誰かの声がする。懐かしい、そんな声が。ぼんやりとしか見えず誰か判別つかないが、きっと私の大切な人なのだろう。
「汝、我と契らずや。生き帰れと、何故、契りを守らず死地へ向かひけり。我は確かにかの異形の物と戦へと頼めど、誰が死にに行けと命じき。我が汝に頼まざらば死ぬることやなかりし?」
主人だった。寝たきりだと思っていたのに老体に鞭打ってふらふらの状態で、立つこともままならないのに何故貴方がここに。彼はひどく怒っているように見えるが、私に対してではなく彼自身に怒っていることがわかる。だが何故私のために悲しまれるのです、貴方は何一つ悪くない、悪いのは私です。気に負わないでください、私の声は届くことはなくただ静寂な空気だけがあった。その後主人は少し落ち着いたのか一呼吸置いた後にゆっくりと口を開く。
「我はなんぢを始めこそ家来のごとく扱ひたれど年をとるたび、なんぢのすくよかさはいつしか我が長からぬ世を救ひき。はやく我は生まれしほどより不治の病に侵され長く見積もりて二十年といはれき。かの時の我は半ば生くることを思ひ絶えたりき。されどさる時我より年下の男が赤鬼と呼ばれたりき。その時の我は面白さゆかしさになんぢのがりやり来けり。かの時なんぢを雇ひしためしを忘れたらず。なんぢが居れば我はかく長く生きこられけり。されど、流石の我もここまでが限りのごとし。...きしかた振り返り思ふなり、なんぢにとりて我は...いかなる色ならむうかと。我が縛りとなりて....不自由なる思ひになりたらむうかとか、....とかく考へしためしもあれどかほどは言ふべし。」
主人の呼吸がだんだんと浅くなっていき話すのが辛くなっていくのが直感で分かった。彼の身体を見て驚愕する、老化による衰えたものだけではない怪我が見えた。彼は必死に来たのだ、比喩でも何でもなく必ず死ぬと分かって他の静止を振り払って来たのだ。そして理解する。その言葉はいけない、言ってはいけない貴方がそれを言ったらそのまま死ぬつもりなのだろう。ダメだそんなことは貴方は私のことなど気にせず余生を暮らしてほしい、ここで死ぬべきではない。必死にその言葉を言わせぬよう止めるが、触ろうする手が半透明に映り主人の体を無情にもすり抜ける。死人に口無しとはよくいえた物だが、こんなにも辛い物だとは思えなかった。主人は最期の言葉放つ。
「付喪操術---「ダメーーッ!!」
気づくと保健室にのベッドの上にいた。一度整理しようと呼吸を整える。確かあの時私は満身創痍の状態で謎の男に殺されそうになった時に傑と悟が来たのを覚えてる。その後の記憶があやふやで全く思い出せないがここにいると言うことは二人は勝ったのだろう。だけど何故だろう涙が止まらない。嫌な夢でも見てたのだろうか。
「おっ、やっと起きたかこの寝坊助、今みんな呼んでくる」
と悟の声が聞こえて来た。きっとカーテン越しにいて私の声で起きたことに気づいたのだろう。少し経った後ドタドタと足音が聞こえて複数の息遣いが聞こえて来た。シャーッとカーテンの開く音と共に皆んながいた。悟に傑、灰原や七海、そして硝子がいた。皆それぞれいろんな表情をしていた。だけどそれは私が生きて帰れたからの表情である。こんなにも心配してくれるなんて、私は幸せ物だな。そう思ったらさらに涙が溢れる。嬉しいはずなのに泣いてしまう。硝子が慰めるために優しく抱きつき頭を撫でてくれる。その後のことは憶えていない。いや恥ずかしくて思い出したくないのだが、色々事情を夜蛾から聞かれ軽く怒られたが思うこともあるようでそれ以上のことは聞かれなかった。その後、悟や傑に弄るネタとしてよく引き出されるようなった。あぁ、一刻も早く忘れ去りたい。
数日後だいぶ治り復帰したのだが夜蛾からしばらく休めと言われ、私は一週間ぐらい休みをもらった。その間は任務や激しい運動を禁止され、実質私に何もするなと言われた。外に出ようとすると必ず七海か灰原が付き添い、風呂には硝子がついて来て、必ず誰かしらいるようになり、一人の時間は私の部屋だけとなってしまった。最初の一日目は何ともなかったのだが、三日目から私の体の調子がおかしくなって来たのだ。朝から異常なほどの倦怠感が私を襲い、身体がとても熱い。そして何より疼いてしょうがない。ダラダラと汗をかき息遣いを激しくなっていく。少しでも熱を冷ますために服を脱いだ。いつもなら出てくる時間に来ないことに気づき二人が扉の前までやって来てた。
「稲羽さーん?大丈夫ですか?ちょっとあけますね」
「まさか窓から逃げ出したなんてことありませんよね?」
とドアノブを回す音がする。今の私の状態を見られるのは非常にマズイと思い、
「だ、大丈夫...だよ...ちょっと寝坊した..はァ...だけだから...気にしないで先行ってていいよ」
「だめだよ稲羽さんは少しでも目を離すと遠くへ行くって夜蛾先生が言ったんだから一緒に行くよ。それに今日ちょっとおかしいよ体調でも悪いの?ご飯食べたら硝子さんとか行くよ」
普段の行いが祟ったか無常にも扉が開かれる。二人は私の裸とこのムワッとした空気感で異変に気づき二人は寝転がっている私に近寄り七海は頭に触り声を掛ける。
「いったいどうしたんですか、この熱はまさか蝿頭の攻撃をもらいすぎて体調でも崩したんですか!今ちょっと家入さんを呼びますね」
と七海は硝子を呼びに部屋を出た。灰原と私の二人っきり、そして裸の私、この状況で灰原が耐えれるわけもなく、
「〜ッ!///じゃあ僕頭冷やせそうな物探してくるね」
と逃げ出そうとする。ただ今どっかに行かれると私がおかしくなりそうだっので手を引っ張り引き止める。無意識のうちに甘えたような声が出ていた。
「ねぇ待ってぇ...ハァ...どっか行かないでぇ...一緒に残ってよぉ...」
「...しょうがない、ちょっとだけだよ」
と灰原は横たわっている私の隣に座ってくれた。ダメだと分かっているのに身体はいうことを聞かない。ただ本能のままに動くしか出来なくなっている。私は身体を少し起こし灰原の太腿を枕にし頭を乗せる。そのとき灰原は身体を少し震わせる。灰原の太腿は筋肉質で少し硬いが人肌の暖かみを感じられ気持ちがいい。だけどまだ足りなくて更にねだる。
「頭撫でてぇ...」
灰原は何も言わず頭を撫でてくれる。ぽかぽかとした気持ちになるがまだ足りない。
「耳も触ってぇ...」
灰原は何も言わず耳を触ろう触れるとゾワゾワと身体中に電流が走るような感覚が襲いビクンッと身体が跳ね視界が白くなった。流石に灰原はその光景に驚いたのか耳から手を離してしまった。
「これ以上はダメ、今の君だいぶおかしいよ。これ以上のことは多分耐えられないと思う」
「なんでぇ~?もっと耳触ってよぉ...他のところも触ってよぉ...頭がパチパチってなって気持ちよくなりたいの...」
「ッ...///‼︎とにかくこれ以上はダメ、ダメだから、これ以上言われてもやらないから」
そんなやりとりをしてるとバタバタと硝子が入って来た。
「硝子ぉ...灰原が私を焦らしてくるのぉ..,」
「はいはい何も言わずこれを飲んで」
と錠剤を無理やり飲まされ、その後すぐに水も一緒に飲まされる。なすがままに飲み込み眠気が急に襲われる。抗う間もなく深い眠りについた。
夏油は闇堕ちした方が良いですか?
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はい
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いいえ
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どちらともいえない