目が覚める。まだ保健室のベッドに寝ていたようだ。硝子は私の隣の椅子に座り見守っていた。
「お?やっと起きたのか。君だいぶ高熱だったよ、七海君が呼んでくれたから何とかなったけど早く言ってくれないと困るんだよね。次はないからね」
「ごめん...なさい、次はないようにするから嫌いにならないでぇ...」
少し涙目気味になり硝子の手を握ると、硝子はため息をつく。
「大丈夫、嫌いになったらしないから安心して」
「...嫌いになったりしない?」
「嫌いにならないよ」
最近この身体が私の認識をおかしくさせてきている。いつの日か私の意識はこの身体と同化し私という存在は消えてしまうのだろうか。そう思うと涙が溢れてくる。
「硝子ぉ...我はどうなっちゃうの...?」
「...大丈夫、大丈夫だから、なんとも無いから」
と頭を撫でてくれる硝子、私が涙が収まるまで一緒にいてくれた。
あれから数時間、泣き止んだ私はまたあの生活に戻る。しかし少し変更されており軽いジョギングなら誰かと同行させるなら良いと許可をもらえた。昨日の記憶が全て消えているので思い出せないがその日に何かあったのだろう。本当はもっと動きたいが駄々を捏ねても仕方ない、それから私は最低限度の暮らしができるようになって更に三日が経ち、今日から私も復帰できるようになった。これからは今まで禁止されていたことがすべて解禁されるので心が舞い上がっていた。それと同時にあの謎の男、悟が言うに禪院甚爾に負けたときに私は自身の弱点に気づいた。
今まで対一での想定しかしてこなかったので多数を相手に戦うことができていなかったのである。それと刀の間合いにいない敵を相手にどう立ち回ることもだ。どうにも刀一つでは大勢に対処できない、から新たな武器を探す必要がある。
幸い私には呪力さえあれば何でも取り出せる術式があるのでそこからつくれるから大丈夫だが、何にするかが問題だ。実はこの術式、何でもとは言ったが、それは構造が単純なものに限るのである。複雑になっていくほど消費する呪力量も増える。それに加え基本的に作るものは使い捨てになることが多く、あまり作る気になれないこともある。それを踏まえ私が今欲しい武器は大勢に対して戦うことができるもの、構造が単純でありコストが低く生産が容易で威力が高いものが欲しい。
そんなことを考えていると灰原にぶつかってしまう。そういえばあの日以来なんだか灰原が少しよそよそしい、ちゃんとこっちを見てくれないし近づこうとすると距離を取ろうとする。一度聞いてみたが何もなかったと主張するだけだ。少しモヤモヤするが本人から何も言ってこないので気にしないようにした。
答えが出ないことに悩み一日が終わる。復帰した、あとでも私を気にかけてくれるのはありがたいがなんか少し束縛されてそうなのを感じた。近い将来私は誰かしらに監禁されそう、と思い少しゾワッ背筋が冷えたのを感じた。何かいいものがないかといろんな本を読んで探し、いくつか候補が浮かんだ。一つは手榴弾、爆弾自体構造が複雑ではなく触れて反応し爆発する物質を混ぜればいいので難しくはない。多分これが対多数においてこれ以上に強いものはないだろう。
次に遠距離なのだが、一つは弓だ。これであればすぐに作れて矢もほぼ無限に作り出せるだろう。ただ弓は容易に作れるがその分耐久面に難がある。壊れたときに新たに作るためにはそれなりに大きい袋が必要とする。硬いもので作ろうにも機動力が下がるのであまり作りたくない。拳銃はどうだろうか。複雑な構造ではあるが手に収まるのでそれほど大きくする必要がなく、そして何より威力があるのが魅力的だ。制作に難はあるが小さいのですぐさま作ることは出来る。
ただ実戦で試さないと分からないので任務があるまで生成を繰り返し効率を上げる練習をし続けた。地道に続け、秋に入るところである任務が入る。それは山梨県にある廃病院に二級相当の呪霊が出現したこと。病院を訪れた一般人が行方不明となり捜索しに行った呪術師三名も消息不明となった。その任務を私だけに行かせるつもりらしい、その時の私は上層部はかでも狂ったかと思ったが上からの命令なので逆らうことができず従う他なかった。それを聞いてたのか灰原や七海は怒っていた。私は少し嬉しかったが夜蛾先生に抗議しに行けそうな雰囲気だったので流石に止めさせた。私もあまり気乗りはしなかったが格上の呪霊相手に実践できるので丁度いいタイミングでもあった。車の中は流石に狭いのでイメトレだけで済ませる。
数時間後、私は廃病院に着いた。今日の補助官は海原さんでない知らない人が担当していた。日にちによって違うものかと思ったが、気にするほどでもなかったのですぐ廃病院に行った。少し階段を登り、上まで登り切ると病院の全貌が見えた。自然が生い茂ってアスファルトから木が生え、白い壁には蔦が生い茂っていた。いかにもな雰囲気を感じさせる廃病院であった。私は帳を張り中へと入る。中に入ると腐敗臭が匂い思わず咽せてしまう。ここに来た一般人たちの匂いだろうか、この匂いの時点でもう手遅れなのだが、あまりに匂いが酷すぎる。ここでかなりの人が亡くなったのだろう。周囲を警戒しながら中に入っていく、中は死体とかはなかったが長年使われていないせいか埃や蜘蛛の巣が出来上がっていた。床には他とはまだ最近だろうか足跡が残っていて奥へと続いている。私はその後を辿り進む。
しばらくしてその足跡はある扉の前で途切れていた、サインには集中治 と書かれていた。他の文字は潰れていて読めない。
一呼吸を置き扉を開ける。中は暗く良く見えない。私は懐中電灯を付けあたりを照らす。そこにはいつ死んだか分からない死体で溢れていた。きっと何ヶ月も経っているだろう死体には蛆が蠢いていた。そこで何か人ぐらいの大きさの影動いたような気がし足を踏み入れる。一歩前へ進むとあたりが一変し赤い空が一面を覆いそこの浅い水溜りが永遠と広がっていた。
所々にはお腹が異様に膨れそれ以外が酷く痩せこけていて餓鬼を創発される人間がたくさんいた。異様な世界にその中心であろうところに呪霊がいた。虫のような顔に鬼のような風貌、背中に巻貝のような甲羅を背負っている。あれがここの大元だろうと思い、袋から拳銃を取り出し頭を狙い発砲した。不意をついた攻撃だがその呪霊は弾を弾き不発に終わる。相手はこちらに気づくとものすごい速さでこちらに向かい口から針のようなものを刺してきた。
そのとき頭痛が走る、頭があれに刺されると確実に死ぬと直感し後方へ避ける。針は地面に突き刺さりそこから何か不透明な色の小さい微生物みたいなものがウヨウヨと溢れかえった。確かにあれ当たったら死んでいたであろう。しかしその微生物は水中を高速で泳ぎ私の足元まで来ていた。咄嗟に呪力で足元を守り、体内の侵入は何とか防ぐことが出来たが靴が穴だらけになり使い物にならなくなった。本体ほど強くはないが呪力などで守らないと容易に体内に入られそうだ。あまり時間を掛けられないと思った私はすぐさま刀を構え居合の姿勢をとり、袋の口を開ける。
ぶっつけ本番だがやらなければいずれやられてしまう。居合とは不動の構えで一撃必殺でなければならない。そこに一切の動きは要らない、今足りないのは奴との間合いだけ、寄らないのならば寄らせるまで。
「....術式反転『裂月』」
袋から空気吸い込むような音を出し、徐々に勢いが上がっていき周囲の水を飲んでいく。
今までは何かを取り出すことに使うことしかできなかったのだが、これは生得領域で私だけの特性みたいなものらしく、その中でも二種類ある。まずは術式順転、これは負の呪力で発動させる術式で私の場合は物を生成し、取り出すこと。次に術式反転、これは負の呪力を反転させ正の呪力とし発動させる術式で、イメージは最初こそわからなかったが最近は理解できた気がする。今までは物を『生成』させ取り出していたが、工程を戻せばよかったのだ。物を袋に入れ『分解』させる。こう考えれば頭に入りやすくなる。
吸い込む力が最大になる頃には呪霊は居合の範囲に入っていた。奴も我慢の限界を迎え殴り掛かってくる。その瞬間術式を解除し、目を瞑る。研ぎ澄まされた殺意は首を捉える。
私は生前誰かを目標にすることはなく、ただ答えを見つけるために研鑽を積み重ね、最終的にある一つの答えを得た。
「『居合抜刀・三日月』ッ!」
私の居合抜刀は神速の域に達する。間合い内であればまず外すことはない、だが部位を狙って切ることは非常に困難である。それを克服するために視界に頼るのをやめた。視ることで不必要な情報も一緒に入ってきて邪魔になってしまう、なので心の眼で物を捉えることに時間を費やした。そのおかげか私の周囲五メートルなら居場所を正確に感じ取ることが出来る。その副産物で動きを数秒先を見ることが出来るようになった、しかしこっちの方は居合の状態でしか視るはことはできないが。
私の刀は空気の抵抗を受けずほぼ一直線に奴の首を薙いだ。奴は首がポロッと落ちた。飛び込んできた身体は私の横を通り過ぎ大きな水音を立てて崩れ去った。
大元を祓ったと思ったが風景が変わらない。おかしい、と思っていると背後から大きな音を立てて何かが水面から起き上がった。後ろを振り返るとさっき倒したはずの呪霊がいた。奴が本体でない、この水溜まりに原因がありそうだ。ならばこの場所を紐付ける楔みたいなのがないと成り立たないと思いそれらしい物を片っ端から破壊し回った。だが破壊してもこの世界に綻びが生じることはなかった。だが走り回ったおかげで分かったこともある。無限に広がっていると思われた世界には端が存在した。端には白い靄みたいな壁を全方位に囲われて、とても硬い。あの呪霊もどこに行っても必ず追いかけて来てキリがないし、私の身体に入ってこようとする無数の微生物はどこでもいてあまり時間を掛けられない。
攻略の糸口が見つからず時間だけが進んでいき、呪力がだんだん消費してしていく。斬れども斬れども無限に湧いてくる呪霊どもに辟易しながら祓い続ける。数を数えるのも億劫になるほど同じ姿の呪霊を何百と祓ったか、それでもここを出れそうな目処は立たない。
だがこいつの性質は理解できた。こいつはそこらにいる微生物が塊となって出来た存在。何億といる奴らを祓わないとこの空間から出れない。絶望的な状況だがどんなことにも終わりがある。死ぬまでは負けではない、どんな方法でも絶対出てみせる。やたら一体一体は小粒以下の大きさだが一体でも入れば最後、内部から破壊し死ぬだろう。それにあの虫頭の呪霊も一体ずつしか出ないがそれでも馬鹿にできない、復活するのに時間はかかるが必ず同じ強さの奴がムラもなく襲ってくる。
一度裂月で全て吸い込もうとしたが水は絶えず湧き、枯れそうにないので諦めた。この水自体に呪力のどうのこうのはないがこの空間の水は概念で出来ているのだろう。だが微生物はこの空間内だけのものだろう、湧いてくる水からはいなかった。ならばこの空間全部の水を一瞬で全て抜けたらどうなるのだろうか。だがそれが出来たら苦労しn...いや、あった。
領域展開、出来るやつはごく少数で呪術戦の極致らしい。やったことはないが多分出来る、いややったことがある。だが今は場所が悪い。不完全になるがやってみる。親指同士を少し開け手で円を作り手印を組む。
「領域展開『欠月叢雲』」
私の足元から黒い球体が大きくなっていきこの空間を飲み込む。
私の領域は夜の平安京をイメージし作られている。空には本来満月が浮かんでいるが場所が悪いために雲が差し掛かっていて、閉じていなければ保つことが出来ない。そのため、必中効果を無くす縛りを課す代わりに結界を張ることを可能とした。
そしてこの領域の効果は、私の呪力を消費せず物を作ることが出来る。概念であろうとこの空間内であればいくらでも作り出せる。
手始めにここらにいる微生物を焼払い本体がどこにいるかを探る。
「術式順転・『紅月』」
雲隠れした月が赤に変色し淡い光を放ち、そこから眩い光が雲を通り抜け地上へと差し込む。途端に地面が燃え水も蒸発しそこにいた奴らを焼く。しばらく焼くと本体と思われる呪霊が現れる。そいつは腹が大きく膨れた鬼だった。赤い肌で手には人を刻むためにありそうな大きな鉈を持っている。
鬼ならばあれで祓う。持っていた刀を赤い月に翳すと刀は姿を変える。昔私と同じ時代に作られ鬼を討ったとされる名刀、童子切安綱。
月に影響されたか刀身が赤みがかってしまったがその分鋭さに磨きがかかるのでなんの問題もない。鉈を振り上げ声を荒げる呪霊に私は刀を鞘に納め居合の態勢に移る。目を瞑る奴の首を狙う。精神を研ぎ澄まし時を待つ、この対面奴は私を攻撃せずにはいられないはず、攻撃をする一瞬の隙を私が斬る。ゴウゴウと炎が上がっている。時間にして一分とても長いようで短い一瞬、動き出したのは呪霊だった。私はそれに合わせ首を跳ね飛ばす。手の内が分かればなんとも容易な相手だった。
だがまあ少しの間だったが肩慣らしには十分な相手だったなと思い領域を解除し病院を出た。
夏油は闇堕ちした方が良いですか?
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はい
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いいえ
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どちらともいえない