その兎、触れるべからず   作:猫を乗っけた青髪の女

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少し訂正をば


懐玉・玉折
第1話


平安の都にある一人の男がいた。彼の名は力太郎。

彼は腕っぷしは良かったが運に恵まれない男だった。

出生はなんとも貧しい家系に生まれ、食える草を探しながら田畑に精を出す、都からの重い税を払い少しばかりの米と薄味の汁物、日々飢えと戦いながら生きているがこれが案外楽しいものであった。

そのおかげか男はすくすくと育ち、齢8にして大人と同じ身長になっていた。身体が大きくなるとともに力も強くなっていった。この頃には父の仕事について行き重い俵などを悠々と持ち手伝いをしていた。

 

そんなこんなで彼に対し周囲の人は口を揃えて言う、『赤鬼の力太郎』と。その名が何処からか流れたかは知らぬがとある貴族が力太郎のところへとやって来た。聞くに彼はここの領主だと言う。彼は力太郎のあらさを聞きつけここにやって来たとも。

 

「我は君の噂を耳にしここはやり来たり。その力を我に見せずや」

「わが力がゆかしくばご覧にせむ。それを見しはさだめて腰を抜かすことならむ」

 

力太郎は納めるつもりの俵を7つばかりひょいっと持ち上げた。

貴族の人は目を大きく見開き驚いたような表情を見せる。

 

「めでたし。ではかかるものは如何か?」

 

すると二人組が何やら大きな箱を持ってきだし、貴族の前に置くと貴族の人は箱開け私に見せた。

箱の中身は大きな刀であった。刃は黒くよく磨かれているのか鏡の様に私の顔が写りとても美しかった。そして何か刻まれていて文字は『天輪兎月』と刻まれ、私は文字などてんで分からないがかっこいいなとだけ思った。

 

「この刀はいつ何処に作られしや分からねどある日我が屋敷前に置かれたりき。おどろおどろしがりそれを持ちしほど、何か吸ひ取らるる様なる心地し持ち上ぐべからざりき。その後使ひのものにいかでかし屋敷に入るべかりき。

幾人とこの刀を持たむと試しにやり来れど、皆扱ふべからざりき。さて君のその力ならば扱ふべがりここまでやり来たり。いで、手に取り給へ。」

 

と言われ、話は半分耳に入ってこなかったがとりあえず持てばいいのだろう。私はその刀を手に取ってみた。

 

手に取ったが特にこれといったこともなく持ってみせたが持ち上げた時、刀から幾万の声が聞こえてきた。

その声は直接頭に語りかける様に響く。

 

「ほう、なかなかいかでをかしきもありしものなり。持ちしものの寿命奪ひ、大概のものは少し奪ひしところで気を失へど、なんぢは少し違ふかな。それ際のふつつかなる男、気に入りしなんぢをあるじと認めむ。この力なんぢのものなり。」

 

知らないうちに私を主人と認められていた。

貴族の人を驚いた様に、

 

「おお、ゆゆしからずや。その刀を物にすとは、是非とも我が屋敷に仕へずや?

なに、金ならばうんさる。案ずることならぬ、よろしき交渉ならむ?」

「えい、かかるわれにもお役に立てば是非とも」

 

金が出るのであれば仕えるほかない、と実家を出その貴族に仕えた。

 

そこで鍛錬に勤しんだり、悪者を捕らえたりと、何十年と過ごしたが力太郎は衰えることなくむしろますます力を蓄えていった。

そんなある日、私を雇った主人は病床で寝たきりになってしまい、会えずじまいだったが、突然呼び出しを受けた。すぐに私は応じ主人のいるところへと向かう。

そこにはゴホゴホと咳き込む主人と彼の妻がいて、その妻から話し出した。

 

聞くに最近両面宿儺という異形の人がいて悪さを働いているとか、そいつの扱いに困っていたときこの屋敷に黒き刀を持ち鬼の様な背格好の人がこの屋敷にいることを聞き、主人に私で奴を討って欲しいと頼まれたそうな。

私は勿論その頼みを承諾した。なんせ何十年と仕えて主人に多大な御恩があるのに果たせないままなのは如何なものかと考えていて時だったのでそのときは感謝でいっぱいだった。この力存分に果たしその両面宿儺とやらを討とうではないか。

 

私が出かけようとする前に主人が止め一言だけ、

 

「生きて帰れ」

 

と言われた。

 

                        

 

その日の夜は満月であった。

私は両面宿儺を探し都を練り歩く。この時間帯皆は寝静まりいるのは野盗か妖か、なので奴を起きていることだろう。

歩くこと数刻が経った。丑三つ時くらいだったか、今夜も見つからないと帰ろうとするとき、奴はいた。背が高く私と同じくらいか、また腕が4本生えていて目が四つ口が二つとそんな化け物と相対した。

初めて会ったときその見た目に恐怖こそあったが世間が抱いているものほどではなかった。逆にこれほどの殺気を放っている。さぞ強者なのであろうなとも思った。これほど奴と戦ってみたいと思わせたのはこれが後にも先にもこれだけである。

 

「君は両面宿儺といふものなりや。われは力太郎。赤鬼の力太郎といふ名をご存知ならむうかり、それ我なり。あるじより命令受け君を討ちに来れど、君はこはし。心ゆくまで君を死合はばや。いかがならむや、ここにはかたみ少しばかり所狭し。あなたの河川に一騎打ちを願へど如何か?」

 

奴は不敵な笑みを浮かべ。

 

「...いなぶる、今ここにやらむや。」

 

と炎の様なものを手から生み出してこちらに放ってきた。

私は間一髪で避け刀を抜く。面白い、やはりこの感覚。初めて迫り来る死を感じた。こんなにも楽しいものだったとは、生死を争うことはこんなにもいいものだったとは、自然と笑みが溢れる。

たった数分、それで勝敗は決した。私の惨敗であった。私の攻撃がまるで意味をなしたなかったのである。だがこれで良かったのかもしれない、使命を忘れてただ己が欲に負けたのがいけなかったのだから。罰を受けて当然、ただ、最期にこの様な戦いができて満足であった。宿儺は虫の息である私の前に立ち。

 

「汝、名は確か力太郎と言ひきや。めでたかりき。」

 

私を褒めていた。完膚なきまで倒した相手に対してである。武士の冥利につくものだ。負けてしまったが天国にいる親に誇れる。

 

「呪力もあらぬ汝が体才ばかりにここまで粘るべきものかな。長く生き初めてなり。誇るべし...、汝がこの国に一番こはき武士なり。」

「...いやさる大それたことはしたらぬ、我はただ君に勝つために正面より戦ひしまで。さて負けき。そこまでのこはさに我はあらず。げにめでたき力方よ」

 

今夜の月は一段ときれいだ。

「....もし我が女ならば君にそのこはさに惚れたりき。あゝげに口惜し。

我がこの世にまた生まればまた会ひて戦ふや?」

 

不意に口出してしまった。長く生きたからであろうか、子を一人も残せなかったのが心残りではあるがまあそんな人生もいいものか。

 

私は首を切り落とされ死んでしまった。

 

 

 

 

 

                        

 

死とは存外心地よいものだと思った。何もない真っ暗な空間に私一人ぽつんと取り残されていた。やることもないから私は瞑想をした。死後も研鑽を積む、いつか来る戦いのために。

何もなく誰も存在しない世界。気が狂いそう場所を何十年何百年と過ごした。その頃にはある種悟りの境地に至っていた。

そんなある日、終わることのない空間で今日も瞑想を続けていた私だったが周囲から声が聞こえ始めた。とうとう私もおかしくなったのかと思ったが何やら騒がしい。

カシャッ カシャッと何やら奇怪な音が鳴っていた。あまりに騒がしいもので思わず目を開けてしまった。

 

 

私の周囲に人がいる。思わず立ち上がり周囲を確認する。木々が生え私の足元は大きな岩があった。そして気づく、私着てない。裸だ。何より私の息子がない!?

恥ずかしくなりその場を逃げ出してしまった。走る走る、木々をかぎ分け駆け抜ける。川までたどり着いたとき自身が水に反射し映る。

 

顔は童顔で子供っぽく、紅の瞳があり、頭から大きな耳が生えている。

なんだと思い触るとゾワゾワッと身体が震えるほどに感じる。ヤバい、これダメになりそうと思ってしまうほど。

身体はというと良い体とは言えず貧相な体つきをしていた。とても力があるとは思えない。お尻あたりに綿みたいなのがついていてこれ多分尻尾だろうとも思った。

状況を確認し、まずわかることは私が女の体になってしまったことだ。次に何処か見知らぬ土地に飛ばされたこと。

分からないことばかりだがまあ何とかなるかと楽観的になる。

 

そこらへんをぷらぷらと歩いていると遠くから声が聞こえてきた。

 

人だ。気配を消し声のするあたりにすすむ。草根をかぎ分けて、三人組の男女がいた。

 

一人は白髪の男にもう一人は黒色の長髪の糸目男、茶髪の女が何かを話しながら何処かへ向かっている様だ。何をするか少し気になってしまい三人の後をつけて行った

夏油は闇堕ちした方が良いですか?

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