少々残酷な描写は多くなると思いますが、あくまでフィクションとしてお楽しみください。
私はユーマ。世界各国を戦慄させてきた殺し屋です。
貧困凄まじいとある街で生まれたが、早々に親に捨てられこの世に姓を受け早々に生死を彷徨っていた。
そんな私を拾い育てたのも殺し屋で、白衣を身に纏う初老の男だった。
彼は自分の後継者にしようと物心つく前からありとあらゆる
初めて人を殺めたのは5歳の時。
貧しい暮らしをする私たちスラムの住人を嘲笑っていたとある貴族の男だった。
男はスラムに住む住人たちを労働源に土地を耕し、対価というにはあまりに少ない賃金を支払い巨万の富を得ていた。
「醜く死んでください。豚野郎」
男の考えに嫌気がさし、私は幼子らしい無邪気な笑顔を浮かべ拷問にかける。
食事は一切与えず、手足の爪を一枚ずつ剥がし、致命傷にならないほどの刺し傷も加えながらこれまでの行いを懺悔するかのような悲鳴を上げさせた。
男が一切言葉を発しなくなる頃には、土手っ腹には大きな穴が空き配合した薬品が体を蝕み肉が爛れるまでになっていた。
残虐非道で人の心など持ち合わせていないような殺人事件は瞬く間に広がり、私は幼くして他者から恐れられる殺し屋に成長したのだ。
順調の殺し屋生活だったが突如転機が訪れる。
師匠から暖簾分けを言い渡された時だ。
もう教えることなど何もない、と言い捨て私の元から彼は去った。
初めは戸惑い別れを惜しんだがそれでも殺し屋としての活動は続け、歳が20を超える頃には殺した人間の数は4桁を優に超えていた。
力に自信のあるものは更なる暴力によりねじ伏せ、頭のいいものは知力で死に追いやり、両方を兼ね揃える人間には絶望を与え精神崩壊を起こさせる。
どの部類において私は最強最悪に。
隙なんてありはしない。
人々は私の存在を恐れ、 "
白衣は敬語という話口調と共に師匠から受け継いだもの。
ドクターというのはこの服が連想したことと、毒薬などを用いた殺しを多用していたことから連想されたのだろう。
こうして私は、殺しの王として確たる地位を確立したのだ。
それから数年が経過したある日、私は病におかされる。
当時大流行した伝染病なのだが、様々な症状を伴い最後には死に至らしめるという危険なもの。
私への挑戦状か?という気持ちで特効薬を作ることに努めたのだが、殺しの技術を極めた私ですらこのウイルスの対処法を見出すことはできず呆気なく死亡した。
実に情けない死に方。殺しの王が聞いて呆れる。
だが、こんな殺伐とした世界にも飽き飽きしていたところだ。
今度生まれ変わったら…………まあ、まずは地獄に堕ちて更生してから、平和な世界でごく普通の生活を送りたいですね。
淡い願いを胸に、奈落の底へ落ちる────
「……………んっ?」
目を開けるとそこは地獄の門への入り口ではなかった。
私の目に映るのは一面真っ白で他には何もない世界。
ここは死後の世界なのか、はたまたどれにも属さない異空間なのか。
疑問符を浮かべ辺りを見渡す。
肝心の私はというと椅子に縛られ身動き一つ取れない状況にあった。
病に倒れ寝たきりとなっていた身からすればなかなかに酷い扱い。だが、これまでの報いと考えたら受け入れるしかない。
何もせずただじっとしていたら突如天から光が差し込み、パッと閃光を放ち目が眩むと銀色の髪をした女性が姿を現した。
その人は私を見るとニコッと笑みを浮かべ、ゆっくりと近づく。
「初めまして。ユーマさんでよろしかったですか?」
「ええ。あなたは?」
「端的にいうと、わたしはこの世界の支配者。"神" とでも思っていただいて構いません」
そっと目を閉じ滔滔と述べる自称神は、私の対面に椅子を顕現させては深く腰を下ろす。
「神、ですか。これは実に信じ難い」
揶揄うように笑って返すと、自称神は表情ひとつ変えることなく片方の手に火の玉を。もう片方の手には独特の匂いを放つ液体の玉を浮かべまずは液体の方を私に向けて解き放つ。
それを全身に浴びて液体の正体に気がつく。
「くっ……ガソリンか」
「そうです。あとはもう、お分かりですよね?」
より一層の笑みを浮かべ自称神は火の玉をも私に放つ。
火はあっという間に燃え広がり身体を業火の如く焼き尽くす。
どうやら死後の世界にも痛覚は存在していたようで全身が燃え広がる感覚を今、実際に痛感している。
私もかつてこの手段を用い、殺人を行った経験があった。
殺す対象が命より大切にしていた大金と共にあの世へ葬るために。
囂々と燃える、ただの紙屑となった大金な山は殺害対象と共に美しい炎を舞い上がらせたな………と、その時の記憶が脳裏をよぎる。
このまま私もあの人物と同じ運命を辿ることになるのか。
そう悲観していたら自称神は盛大に水をぶっかけ鎮火させ、何かの呪文を唱えると灰になった私の体を元の状態に戻してしまったのだ。
「今のが死の間際というやつですか。くふふっ、初めての経験です」
抵抗すらできなかった自らの弱さを痛感し思わず笑う。
「しかしながら、ここまでやる必要はあったのですか?」
「前世でたくさん人を殺してきたのでしょう?これぐらい当然なのですよ」
反論する余地もない核心の一言だ。
「残念なことに私を縛り付けていたロープも椅子も燃えかすとなってしまいました。このままだと、神であるあなたをも殺してしまいますよ?」
ありったけの殺意を込めた瞳で女を見ると、決して動じることはなく
笑みを浮かべたまま返す。
「ここは私が作り出した空間。
「それを信じろと」
「またあなたの身体を燃やしてみせましょうか?それとも凍らせてみましょうか?う〜ん、やはり………」
神は指をぱちんっ、と鳴らすと無数の刃が顕現しその矛先をわたしに向ける。
「やはりここは滅多刺しにしましょうか♪」
神、というより悪魔のような考え方だ、
今の私には武器はなく、頼れるのは己が腕力と知力のみ。
圧倒的に不利なのは頭で分かっているがここまでやられっぱなしというのも癪なことは事実。
心は熱く頭は冷静に、と誰かから訊いた言葉を思い出し私は戦闘することをやめ降参するように両手を真上にあげた。
「参りました。もう何もしません」
悔しくてたまらないが仕方ない。
今の私ではどう足掻いたところでこの女に勝てないのだから。
そう判断したが今はまだ、だ。
この先機会があれば必ずあなたを殺してみせますよ。
殺し屋の名にかけて。
「うふふ。意外と潔いのですね」
「無駄なことは致さない主義なので」
「その心意気は素直に認めましょう。今の自らの立場を理解し冷静に状況判断ができるあなたは下界でも十分やっていけたのでしょうね」
「あなたが実力を高く評した男でも、病には勝てませんでしたが」
皮肉を含ませ笑って見せる。
神は指を再度鳴らし、刃を引っ込めると二人分の座席を用意し双方腰を下ろす。
「それで、私なんかに一体何の用が?」
「ここ最近死んだ人間の中であなたが最も残虐非道な行いをしたクズだったので、是非お話をと思いまして」
「自由なのですね」
「これでも神ですので。まあ、下界を覗いて嘲笑う程度には楽しく過ごしていますよ」
口も、そして趣味も悪いこの女はどうやら覗き魔でもあったようだ。
「お話、といってもこちらから話すことは何もありません。早いとこ、灼熱地獄なり、黒縄地獄なり、どこへでもお連れください」
これまで殺してきた人間への罪滅ぼしだとか、この世に生まれてきて申し訳ないだとかそんな気持ちは一切ない。
もし地獄に閻魔大王がいるのであれば勝手に裁くだろう。謝罪をする気など皆無。
正直、目の前にいる神の戯言に付き合う気はさらさら無い。
「なら、これから先はわたしの独り言だと思って訊いていて下さい。これはとある死人の話です」
私の都合など無視し、神は語り始める。
「その死人は殺し屋でした。血に塗れ平和からは程遠い暮らしをしてきた死人は、いつしか安全で平和な生活を求めるようになりました。人をたくさん殺してきたのも自らの安寧の地を手に入れるため。この世から悪そのものを滅ぼそうと─────?
「もう十分です」
掌を前に差し出し神の独白を強引に止める。
「うふふ。何か心当たりでも?」
「……………ノーコメント」
それはもう捨て去った願望。
悪をいくら排除しようとも、あらゆる生命が誕生し溢れかえると共に秩序を乱す。
死人は全てを諦め、ただ八つ当たりをするように人々を殺して回ったのだ。
「死に急ぐ必要はありません。あなたをまだ地獄に堕とす予定はないのですから」
「と、言うと?」
「あなたにはこれから平和な世界へ転生してもらい、1から人生を歩んでいただきます。あっ、拒否権なんてありませんよ」
「拒否などするつもりは毛頭ありませんが、それはあなたにとってどのようなメリットが?」
「メリット?そんなものありません」
ははは、とあっけらかんに笑う神の考えが分からず頭を悩ます。
「強いていうなら…………そう!暇つぶしです。たとえどんなクズでも平和な生活を与えてやれば改心するのではないかと。そして、これまでの非道な行いを悔い改め心に負った癒えぬ傷を一生背負うと」
「まるで科学の実験のようだ」
「まさにその通りですよ」
「ふっ。どうやらあなたは、私ならそうなるとお考えのようですね」
「面白いものが見れたらそれで十分です♪」
どのような結果になろうと関係ない。
そんな口ぶりで神へ不意に話を戻す。
「それで、私は平和な世界に転生して何をすれば良いのですか?」
「これからわたしが伝える二つの条件をクリアしてください。そうすればあなたに平和な暮らしと永遠の命を授けましょう。もちろん、幾人もの刺客を送り込むつもりですけど」
両の手を合わせニコリと笑う神。
俄かに信じがたいが、先ほどまでの非現実的な現象を見れば信じる他ない。
私は腕を組み、黙って神の話を訊く。
「一つはあなたの家族や友人に秘密を決して知られないこと。転生したこともそうですが、あなたの前世に関する情報を悟られてはいけません」
「くふっ。たとえ殺してでも、ということなのですね?」
わたしの質問に髪はニコリと笑うだけで返事をしない。否定しないということは、その考えに間違いはないと捉えて良いだろう。
「もう一つはある人物の抹殺です。その人物は将来必ずあなたの目の前に現れ厄災をもたらしますから」
「ほう。それは楽しみです」
条件一は簡単だ。
少しでも疑惑の念を持つ家族や友人が現れたら私の手で始末すればいい。不測の事態が起これば事故死にでも遭わせればいいだろう。
刺客とやらも問題ない。私以上の殺し屋など存在しないのだから。
気になるのは厄災をもたらすという人物だ。
低く見積もっても私と同等か、神のようなデタラメな力を持った人外だと予測する。準備さえできればこちらも戦える手段はあるが『神本人が登場』というパターンもこの女ならありえる。
そうなれば願ったり叶ったり。
先ほどの屈辱的な敗北のリベンジができるというものだ。
「もしそれらの条件をクリアできなければ私は死ぬのですか?」
「そうですねぇ………あなたのことですから死を与えるだけでは生ぬるいんですよねぇ」
「二度と人として生まれないように魔法でもかけますか?」
「うふふ。わたしを魔法使いみたいにいうのはやめてください。うーん…………まあ、達成できなかったその時までに決めておきましょう♪」
あまりに適当すぎる言動の数々に、私は彼女の思考を読み取ることを諦めた。
人心掌握も極めたつもりだったのだが改めなければならないようだ。
………いや、神は人ではないから関係ないのか。
「ここまで話したのですから、当然全ての条件を呑んでくれるのですよね?」
「ええ。くれぐれも私を選んだことを後悔しないことです」
神によって与えられた第二の人生。
どうせなら平和な生活を謳歌するために使わせてもらおう。
私は表と裏の世界で名を轟かせてきた最高の殺し屋。
不可能なんて、ありえない。
「そうだ。転生したら何か特別な力を付与するとかそんな話もよくあるのですが、必要ですか?」
「いいえ、まったく。私のもちえる技術だけで十分です」
「傲慢。しかしそれを裏付ける過去があなたにはある。いいでしょう!せいぜい足掻いて見せなさい」
神は大きく腕を広げ何かの呪文を唱えると私の周りを光が囲み、そして長い長い虹色の道を渡る。
強くてニューゲーム。
殺し屋ユーマの新たな物語の開幕です。
好評なら続けます!
ここ最近、バンドリ作品が数を減らしつつあるのでまた活気が溢れることを祈っています。
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