「多分、俺は
「『LOVE』じゃなくて『LIKE』側で。」
「なんて言うんでしょう?『親愛』とか『友愛』とかそんな感じです。」
「…アビドス高校の借金はもう返せないのかもしれません。」
「『砂狼』は…後輩は未だに頑張ってますけど。」
「俺は、なんか頑張れなくて。」
「…あぁ、くそ。ここでするような話ではなかったな。」
「まぁ、また来ますよ。小鳥遊、ユメ先輩。」
「……もっと早くに言えればよかったんですけど。」
「ありがとうございました。」
「それと、行ってきます。」
──────とある時間軸における影使いの少年の独白──────
「『脱兎』、『玉犬』、頼んだぞ。」
伏黒は今、自分の影から二体の犬『玉犬』、大量の小さなウサギ『脱兎』を出現させ、それらと異様な雰囲気で向き合っていた。
『十種影法術』、それは自らの影に潜む『十種』の『式神』を召喚するというもの。召喚の際には影絵を作る必要があり、『玉犬』は犬、『脱兎』はウサギ、『満象』は象…といったように、式神はそれぞれに対応した動物の影絵で召喚される。ただし、最初に与えられるのは二体の『玉犬』のみであり、他の式神を使役するには『調伏』という儀式を一人で行う必要がある。(二人以上でも調伏そのものは始めることは可能だが、倒してもその式神を使役することはできない。)
無論、今彼が召喚したこれらの式神は『満象』や『鵺』と同じく調伏済みであり、伏黒は自由に使役することができる。
では、なぜここまで調伏を始めるような異様な雰囲気でこれらと向き合っているか…それは
「玉犬はお客さんの案内。」
「「ワン!!」」
「脱兎たちは半分は店先で客寄せと、もう半分は店内で玉犬の手伝いをしてくれ。」
「「「キュ!!」」」
「よし、行くぞ!!」
伏黒のバイト先である『柴関ラーメン』で彼の手伝いをしていた。
柴関ラーメン、それはアビドス高等学校近隣に店を出しているラーメン屋である。味の方はかなり美味しいとアビドスの中ではかなり有名な店だ。
無論、大人気となれば多忙になるのは必然であるわけで…
「イラッシャッセー!!お席はそちらの犬が対応しております!!」
「ワフッ!!」
ある時は、席へ来店した客を誘導したり…
「ご注文はお決まりですか?はい、柴関ラーメン二丁!!」
「あいよ!!」
またある時は、メニューを取り柴大将へ…
「お待たせっしたー!!柴関ラーメン一丁!!」
ラーメンを運び…
「ありがしたー!!またのご来店をお待ちしております!!」
「キュ~~!!」
外にいる脱兎たちと客の見送りをし…
脱兎たちの客寄せの影響もあるのか本日も、柴関ラーメンは大繁盛であった。
その後、伏黒は閉店後の柴関ラーメン、その店内にて賄いを店長である『柴大将』からいただいていた。
「…ふぅ、相変わらずのおいしさですね。」
「おう、閉店後だからゆっくり食ってっていいぞ。」
「いや、そうもいかないっす。今日は…。」
「あー、アビドスの子が迎えに来るって?お前さんも隅に置けんなぁ~。」
このこの~と自分をからかってくる柴大将を、伏黒は「そういう感情はないですよ。」とうまく躱す。
上述したとおりここ、柴関ラーメンはアビドス高校の近隣に店を構えている。そのため、よくユメが伏黒を迎えに来ることがあるのだ。
そして、噂をすればなんとやら、閉店したはずの柴関ラーメンの店頭にある横開きの扉をノックする音が聞こえた。
「あ~い。ほら伏黒!!お前さんの彼女が迎えに来てるぞ。」
「…だからそういう感情はありませんって!!」
「え~?伏黒くん、大将にそんな風に紹介してたの~?」
「ユメ先輩も乗らないでください…。」
はぁ…とため息をつき、伏黒は目の前にあるラーメンの汁を飲み干し、ユメのもとへと向かう。
「ごちそうさまでした、大将。それでは、また今度。」
「おう、お粗末様。二人とも、夜道は気を付けろよ!!」
「「わかりました。」」
そのような会話をして、二人は柴関ラーメンを後にした。
「ふぅ、ごめんね~。こんなところにまでついてきてもらっちゃって。」
「まぁ、大丈夫ですよこれくらいだったら。」
柴関ラーメンを後にした二人は、そのまま高校へは向かわず、高校に隣接するアビドス砂漠に来ていた。この時間になると、カタカタヘルメット団のような不良はいなくなり、いつもは喧騒なここも静かな風だけが吹く場所になっていた。
「でも、なんで砂漠に来たんですか?ここ、この時間になるとほんとに何もないですよ。」
「…なんていうか、今言っておいた方がいいことがあるかなぁって思ってね。」
いつもの間延びした口調がなくなり、どこかシリアスな雰囲気を出しているユメに伏黒は「そうですか。」と返すだけに留める。何か、大切なことを伝えたがっている様子だったからだ。
「その、さ。多分、私は君に助けられてばかりで、逆に私自身は君に何もしてあげられてないのかなぁって思って…さ。」
「そんなこと、ありますね。でも、それは俺が勝手にやってることですから。」
「あまり気にしなくても」と、続けようとした伏黒はユメの顔を見て黙り込む。その顔は赤く染まっており、どこか目も泳ぎ切っている。
「えぇーっと、だからその…ね。」
「ッスゥーー…つまり、あれですか。勘違いだったらあれなんですけど…。」
「さっきの大将の冗談を真に受けたってことですか。」と伏黒が言うとユメは完全に顔を伏せ、プルプルと小動物のように震えていた。
「…その感情は元々持ってたんですか?一時の勘違いとかではなく…。」
「ウン。」
「…すみません。俺はその気持ちには答えられません。」
「…そっか。」
伏黒は、ユメの気持ちには答えられないと言う。「…でも、」と彼は言葉を紡ぐ。
「ユメ先輩の事は嫌いじゃないですよ。むしろ好きです。」
「それは多分、『LOVE』じゃなく『LIKE』のほうが強いと思います。」
伏黒の想いの吐露をユメはしっかりと聞いていた。
「でも、それは小鳥遊にも同じ感情を俺は抱いていると思います。」
「だから、答えられません。」
彼の、自分の想いに対する答え、それを聞いた彼女はいつもの調子に戻っていた。
「…そっか~。でも聞けて良かった。」
「…すみません。でも、嘘はついてませんよ。俺は二人の事が好きです。」
伏黒とユメはいつもの調子に戻り、雑談しながらホシノが帰りを待つ高校へと帰っていく。
「そういえば!!さっき、『アビドス砂祭り』のポスターを見つけたんだよね~!!」
「あぁ、ちょくちょくユメ先輩が言ってたあの。」
「明日にでもホシノちゃんに見せてあげよ!!」
「…えぇ、あいつも喜ぶと思いますよ。」
「奇跡が起こったらきっと…。」と一人呟いている元気なユメ先輩を見て伏黒は思う。
(キヴォトスには、不平等が満ちている。)
(不平等に物は壊され、不平等に借金が降りかかる。)
(でも、こんな先輩の顔が見れるなら俺は…)
そして伏黒は、自身の掲げるとある信条を、まるで誓うかのように彼を追い越して高校へ向かうユメへ言った。
「ユメ先輩、俺は不平等に人を助けたいです。」
「ホシノちゃんのいいところで山手線ゲーム!!せーのっ!」
「…ちょっと勝手に始めないでください。」
「はいはい!!強い!!」
「…ちょっと聞いてます?」
「はいはい、強い。」
「…伏黒も乗るんですか!?」
「ワンワン!!(強いだけ!!)」
「次回、『如何痴れ者も如何余所者も』。」
「…今この犬すごい失礼なこと言いませんでした!?」