羽沢家長男の隠し事   作:山本イツキ

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本当にお久しぶりです。

これ言うの、何度目でしょうか……
我ながら情けなく思えますね





羽沢つぐみの受難

 ゆうちゃん───優馬が高校に入学し、両親の許可も降りたことで厨房に入る機会が多くなった。

 特に弟の手がけるスイーツは絶品で、和洋問わずプロ並みの腕を誇る。

 今となっては常連さんも優馬のスイーツを所望するファンが出来たほどだ。

 

 もちろん私もそのうちの一人。

 

 中でも、最近はイタリア発祥のお菓子であるセミフレッドを好んで食べる。

 夏も目前であり、冷たいアイスクリームケーキは熱された身体に染み渡る。

 

 その他試作品の味見役を任されることもあってか、ここ最近は過食気味なように思っていたんだけど……。

 

 

 「………よしっ!」

 

 

 現在入浴中の私はある決心をする。

 長らく放置されていた体重計(もの)に遂に乗る時が来た、とまるで神様からのお告げがあったように聞こえたからだ。

 バスタオルを巻き、いざ、体重計へ。

 

 

 ───ピピッ、ピー。

 

 

 現実を見るのが怖くてずっと目を瞑っていたけど、計測が終わる音がなり、恐る恐る目を開きその数値を見る。

 

 

 「…………ッ!?えぇぇーー!?」

 

 

 過去到達したことのない値。

 およそ2ヶ月前、学校の健康診断で測った時よりも3キロ近くは増えてる。

 

 体重計から洗面所の鏡に映る自分自身に視線を移す。

 弛んだ頬、太くなったお腹周りと二の腕と目立つ箇所が次々と目に入った。

 肉がついたとしても、それが胸やおしりに行けば話は別だけど、私の体質上そう都合良くはいかない。

 

 食べれば食べるほど太っていく。

 ある意味、過激な運動をこなすスポーツ選手からは羨ましがられる体質である。

 

 

 「どうしたの?お姉ちゃん」

 

 

 店の片付けをする両親に代わって夕食を作っていたはずの優馬が扉の向こうから声をかけてきた。

 心配性の弟ではあるけど、あれだけ大きな声を出せば無理もない話。

 

 

 「だ、大丈夫ー!驚かせてごめんね」

 

 

 私のせいとはいえ嘘をつくのは正直気が引ける。

 だけど、こればかりは知られるわけにはいかないのだ。

 

 

 「そっか。もう夕飯出来てるから待ってるね」

 

 「うん!」

 

 

 取り繕うように元気な声で返し、そそくさと髪を乾かし服を着て脱衣所の扉を開く。

 

 

 (…‥痩せなきゃ)

 

 

 密かにそう誓った言葉は誰の耳にも届くことはない。

 

 

 

 次の日の早朝。

 まだ誰も目覚めていない時間ではあるけど、早速ダイエットに取り掛かる。

 

 昨夜見たネット記事では30分以上、2〜8キロ走ると脂肪燃焼が活発化し、ダイエット効果が高まることが期待できると書いてあったのでまずはそこから始めてみることにした。

 

 軽く柔軟体操をしてから、ジョギング程度の速度で走ってみる。

 

 小学校のクラブチームや体育会系の運動部には所属したことはないけど、多忙な生徒会の仕事をこなしてきたおかげで体力には自信がある。

 8キロはまだしも、3キロぐらいなら楽勝で走れるのでは?などと楽観的に考えていたけど現実はそう甘くない。

 

 開始10分強で携帯の示す距離は現時点で1.2キロ。

 にもかかわらず額からは大粒の汗を流し、肩から息をしなければならないほどの息切れを起こしている。

 思わず立ち止まりそうになる両足を、気合と根性で動かし目標だった3キロを走る頃には、まるで生まれたての子鹿のように膝をガクガクと震わす程に体力を消耗していた。

 

 

 「た、ただいまあ……」

 

 「おかえり。タオルあるけど使う?」

 

 「うん。ありがとう……」

 

 

 玄関先で制服姿の優馬と顔を合わせ、用意されたタオルを受け取る。

 汗を拭おうと顔にそれを当てると、柔軟剤の心地良い香りに包まれ自然と笑みが溢れる。

 

 

 「お風呂も沸かしてあるから、ゆっくり浸かったら朝ごはん食べにおいで」

 

 「何から何まで本当にありがとう……」

 

 

 まるで私がしたかったことを知っていたかのような対応に正直恐怖すら覚える。

 溜まったお湯に使われた入浴剤も最近お気に入りであるアロマ系の香りだったし、優馬の用意周到さは一体何なのだろうかと最近疑問を持つようになった。

 

 

 「いや、遅すぎでしょ」

 

 

 お昼休み、食事中にその事を話すとすぐさま蘭ちゃんからツッコミが入る。

 

 

 「そ、そうなのかな?」

 

 「まあ流石になー」

 

 「つぐに対しては特にすごいよね」

 

 「神レスポンス〜」

 

 

 灯台下暗し、とはまさにこの事なのかな。

 一番長く近くにいるはずなのに気づかない。

 それがAfterglowでいう "いつも通り" であり、私にとっての普通なのだ。

 

 

 「いずれにせよ、優馬の先読みの能力(ちから)(?)はどう考えても異常だよな」

 

 「未来からやってきたのか疑うくらい的確だしね」

 

 「それ以前に、ゆーくんが何かに失敗した姿見た事なーい」

 

 「確かに。つぐみ、家ではどうなの?」

 

 「特に変わりはないよ?家事も全て自分でこなすし、部屋はいつ見ても綺麗だし、夜は誰もいないのか疑うぐらい部屋から物音がしないの」

 

 

 ある程度の気は使ってくれているという自覚はあったけど、思い返すとそれが普通だったのか懐疑的になる。 

 

 

 「そんな完璧な人間本当にいるのか?」

 

 「いるじゃん!優馬くんが♪」

 

 「あれで裏表があったら、ギャップ萌え〜っ

て感じだったのにねー」

 

 「そんな優馬想像できる?」

 

 『できなーい』

 

 

 まさに満場一致、といった感じで全員の声が揃う。

 私の弟は完璧超人ということで決着がついた。

 

 

 「それはそうと……つぐ、サンドイッチって珍しいな」

 

 「え?そうかな?」

 

 

 普段はお弁当を持って行くことが多いけど、

今日のお昼は山吹ベーカリーで買ってきた野菜サンド。

 非常にヘルシーで、パンに塗られたカラシマヨネーズがアクセントになっている一品であり、もちろん美味しいんだけど私にとってはヘルシーというのが最も重要なポイントだ。

 

 

 「量も少ないし、それじゃあ持たないだろ」

 

 「大丈夫!体育もないし、問題はないよ!」

 

 

 ダイエットの為、なんて恥ずかしくて口が裂けても言えない。

 

 

 「つぐみの "大丈夫" は信用できない」

 

 「うっ、それは……」

 

 

 蘭ちゃんから鋭い指摘が飛ぶ。

 過去、私は過労が原因で倒れたことがあるのだ。

 その時ちょうどみんなの仲がギクシャクしていた頃で、本当に迷惑をかけた。

 それを乗り越えて今の私たちがある、といえば聞こえはいいけど私自身あれ以来無理をしないように心がけてはいる。

 

 

 「夏バテっていうにはまだ気温は高くないしな」

 

 「いやでも、暑くなってきたしその可能性もなくはないよ!?」

 

 「つぐみは家の手伝いとか生徒会もあるし、相当疲れが溜まってると思う」

 

 「ありえるな。しばらくライブはないからバンドの練習時間減らすか?」

 

 「うんうん、つぐのタスクを少しでも減らさないとね!」

 

 「……………」

 

 

 様々な議論が交わされる中、これまで会話には参加せずパンを頬張り続けてきたモカちゃんの視線が私に向く。

 

 

 「も、モカちゃん……?」

 

 「ダイエット───じゃないよね〜?」

 

 「………ッ!?」

 

 

 揶揄うよな表情からピタリと言い当てたモカちゃん。

 否定しようとするが、機先を制するように全員がモカちゃんに意見する。

 

 

 「いやいや、つぐに限ってそれはないだろ〜!」

 

 (うっ……!)

 

 「そうだよ、モカ。つぐみがそういうの怠るわけないでしょ?」

 

 (うぅっ……!)

 

 

 二人の言葉が切先鋭い矢となり私の身体に突き刺さる。

 

 

 「それもそっかー。ひーちゃんじゃあるまいしね〜」

 

 「そうそう!わたしじゃあるまいし……って酷い!!」

 

 

 ひまりちゃんの言葉にみんなして笑っているけど私は苦笑いを浮かべることが精一杯。

 ダイエットの話となれば真っ先にひまりちゃんへ矛先が向くだけに、私は何も言えない。

 出来ればこのままダイエットの話はお開きにならないかな。

 

 

 「モカって人よりいっぱいカロリー取ってるし、運動もあまりしないのに太らないよね〜。羨ましい……」

 

 

 羨望の眼差しを受けるモカちゃんは腕を組み、鼻を鳴らしながら語る。

 

 

 「ふっふっふー。これには秘密があるんだよ〜」

 

 「秘密って?」

 

 「カロリーをひまりに送ってるとか言ってたアレか?」

 

 

 これはモカちゃんがよく話す冗談だ。

 それでも、モカちゃんはどれだけ食べても太らないのだから信じてしまうのも無理はない。

 

 

 「ノンノン〜。それはもう古いのだよ、ともちん」

 

 「じゃあなんだよ」

 

 「モカちゃんの美貌を保とうと、カロリーたちが勝手に逃げて行くんだよ〜♪」

 

 「いや、意味わかんない」

 

 「あはは……」

 

 

 この前やってたバラエティ番組でとある芸人さんがカロリーについて色々話していたけど、それのオマージュのつもりなのかな?

 それが本当なら羨ましすぎる話だ。

 珈琲店で働いている以上、試食をすることも多いから他の人より食べるという行為は自然と多くなる。

 この肥えた身体が何よりの証拠。

 人は食す欲求から逃れることは決してできない。

 

 

 「そういえば、今日ゆうちゃんから新作の試食をみんなにお願いされてるんだけど良かったらどうかな?」

 

 「わーい!優馬くんスイーツ〜♡」

 

 「いぇーい、もち参加〜」

 

 「アタシも食べるぞー!」

 

 「あたしも」

 

 「わかった。伝えておくね」

 

 

 実際、ゆうちゃんから試食を頼まれたのは私だったんだけど、どうせならみんなも誘ったらと提案したら快く受け入れてくれた。

 そう、私は試食をするわけにはいかない。

 少しでも食べる量は減らさないと!

 

 みんなの善意を利用する形になったけど背に腹は変えられない。

 

 

◆◆◆

 

 

 

 やっぱり、というべきだったかな。

 お昼に食べた野菜サンドだけでは全くと言っていいほど足りなかった。

 そのせいか午後の授業は集中力が持たず、空腹との戦いが繰り広げられた。

 

 

 (この生活、後どれぐらい続けたらいいんだろう……)

 

 

 その虚しい心の叫びは誰の耳にも届くことはない。

 

 

 「それにしても、定休日なのにアタシたちが店にいていいのか?」

 

 「もちろんです。今日は夏に向けた新作スイーツをお出ししますね」

 

 

 常連さんはこの曜日は休みと知れ渡っているので問題ないが、一見さんは別。

 一応扉に『close』と書かれた看板が下されてるので入られることはないだろう。

 

 

 「そうだ、せっかくですしクイズ形式にしましょうか。今から3品出すのでどれか一つでも当てられたら、次回から使える "羽沢珈琲店オススメセット" の無料券を差し上げましょう」

 

 

 優馬のその一言で全員の目の色が変わった。

 何が何でも当ててやる。

 そんな決意に満ちた真剣な目だ。

 

 

 「夏だし、やっぱりアイスかな?」

 

 「いやいやー、ゆーくんがそんなありきたりなもの出すのは思えませんな〜」

 

 「あえて熱いものとかありそう」

 

 「熱いスイーツってなんだ?」

 

 「いや、適当に言っただけだから」

 

 

 これから出てくるスイーツを予想し合うみんなを見て優馬は楽しそうな様子で準備を進める。

 全てハズレなんですけどね、とでも言わんばかりの表情だ。

 

 

 「それで、答えは何なの?つぐ」

 

 「えっ?私?」

 

 「つぐみなら何か知ってるんじゃないの?」

 

 「何も知らないけど……」

 

 

 優馬からはみんなに試食することを伝えて欲しいとだけしか聞いていない。

 こんなクイズが開かれることも、当てたら無料券を渡すなんてことも知らされていない。

 

 

 「クフフ。もちろんお姉ちゃんにも秘密です。蘭さん、ズルはいけませんよ」

 

 「優馬くんも本気だ……」

 

 「あたし、別にズルなんてするつもりなかったんだけど」

 

 「さあ、何人正解できますかね」

 

 

 予想した結果がこちら。

 

 ひまりちゃん ジェラート

 蘭ちゃん バナナシフォンケーキ

 モカちゃん ハニートースト

 巴ちゃん マンゴーパフェ

 私 塩アイス

 

 といった感じ。

 モカちゃんに至っては願望が表に出ている予想となった。

 

 

 「それではまず一品目」

 

 

 優馬が冷蔵庫から取り出したのは透き通るような美しい空色のゼリー。

 それも中に小さなタブレットのようなものが入っていて、今の羽沢珈琲店にこの様なメニューは存在しない。

 

 

 「優馬くん、この白いのって……」

 

 

 ひまりちゃんが開口一番、混入した異物を指差した。

 一目見ただけで危ないものじゃないかと疑っている様子だ。

 もちろん、誰も優馬がそんなものに手を出すとは微塵も考えていない。

 

 

 「それはまた後ほど。さあ、ご賞味あれ」

 

 「い、いただきます………んっ!?」

 

 

 恐る恐るといった感じで口に運ぶと、表情が一変しパァッと明るくなる。

 

 

 「お、美味しい!」

 

 「どれどれ〜……おぉー、これは美味ですな〜♪」

 

 「中に入ってるのはラムネか!それに、ゼリー自体もサイダーみたいにシュワシュワしてていいな!」

 

 「うん。夏にぴったり」

 

 

 Afterglowのみんなから好評のようだ。

 

 

 「答えは『サイダー味のゼリー』かな?」

 

 「お姉ちゃん正解!まあ、ドリンクとの組み合わせは考えてないから完全に単品物になってしまうけどね」

 

 「充分美味しいよ!わたしなら何個でも頼んじゃう!」

 

 「そう言っていただけると嬉しいです」

 

 

 誰もクイズに正解することはできなかったけど、みんなゼリーの美味しさで満足の様子。

 

 

 「それでは次の商品です」

 

 

 そう言って出されたのは、平たいガラス製のデザートボウルの上に、賽の目状に切った寒天やみつまめ、小豆餡、そしてみかんなどのフルーツが丁寧に盛り付けられたあんみつだった。

 別の容器に黒蜜と白蜜も添えられてあり、どちらかお好みでかけて食べるようだ。

 

 

 「今回はオーソドックスなスタイルで作らせていただきました。きっと蘭さんは気にいると思いますよ」

 

 「言ったね。それじゃあ一口……」

 

 

 蘭ちゃんは黒蜜をかけてそれを口に運んだ。

 直後、大きく目を見開き「やられた」と小さく笑みを浮かべそうこぼした。

 Afterglowの中でも(バンド以外で)特に表情の起伏が薄い蘭ちゃんにしては珍しい反応を見せる。

 

 

 「美味しいよ、すごく。黒蜜とも合うし暑さで食欲の落ちる今でも食べ進められそう」

 

 「蘭さんにそう言っていただけて何よりです」

 

 「期間限定何て言わず常設したら?」

 

 「あくまでうちは珈琲店です。コーヒーと合うものをお出しし続けたいので」

 

 

 これは常々両親が口にしていること。

 優馬自身新メニューの開発に力を入れて色々プレゼンしているみたいだけど、あまり採用はされないみたい。

 さっき出した2品も数量限定ならという条件付きで販売することになったらしい。

 もちろん、どのスイーツも美味しい。

 けれど珈琲と組み合わせるとなると話は変わってしまう。

 うちは珈琲が柱となるお店だから、単品としてではなく様々な珈琲との相乗効果を発揮できるスイーツでないといけないのだ。

 

 

 「プロフェッショナルだ〜」

 

 「頭の中でBGMが流れちゃった」

 

 「あたしも」

 

 「アタシもだ」

 

 「あはは……」

 

 

 姉としてはもっと部活とかクラスメイトとの交流を大事にしてほしいけれど、優馬はこの店のことを第一に考えている。

 将来の夢も、羽沢珈琲店を継ぐの一点張り。

 両親も私も他にやりたいことがあればそれに専念して欲しいし、見つけて欲しいとも思う。

 

 

 「……?つぐは食べないのか?」

 

 

 みんなが試食を進める中、私は二つのスイーツを一口も食べてはいなかった。

 

 

 「う、うん!あんまりお腹空いてないから」

 

 「そうなのか?お昼も野菜サンドだけだったろ」

 

 「モカちゃんだと30分で燃料切れだよ〜……」

 

 「でも本当に心配になるよね」

 

 「つぐみ。本当に無理してない?」

 

 

 Afterglowのみんなから懐疑的な視線が飛ぶ。

 このまま本当のことを話したほうが楽になれるのだろうか。

 いや、でも───

 

 

 「お姉ちゃん」

 

 

 ずっと口を閉ざし様子を伺っていた優馬が動いた。

 

 

 「よかったらこれ、食べてみて」

 

 

 そう告げて出されたのは、うちの店で評判のあるティラミスだった。

 3層あるザバイオーネ・クリームの美しい白い生地の表面にココアパウダーがまぶされた、他の店でもよく目にする出来栄え。

 これならうちのメニューにもあるはずなんだけど………。

 

 

 「ゆうちゃん、やっぱり……」

 

 

 今の私には口にすることができない。

 これを皮切りにまたスイーツの沼にハマることはわかりきっているのだから。

 

 

 「()()()()()

 

 

 和やかな笑みを浮かべ発せられた『大丈夫』という言葉。

 それだけで優馬の考えてることは察することはできた。

 ここまで来たらもう断ることはできない。

 覚悟を決め、私はティラミスを口に運んだ。

 

 

 「………あれ?」

 

 

 初めに感じたのは、いつものティラミスとは違う違和感だった。

 

 

 「いつもより食感が軽い、かも?」

 

 

 ティラミスは本来、濃厚なチーズの甘さとエスプレッソの苦味が特徴的なスイーツで、このティラミスにはそれが感じられない。

 もちろん、不味くはない。

 美味しいのは確かなんだけど、見た目と味とのギャップで少々混乱している。

 

 

 「本来使わない食材を生地に使ったからだよ。よかったら皆さんもどうぞ」

 

 

 みんなもそれを食べたはいいものの、誰もその正体までは当てられない。

 

 

 「正解はこれです」

 

 

 優馬が冷蔵庫から取り出したのは、普段の食卓で非常に目にするものであり、スーパーでも手軽に購入できる大豆を使ったあの食材だった。

 

 

 「お、お豆腐!?」

 

 「その通り。これは、"豆腐を使用したティラミス" になります」

 

 

 予想外すぎる品にみんなが驚く。

 

 

 「実はというとこれは、ひまりさんから相談を受けて完成した品なんです」

 

 「え?なんでひまり?」

 

 「………あ、ああ!!思い出した!!」

 

 

 豆腐。スイーツ。ひまりちゃん。

 このワードだけで優馬にどんな相談を持ちかけたのか想像がついた。

 もちろんこれは長く時間を共にしたAfterglow全員だ。

 

 

 「モカちゃん的にはもう少し濃厚さが欲しいところだな〜」

 

 「やはりそうですか。中々難しいものですね……」

 

 「まあこれはこれでいいんじゃないか?新しいティラミスってことで」

 

 「これも販売するの?」

 

 「まさか。これはあくまでひまりさんから相談を受けて作った試作品なので」

 

 「ひーちゃん。ゆーくんをあまり困らせちゃ、め!だよ?」

 

 「うっ、はーい……」

 

 

 その後、羽沢珈琲店で出して欲しいスイーツや、新しいセットメニューの考案などをしてみんなと別れた。

 

 その日の夜。

 お風呂から上がり、弟が暇にしてるであろう時間を見繕い、部屋の扉をノックする。

 「どうぞ」という優馬の声を聞いて部屋へと入った。

 

 

 「お姉ちゃんがボクの部屋に来るのって珍しいね

 

 「ちょっと訊きたいことがあって」

 

 

 長居するつもりはなかった私は扉を閉め、その場に立ったまま話を続ける。

 

 

 「もしかして、私がダイエットしてるって気づいてた?」

 

 

 私の言葉に優馬は一瞬キョトンとするような表情を見せるも、すぐさまいつものにこやかな顔に戻った。

 

 

 「もちろん」

 

 

 当然だと言わんばかりに答える優馬。

 

 

 「どこでわかったの?ランニングした時?それとも、私のお昼が野菜サンドだって知った時?」

 

 「昨日の段階で気づいてたよ」

 

 「き、昨日!?」

 

 「脱衣所にある体重計が少し動いてたからね。最後にお風呂に入ったのはお姉ちゃんだし、もしかしたらと思って」

 

 

 やっぱり優馬は察しが良すぎる。

 バリスタとは違う、もっと他の職業でその才能を活かして欲しいと今心底思った。

 

 

 「あ、でもティラミスを作ったのはひまりさんのためなのは本当だよ。『夏は露出が増えるから、美味しくてどれだけ食べても体に影響のない低カロリースイーツを作ってほしい』って頼まれて試作したんだよ」

 

 「ひまりちゃん………」

 

 

 まずは間食を控えるべきでは?というツッコミはさておき、美味しいものを食べ続けたいと思う気持ちは私も同じ。

 それがたとえ体に悪いとわかっていようとも。

 今の私以上にこの言葉に重みを出せる人間はいない。

 

 

 「それでも、食事制限だけはやっちゃダメだと思うよ。良いことなんて何一つないから」

 

 「うっ、でも………」

 

 「それに、今のお姉ちゃんは全然太って見えないし、無理に痩せようとしなくても良いんじゃないかな?」

 

 

 優馬にはそう見えてるかもしれないけど他の人は違う。

 それに服の上からではわからない脂肪が私に蓄積されているのは確かだ。

 

 

 「そんなこと言っちゃダメ!その優しさが私の決意を揺るがすの!」

 

 「ご、ごめんなさい」

 

 

 かなり理不尽だとは思うけど、それほど深刻な問題だと言うこと。

 私の弟は優しすぎる。

 それが唯一の欠点なのかもしれない。

 

 

 その後、私は優馬の支えもあって運動をコツコツ続けた結果、夏休み前までには元の体型に戻ることができた。

 自分のこととは関係ないのに私のダイエットに付き合ってくれるあたり、やはり優馬は優しすぎる。

 

 別の話にはなるけど、『低カロリースイーツなら多少食べても大丈夫でしょ!』と油断したひまりちゃんは無事、体重の増量に成功しました。

 

 

 「ちょっと!こんなオチに使うなんてひどい!!」




他作品含め、これからもスローペースではありますが更新し続けます。
とりあえず今回は、生存確認ということで
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