その兎、触れるべからず   作:猫を乗っけた青髪の女

11 / 22
十一話

目を覚ますと境内の真ん中で眠っていたようだ。起きあがろうとするが力がうまく入らない、ずっともがいていると、

 

「なんやぁ?さっきまで呪霊が2体いる思てたんやけど、一体しかおらんやん」

「あぁ〜...君は一体誰か?」

「おもろ、君喋れんの。でもわざわざ呪霊である君に名乗る必要あらへんやん、それに名前聞く時は普通自分から名乗るものやで」

 

状況があまりにも悪すぎる。もう戦えるほどの余力を残してないのに連戦は勘弁してほしい。とにかく少しでも体力を回復させる必要がある。

 

「我はぁ稲羽...悠里、見てくれは呪霊だがこれでも、呪術師だ」

「君ィあれか、最近一級になった子か。どんなもんかと見たかったがまさか君やとは思わなかったわ」

「そういう君は」

「俺のことほんとに知らへんの?俺は禪院直哉、現当主の禪院直毘人の息子や」

「禪院家...」

 

禪院家か...御三家の一つだったか、五条家に賀茂家に続く名家と悟が言っていたな。悟が言うには禪院家は皆クズと言っていたような。

 

「ほなら行こか」

「行くってどこ...」

「俺の家にや、なんやぁ君知らんの?一級になったものは御三家に挨拶しに回らんといけんのを」

「そうなのか、初めて知った」

 

直哉はなんか呆れた顔をしている、そんな大事なことだったのか。

 

「世間知らずの箱娘さんか君は、早う付いてき」

「ちょっと待て、今からだ全身に力が入らなくて動けないのだ。おぶっていってくれぬか」

「...しゃあないわ、俺を使うんや、高く付くで?」

 

と私はお姫様抱っこされる。そしてそのまま直哉が乗ってきたであろう車に乗り禪院家まで連れてかれる。

 

 

                        

 

車に揺られふと気になったことを聞いてみた。

 

「そういえば我が乗ってきた車を見なかったか?」

「しらんでそんなん、俺が来た時はそんな車一つも見んかったで」

 

あの補助官の人は私を忘れて帰ったのか、それとも別の要因で帰ったのか気になることではあるが今は置いておこう。ずっと変わらぬ風景に少し飽き飽きし始めた頃、

 

「ほらあれや、あれや」

 

と指を指しその方向を見る。そこには昔主人に雇ってもらったところがこんな感じだった気がする。

 

「おぬしのとこは武者か何かの家系であったのか?」

「話し聞いてた?俺んとこは代々呪術師の家系や。...君さっき自分言うてたやん、もう忘れたん?」

「...そんなことも言ってたような」

 

直哉は鼻柱を押さえて軽蔑した目で見ていた。

 

「あかん...いくらなんでも自分で言うたこと忘れんのは流石に信じられへんわ」

「そうか?話は変わるがおぬしの術式はなんじゃ?」

「なんやぁ君、話の脈絡話が無さ過ぎて着いてけへんで?もしかして君、俺のこと舐めてる?」

「そんなわけ無い、どう接せればよいかわからぬだけだ」

「なんや?嘘つけ、君他に何かあるやろ?」

「ほんとだ嘘なんか付くものか、あと君君言わないでくれぬか。我には稲羽と言う名があるそれで読んでくれぬか?」

「それ君が言うか?まあええけど、稲羽ちゃんも俺のこと君やらおぬしやら呼ぶんはおかしいとちゃうか?」

「それもそうだな....禪院?」

「禪院はあかん、それは誰指してるかわからんから下の方で読んでくれへんか、稲羽ちゃん?」

「そんないるのか直哉の家族」

「そや、なんせ御三家やからな、他のとこと違って家系結構いるんや」

 

そうなのか、あんま御三家とか興味がなかったから知らなかった。挨拶回るなら次から軽く知る必要があるなと思い、少し考えてると直哉が肩を揺さぶっている。

 

「なぁ稲羽ちゃん話し聞いてる?今度は無視するんかぁ?」

「すまない少しばかり考え事していた」

「人ん話しは聞くもんやで、いつか怒られんで稲羽ちゃん」

「...」

「どしたん急に黙るん?」

「ちゃん付けはやめてくれないか?」

「あかんの?別にええやんそんな減るもんちゃうし」

「そう言うことじゃなくて」

 

無駄に顔が整ってらからちゃん付けされるとドキドキしてしまう。

 

「なんで顔赤い...そうかぁ、なんや君ィもしかして俺にほ「違う!断じて違う」そんな必死に言う必要ないやん」

「とにかくちゃん付けで呼ばないでくれ」

「じゃあ、稲羽くん?」

「そっちで頼む」

「わかったわ、...あぁそうや」

 

何か思い出したように声をかける。

 

「なあ稲羽くん?君、術師同士でやったことある?」

「?いやないが」

「そやったら一回俺とやる?悪い話やないで」

 

何か裏がありそうではあるが別に私が気にすることでもないかと思い、

 

「別に構わんぞ?我もやってみたいと思ったからな」

「そやったら決まりやな、全力で来てええで」

 

しかしどうしようか、本気で行ってもいいがいくら試合でも同業の手足を斬るのは気が引けるので木刀で済まそうか。多分だが直哉は私に術式の説明しても無駄だと判断したから試合形式で教えようとしたいのだろう、そう考えることにした。

 

                        

 

禪院家の屋敷に着いた。改めて見るがやはり主人の屋敷に似ている、もしかしたら主人もその血のものだったもしれない、と思いつつ堂々と敷地を踏み込む。下女みたいな人たちが出迎えていた。直哉は普通に入っていき私もそれに着いてく。辺りを見てると、

 

「そない気になる、この屋敷?」

「そうわけではないが、見れば見るほど昔住んでたところに似てるなと思っただけだ」

「?そうか、この辺で待っといて」

 

と静止され、少し待つ。直哉は「親父、入るで」と言って襖を無造作に開け、中の人物は何か呆れたように溜息をついているような気がした。しばらく待っていると、中から直哉の声が聞こえ、「入ってき」と言われたので襖を開け入る。中には直哉ともう一人白髪の初老の人がいた。彼はとんがった髭が特徴的だ。

初老の人は私に「お前が稲羽か」と聞かれそうじゃと答えた。

 

「ほう、儂の見立てでは男と見ていたがまさか呪霊とはな、世の中何が起こるかわからんものだな」

「呪霊とは言うが心は人間じゃ、我も傷つかんわけではないそこは忘れないでいただきたいものだ」

「おっとそうか、それはすまない。本題になるが我の息子と手合わせがしたいと?」

「まあそんな感じじゃ、我の強さがどれくらいか知りたいからの」

 

直哉は少し変な顔をしていて、対照的に直毘人はガハハと笑い酒をグビグビと飲む。

 

「全く面白いことを言うわい、己の強さを知るために息子を堂々と練習台にするとな」

「別にそういうつもりであったわけではないが...まあそれでもいいか」

「ちょっ‼︎待ちぃ、そこは否定しろや!」

 

流石に直哉の堪忍袋の緒が切れ怒り心頭になる。そんな彼をスルーし直毘人は話を続ける。

 

「いや何、別に構わん儂としても少しこいつには挫折を知る必要があると思ったったからの。思う存分やってこい」

 

と快く許可をもらった。

 

 

                        

 

試合の場所は近くの道場を使わせてもらい、互い準備を始める。私は身体をほぐし疲れを少しでもなくす。さっきまで特に何もしなかったので調子は戻ったが領域展開は流石に厳しい、ので展開なしで試合必要がある。

 

「稲羽くん?そんな木刀で大丈夫なんかぁ?あの刀は使わんのか」

「あれは人相手では少々強すぎるからの、縛りを課しこれでやる」

「君、ええ加減人をコケにするんはやめろや」

「それ、そなたがいうことか?それに止めるつもりもない」

「こいつ...!」

 

直哉が動き出すと同時に試合が突如始まり、目にも止まらぬ速さで動き私の目の前まで来ていた。私は慌てて下がる。気を抜いたつもりはないがあまりに速い、あれ(義経)ほど速いわけではないが..しかしあの素手に触れるとどうなるのか。どうせ碌なことにならないと直感したので触れられないよう警戒する。

 

「そっちから行かんのやったら...」

 

また動き今度は回り込もうとする。そうさせないよう振り返ろうとするが直哉の方が速く私の体に触れる。瞬間何かが流れそれを理解する前に全身が硬直する。動かない身体をよそに直哉はお構いなしに私の身体を殴り抜ける。殴られた身体は壁に激突し痛みが走り、それと同時に身体が動くようになる。さっきのはなんだったのか、奴が触れると一瞬体が石になったように動かなくなった。それに直哉のあのスピードも気になる、共通点が一つもない。

 

「なんやぁ?さっきまでの威勢はどうしたん、こんなんでやられんよな?」

 

不敵に笑う直哉、これは完全に怒ってるな。ちょっと挑発し過ぎたか、少し反省し起き上がる。さてどうするか、どう思考しようが答えが浮かばない。ならばとにかくぶつかって対策を考えるしかないと思い、直哉に向けて手招きをしまだやれる意思を示す。すると直哉はそれに応えるかのように動いてくれる。次はどう来る?身構えると真正面から直哉が殴りに来た。それを木刀で受け止め拳の威力を殺す。次に来たのは蹴り、私も同じように蹴りで応戦し受け止める。足が少しヒリヒリする、流石にガタイがいいから力がバカにならないな。そして拳が木刀に触れたが特になんの変化もなかった。となると鍵は直接身体に拳が触れることが条件なのだろうか、それでもあの速さとなんの関係性もない。

 

「また考え事か?相手が目の前にいるっちゅうのに随分余裕そうやね」

 

直哉の手が私のお腹に当たる。まだ答えはまとまっていないのに、本能が逃げろと囁く、瞬間、線が見えたような気がした。その線を追うように身体が勝手に動く。気づくと直哉の背後に回っていた。一瞬のことで呆けていると直哉は驚いたような表情でこちらに振り返った。

 

「なんでや...なんで君が動けてるん?」

「そんなこと言われても知らん、我は危ないと思って動いただけじゃ」

「そ、そんなんで俺の投射呪法を...」

 

ギリギリと聞こえるほど歯軋りをして、何故か直哉はこちらに憎悪の感情を向けていた。

 

俺は...ここにいる誰よりも強いんや...なんでちっこいガキに負けなあんねん...

 

何かをブツブツと呟いている。よく聞こえないがきっと良くないことだけはわかる。何かを言った直哉は恐ろしい形相でこちらを睨んだ。

 

「俺は君に負けられへん、早う死ねやッ‼︎」

 

その言葉と同時に身体は壁に激突していた。視界で彼を捉えるよりも先に動いて私に触れていたのか。目の前の直哉は先程とは違い殺気を帯びていた。音はさっきの衝撃で消え、視界が何重にも見える。そのおかげか周囲の環境音が遮断され直哉だけを集中して見ることが出来た。どう動くのかよく観察する。瞬間、直哉から何か線のようものが見えそれが絵のようになり何重にも重なるのが見えた。その後直哉がその絵に嵌るように動いているこどがわかった。私は絵の最終地点から離れると私を追うように絵が追加され私に追いつく。流石に生身の私ではその速さに勝てないか。直哉の執念の呼べる手が私に触れるそうになる。

今までの体が動かなくなる現象に直哉の常人には不可能な動き、そして先ほどの謎の線、それらを踏まえある一つの仮説が浮かぶ。直哉の術式は動きを強制することが出来る術式なのではないかと考えた。直哉から出た複数の絵、あの通りに動いていた。あれが異常なほどの速さを生んでいるのだろう。ただ私が触れられたときは体が動かなくなった、あれはきっと無理な動きを浮かべたからだろう。直哉も異常なほど速く動いているが、体が急に背後に瞬間移動したり空を飛んだりすることはしなかった。つまりは人体の可能な動きを超えさえしなければ止まったりすることがないのだろうと考えた。

すぐさま私は頭の中で思い描く、すると体は私の思い描いた通りになり、自然と体が動く。だがこれでは直哉に対する対抗策が出来ない。

何かないか...直哉の拳がが目の前までやってきた。世界がゆっくり進み、ジリジリと迫ってくる。このままでは本当に死んでしまう、咄嗟に木刀を手放す。そして拳が胸を当たる、しかも溝内が入り意識が飛びそうなくらいのいいのが入る。

 

 

直哉はその時、勝利を確信した。胸を一撃を入れ、あいつの口から血を吐いて今にも崩れそうになっていた。だが、彼女は人ではなく呪霊であることを考慮していなかった。

 

 

呼吸が出来ない。血が喉に詰まり空気が入らなくなるが、体はまだ生きていた。私のでは直哉の裾と胸ぐらを掴んでいた。直哉が突っ込んできた速さを殺さず足を掛ける。直哉の体は軽々と持ち上がる。そのまま後ろに投げる。

 

「ッウォラァァッ‼︎」

 

詰まっていた血が大声と共に吐き出し、痛みを忘れさせる。直哉は床に突っ伏したままパクリとも動かない。少し心配したが寝息が聞こえてきたので安心した。灰原にたまたま柔術を教えてもらってたからなんとかなった。私は直哉を邪魔にならないところに引っ張り少し離れたところで眠った。

夏油は闇堕ちした方が良いですか?

  • はい
  • いいえ
  • どちらともいえない
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。