている。
一射目と間髪入れず、二射目が放たれた。