みなさんいかがお過ごしでしょうか?
今回から優馬くんは高校生となり、新たな門出を迎えることとなりました。それと同時に、また新たな刺客が………?
説明は程々に、それではスタートです
4月9日。友人の結婚式の為に作曲されたあの名曲の月日から1ヶ月、ボクら新一年生は始業式を迎え高校生になった。
心機一転、と言いつつも、ボクは内部進学の為目新しい気持ちなど存在しない。
それに私は他と違い第二の人生を歩んでいる最中。他の生徒たちにも増してこの時期はつまらなく感じる。
「新入生挨拶。新入生代表、羽沢 優馬くん」
「はい!」
司会の先生から呼ばれ壇上に向かう。
私が代表となったのは、中等部で生徒会長を務めたから。高校でももちろん、姉が所属する生徒会へ入ると決めている。
「羽沢くん。これ、台本ね」
そう告げ、細身の女教師が笑顔で私に一枚の紙切れを差し出す。
「必要ありません」
「え?」
驚く教師を横切り壇上へと上がる。マイクがオンになっていることを確認し、話を始めた。
「春の息吹が感じられる今日、ボクたち〇〇◯名は羽丘学園の門をくぐりました。ボクたちの新たな門出を────」
カンペなど必要ない。全てこの脳内に入っているのだから。
少し感じは悪くなってしまったが仕方ない。
「────新入生代表、羽沢 優馬」
一言も噛まず代表挨拶を終えると、生徒や教師たちから盛大な拍手を受け退席する。
その道中、あることを思い出しくすりと笑った。
それは過去、姉も生徒代表としてスピーチしたらしいが緊張のあまり、噛みまくりで面白かったとモカから聞いたからだ。
それを彼女は "つぐっている" と評し、幼馴染の間で共通の言葉となっている。
頑張り屋でなんでも率先しこなしていくのは尊敬するが、頑張りすぎるところが玉に瑕の姉を表す素敵な言葉だと私も思う。
始業式を終え、クラスメイトとの交流もほどほどに、私はすぐさま生徒会室へ向かった。
「失礼します」
4回扉をノックし、生徒会室へ入ると短い水色の髪の女生徒が生徒会長席に鎮座しているのを目にし、頭を下げる。
「姉がいつもお世話になっています。弟の羽沢 優馬です。姉共々、今後ともよろしくお願いします」
私がそう告げると、生徒会長は目をキラキラとさせながら私に近寄った。
「つぐちゃんの弟君だよね!?さっきのスピーチ良かったよ〜!!」
生徒会長は私の両手を掴むとブンブンと振り回し歓迎する。
私の挨拶の後に在校生の代表として話したこの女生徒、氷川 日菜はアイドルバンド "Pastel*Palette" のメンバーであり、才女として有名な人だ。
彼女から発せられる「るんっ♪」等といった独特な言葉は、他者を魅了し惹きつける。私にはない、存在感を放つ女だ。
「あ、ありがとうございます………」
あまりのハイテンションさに苦笑いする
「失礼しま………えっ、優馬!?」
数分遅れて、書類を大量に抱えた姉、つぐみが入室すると驚いたような様子を見せた。
「つぐちゃんおかえりー!」
「お姉ちゃん、お疲れ様」
「ありがとう……でも、クラスの方は大丈夫なの?」
「大丈夫って?」
「その、クラスメイトとお話ししたり、遊びに行ったりとかは………」
「あっはは、まだまだこれからだよ。徐々に関係は築いていくつもり」
中等部では孤立することはなかったし、クラスにはあこもいる。見知らぬ生徒も数名程度でほとんどは顔見知りな為、つぐみが心配するようなことには決してならない。
今の私に必要なことは、生徒会に入ること。
2、3年生を押し除けてとなると一筋縄ではいかないだろうから、将来を見据え今こうして挨拶に来ているというわけだ。
「それにしても、二人って姉弟ってだけあってよく似てるよねー」
「そうですか?」
「うんっ!あたしもおねーちゃんがいるから親近感が湧くな〜」
「お姉様がおられるんですね」
「そうだよ。この前お店で紹介した氷川紗夜さん。覚えてる?」
「…………!!」
その名を耳にし、アシュリ────氷川 紗夜さんの顔を思い出す。確かに、言われてみればよく似ている。
表情や口調では見分けはつかないが、根っことなる部分、特に目元や顔といった部分はこの生徒会長と重なる部分がある。
「びっくりした?」
どこか嬉しそうな様子でそう問いかける生徒会長。
「ええ。お姉様に似て凄く美人ですよ」
「も〜!そんなこと言っちゃって〜!嬉しいなぁ♪」
「あはは………」
「それで、今日は何の用で来たのー?」
苦笑いを浮かべる姉に対し生徒会長はケロッと表情を一変させ問う。
「中等部の元生徒会長として、高等部の現生徒会長に挨拶するのが礼儀と思い来させていただきました。ついでに、中等部で度々耳にした姉の活躍ぶりをこの目に焼き付けておこうと」
「できた弟君だね♪」
「最後のは余計!」
「あいたっ」
姉はムッとした表情で、優しく私の額を指先で押す。
「ねえねえ、つぐちゃん。今って会計の役職って空いてたよね?」
「そうですけど、もしかして………」
「うんっ!弟君なら適任じゃないかな?」
「これはこれは」
全く予想だにしなかった会長の言葉に驚く。
入学してわずか数時間。
高校生になってなんの実績も上げていない新参者がいきなり生徒会の一員になれるとは、嬉しい限りだ。
「引き受けてくれるかな?」
「ええ。もちろん」
二つ返事でその役職を授かる。
「それじゃあ、明日には正式に任命されると思うけど、これからよろしくね!」
「はい。こちらこそよろしくお願いします」
満面の笑みで差し出された握手に応じる。
「………あらっ?」
突如生徒会室の扉が開き、視線を向けると入学式で私に台本を渡してきた女教師が入ってきた。
その教師が入ってもなんら二人の様子が変わらなかったところを見ると、生徒会の顧問と見て間違いない。
「あなたは………羽沢 優馬くん、だったかしら?」
「初めまして、ではありませんでしたね。先程は失礼しました」
台本を受け取らなかったことに対し改めて謝罪する。
「いいの。気にしないで。それにしても、全て暗記してくるなんてすごいわ。生徒会役員に欲しいぐらい」
「せんせー!もうすでにスカウト済みです♪」
「あら、いいわね!先生も歓迎するわ!」
「よかったね、優馬!」
「うん」
とんとん拍子に話が進み、上手く出来過ぎてる事実に恐怖すら覚える。
だが、私の目的は達成された。それに変わりはない。
「とりあえず今日はもう帰りなさい。明日の放課後、また説明させてもらうわ」
「わかりました」
「つぐちゃんも今日は帰っていいよー」
「え?でも、この後会議の資料作成が……」
「ぜーんぶあたしがやっとくから安心して♪」
「私も手伝うわ。羽沢さんはいつも頑張ってるから今日ぐらいはゆっくり休みなさい」
「あ、ありがとうございます!」
これがつぐみの人徳というやつか。
裏表がなく、率先して仕事をこなす。羽沢珈琲店の接客もそうだが、本当にこの姉はよく働く。
尊敬すると共に、心配でもある。
また、いつぞやの時のように倒れられたら私の心臓がもたない。だからこそ、私がそばにいて支えてあげたいんだ。
「優馬はこの後どうする?」
「そうだなー……とりあえず、帰りながら考えようか」
「うん、わかった」
先生と会長に別れを告げ、生徒会室を後にする。
こうして姉弟二人並んで下校するのは中学以来か。
あの時も、こうして生徒会の仕事を終え帰っていたのだが、高校生になった今でもなんら変わらない。
他所では思春期の影響で兄弟仲が悪くなったり疎遠になったりするものだとクラスメイトから訊いていたが、私たちの間にそれはない。
むしろ以前より仲が深まったとすら感じる。
私は真の善人であるつぐみを敬い、尊崇している。
だからこそ、そんな姉を嫌いになるはずがないと強く言い切れるのだ。
「今日は緊張した?」
壇上の傍で見ていたであろうつぐみが問う。
「全然。店で接客をする方が緊張するよ」
この程度造作もない、と言わんばかりに淡々と返す。
どうやらそれがお気に召さなかったようで「生意気っ!」と口にし不満げな表情を浮かべた。
姉がこのような言葉を使うのは私に対してだけ。幼馴染や両親には決してない。
本当の意味で心を許しているのだと実感でき、それがどこか誇らしく、自慢に思う。
「それにしても、優馬も高校生かあ」
「あっという間だね、本当に」
「昔はあんなに小さかったのに」
つぐみの視線の先にいるのは、赤い帽子を被った小学一年生ぐらいの男の子。
背が低く、無邪気な顔をしている。
「そんなに子供っぽかったかな?」
「確かに、言われてみれば違うかも」
「まあ大人に憧れてたっていうのはあったかもしれないけどね」
「小学校の時、図書館にあった本を全て読破したっていう噂を聞いた時は耳を疑ったけど」
その噂も司書さんが頻繁に私を見かけるから流しただけで、真実ではない。
少なくとも、童話や漫画といった娯楽向けの本に目を通したことは一度もないというだけだ。
「本は今でも好きだからね。特に、非日常を味わえる物語は興味をそそられるよね」
ファンタジーや推理小説といった分野は父も好んでいるため、よくその話で盛り上がっては本を借り読んでいる。
つぐみはどちらかといえば恋愛漫画が好きなようで、幼馴染の間では特にモカと話が合うようだ。
「アニメは見ないの?」
「クラスメイトがお勧めしてくれたの作品は見るようにしてる。話のネタになるからね」
前世では存在しなかった娯楽が山ほどある。
あの記憶が無ければ、私もこれらの誘惑に魅了され堕落していたのだろうか。
会話はそのまま止まることなく弾み商店街へと辿り着く。羽沢珈琲店まで後少しだ。
いつも通りの帰路についていると、買い物をしたいと告げたつぐみがコンビニに立ち寄った為、私もそれに同行する。
「何を買うの?」
カゴを持つ姉に問いかける。
「ちょっと気になってるスイーツがあって」
「スイーツ?」
「ひまりちゃんが教えてくれたんだけど………あ、あった!」
冷蔵のショーケースからそのスイーツを手に取るつぐみ。
パッケージには、『餅のような食感が特徴的な新作スイーツ』と大々的に載せられていた。
姉が言うには、テレビで何度か特集が組まれているようで非常に人気らしい。
味も何個か種類があるようで、つぐみとは別味のものをカゴの入れレジに向かう。
「しゃーせー……あれ?」
気怠げな声で接客をする店員。
レジに立っていたのは、姉の幼馴染であるモカだった。
「ゆーくんとつぐじゃーん。やっほ〜」
私たちを見るや否や、表情を一変させヒラヒラと手を振る。
「お疲れ様です」
「今日は何時までバイトなの?」
「19時には上がる予定ー。それにしても、姉弟仲睦まじいですな〜♪」
カゴに入った商品のバーコードを読み取りながらそう揶揄うモカ。
兄弟のいない彼女からすれば、羨ましいとでも言いたげな様子だ。
つぐみは照れながらも微笑んで答える。
「優馬はその、いい子だから!」
「お姉ちゃんこそ」
その言葉を聞き、耳まで真っ赤にするつぐみを揶揄うようにして笑い、会計を済ませ店を出る。
そして─────
「どけ!邪魔だ!!」
コンビニを出てすぐ事件が起きた。
商店街をバタバタと慌ただしく駆ける中年太りした男はそう叫びながらひた走る。
ブランド物のバックを手に逃げるような様子から、ひったくり犯と見て間違い無いだろう。
数十メートル離れていたところから人だかりを強引に避けていき、コンビニを出た私たちまでの距離が縮まる。
「テメェらも退け!!」
残り数メートルまで近づいてきた男は再び声を上げる。
このままでは姉にまで危害を加えかねない。
神が寄越した刺客ではないが、危険分子であることに変わりはない。
私は、姉を庇いつつも過ぎ去る男の首元に誰からも認知されることのない速さで手刀を放ち、男はそのまま走り去る。
「…………ッ!?!?」
数秒後、やっとその効果が現れ男は意識を突如として手放し道端に倒れ込んだ。
ひったくった鞄は宙に舞い、通行人へと渡る。
恐ろしく早い手刀。
確か、あこが勧めてきたアニメで、それを繰り出した盗賊団のボスを発見したモブの殺し屋が発したセリフの一部だ。
だが、現実でそれを見逃さない人間はこの場にいない。
真の殺し屋である私が磨いた技術。
あまりに精密で迅速な手刀は、喰らわされたことに気づくことなく相手は気を失う。
手加減しなければ命にだって関わる危険な行為。その加減が実はというと難しい。
緩すぎては効かず、強すぎては首の骨を折りかねないからだ。
マスターした今、私にその心配は微塵もない。
「び、びっくりしたあ………」
尻餅をつき、つぐみはそう溢す。
「大丈夫だった?」
「うん、平気」
手を差し伸べ、立ち上がらせるとつぐみは付着した埃をパンパンと払う。
「急に倒れたみたいだけど……どうしたのかな?」
「相当興奮してたみたいだし、脳卒中を引き起こしたのかもしれないね」
「怖いなあ……」
私の嘘につぐみは気づかない。
申し訳なさはあるが、普通の学生ではないとバレれば命に関わる。神の判断一つで命を落とすのだ。たとえ心を許した友人、家族だとしてもそれだけは譲れない。
「大丈夫。ボクがお姉ちゃんを守るよ」
「ダメ!優馬は私が守るの!」
「ボクだって男だよ?」
「その前に私はお姉ちゃんなの!」
「全く、頑固だなあ」
「それを優馬が言う?」
「確かに……」
お互いがお互いのために。
羽沢姉弟はそれが普通だと共感し笑い合った。
いかがだったでしょうか?
本日からドリフェスが始まりましたね。
個人的には蘭がめちゃくちゃ欲しい………なんてしてでも当ててやるぜ!
最後になりますが、評価、感想、お気に入り登録よろしくお願いしゃす!