「よう、久しぶり。」「“マジか…。”」
「大マジ。元気ピンピンだよ。」
「“君も、彼女を止めに?”」
「あぁ、一応俺もあいつの先輩なんでな。」「“一緒に来てくれるなら、助かるよ。”」
「アンタの体…まぁいいか。覚悟は決まってんだろ?」「“彼女は、私の生徒だから。”」
「それなら…チッ、ぞろぞろやってきやがった。」
「“行けるかい?”」
「当り前だろ。」
「「“どけッ!!”/どけッ!!」」
「「“私は先生だぞ!!”/俺は先輩だぞ!!」」
「みんなで、水族館行かない?」
「「は?」」
ユメのそんな提案に、伏黒とホシノはつい素っ頓狂な声を漏らしてしまった。
今日の朝、アビドス高校の生徒会室には珍しく三人が揃っていた。なぜなら、今日は伏黒のバイトが休みであり、ホシノも特に用事がないため、生徒会室で久しぶりに三人が集まる形へとなっていた。
そこに、先ほどのユメの言葉が投下されたのである。
「…そのチケット、どっから盗んできたんです?ユメ先輩。」
「盗んでないよ~!?これはね、柴大将にもらったんだ~。」
「「柴大将に…?」」
チケットを見せびらかすユメに対し、盗んできたのかとホシノは訝しむ。
ただ、その感情は柴大将という言葉が出た瞬間打ち消された。
無論、それには理由があり、柴大将からは度々こう言ったものを頂いたりするのだ。
なんでも、「おっと手が滑っちまって…おつりと一緒にチケット渡しちまった。はっはっは!!」らしい。
本当に、大将には頭が上がらないなと伏黒は思った。
「柴大将にもらったなら安心できますね。それで、行きます?伏黒。」
「まぁ、チケットの出処も怪しくない。せっかく誘ってもらったなら行くべきだろ。」
「?」
伏黒とホシノは小さい声で行くか否かを相談する。もちろん、ユメに聞こえない程度の声でだ。
ただし、小さな声で話す理由はそれぞれ違い、聞かれたらユメを悲しませるからと伏黒は思っているが、ホシノは絶対面倒なことになると思っていた。
結局、伏黒の案で決定され、三人は水族館へ向かうため学校を出る。
その時、学校の前に妙な車が鎮座していた。その車の側面には『カイザーコーポレーション』と描かれている。
「「「げ…。」」」
「おやおや、随分な挨拶じゃあないかアビドス高校生徒会諸君?」
その車から降りてきたのは、『カイザーPMC理事』。
彼らが借金を返済するべき会社であり、毎月不当な額を請求してくる『カイザーコーポレーション』伏黒曰く、『クソ会社』。
そんな会社の理事がこの学校に来る用など一つしかない。
「お前にはこの程度の挨拶で十分だっつってんだよ。」
「フハハハハハ…。舐めるなよ伏黒メグミ。今、お前たちの心臓を握っているのが誰か分かっていてその言葉を吐いているのか?」
「あ゛? なら、その握ってる腕ごと粉々にしてやるよ…!!」
「ストップです。伏黒。」
今にもカイザーPMC理事を殺しそうな伏黒に待ったをかけるホシノ。
彼女にも、伏黒の気持ちが痛いほどわかっていた。ホシノも伏黒も他者を食い物にする大人は嫌悪する対象だったからだ。
だが、それをするのは
「お金は渡すので、さっさと帰ってください。」
「おい、小鳥遊。」
「伏黒、今は耐えるときです。」
「フンッ…ちょっとはこれぐらいの可愛げは見せたらどうだ?伏黒メグミ。」
「あ゛?…チッ、サーセンしたぁ。」
「…持ってきたよ。」
「…チッ、運べ。」
ぞろぞろと車からカイザーの社員たちが出てきて、先ほどの会話の最中にユメが持ってきた札束を運んでいく。無論、この金額では借金の利子を返すことしかできない。
「この金額では、今月の利子しか返せないじゃあないか?まったく、いつになったら借金を返してくれるのやら…。」
「…すぞ。」
「フハハハハハ…殺意を向けるくらいならば、その意識をもっと金を集める方へ向けたらどうかね?…それでは、来月の返済をお待ちしているよお客様。」
もっとも、期待はしていないが、ね。と言い残し、金を運び終わったカイザーは車に乗ってどこかへ行く。それをホシノと伏黒は殺意の籠った眼で見送った。
「…ゴミに時間を取られてしまいましたね。行きましょうか。」
「そうだな。帰りにラーメンでも食いに行きます?吐瀉物の話聞いてたらこっちまで口当たりが悪くなってきた。」
「…ごめんね~、二人とも。今日返済日なの忘れてた。じゃあ、行こっか。」
二人が、吐瀉物・ゴミと称するカイザーコーポレーションとの意図せず邂逅した三人は気を取り直して水族館へと向かった。
「おぉ!!すご~い!!」
ここは、アビドス近郊にある水族館。
かつてアビドスが栄えていた頃に観光スポットとして作られた場所だ。
アビドスとして自治している領域はかなり広い。そのため、かつて栄えていた頃に作られた様々な観光スポットやカフェなどが未だに残っている場所も少なくはない。
今回、三人が訪れた水族館もその一つだ。
「──────確かに、これは圧巻だな。」
「──────…。」
彼らの目の前にある水槽には魚たちが悠々と泳いでおり、その中にはかの有名な「ジンベイザメ」もいた。
その幻想的な光景は彼が言ったように『圧巻』の一言だった…。
「─────楽しかったですね。」
「あぁ、とても楽しかった。」
二人はもうすぐ水族館の出口へ辿り着く。その前に少しベンチで休憩していた。
ちなみに、ユメは「ちょっとお手洗い行ってくる!!」と言って近くのトイレへ向かっていった。
「小鳥遊、お前少し肩の力抜けたな。」
「…えっ。」
「お前、いつも『自分が責任感持たないと』って思って肩に力入れてたろ。」
伏黒の言った言葉に、ホシノは少し驚く。
無意識にそうしていたのか、伏黒に彼女は肩に力が入っていると認識されていたらしい。
「確かに、そうかもしれません。」
「…まぁ、入れるなとは言わないが。ちょっとくらい抜いてもいいんじゃないか?」
今日みたいに、と伏黒は続ける。その顔は、ほんの少しだけ笑っているような気がした。
『ピリリリッ!!』
「おっと、私の携帯ですね。ちょっと失礼します。」
「おう。」
その少し珍しい二人の会話は、ホシノの携帯へかかってきた電話によって遮られる。
ホシノは電話をかけるため一度伏黒の隣から離れ、物陰に行った。
伏黒は、一人になった。
(…。今日は本当に楽しかった。)
(この時間が、三人でいる時間がずっと続けばいいな。)
そう思いながら、彼がベンチから立って伸びをしていると目の前を通った
『おっと、申し訳ございません。』
「いえ、こちらこそ。」
その時はぶつかった際に互いに謝ることで、円満に解決した。
「私は覚えている。あの時の失敗を。」
「私は嘆く。あの日の私の愚行を。」
「あの日、あの時のすべての光景を」
「私は、一生忘れることはないだろう。」
「次回、『無茶苦茶にしてくれないかい?』」
「お楽しみに…とは言えませんね。」