SPECIALZ   作:無名のサイドラ使い

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ガコンッ


一切を存分に喰らいつくして

 

「領域展開」

 

 

 

「嵌合暗翳庭」

 

 

瞬間、伏黒の足元から泥のような影が放出され、死に体のユメ、ビナーを影の沼が飲み込む。

外殻を持たない不完全な領域が半径100mの砂漠を塗りつぶし、異様な光景を以ってこの領域は完成した。

 

(不完全…不格好もいいとこだ。)

 

伏黒メグミはその脳に術式が刻まれると同時に、自身の術式に対するすべての情報が脳に刻まれている。

術式の内容、呪力の使い方、自身の術式の『最奥』までも、その細部に至るまですべての知識を脳に刻まれていた。故にこの領域は外殻を持たないことから不完全な領域であることが理解できた。

しかし、今際の際で展開した領域は彼にとって…。

 

(だが、これでいい!!)

 

自身のポテンシャルを引き出すには充分であった。

 

 

「ハハハハハハハハハ!!」

 

 

狂気的な高笑いが彼の口から溢れ出ると共に、彼の式神の一体である『蝦蟇』が影から大量に出現、ビナーを影の沼へ引きずり込んでいく。

 

『────────────!?』

 

この影の沼は底なし沼のようになっており、全身が漬かってしまうといくらビナーでも抜け出せない。

無論、ただ引きずり込んでやられるほどビナーも甘くはない。自身の体へ纏わりついてくる蝦蟇を全身を唸らせることで吹きとばし、伏黒目掛けてビームをチャージする。

 

「『大蛇』。」

 

しかし、伏黒の言葉とともに蛇の式神である『大蛇』が数体現れ、ビナーに巻き付き締め上げ、噛みつき、完全に拘束する。これこそがこの領域『嵌合暗翳庭』の最大の長所。

嵌合暗翳庭は本来式神を召喚する際は結ばなければならない掌印を『省略』できる。さらに式神は通常伏黒の呪力量からして最大二種類しか召喚できず(満象など呪力を多く使う式神はこの限りではない)、脱兎を除いて一種類に一体のみと制限がある。その制限をこの領域にいるうちは取り払うことができる。

 

『────────────!!!』

 

ギギギと機械の軋む音がビナーの体から鳴り響く。だが、大蛇が数体いたとしてもビナーを拘束するのに手一杯で破壊するには今一つ火力が足りないようだった。

 

「ははっ、化け物め!!」

 

影の沼を高速で移動しながら思考を回す。

 

(どうする。奴は大蛇の顎力じゃ軋む程度でダメージを喰らってない。)

 

(『調伏の儀はいつでもどんな状況でも始めることができる。』つまりこんな状況でもできるだろ!!)

 

「『貫牛』。」

 

式神を調伏する『調伏の儀』はいつでもどんな状況でも始めることができる。無論、その決まりごとはこの領域を展開している状況でも反映される。

今、彼が調伏しようとしてるのは『貫牛』。その名の通り牛の式神だ。この式神は、走る距離によって突進の威力が変わる。走る距離が長ければ長いほど威力は高くなっていく。ビナーの装甲がかなり固いのは大蛇が嚙み砕くのに時間がかかっているため明白。故に奴を完全に破壊するのにはこの強靭な突進力がある貫牛が適任だと考えた。

 

調伏の儀が始まり、影の沼から貫牛が現れる。

 

「『満象』」

 

だが、現れたと同時に高高度から降ってきた満象に全身を潰され血だまり、否影だまりとなって影へ溶けて消えた。調伏の儀終了である。

伏黒は確かに儀式が終了したと確認すると影の沼へ体を沈め、貫牛をどう使うか思考を回す。

 

(ユメ先輩は玉犬にアビドスへ運ばせるとして、問題は貫牛をどう扱うか。)

 

(ただ特攻させるべきじゃない。何かまだ奴には()()がある気がする。)

 

(…()()試してみるか)

 

影から伏黒が出てくる。未だビナーは数体の大蛇に拘束され、動けない状態にいた。こちらに一切の意識が向いていない隙に、玉犬が影の沼からユメを引き上げアビドス高校の方へ駆けていく。

それと同時に貫牛を呼び出す。しかし、それは先ほど調伏の儀を行ったときの貫牛とは違う姿をしていた。

 

「貫牛+脱兎+鵺」

 

「『牛鬼』」

 

見た目は小さい貫牛のようであったが足の部分に雲のようなものが付いており、さらに数が多い。

十体以上いるこの小さい貫牛は『牛鬼』。この牛鬼は貫牛の突進力と鵺の飛行能力、そして脱兎の数の多さを足した合成式神だ。

本来十種影法術の式神は破壊されると二度と再召喚出来ず、別の式神に能力が引き継がれる。しかし、合成式神は破壊されたとしても元となった式神は再召喚が可能である。

故に使い捨てても何も問題はない。

 

「行け!!」

 

彼の合図とともに牛鬼たちが空へ駆けだす。軌跡を描き、ビナーへと迫るそれらはまるでミサイルのようであった。そして、ビナーへ牛鬼の突進が突き刺さる。

しかし。

 

『────────────!!!』

 

「まじか!!」

 

まるで効いていない。大蛇に拘束され動きを封じられながらもその圧倒的な装甲は健在、牛鬼の突進の一切を防ぎ切った。土壇場で切った切り札である牛鬼が防がれた、そんな絶望的な展開、最悪の状況にも関わらず彼は

 

ケヒッ!!まだだ!!」

 

嗤っていた。

今際の際で狂気に陥ったわけでもない、自身の切り札が防がれたことに対する嘲笑でもない。

彼はただ、『楽しいから』笑っていた。人生で初の強敵、自身の生存本能を揺るがす明確な相手、そして死にかけでハイになった頭…すべてが彼を楽しませていた。

彼が笑みを深める、と同時に装甲に()()()()()()()()牛鬼が『爆発』した。

 

『────────────!!?』

 

「ハハッ!!さしずめ神風(バードストライク)ってか!!」

 

彼は牛鬼にあらかじめ仕込んでおいた命を懸けた『縛り』、それを遠隔で作動させたのだ。

呪術の能力を簡単に底上げするのは、現在の伏黒がそうであるように死に近いこと、もっと言えば命を捨て去ることがそれにつながる。それは式神も例外ではない。

彼は今の自分の状況を鑑みてそれを呪いを扱うものとしての本能で理解していた。

 

『────────────。』

 

「まだ行けるのか!!」

 

しかし、自死を強制した攻撃でも奴の命に王手はかからなかった。もはや、これ以上高威力のものを伏黒は持っていない。それでも、彼は自身の敵が立ち上がってくることに歓喜する。

だが、ビナーの強靭な装甲も先の攻撃で限界が近かった。拘束状態の奴の全身から黒い煙が上がっており、機械の爆発する音が聞こえてきた。

もう一押し、そう思った瞬間だった。

 

『────────────!!』

 

ビナーが吠えると同時に、大蛇が拘束していた部分の装甲が何かが抜けたような音を立てて崩れ落ちる。

それと同時にビナーが体を捻らせて大蛇を弾き飛ばして拘束を抜け出した。

 

「ッ!!パージしたか!!」

 

弾き飛ばされた大蛇が影に溶けていき、まるで抜け出してやったとばかりにビナーが咆哮する。

伏黒の勘は当たっていた。奴は牛鬼に爆破された装甲を不要と考えそれをパージしたのだ。

ゾクリと、死の予感が彼に数刻ぶりの緊張を走らせる。

 

「来いよ。」

 

『────────────!!』

 

伏黒の言葉に答えるかのように、咆哮とともにビナーは彼に向けてビームをチャージする。

それとともに、伏黒もビナーに『掌印』を結ぶ。

 

「大蛇+鵺+脱兎+玉犬+貫牛+蝦蟇」

 

「嵌合獣・八岐大蛇」

 

ビナーのビームが彼に向けて放たれた瞬間、影の沼からとてつもなく大きな蛇が姿を現した。

蛇の名は八岐大蛇。大蛇をベースとして鵺の電撃、脱兎の数の多さ、玉犬の強靭な牙、貫牛の突進力、蝦蟇の拘束力を併せ持つ伏黒が調伏している式神を合成した最強の式神である。

もっとも、完全な顕現とまではいかず調伏していない式神を除いた、と頭に着くが現状でもその力は圧倒的である。

ビナーのビームから自身の主である伏黒を守り、八岐大蛇の頭の一つが吹きとばされるが、負けじとビナーを残り七つの頭で電撃を放ち、ビナーを攻撃する。その八岐大蛇の体を伏黒は駆けていた。

 

(恐らくだが、あいつの頭にヘイローに似たものが浮いている以上弱点は頭だ。)

 

(噂だがヘイローは生徒にとって命と同価値らしい。すなわちヘイローが壊されたら死ぬ。)

 

(それが、もしあいつも同じように作られているんだったら?)

 

電撃と蛇の噛みつき、ビナーのミサイルやビームが飛び交う戦場で考える、確実とは言い難い弱点の位置。

八岐大蛇の頭が一つ、また一つと消し飛ばされいくと同時に、ビナーの頭へと近づいていく。

そして、ついにその時は訪れたのだった。

 

「拡張術式『影纏』」

 

そう彼が唱えた瞬間、ビナーの機械的な瞳が彼の方を向く。

ビームをチャージする隙も与えず、最後の一撃を放とうと構えたその時だった。

ビナーの瞳が怪しく煌めき、そこから怪光線が放たれ、伏黒の全身を焼いた。それは、もはや死に体に近かった彼の肉体を完全に消滅させるには充分だった。

彼が展開していた影の沼がジワリジワリと砂に溶けていく。そして、最後の切り札であろう八岐大蛇も頭すべての消失を待たずして、ドロリと影となって消えた。

残った影はビナーのもののみ。そこには伏黒メグミの存在はなく、ビナーの勝利の雄叫びが砂漠中に響くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「満象『穿水(うがちみず)』。」

 

突如として耳を塞ぐほど大きな咆哮は超高密度に圧縮された水のカッターに頭ごと刈り取られる。

そのカッターは()()()()()から放たれていた。頭を刈り取られたビナーは砂漠の砂へと倒れ伏す。

その影響で起きた砂嵐が収まったころ、ビナーの影から()()()()()が出てきた。

 

「油断したな。獲物を仕留めたと感じた時に隙を晒すのは人も獣も機械も同じだったようだ。」

 

ふう、と彼は一息吐くとそのまま砂漠に膝をつき倒れ伏す。

先の拡張術式で既に彼の呪力も体力も底をついていた。強敵を倒した達成感、出し抜いてやったという愉悦、そしてなにより安堵が彼の心の中にあった。

 

(あー、ギリギリだった。)

 

(拡張術式『影纏』。式神の能力だけをその身に降ろす。土壇場でうまくいったなぁ。)

 

(楽しかった。自分の術式を伸ばすことで得られる万能感、それによって得られる結果への満足。)

 

(すみません、先輩。俺は貴女のために戦っていなかった。)

 

伏黒はそう思うと同時に意識を失った。

 

 

 

 

 

 

それと同時刻アビドス高等学校。

 

「…何時間寝たんですかね。」

 

すべてが手遅れになったころ、近い未来『暁のホルス』と呼ばれる少女が起床した。

 

 




「『何かを始めるのに遅すぎることはない』っていうけれど」

「結局それって何を始めるかによって変わっちゃうよね~。」

「『後悔先に立たず』の方が俺的にはあってると思いますね。」

「「「次回、『だれが如何言おうとU R MY SPECIALZ』」」」

「ケヒッ、お楽しみに。」
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