近頃不穏なニュースばかり流れてはいますが、バンドリでは推しの子コラボが決定ということで私のテンションは爆上がりでございます。
また昔のようにバンドリ界隈が盛り上がればなと思う次第です。
あれはもう何十年も前のこと────。
夜がすっかりと更け閑散な空気が漂うるこの街で、私は一人の女の後を追っていた。
名はアシュリー。
泥棒を生業とし、至福を肥やす貴族の人間から盗みを働き貧民たちにその財宝をばら撒くという変わった女。
知り合ってからというものの、冷たい態度を取られるか無視されるかの二択でありまともに相手されたことは一度もない。
しかしそれがまた良い。
凛々しも可憐なその女に一目惚れした私は今日も彼女を追いかける。
「………どこまでついてくるつもりなのかしら」
屋根を飛び跳ねるようにして渡るアシュリーは眉間に皺を寄せながらそう問いかける。
「あなたが進む限りどこまでも」
「はあ、面倒ですね」
逃げることを諦めた彼女は立ち止まったバルコニーにある椅子に腰を下ろす。
「殺し屋ではなく、ストーカーと名乗った方がお似合いよ」
「それも良いですね」
「気持ち悪い。近寄らないで」
「相変わらず手厳しい。ですが、そんなあなたも愛おしく思います」
「訂正するわ。変態よ変態。あなたのような人間なんか」
冷たい言葉が矢となり私の心身を抉る。
だがそれに対し怒りといった感情は湧いてこない。
それも彼女に対する愛が故。
「そうだ。よければコレ、食べてみてくれませんか?」
私を嫌悪するアシュリーに、ラップに包み持参していたガトーショコラを差し出す。
以前、お菓子講師として悪事を働いていた男を暗殺しようとそのお菓子教室に通っていた際作ったものだ。
「食べるわけないでしょう」
当然とも言える返答を受ける。
「そうですか。自信作だったんですけどね」
「それを食べて死んだら死にきれない」
「私があなたを殺すとでも?」
「ええ。それぐらいしか付き纏われる理由は見つからないし」
そう断言する彼女の前で手にしていたガトーショコラを自らの口に放り込む。
もちろん毒なんて入っていない。正真正銘、プレゼントする為に作ったガトーショコラだったのだ。
「本気であなたを殺すのであれば、こんな回りくどいことはしません」
「依頼主に、私を惚れさせて残忍に殺せと依頼されてる可能性だってあるでしょ?」
「そんな依頼は受けてません」
「信じられない」
彼女を例えるとするならば、断崖絶壁に咲く一輪の青薔薇。どんな場所でも凛々しく立ち振る舞う孤高の存在。
絶対零度の凍りの心は他者を拒絶する。
それは彼女がこれまで歩んできた
「ではこうしましょう。あなたが私に心を開いたその時、私の手掛けたスイーツを食べていただくというのは」
「………勝手にすれば」
外観に向く視線をそのままにアシュリーは投げ捨てるようにそう言葉を吐く。
凍てつくようなオーラを纏う彼女とはその後、とある事件を機に交際することになるのだがこの約束が果たされることはなかった────。
◆◆◆
物語は再び現代へ。
満開に咲いた桜から新緑が鮮やかに彩る季節。ゴールデンウィーク前ということもあり、世間は長い休日をどう過ごすのかという話で持ちきりだ。
そんな最中、Afterglowのリーダー上原ひまりが勢いよく手をあげ発言する。
「わたしからみんなに提案があります!」
唐突なひまりの言葉にメンバー全員が顔を向ける。
「なに。急に」
ストローでアイスコーヒーを飲んでいた蘭が口を離し問う。
「せっかくのゴールデンウィークだからどこかお出かけしない!?」
「却下」
「なんでぇ!?」
ひまりからの誘いを蘭は数秒のラグもなく即答する。
「理由は三つ。一つ、ゴールデンウィークはライブがあるのに遊んでる暇なんてない。二つ、宿題も大量にあるのに遊んでる場合じゃない。三つ、どこも人がいっぱいだろうから行きたくない。以上」
まるで論文の発表をするかのように、論理的に淡々と理由を述べる蘭。
最後に至っては完全に主観ではあるが、人混みが嫌いなのは皆同じ。そんな場所を好むものは少なくともこの場ではひまりただ一人と言える。
「そんなあ………」
周りからの援護を受けることなくひまりは力尽きるかのように静かに席に腰を下ろす。
だいたいこういう時はつぐみか巴がフォローするのだが、今回ばかりは蘭の意見に賛同しているようで特に口を挟むことなくこの会話は終わりを迎えた。
「そんなに気を落とさないでください、ひまりさん」
「うぅ…‥そうやって慰めてくれるのは優馬くんだけだよお……」
「新作のチーズケーキ食べますか?」
「食べる!!」
がらりと表情を一変させ、冷蔵庫から出したチーズケーキを美味しそうに口に運ぶ。
上原ひまりはわかりやすい女だ。それ故に人に騙されないか心配になる。
「ひーちゃんペットみたいー」
「犬だね」
「犬かな?」
「すっかり手懐けられてるからな」
「みんな酷い!!」
Afterglowのリーダーでありながらもそういった威厳は決してなく、ネタにされることがほとんどだ。
今回はライブ目前ということで却下されてしまったが、大抵は揶揄い終えた後に何だかんだひまりの誘いを受けるのだから今も良好な関係が築けているのだろう。
今日は日が悪かった。
つぐみが賛同しない限り私がひまり側につくことは決してない。チーズケーキを差し出したのはせめてもの慰めである。
「優馬くんはゴールデンウィークで何か予定はないの?」
「強いていうなら店の手伝いぐらいですかね」
「クラスメイトとかと遊んだりしないのか」
「どうにも、誘われる機会が少なくて」
「え、意外」
「ゆーくんぐらいの美少年なら引くて数多じょないの〜?」
入学早々、新入生の代表挨拶やら生徒会への加入やらで目立ってしまった為か近寄りがたい印象を持たれてしまったようだ。
けれど孤立しているわけではない。
話しかけられることはあるし、学食に誘われることもある。
必要最低限。ずっと関係が続くことはないのだからそれぐらいがちょうどいい。
「でも確かに、誰かと遊びに行くところってあまり見たことないかも……」
「特別仲が良い人もいないからね。クラスの中でだけ良好な関係が持てればそれでいいよ」
「高校生なんてたった3年間。遊べるのは今しかないんだよ?」
「ボクにはこの店がありますから」
あり得ない話ではあるが、就職において困ることは決してない。
羽沢珈琲店が継続して営業していくのであれば。
「あまり固執しないで自由に生きていいんだからね?」
「お姉ちゃんこそ」
「うう、またそうやって言い返す……」
将来的には二人で店を切り盛りしていければ────なんて想像もするがそれはあくまで私個人の願い。
つぐみにはつぐみの人生がある。
このままバンドでメジャーデビューを果たすのも良し、他の夢を追うのも良い。
私は尊敬する姉を心から応援するつもりだ。
「それじゃあボクは仕事に戻りますね」
皆に別れを告げ溜まった食器を洗い始めたその時だった。
カランカランッとベルの音が鳴りお客様の来店を知らせる。
「いらっしゃいませ!」
いつも通りの営業スマイルでお客様を出迎えると、そのお方は私を見るや否や静かに笑う。
「お久しぶりですね。羽沢優馬くん」
「氷川さん!お待ちしてました!」
仕事をほったらかし氷川さんの元へ駆け寄る。
「すみません。しばらくバンドの方が忙しくて」
「いえいえ。先日のライブも素晴らしかったですよ」
「そう言っていただけると光栄です」
紗夜さんは小さく笑みを浮かべ感謝を伝える。彼女はつぐみと同じバンドマンであり、Roseliaという本格派ガールズバンドユニットのギタリストだ。
近頃はフェスやライブ公演等で多忙を極めており、羽沢珈琲店の来店はおよそ3週間ぶりとなる。
「いつものお席、ご用意してます」
「ありがとうございます」
私は紗夜さんを連れいつもの席、カウンターの一番左端の席へ案内する。
その最中、Afterglowのメンバーに軽く会釈し席につくと手早く注文を済ませる。
注文はいつも決まっていて、日替わりケーキとブレンドコーヒー。
そして注文が来るまでは持参した本を読むことがほとんどでその邪魔をしないように私は黙々と作業を行う。
そして一連の出来事を目撃したAfterglowの面々がヒソヒソと話を始める。
「優馬ってもしかして………」
「いやいやないだろ、流石に!」
「つぐからみてどうよ〜?」
「確かに、他のお客様に対応するより笑顔が多い………かも?」
「つまりそういうことじゃん!キャーッ♡」
「ひまりうるさい」
いわゆるガールズトーク、と言うのもなのだろうか。私と紗夜さんを交互に見ては話を続ける。
「うふふっ。皆さん仲が良いんですね」
その様子を見て紗夜さんは微笑ましいような顔つきで笑う。
「10年以上の付き合いがありますから」
「あなたも宇多川さ………あこさんとそれぐらいの付き合いがあるのでは?」
「そうですね。お互い、姉の背中を追いかけ続けてたのを思い出します」
「やはり、弟や妹になると、そうなりますよね………」
紗夜さんは表情をくらませ、俯きながら呟く。
「紗夜さん?」
「……ああ。すみません。何でもないですよ」
彼女の双子の妹は、羽丘学園で生徒会長を担っている氷川日菜さんだ。
天真爛漫な会長とは違い彼女は冷静沈着で何事にも真面目。真逆の印象を受ける。
私が知らない二人の過去や関係性もあるような様子だが、こちらから問いただすつもりは決してない。
今の私は羽沢喫茶店のマスター代理。
向こう側から相談を持ちかけられない限りこちらからアクションを起こす必要は皆無である。
「お待たせしました。こちら日替わりケーキとブレンドでございます」
今日の日替わりケーキはガトーショコラ。
ほのかに苦いケーキ生地と甘さを控えたチョコレートクリームを使った当店オリジナルのそれは、大人な味わいということもあってか年配の方や男性客に人気の一品だ。
ちなみにだが、ビターなお菓子が好きな蘭も一推しのケーキでもある。
紗夜さんは軽く会釈した後、コーヒーの香りを楽しみ、一口含む。
「……………♪」
特別何かを口にすることはない。
ただ、ほんのりと口角が上がっておりそれがどう言った意味をしているのか私は理解している。
そして、皿に添えられたフォークを手に取りガトーショコラを口に運ぶ。
そっと目を閉じそれを味わう。
「…………!美味しい」
「光栄です」
率直な感想に陰でグッと拳を握る。
「これもあなたが?」
「はい。父直伝のガトーショコラになります」
「ガトーショコラって甘いものをよく口にしていたのですが、なるほど………このケーキに関してはビターな風味の方が好みなのかもしれません」
「では、次からもこっちの方をお出ししますね」
「甘いのもあるんですか?」
「ええ。もちろん」
「では、次来た時はそちらの方をお願いします」
「はい、喜んで」
そこで私はふと昔の出来事を思い出す。
生前、たまたま見かけたアシュリーを追いかけ手作りのガトーショコラを渡そうとし、拒否されたあの日だ。
私が一方的に交わした『アシュリーが私に心を開いたその時、手掛けたスイーツを食べていただく』という約束。
アシュリーと瓜二つの紗夜さんに彼女を重ね、その約束は果たされたのだと実感することができた。
もちろん紗夜さんにそんなつもりは決してない。ただの一人の客。その程度にしか思っていないだろう。
だが、私からすれば数十年越しに叶った願いだ。どこか感慨深い思いがある。
アシュリーと紗夜さんを重ね合わせ、極普通な平和な日常を過ごせていることに喜びを感じつい涙腺が緩んでしまう。
「あの、大丈夫ですか?」
「………い、いえ。何でもありません」
路肩には死体が転がり、殺伐とした日々を過ごしていたあの頃。
いつ死んでもおかしくない命の危機に晒され続けていてこんな日常を過ごせるなんて考えもしなかった。
神から送られる刺客を全て殺せば私にこの平和な生活と永遠の命が与えられる。
もう、あの頃のような日々を過ごしたくはない。このごく普通な生活の為なら私は何だってする。
その為の犠牲ならやむを得ない。
どんな犯罪者だろうが返り討ちにして見せる。
お出ししたコーヒーとガトーショコラを堪能した紗夜さんはそのまま会計を済ませ、店を後にする。
「それではまた。ガトーショコラ、美味しかったです」
「いつでもお待ちしてます」
私は深々と頭を下げ凛としたその背中を見送った。その直後一連の会話の一部始終を見ていたAfterglowの面々に捕まり、主にひまりとモカに質問攻めにあう。
「それでそれで、優馬くんが好きな人って紗夜さんって認識でいいのかな!?」
「年上女性が好きとは〜、ゆーくんも隅に置けませんなー♪」
二人の口ぶりから察するに、私が彼女に恋心を抱いていると勘違いしているようだ。
「なるほど。同級生からの告白を断り続けてたのもそういうことだったんだな!納得!」
「別にいいんじゃない?優馬の自由なんだし」
「わ、私は応援してるよ!!」
ひまりとモカだけではない。
蘭、巴、そして我が姉も同様な様子だ。
「素敵な方だとは思いますが好きかと聞かれれば "No" ですよ。あくまで紗夜さんはうちのお客様。常連さんです」
「それは店の中だけでしょ?外なら関係ないじゃーん♡」
「モカちゃんはゆーくんの恋路を陰ながら見守ることにしよ〜」
「なんか悩みがあったら言ってくれよ!いつでも相談に乗るからな!」
「プレゼントしたい花があったら手配もするし」
「蘭ちゃんそれはまだ早いんじゃないかな………」
(さて、どうしたものか…………)
ああ言えばこう言うとはまさにこのこと。
私はそれ以上抵抗することはなく、5人の話を聞き続けるのに徹した。
最近また、BRAVE JEWELにハマってるんですよね。
昔聴いていた曲が再熱する、なんてことは私の中ではよくある出来事なんですが、それに伴いAfterglowやPastel*Paletteの曲も合わせて聴いて今はプレイリストの半分以上はバンドリの曲になっていたりします笑
それでもやっぱり好きなのは「ON YOUR MARK」なんだよなぁ。