その兎、触れるべからず   作:猫を乗っけた青髪の女

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十四話 

灰原が死んではや数日、私は何もする気になれず今日もベッドの上で惰眠を貪っていた。時折、硝子や傑は来ることはあるがこの心が埋まることはなかった。あのとき私は彼を助けることができなかった。私の目の前で身代わりになるようにして彼は死んだ。その光景が忘れることが出来ずにいた。もし、彼の代わりに私が死んでいたら彼は生きていたのだろうか。

そんな事を考えていると、ドアが開かれる。ドアの方を見るとそこには七海がいた。

 

「稲羽さん、ケガの方は大丈夫ですか?」

「...ケガはもう大丈夫さ...」

「...あまり気負わないでください」

「....何のこと...?」

 

七海は頭を優しく撫でる。

 

「灰原はあなたを守るためにしたことです。あなたが何も罪を背負う必要はないのです」

「我は...奴を守れんかった...」

 

視界が霞みポロポロと涙が溢れ出してきた。

 

「我は...灰原を、好いていた。じゃが、我は奴を何も知らん、一年も一緒にいて何一つ知り得ておらんのじゃッ!」

「稲羽さん...」

「ハハ...今更こんなこと言っても何もかも遅いのにな、我は何を言うてあるのか。すまんな七海、お主にこんなこと聞かせてしまって」

 

その後七海を帰らせてまた一人になる。私は頭を触る、耳は膿が出ないように片方を切り落とした。そのせいか少し呪力量が減って身体が軽くなったような感じがした。どうやら私の呪力は獣の完全性で保つことで成り立っているらしい。その代わりか獣としての獣性が減りアレ(盛り)が減った。

ただこれを知ったところでもうどうでもいい事、本当に守るべきものを守れず何が武士か、またベッドに寝転び深い眠りにつく。

 

 

                        

 

暑い。目が覚めると汗が出て衣服がぐっしょりと濡れていた。このまま寝ても気持ちが悪いのでシャワーでも浴びてさっぱりしたい。ふと時計を見ると、深夜の2時を指していた。月は雲に隠れ風が草木を薙いで不気味な雰囲気を漂わせる。シャワーヘッドからお湯が出、頭から浴び汗が流れ落ちる。身体からお湯が滴り落ちる感触を感じながら私はぼーっとする。今は何も考えたくない、何か考えるたび虚しくなる。

 

私は浴び終え部屋に戻る。暗がりな廊下は少し物寂しさを感じる。キィ、キィと軋む音が響き、私の部屋の前まで歩いた。扉に手をかけようとすると、

 

「稲羽さん」

 

と聞き馴染んだ男がいた。

流したはずの汗がまた吹き出した、まさか、そんなはずがない。彼はあのとき、死んだ筈。呼吸も早くなり鼓動が酷く鳴り響きゆっくりと声の方を振り向く。

 

「...灰原...?」

 

灰原がいた。今まで同じように無垢な笑みを浮かべていた。生気する感じる。だが彼は私を守るために...

 

「貴様は誰じゃ...」

「誰って、僕は灰b「そんな訳なかろう...!あやつは死んでいるッ!貴様が灰原ではない!」

「嫌だなぁ、稲羽さん。僕は灰原だよ」

 

灰原と名乗る男、顔も声も全て彼そのものだ。生前のままなのだ。目の前で無惨に殺されたはずの男が、だ。

 

「灰原はあのとき死んだんじゃ、我の前で。顔も分からぬほどにな」

「ヘ〜、そうなんだ。僕って死んだんだ」

 

言葉出るより先に袋から小刀を取り出し男の首筋を添えた。

 

「これ以上言ってみろ。貴様の首を刎ね飛ばすぞ」

 

男はニィッと口角が上がり、

 

「いやだね」

 

その言葉を言うより先に斬ったが、ぐにゃりと首をすり抜け奴は姿を変える。霧掛かり、そこから女が飛び出してきた。そいつは兎のような長い耳をした私がいた。そいつは爪が鋭く伸び引っ掛かれる。爪が私の肌に触れる瞬間、窓ガラスから突き破り避けた。ガラスが派手に割れ少しぬかるんだ地面に着地する。

奴はこっちを見たままゆっくりと戻る。私は小刀を奴に投げ、すぐさま新しいのを取り出す、奴はそれを弾き、割れた窓から身を乗り出し飛び掛かる。想像したほど奴は速くはない、そう思い奴の頭目掛け叩きつけた。しかし奴は何するわけではなくそのまま直撃し頭は破裂した。が、そこから赤い血が流れることはなく霧散するばかりであった。

 

「貴様は何者か?」

「さぁね、ボクに形なんてものはない。名前もなければ目的もない、ただいたずらに生き無差別に喰らうだけ」

 

破裂した頭から発せられる声ではなく頭に直接語りかけるような感覚に襲われる。奴の体は霧が掛かるように散り散りになっていく。

 

「今回はこれぐらいにしてあげるよ。また君とは会いそうだ」

 

声が遠のく感覚がし消えていく。まるであいつが勝ったかのように去っていく。イラつく。

 

「いつかッ!貴様を祓ってやるからな!首洗って待っておれよ‼︎」

 

私を嘲笑うかのような態度、腹立たしいものだ。あいつはわかった上で灰原の死を愚弄した。すぐにでも報復しないと気が済まない。

しかし体が上手く動かない。

 

「今すぐ放せ、悟。貴様とて許さぬぞ」

 

悟の無下限が邪魔をする。

 

「さっき、貴様知ってあるのだろう?何故祓わなかったのか?」

「さぁね、さっきまで寝てたから知らね。だけどさそんなことしても何も晴れないんじゃないか?」

「うるさい黙れ、貴様はただのクズで誰よりも強い。そんな貴様が我の気持ちなどわかるはずがなかろう」

「あぁ、知らんね。お前がどう思おうが自由だし何度でも言えばいい、けどなこれだけは言っておく。稲羽、お前は灰原に庇ってもらったのに命をすぐ投げ出そうとするな。灰原はお前に死んでくれと言ったのか?」

 

何も言えない。ムカつくし殴ってやりたいのによく見えない、

 

「酷いじゃろ...灰原を盾にするなんて...悟ゥ...やはり貴様はクズじゃ...」

「クズで結構、そんな顔すんなよ...灰原だってそんな泣きそうな顔して欲しくないと思うんだが」

 

悟がハンカチを渡してきて私はそれを奪い取る。

 

「悟ゥ...悟...」

「おいおい、そんな泣くなよ...俺が笑わせてやろうか」

「やめよ...そんな事しなくて良い。もう帰ってねる...」

 

少し落ち着いたのでそのまま自分の部屋に戻り再び眠りに入る。

夏油は闇堕ちした方が良いですか?

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