羽沢家長男の隠し事   作:山本イツキ

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久しぶりの投稿となります!

今回は少しグロい場面を少々……やっぱ残酷な描写があってもいいよね!?


残虐非道の切裂魔

 時計の針は2時を指し家族が全員就寝した頃、私は真っ暗な部屋の中でボーッと外を眺めている。鈍色の分厚い雲がかかり、その隙間から僅かに月の光が差し込んでいる。

 耳をすませば遠雷も聞こえ、つぐみがこの場にいたのなら震えて縮こまりそうな状況だ。

 その空の下には、道をフラフラと歩く野良猫や仕事終わりのブラック企業の社員。

 かつて私が過ごした街は昼夜関係なく争いが起こり眠れない日なんてザラにあった。それに比べればいくらか平和と思える。

 この街は静かでいい。安心して眠れるというものだ。

 

 

 ウーーーッ、ウーーーッーーーー

 

 

 突如、机の上に置いてあった携帯に一件のメッセージが入る。

 差出人は、蛇沼 侑。以前から交流のある関西弁の男からだ。

 それを手に取ってからベッドに腰掛け、携帯が放つブルーライトで眩む目を細め内容を確認する。

 

 

 『↓↓』

   

 

 短く綴られたそのメッセージに違和感を覚える。いつも私を揶揄っては高笑いする彼にしては不可解な行為だ。それに、情報屋としてはあまりに短絡的で雑な単語。

 下矢印が二つ。全くもって意味がわからない。

 本物の情報屋は如何なる状況下でも仕事を遂行しなければならないというのに。

 それが鉄則だと豪語する彼とは思えない伝え方だ。

 

 

 『夜中に一体何のクイズですか?』

 

 

 そうメッセージを打ち送信する。

 返信を待っていると、15分ほどが経過してようやく通知が届いた。

 しかし、それは彼からのものではなく非通知。つまり私の見知らぬ誰かからだった。

 そのメールには写真が添付されおり、それを開く。

 

 

 「これは………」

 

 

 写真に映った光景を目の当たりにし、驚いたように溢す。

 身体が大木に固定され手足は釘のようなもので打ち付けられており、腹部は縦に数十センチほど深く切り刻まれていた。

 足元には腹からこぼれ落ちた腸が撒き散らかされ、地面に落ちた携帯もろとも真っ赤に染まっている。

 見慣れた光景、ではあるが安全で平和なこの街で随分と悲惨な事件が起こったものだと少しばかり驚く。

 添付された写真を確認してすぐ、着信が入った。

 

 

 「もしもし」

 

 

 その電話に出ると、携帯の向こうでクスクスと笑う声が耳に入った。

 

 

 『羽沢優馬…………いヤ、"白衣の異端者(Dr.UMA)" と呼んダ方がいいカ?』

 

 

 生前のわたしの異名を知る者。

 それを探ろうにも相手は機械仕掛けの音声だ。素性をバラさないあたり、相手もバカではないということ。

 

 

 「あなたは?」

 

 『………"切裂魔(スプラッター)" 』

 

 

 スプラッター。首や手足をはねることによって、血しぶきや内蔵が飛び出す残虐的なシーンを見せ場とするホラー映画のジャンルの一つ。

 写真で送られたような殺し方をするあたり、相当頭のネジが飛んだ人物と考えていいだろう。

 

 

 『次ハ……貴様ダ………!!』

 

 

 恨みがこもったような、そんな様子で強く言い残し電話が切れる。

 耳から携帯を離すと同時にベットへ投げ捨て、再度窓の向こうにある景色を覗く。

 遠くで鳴り響いていた雷の音が近くなり、目の前でパッと閃光を放つと轟音と共に落雷した。

 その光が反射し窓に自分の今の表情が目に映る。

 

 この時を待っていた。

 

 そう言わんばかりの喜びが体現したような顔。喜悦、といった感じか。

 久々に現れた同業者(ころしや)との遭遇に、否応なしに気持ちが昂る。

 

 

 「スプラッター………クフフッ。あなたに私が殺せますかねぇ」

 

 

 そう呟き静かに笑う。

 正直、羽沢 優馬として何気ない日常を過ごしてばかりで退屈していたところだった。

 電話の主は間違いなく、神からの刺客。大罪を犯し成仏することが叶わなかった悪意の塊。

 それがこの世に、新たな肉体を授かり私に牙を剥いたのだ。

 平和な暮らしを望むと言いつつも、私の根本にあるのは殺人。ストレスが人生のスパイスというように、私にとって殺しとはそれに等しい。

 

 かつて、殺しの王として世界を戦慄させてきた私に挑もうとする人間は誰一人としていなかった。

 しかし今、こうして私を本気で殺そうとしている人間がいる。

 この世の "悪" を "正義" という名の元に葬ることができるのだから、神には感謝しなければならない。

 少なくとも、敵の狙いはこの私。

 下手なことをしない限り、つぐみや両親、友人たちに危害を加えられることはないと考えていい。

 一対一。敵はそれを望み、どちらかがどちらかを殺すまでこの戦いは終わらない。

 

 上等だ。

 本気で私を殺せると思っているその脳みそを、ぐちゃぐちゃにして差し上げましょう。

 

 雷鳴が響き、叩きつけるような雨が降り出した街の様子を眺めつつ、再度強者の高笑いをした。

 

 

………………

 

………

 

 

 午前7時。陽が昇り朝を迎えた。

 あれから一睡もすることなく、今後の行動や相手の出方などを頭の中でシュミレーションしていた。

 部屋を出て、居間で朝食を摂る両親におはよう、と挨拶しテレビをつける。

 

 

 『午前2時頃。〇〇区△△公園にて、腹部を切りつけられた男性が横たわっているという通報があり、駆けつけた警察官により死亡が確認されました。警察は────」

 

 

 アナウンサーは原稿を淡々と読み上げていく。

 

 

 「おはよー………」

 

 

 扉がガチャリと開き、寝巻き姿のつぐみが眠そうな目を擦りながらやって来た。

 

 

 「おはよう。お姉ちゃん」

 

 「うんー……」

 

 

 欠伸をしながら返事を返し、テーブルに腰を下ろす。

 ここまで寝ぼけた様子の姉は結構珍しい。夜中は雷が凄かったから、眠れなかったのだろうか。

 

 

 「あれ、この公園って………」

 

 「ここからそう遠くないところにあるね」

 

 「最近、物騒な事件が多い気がするなあ」

 

 

 その物騒な事件を引き起こす犯人たちの目的が私である以上、それは避けられない。

 

 

 「お姉ちゃん。今日は予定ある?」

 

 「え?別にないけど………」

 

 「一緒に登校してもいいかな?」

 

 「Afterglowのみんなもいるけどいいかな?」

 

 「ボクは大丈夫」

 

 「わかった。それなら、一緒に行こっか」

 

 

 犯人の人物像がわからない以上、私の周りの人間が殺される可能性が大いにあり得る。

 仲の良い幼馴染たちで助かった。

 私がそばにいる以上、殺されることはない。

 心配なのは両親だが、情報提供を行う警部には早朝、羽沢珈琲店及びその周辺は特に見廻りを強化するよう頼み込んである。

 私服警官として店内にも順次、客を装い警察官が店と両親を守る。

 万が一が起きても、あの店には様々なトラップが仕込んであり監視カメラも仕掛け済み。

 どのような事態に陥ったとしても対策は万全だ。

 

 準備を一通り済ませ、家を後にすると商店街の入り口近くで待ち合わせている幼馴染たちと合流する。

 

 

 「おっ、優馬じゃん!珍しいな!」

 

 

 開口一番、巴が大きな声でそう口にする。

 

 

 「しばらくは皆さんと一緒に登校しようかと思いまして」

 

 

 犯罪者が私を狙っているから、と話すことはできない。

 

 

 「わたしは大歓迎だよ!」

 

 「モカちゃんも大賛成〜。蘭はー?」

 

 「いいんじゃない」

 

 「またまたー。嬉しいくせに〜♪」

 

 「………!モーカーッ!」

 

 

 悪戯に笑うモカの頬を蘭が引っ張る。

 蘭は仏頂面で他人に勘違いされることがあり、怖い印象を持たれることが多い。いざ話してみても素っ気ない返答をすることでそれを助長しているとも言える。

 だからこそモカの存在は大きい。

 幼い時を知るモカなら、蘭の印象を変えることだって可能だ。

 現に、こうやって揶揄われるところを見ると違った印象を受ける。

 笑えば可愛らしいのだから、もっと笑えばいいのに。………いや、それだと蘭が蘭でなくなってしまうか。今の発言は撤回しよう。

 

 

 「そういえば、昨日つぐとゆーくんでコンビニ来たよ〜」

 

 「そうなの?」

 

 「うん。ひまりちゃんに教えてもらったスイーツを買いにね」

 

 「美味しかったですよ。うちの店でも出したいぐらい」

 

 「わたしがオススメするぐらいのスイーツだからね!えっへん!」

 

 

 豊満な胸を張り、ドヤ顔をするひまり。

 

 

 「こうしてひーちゃんは、スイーツの食べ過ぎで太っていくのであった………」

 

 「こらー!モカアァァァッ!!」

 

 

 態度を一変させたひまりは蘭ともども、モカの肩にポカポカと拳をぶつける。

 それでもからかい上手のモカさんの口劇は止まらない。

 どこからか仕入れた二人の秘密を口にしては、二人から制裁を受ける。

 アタシも混ぜろー、と全く関係のない巴まで3人の微笑ましい喧嘩の輪に加わり、側で私とつぐみはそれを傍観する。

 

 

 「放っておいて大丈夫なの?」

 

 「大丈夫。これも、いつも通りだから」

 

 

 姉の顔に一切懸念するような様子がない。

 見慣れた光景。そう言わんばかりに、みんなの絡みを見ては僅かな笑みを浮かべているのだ。

 

 

 「みんなー。そろそろ行かないと遅刻するよー」

 

 

 締めるときは締める。

 つぐみの言葉一つで私たちは歩みを進め、学校へと向かう。

 商店街から学校までは然程距離はなく、朝ごはんをここの商店街で購入してから登校する生徒も大勢いる。

 つぐみ以外の4人で戯れあっている間も、うちの学園の生徒の何人かとすれ違った。

 羽丘学園は校則が緩い方で、生徒のプライベートに関しては一切口出しをしない方針だ。どこで何をしようが、問題さえ起こさなければ基本自由。歴史も浅い為、変なしきたりも存在しない。

 だが試験においては他と比べて難しいと言われ、結果によっては留年することだってある。

 中等部だった頃にも、成績が振るわなかったことで転校した生徒もいた。

 

 (まあ、私には関係ない話ですね)

 

 傲慢。だが、これも強者の余裕。

 全ての分野において完璧の私にとっては造作もないこと。

 そう考えていると携帯に着信が入った。

 姉と幼馴染たちからほんの少し距離を置き、後を追いながらその電話に出る。

 

 

 「はい」

 

 『ああ俺だ。朝っぱらからすまんなあ』

 

 

 羽沢珈琲店の常連、そして情報提供者である刑事さんはそう詫びを入れると、すぐさま本題へと入った。

 

 

 『昨日△△公園で起きた殺人事件の調査が難航しててな。事件前の目撃証言もないし、仏さんを見るに相当な恨みを抱えてたんだと思うんだが………」

 

 「…………」

 

 『坊ちゃん?』

 

 「………いえ、なんでも」

 

 

 その遺体はかつて情報屋仲間だった男。

 彼の話を訊く限り危ない橋を何度も渡り歩き、警察に知られれば捕まる仕事もあったと打ち明けてくれた彼の情報だけは渡すことができない。

 死ぬことは覚悟していたはずだ。彼の家族もそれを承知しているはず。

 犯人の早期発見及び抹殺。敵討することがせめてもの手向けとなるだろう。

 

 

 「刑事さん」

 

 『どうした?』

 

 「一つ、お聞きしたいことが────」

 

 

 テレビやネットで掲載されている刑事事件はあくまで表面的なものに過ぎない。この世には、公表していない事件や騒動など山のように存在する。

 警察でしか知り得ていないであろう情報。

 私の欲するものはまさにそれ。

 事件として芽生えなくとも、異変として疑いがある出来事。

 例えば、よく見かける人物が突然姿を現さなくなったとか、連絡がつかなくなったとか。

 事件に直接的に繋がらなくとも、それらの異変を紡ぎ一本の線と考えれば、自ずと事件の手掛かりになる可能性がある。

 

 相手は成仏されることなく、あの世の牢獄に閉じ込められていた切裂魔。

 モラルなどかけらも無い極悪非道の人物と考えていい。

 

 

 『────とりあえず、近日中に寄せられた情報はこんなところだ。これが例の事件に関係するとは到底思えないんだがなあ』

 

 「思い込みは良くないですよ刑事さん。例え相手が()()()だったとしてもね」

 

 『おいおい、突然何を言い出すんだ坊ちゃん』

 

 「例えばの話です」

 

 

 混沌としているこの世界で誰がいつ犯罪に手を染めてもおかしくない。

 見た目は学生で中身は転生した殺し屋がいるように。

 

 

 「情報の提供感謝します」

 

 『なーに。困った時はお互い様ってやつだ」

 

 

 そう言い残し刑事は電話を切る。

 彼の情報である程度犯人像は絞り込めた。

 ただそれはただの推理であり、決定的な証拠がない限りその人物を抹殺することはできない。

 万が一にも人違いだった場合、羽沢 優馬のこれからの人生は犯罪者として過ごすこととなる。

 どれだけ危険な相手だろうが私は絶対の自信を持たない限り動かない。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 ひとりぼっちの帰り道。

 今日はバンドの練習があるからとAfterglow一行はスタジオへと向かい、私はスタジオまで見送った後とある公園へと赴いた。

 そこは蛇沼が殺された場所。

 周囲には警察官が度々見られ未だ警戒は強まったまま。

 あれほどの凶悪犯罪が起きたんだ。無理もない。

 公園の中へと入り遺体が横たわっていた大木の前へ辿り着くと、髪の長い女性がその場でしゃがみ手を合わせていた。

 黙祷を捧げる女性の邪魔をするわけにはいかず、後ろで立ち尽くしていると女性は立ち上がり振り向くと目が合った。

 

 

 「……………」

 

 

 数秒沈黙の時間が流れる。

 

 

 「………白衣を着た美少年。あなたが彼の仕事仲間さんかしら」

 

 

 女性はどうやら私のことは知っているらしい。話すつもりはなかったが、向こうから話しかけたのなら別だ。

 

 

 「初めまして、ですね。蛇沼 果穂(かほ)さん」

 

 

 この女性の正体は先日死亡した蛇沼侑の妻。

 その名を告げると奥様は深々と頭を下げた。

 

 

 「旦那がお世話になりました」

 

 「いえいえ。こちらこそ、彼にはいつも助けられてばかりでした」

 

 

 私は彼女のそばまで歩み寄り、たくさんの献花が供えられた所に持ち寄ったカーネーションを捧げた。

 

 

 「この度は心よりお悔やみ申し上げます」

 

 「………はい」

 

 「侑さんは聡明で、人当たりが良くて、こんな風貌の私でさえも差別することなく同等の存在として接してくれました。感謝しても仕切れない思いです」

 

 「………彼、性格が悪かったでしょう」

 

 「まあ、揶揄われることは多かったですね」

 

 「けれど………家ではすごく優しかったです。家事はなんでもこなしてくれるし、娘との関係が良好で、来年から小学校に上がることを楽しみにしていて………なのに、どうして………」

 

 

 消え入りそうな弱々しい声で思い出を語り、仕舞いには大粒の涙を流す。

 当然だ。私とは違い人生を共に歩むと決めた人物を突然失ったんだ。

 背負った心の傷は深く刻まれている。

 

 

 「彼を見つけて警察に通報したのは私なんです。突然、今までごめんとメッセージがきて、何かおかしいと思って位置情報を頼りに来たら、無惨に………」

 

 

 だとすれば一体どれほどの─────

 

 

 「旦那がどんな仕事をしていたか、知っています………。わたしも結婚前は同じ仕事をしていましたから」

 

 「そう、でしたか」

 

 「旦那はなぜ殺されてしまったのか、彼の仕事上命を狙われるのは仕方のないことだとは思っています………。ですが………あそこまで酷い死に方をするほど、彼は大罪を犯したのですか………!?」

 

 「詳しくはボクもわかりません。しかし、彼が殺されたことに憤っているのはボクも同じです」

 

 

 私が原因で殺された、などとは口にできない。

 その怒りの矛先が私に向くことを何よりも恐れているからだ。

 だからこそ、私にできる事は一つだけ。

 

 

 「奥様」

 

 「………はい」

 

 「侑さんもこのような幕引きはきっと望んでいないはずです。きっとあの世で恨んでいる。彼の為にも、そしてあなたのためにもボクはあなた方の力になりたい」

 

 「それって………」

 

 「犯人の首を獲る」

 

 

 覇気を込めたその言葉が言霊となり、木々を揺らした。

 

 

 「………どうか、よろしくお願いします」

 

 

 敵討ちを経験したことのない私は必ず敵側。故に、人を失う経験がなくその気持ちを真に理解する事はできない。

 だが、気持ちなどなくとも考え動くことができる。

 シンプルな怒り。その感情だけが私を突き動かす。

 深々と頭を下げた彼女はこの場を去り、一人だけになる。

 さてと、と仕切り直し大木の前で手を合わせる。

 

 

 「半ば墓荒らしのようですが、これも事件解決のため。手を借りますよ」

 

 

 

………………

 

 

…………

 

 

 

 事件発生からおよそ1週間。

 あれから警察は有力な手がかりを見つけることができず捜査は膠着状態に。

 無理はない。

 相手は成仏することができないほど凶悪な心を宿した殺人鬼。そう簡単に尻尾は出さない。

 いくら優秀な日本の警察といえど、この世の理から逸脱した者に対してはその力は発揮できないと言える。

 

 だが、私は違う。

 

 同じく人を殺める者として、常人とは異なった視点、嗅覚で犯人を特定することが可能だ。

 もっとも、今回は私一人の力ではその人物を見つける事はできなかったのだが。

 まだまだ力不足。

 情報屋として、死んだ彼の足元にも及ばない。

 

 

 そして今。私は彼を殺した人物を見つけ尾行している最中だ。

 

 (………?)

 

 その人物は突如として不可解な行動を取り、人気の多い方へと突き進む。

 私もその後を追いついて行くが、通行人が天然の妨害装置となり行手を阻む。

 木を隠すなら森の中とはまさにこの事だ。

 その人物は飲食店を通り過ぎ、狭い路地へと向かった。

 その角を曲がろうとしたその瞬間だった。

 

 

 「…………ッ!!」

 

 

 第六感が感知した殺気。

 目に見えないその空気を感じ取り咄嗟に後方へ跳ぶ。

 犯人から一切視線を切らなかった目に映るのは、私の心臓を一突きしようとナイフを前方に突き出した人物の姿。

 私と同じ羽丘高校の制服を見に纏った女生徒はそのナイフを折りたたみ懐にしまった。

 

 

 「バレていましたか」

 

 

 犯人の勘の鋭さに賞賛を送る。

 

 

 「貴様……何故、私が切裂魔だと分かった?」

 

 

 わたしを殺せなかったことへの怒りか、不満を露わに問いかける。

 

 

 「少し場所を変えましょうか。ここでは目立ちすぎる」

 

 

 お互い学生の身。

 こんなところで騒ぎを起こしたらすぐに警察が駆けつけてくる事はこの女も理解しているはずだ。

 切裂魔はコクリと頷き提案を呑むと、そのまま路地裏を進み誰もいない廃墟へと足を踏み入れる。

 わずかな日差しが差し込むだけで暗く澱んだ空気が蔓延するこの場所で、切裂魔とあいたいする。

 

 

 「さて、どうして私があなたの正体に気づいたかという話でしたね」

 

 「ここ最近起きた異変。違和感。それらを紡ぎ合わせ一つの答えに辿り着きました。とある女生徒が最近、人が変わったように孤立してしまったと」

 

 

 刑事から受け取った情報。そして生徒会で得た情報に加え決定的だったのが。

 

 

 「あなたが以前殺した情報屋の男。彼が全てを教えてくれました」

 

 

 ポケットから中身の入ったジップロックを取り出し、女に見せつける。

 その中身は、超小型カメラとボイスレコーダー。それを見ただけで蛇沼が何をしたのか理解できるだろう。

 

 

 「殺したからといって油断しましたか?残念。情報屋はそう易々と死にはしない」

 

 

 彼から送信されたメールの謎。

 添付された写真の中には彼の血で染まった携帯が落ちており、微かに映ったその画面には私に送信された『↓↓』という文面が映し出されていた。

 下矢印。つまり、この下に何かがある。

 そう暗示していると確信した私は彼の妻と話した後、地面を掘り起こしそれらを発見した。

 カメラの中には暗闇だというのにハッキリとその顔が写っており、ボイスレコーダーには会話の全てが録音されていた。

 そこからは簡単だ。

 該当する人物を洗い出し見つける。

 警察には手に負えない可能性があるから私が直々に手を下す。

 

 

 「その女生徒は明るくて友達も多かったそうです。そんな彼女の人生を踏み躙った今、どんな気分ですか?」

 

 「別に、何も」

 

 「そうですか。そうですよね」

 

 

 予想通りの回答に特別な感情は浮かんでこない。

 

 

 「私は生前、解体屋をしていた。人以外にも牛や豚、熊なんかも掻っ捌いてきたんだ。だが、罪を犯せばいずれバレる。殺し続けたはいいが死体は放置していたから、すぐに足がついた。おかげで死刑さ」

 

 (ただの快楽殺人鬼か……)

 

 「私は悔いたさ。もう、動物の肉を裂く事も、その悲鳴を聞く事も出来ないんだってな。絶望の淵にいたその時、あの女神はやってきた。テメェをぶっ殺せば、永遠の命と殺しても無罪になり続けるという特権を与えると吹っ掛けてきたんだ」

 

 「………」

 

 「あの男から情報は得た。そして今、目の前に標的がいる!さあ、殺しの時だ。私の野望のために死ねえええ!!」

 

 

 奇声を発しながら女は懐にしまってあったナイフを出し襲いかかる。

 走り出したその瞬間、突如として女は勢いそのままに転倒した。

 あまりに突然の出来事で動揺している様子。

 女の見つめる先、くるぶしから大量に血を流している。

 

 

 「大丈夫ですか」

 

 

 冷めた瞳で女を見下す。

 

 

 「鳩が豆鉄砲を食ったような顔だ。無能なあなたにお似合いですよ」

 

 

 女を襲った不可視の一太刀。

 この廃墟には至る所にブービートラップ、ボウガンが仕掛けられている。

 私たちの周囲は暗視ゴーグルをつけなければ目にする事はできない赤外線が張り巡らされていて、それに触れてしまったら自動的に発射される仕組みだ。

 本来使用される矢を、対この女用でナイフに置き換え身体を抉る。

 勿論切れ味は抜群。刃先に指を置くだけで簡単に切れるほどに。

 

 

 「………っ!!」

 

 

 女は手にしていたナイフを私目掛けて放り投げようとするが腕を振りかぶったその位置にも罠が仕掛けられていて、上部から3本のナイフが降り注ぎ女の腕に突き刺さる。

 目の前に佇むのは同じ学校の同じ高校生。

 だが、女が相手取っているのはかつて世界を戦慄させてきた殺し屋だ。

 その覇気に気圧され後退しようとするがそこにも罠が。今度は足に突き刺さり、もがき苦しんでいると次々とトラップに引っかかり無数の方角からナイフが飛び交う。

 肉を切り裂かれ、身体中に突き刺さり、まるで集団で襲いかかる蜂のようにその刃の雨を受け続けた。

 数分が経てば女は瀕死の状態となり指先一つ動かせないほどまでになっていた。このまま放置すれば出血多量で死に至る。

 

 

 「弁解の余地はない。そうですよね」

 

 

 私の問いかけに女はピクリとも反応を見せない。

 

 

 「あなたは選択を二つ誤った。一つは情報屋を安易に殺害したこと。もう一つは私を敵に回したこと。"白衣の異端者" の名にかけてあなたに屈辱的な死を与えましょう」

 

 

 虫の息と化した女を抱え準備に移る。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 ────切裂魔の事件後。

 とある路地裏の廃墟から死後数週間経過した状態で警察に発見された。女はあたりに散らばった無数のナイフと女のものと思われる血液により死因は出血死だと思われる。

 遺体は△△公園で発見された男と同様、壁に貼り付けの状態となり、手足をナイフで固定され腹部から溢れでた腸がナイフで地面に突き刺されていた。それに加え首から上が欠損しており今もその頭部は見つかっていない。

 また、彼女の実家にて身体中を切り刻まれた彼女の両親の遺体も発見。

 同一犯による犯行と考えられていたが、彼女の遺品から多数のナイフが見つかり一連の犯行は被害者の女性によるものだと断定。被害者は模倣犯による犯行で死に至ったと考えられる。

 所持していた生徒手帳から身元は羽丘高校に通う女生徒だと判明し、警察はマスコミと報道協定を締結させ情報漏洩を防ぐと共に凶悪犯を追う─────

 




いかがだったでしょうか?

もう少し深掘りしたいところはあったけど………モブキャラだからいいや!!
この先たくさん人は出てくるし!

と、いうわけで次回も頑張って更新していきます
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