その兎、触れるべからず   作:猫を乗っけた青髪の女

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十六話

座敷牢から解放されようやく自由になることが出来た。身体を動かすことが出来なかったからか誰でもいいから戦いたくなっている。だがまたここで騒ぎを起こしたらまた牢にぶち込まれる様子が容易に浮かんだのではやる気持ちを抑え教室へ向かった。

 

ガラガラとドアを開けるともう一人の私がお腹に抱きつくよう突進してきた。突進の衝撃が内臓に響きとても痛い、分身の私とはいえこんなに痛くなるとは思わず後方に倒れる。何か嫌なことがあったのだろうか、と彼女の方を見ると、目や鼻から黒い液体が流れ泣きじゃくっていた。事情を聞くと白い髪の男にボコボコにされたらしい、それを聞いた瞬間全てを察した。何で私が牢に入れられたのかを、まあ悟のことだ、彼女を普通の呪霊と勘違いして祓おうとして暴れたのか。でも私には彼女を怒る資格がない。だって全ての原因が私にあるわけだし、雑に扱ったのが悪かったのだろう。そう思い私は彼女を夜蛾のいるところに預けてもらいに行った。

 

夜蛾は「お前..」と酷く軽蔑した目で見られながら預けてもらった。痛い視線を受けながら足速に戻った。

再び教室に戻ると授業がすでに始まっており七海と教師がいた。二人ともおや、と不思議そうな顔をしていたが気にしないよういつも通り受ける。

そして何事もなく1日が終わり部屋に戻る。中は妙に甘い匂いがして眠気を誘う、こんなお香焚いたっけ...?そんな疑問も眠気で妨げられる。色々あって感覚がおかしくなったのかもしれない。視界がぼやけ体の力が抜け立ってられない。その場に倒れ込むようにして眠ってしまった。

 

 

 

 

「…ぅぶ?‥で寝たら風邪引くよ」

 

誰かに起こされる声がする。誰だろうかと目を開く。辺りは暗く、月のさす光だけが照明になっていた。後ろを振り向くとそこには灰原がいた。

 

「...はいばら...?」

「どうしたの稲羽さん?」

「なんで...!」

 

体を起こし後ろに下がる。灰原は死んだはず、また奴が化けて出た!今度こそは...と拳を構えようするが耳が垂れてきて気づく、前に切れたはず耳がある。

 

「ほんとにどうしたの?相当疲れてない?」

「...嫌、何でもない。ちょっと嫌な夢を見てさまたまたからの、ついな」

 

きっとこれは夢、私自身の夢だ。とうとう現実と区別がつかないほどに疲れていたのか私は、そう思い部屋を出ようとする。

 

「どこ行くの?稲羽さん」

「ちょっと、ホットミルクを飲むのじゃ、灰原、お主も一緒に行こうではないか」

 

と振り向き問いた。灰原は了承し一緒に着いてきてくれることになった。

 

食堂はやはり夜なのでがらんとしており静かだった。私と灰原は冷蔵庫を開け牛乳を取り出しコップに注ぎレンジで温める。普段なら寮母が怖くて出来ないが夢ならば何をしてもいい、しかも灰原と一緒にやるのがまた背徳的と言うべきか何とも言えない気持ちになる。

チンッと電子音が鳴りホットミルクが出来上がる。

 

「出来たぞ」

「ありがと、稲羽さん」

 

ミルクを灰原に渡し、私は隣に座る。

 

「....」

「....」

 

沈黙が続く、こう言った時何を話すべきなのだろうかと今更ながら思う。向こうは笑顔で私が話すのを待ってくれる、何かないかと話す話題を絞り出す。

 

「...ぁ〜、なあ灰原?ちょっと良いか?」

「何かな稲羽さん?」

「ずっと思ってたことなのじゃが、なぜおぬしはこんな化け物か分からない我に優しくしてくれるのじゃ?」

「ん?何でって...、何でだろうね」

「それはないじゃろ、なんかあるはずじゃ」

 

灰原は少し考えた後、

 

「...妹みたいだったから?」

「幾ら我の容姿が子供みたいだからと言って妹子を重ねるのはどうかと思うぞ」

「別にそんなんじゃないって…」

 

そんな他愛のない話をする。あぁ、終わって欲しくないと、つい願ってしまう。だがこれはきっと私自身が作り出している夢の一部でしかない。目が覚めればこのことを綺麗さっぱり忘れてしまうだろう。

夢...か。

 

「...なぁ灰原よ、こんな場所で言うのはなんか趣も何もないがこの際だから言ってやろう。わ「ダメだよ」...何を言っておる?」

「それを言っちゃいけないよ、君はまだ生きているじゃないか」

 

思わず見開いてしまう、何で...私の夢のはずなのに止めたの?

 

「なんで...おぬしが邪魔をする?ここは我のゆ「夢の世界じゃない。君はただ幻覚を見せられているだけなんだ」

「ならば何故おぬしは止めるのじゃ?止める必要がないはず...!」

「君に死んで欲しくないだけ...ほら、聞こえてこない?」

 

するとどこからか、声が微かに響いてくる。この声は...傑?声は曇っていて聞こえないが私の呼ぶ声なのは直感で理解する。

 

「君はまだ生きている。死んだ僕のことなんて気にしないで生きていって欲しい」

「そんなこといったって...」

 

愚図る私に灰原は私の手を握り、

 

「稲羽さん、今までありがと。僕はね感謝してるんだ‥」

「やめよ。まだ我は言い終えておらんぞ、さよならの言葉もさっき言いかけたことも、おぬしに伝えたいこと全然あるのに時間が少なすぎるッ!」

 

今まで堪えていたのに自然と涙が溢れ出す。

 

「それに我のせいでおぬしは...おぬしはぁッ!」

「違う。あれは誰のせいでもない、仕方ないことだったんだよ。

それにさ、後悔はしてないよ。最期に君を守れてよかったと思うんだ」

「....」

「意地悪かもしれないけど、君にかっこいいと思って欲しかったんだ」

 

なんだよ...そんなの、

ズルい...」

「ハハッ、やっぱりそうだよね。そう簡単にいかないよね、だったら...」

 

すると灰原は私に近づき、耳元で小さく囁く。

 

...好きだよ...』

 

私以外に聞こえさせないような声で、わたしは、

 

「...改めて言うのは恥ずかしいな。さぁ稲羽さん目覚め時間だよ...いってらっしゃい」

 

その瞬間、辺りは急速に光初めて灰原の姿が見えなくなり体が引っ張られるような感覚に襲われて地上から離れる。

....結局、灰原だけが一方的に言って終わっちゃった。

 

 

 

「....バカ....」

 

視界が暗転する。

 

 

 

 

                        

 

ゆっくりと目を開く。目の前には私と似た姿の私と私の首根っこを掴んでいる呪霊。そして向かいには傑と悟がいた。まだぼんやりと思考纏まらないが近くにいる奴が敵なのだろう。

 

「我に触れるな無礼者が...!」

 

奴らが反応するより先に足が出て吹き飛ばしていた。体が異様に軽い、今なら何でも出来そうな高揚感がある。

 

「あれ?思ったより元気そうじゃん?」

「よかった。悠里が無事で良かった」

 

 

「あぁ、そうじゃの。いい夢...見れたからな」

 

ほんとに。

 

だけどまだ悦に浸るほどの余裕はない、呪霊たちはまだ祓えてない。瓦礫から二体が出てきた。

 

「へぇ、随分早い目覚めだなぁ?お嬢ちゃん。これでも強い幻術をかけたはずなんだけどな」

「ハッ!そんなちょこざいな術如きにかかるはずなかろう!」

 

素手で構え殺意を向ける。刀を作り出したいが袋が手元になくてうまく呪力を練れない、あの呪霊、いったいどんな小細工を施したかはわからないが奴を祓えば問題ない。

 

「悟、傑。あの呪霊は我がやる。私似の呪霊をやってくれないか?」

「いいけど、すぐ終わっちゃうよ?」

「私に似てるからの、そう簡単に祓われるわけなかろうよ」

「何処にそんな自信が出るの?」

 

悟の疑問が出る前に私は地面が抉れるような勢いで呪霊まで跳び、私の腕が奴の首に入る...が腕は首をすり抜ける。

 

「...やはりダメか...」

 

素手では些か不利か?今のままでは術式が上手く発生しない。如何すれば攻撃が当たるようになるか思考を巡らせる。

 

「おいおい、あんなに煽っておいてやることが殴るだけか?

弱いなぁ...もっと楽しませろよ..ナァッ!」

 

と奴の腕が霧散し、私の体に何かが触れ吹っ飛ぶ。が思ったより痛みがなく二、三メートルぐらい飛ぶくらいだった。もはや隠す気がないのだろう。

 

「蜃か、想像してたものと違ったが...まぁ良い。さっさと終わらせてやる」

 

確か中国の妖怪、霧で人を惑わす奴だったか。だいぶ大きさが違うようだが、まあそれは誤差の範囲か。

 

「知ってたんだァ、じゃあこれはどうかな」

 

蜃の体から霧が発生させ辺りを見えなくさせた。しかも厄介なことに粒子の一粒ずつに呪力を帯びていて本体が何処かわからない。困ったな。

だけどこんな状況、前にもあったような。あの時は実力が追いついてなかったが今ならできる気がする。

 

「闇より出でて...闇より黒く...その穢れを禊ぎ祓え...」

 

そう呟き、私と蜃を包み込むように帳が下ろされる。私とこいつの二人きりにし他の侵入者を防ぐために強力な結界を張った。

 

「今度は逃さぬぞ...」

「いやぁ、怖い怖い...」

 

一か八か試したいことがある。私の術式は物を作り出す術式、構築術式に似た術式だ。しかし、私は何もないところから物を作り出すことができない。何度も試したが呪力が分散しドロっと泥のようなものが生成される。今までは失敗した物だと思っていたが、違うのかもしれない。

 

「術式順転...」

 

この泥こそ私の術式の本来の姿...なのかもしれない。そもそもの順序が逆だった。武器を生成する工程に泥が副産物として出るのではなくて泥から出来ていたのだ。必要だったのはイメージ力だった。

 

『冥月』

 

腕から泥が垂れ手に集まり、不定形だった泥が形を成す。

不必要になった泥はぼとぼととこぼれ落ち、そこから刀が出てきた。刀身は白く一切の汚れがなく、この刀から重さを感じない。体に吸い付くような感覚だ。

私は刀を両手で軽く持ち眼前の霧に向かって斬り込む。

 

「そんな剣じゃボクには...ッ!」

 

刀が何かに触れ何もないところから赤黒い血液のような物が吹き出す。

 

「何が起こったか、わからなそうな顔よな。まぁ教えぬが」

「...クハッハッハァッ!!面白いねェ!楽しくなってきたョッ!」

 

奴は霧を圧縮させ槍のような物を作り出す。狭い空間で一面に覆われ張り巡らされ下手に動けば体に穴が空きそうだ。だが奴もこの空間に閉じ込めた時点で詰みなのを知らないだろう。四方八方に槍が無造作に射出される。私は必要最低限の動きで槍を弾くと刀の軌道をなぞる様に亀裂が生まれ赤黒い血液が吹き出し返り血が私の全身に掛かる。

この刀は悟の無下限呪術に参考にし、一点に収束させる性質を持たせた。その代わり私の術式を使用を制限する縛りを自身に課した。

 

奴の血からは仄かに甘い匂いが私の眠気を誘う、これが蜃の力なのだろうかと意識をしっかり持ちながら弾き続けるが、ふと右足の太ももから激痛が走る。上に気を取られ過ぎた。一気に眠気が湧き上がり倒れそうになるが舌を噛み現実に戻す、血の味が口内に広がり気分が悪い。

 

だが見えた、霧が少しずつ晴れてきて霧が一点に集まり始めて隠れることが出来なくなっている。

意外なことに人型を保っている。貝の形ではないのが少し気掛かりではあるが今考えることじゃないか。

私は刀の頭に右手で抑え鋒を蜃の胸に狙いを定める。この時の私は酷く落ち着いていて、なんでも出来そうな高揚感が溢れる。私は勢いのまま刀を刺す。刀は意図も容易く胸を貫く、だが蜃は不気味な笑みを向けたままだった。

しかし蜃は何をするわけでもなく身体が砕け散り消滅した。

 

私の降ろした帳は消え隠されていた視界が晴れると同時に後方あたりから爆発音が響き振り向く。

私の目に映ったのは派手にぶっ飛んだ傑と少し息を切らしている悟と片腕のない私が立っていた。

夏油は闇堕ちした方が良いですか?

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