羽沢家長男の隠し事   作:山本イツキ

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今回のバンドストーリーで明らかになったおたえの歯医者嫌いのように、この主人公にもなにか弱点をつけれたらなぁと思ってますが………いい案が浮かばねえ!


転生先は純情少女の弟でした

 神によって転生させられた私はとある商店街にある喫茶店の子供として生を受けた。

 名は羽沢(はざわ) 優馬(ゆうま)

 そう、生まれ変わってもなお "ユーマ" という呼び名は変わらなかったのだ。

 元気で優しく、温かい心を持った子になってほしいという殺し屋には勿体無いほど素敵な意味を込められ名付けられた。

 自営業である喫茶店を二人で切り盛りする穏やかな両親と2つ年上の姉に育てられ私は今年15歳を迎える。

 世間でいうところの中学3年生にあたり、まだバイトは禁止されているのだが、ここまで育ててもらった恩を返そうと今日も私は家族の仕事の手伝いをする。

 

 

 「いらっしゃいませ〜!」

 

 

 店の常連客が来店し、爽やかな笑顔で出迎えた。

 

 

 「あらっ、優馬ちゃん。今日もお手伝い?」

 

 「ええ。最近は新メニューのおかげで人の入りがいいものでして」

 

 「あらそうなのぉ」

 

 「いつものお席、用意してます。今日は店長のオススメでロールケーキありますが、どうでしょう?」

 

 「それならお願いしようかしら。飲み物はエスプレッソでお願いね」

 

 「かしこまりました♪」

 

 

 軽く頭を下げ、注文を厨房にいる父に伝えに行く道中、カウンター近くのテーブル席に座る女子高生のグループから熱視線を受ける。

 

 

 「ゆーくん。今日も頑張ってて偉いねぇ」

 

 「ホントッ、よく働くよなあ」

 

 「モカも見習いなよ」

 

 「モカちゃんはほどほどに頑張ってま〜す」

 

 

 上から、ひまり、巴、蘭、モカで全員が "Afterglow" というバンドを組む姉の幼馴染だ。

 小さい頃からずっと一緒で、高校生になった今でも同じ学校に通う仲であり、姉のつぐみもまたそのバンドに在籍するメンバーである。

 

 

 「つぐもこんなパーフェクトな弟がいてさぞや誇らしいんだろうねぇ」

 

 

 ゆったりと話すモカの視線はその四人のそばにいた姉に向けられた。

 

 

 「今年受験だからあんまり無理しないでって言ってるんだけど、言うことを聞かなくて………」

 

 

 はにかんだ顔でそう話すつぐみ。

 

 

 「受験といっても内部進学だから問題ないよ」

 

 「その油断が命取りなんだよ?」

 

 「大丈夫。お父さんにも、お母さんにも、それからお姉ちゃんにも迷惑はかけないようにするからね」

 

 

 満面の笑みで答えると、幼馴染たちはそれぞれ違った反応を見せた。

 

 

 「なんて、なんていい子なのお………!」

 

 「偉い!偉いぞぉ!!」

 

 「出来すぎて逆に怖いんだけど」

 

 「つぐの教育の賜物なのかな〜」

 

 

 泣き、笑い、引かれ、そして揶揄われる。

 つぐみは、どこか困ったような様子を見せ小さく笑った。

 父に注文を伝え、他にお客様がいないことを確認し、Afterglowのいるテーブルの近くに腰を下ろす。

 

 

 「今日は皆さんなにをされてるんですか?」

 

 「宿題だよ。数学のな」

 

 

 巴は教科書と参考書をヒラヒラと掲げボクに見せてくれた。

 かつてとある大学の教授として化けていたこともあり、一目見ただけで計算式や解答も弾き出したが、今の私はあくまで中学生。

 当然、それらしい態度を取る。

 

 

 「2次関数か………ボクには全然わからないなぁ」

 

 「まあ高校一年の範囲だからな」

 

 「もし分かったらわたしたちの顔が立たないよ!」

 

 「ひまり。いつまでも休んでないで早く終わらせて。練習できないじゃん」

 

 「うぅ〜…………」

 

 

 涙目になり小さくなるひまり。

 彼女はみんなからいじられキャラとして常に輪の中心にいる。

 鈍臭くて空回りすることも多々あるが、決して嫌いになれないのはひまりの人徳によるものなのだろうか。

 

 

 「皆さん頑張ってください。ボクは、ボクにできる範囲でサポートさせていただきます」

 

 

 私はそう告げ、厨房へと向かうと大量の食材を格納する冷蔵庫の扉を開き小皿に盛られたガトーショコラを取り出すと、勉学に励む若者たちにそれぞれ一つずつまくばった。

 

 

 「試作品ですけど、よかったらどうぞ♪」

 

 

 『将来店を継ぐのだから覚えておきなさい』と、この店のマスターで現在の実父から教わり仕上げたもの。

 大人向けのビターな風味が特徴的で、カフェオレやココアといった甘い飲み物とも合うよう調整した至極の一品だ。

 羽沢珈琲店の一押し料理(スペシャリテ)といってもいい。

 人に提供するのは父以外で初めてだが不安なんてものはない。

 

 

 「美味しい!」

 

 「うん。悪くないね」

 

 「タダでデザートまで味わえてモカちゃんは幸せ〜♪」

 

 

 反応は上々。やはり私の腕に狂いはない。

 

 

 「今度あこにも教えてやってくれよ!」

 

 「もちろん」

 

 

 そう笑って返しグループの輪から離れる。

 ここの喫茶店は両親と姉の人柄もあってか様々な客が来店する。

 学生はもちろん、コーヒーを片手に仕事をするサラリーマンやお茶をしにきた主婦、老若男女を問わない夫婦やカップルなど様々だ。

 もちろん一度来店した客の名前と顔は忘れない。

 複数回足を運んでくれたとなるとその人物の内情や近況、自分以外には誰も知らない個人情報などの情報も入手できるため転生先として文句のつけようのない場所を恵んでもらった。

 その中でも特に常連なのがカウンター席で当店オリジナルブレンドのコーヒーを口にする40代ほどの男。

 黒に近い茶色のスーツを纏う男にそっと近づくと互いに顔を合わすことなく会話を始める。

 

 

 「ここから200メートル先、街の境にある川で不審な男を目撃したという証言あり。外的特徴も一致。凶器に使用されたとされるナイフを川へ投げ捨てる様子を映した証拠写真もあります」

 

 

 淡々とそう話し続け、エプロンにしまっていた写真をノールックで手渡すと、男はコーヒーを一気に飲み干し立ち上がると私の方に手を置き感謝の意を述べる。

 

 

 「いつもすまないね。坊ちゃん」

 

 「当然のことをしたまでですよ。刑事さん」

 

 

 そう答えると男は片手をあげ、会計を済ませた後店を出た。

 先ほどの男の正体は警察官。

 治安維持に努めようと身を粉にして働く彼は度々行き詰まると私の元へ情報を求めてやってくる。

 その合図は、カウンター席の奥から三つ目の席に腰を下ろした時。

 先ほどまで座っていた席がまさにそれだ。

 前世は殺し屋として悪事に手を染める人間たちを殺してきたが、今は表と裏に通じる唯一無二の "情報屋(S)" として活動を続けている。

 中学生の身だと行動に制限がかかり満足に動くことができないため、この国が誇る実力組織に手を貸すことにした。

 もちろん初めからうまくいっていたわけではない。

 

 あれは10歳になった歳のことだ。

 秘密裏に、そして着々とその地位を築いていた頃、私の暮らす商店街のとある店で金庫が荒らされる事件があった。

 そこの店内は防犯カメラがついておらず犯人もそのことを知っていたかのように、誰もいなくなる時間を見計らって侵入し現金を奪った。

 その噂は瞬く間に広がり幼かった私の耳にも届く。

 

 

 『私の暮らす平和な街で悪事を働こうとは…………許しません』

 

 

 そんな心情が芽生え、証拠探しを始めた。

 裏の世界にも情報提供を呼びかけ続けた結果、犯人と思しき男へ辿り着く。

 すぐさま警察へこのことを知らせたのだが、相手が子供だからという理由だけでその情報は握りつぶされてしまった。

 表は裏と違い完全な実力主義ではない。

 子供だからといって油断した裏の住人たちはすぐさま私の異常さと才能に気づき信じるようになったのだが、表の連中はその限りではない。

 警察に頼ることを諦めた私は自力で男の元へ向かい、すぐさまロープで縛り上げ拘束するとすぐさま通報し、男は無事逮捕されこの事件は幕を下ろした。

 その時に目をつけてくれたのが先ほどまで喫茶店にいた警察官、名は片桐刑事で私を情報屋としてこれからも協力願いたいと申し出たのだ。

 実はこの男、私が情報提供したあの日の光景を目の当たりにしていたらしくずっと気にかけてくれていたらしい。

 

 二つ返事で受け入れ、そして今に至る。

 数分前に提供した情報をもとに、きっと犯人を捕まえてくれるだろう。

 

 

 「優馬〜。コーヒーカップ足りなくなりそうだから洗い物お願い〜!」

 

 「わかったー!」

 

 

 注文を取りに行く姉に代わり厨房へと向かう。

 私は情報屋、そして喫茶店の倅。二足の草鞋で今日も忙しい日々を送る。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 ピークも過ぎ客が全員お帰りになった頃、閉店には少し早いが切り上げようと父は店を閉め自由な時間を与えられた。

 着替えを済ませ居間に向かうと、つぐみはソファに背を預けふぅっと息を疲れと共に吐き出す。

 

 

 「今日も疲れたぁ…………」

 

 「また無理をしてるみたいだね。お姉ちゃん」

 

 「だ、大丈夫だよ!」

 

 

 心配させまいと笑みを浮かべるつぐみだが、血色が悪くやはり疲れが溜まっているように見えた。

 姉は実家のお店の手伝いに加え、幼馴染たちとのバンド活動、そして学校の生徒会での仕事までこなす三刀流だ。

 豪快なスイングとピッチングが魅力の二刀流野球選手、世界のオ◯タニさんもびっくりである。

 

 

 「そう言って過去に倒れたのはどこの誰?」

 

 「ううっ………」

 

 「やれやれ」

 

 

 全く、どっちが上なんだか。

 姉の働きぶりには毎度驚かされ尊敬しているのだがそれ以上に心配が勝る。

 

 

 「それじゃあ今日はゆうちゃんに甘えさせてもらおうかな?」

 

 

 イタズラに笑う姉は冗談のつもりだったようで、すぐ頬を赤く染め前言を撤回するように両手をブンブンと振った。

 

 

 「お父さんたちもしばらく片付けで手が離せないだろうし構わないよ。ほらっ、そこで座って待っててよ」

 

 

 外ではしっかり者で頑張り屋。

 だからこそ、家の中だけでも気の休まる場所を作ってあげたい。

 他人をここまで大切に思うことなんて一体いつぶりだろうか。私にもかつてはそんな人が…………いや、もう過ぎた話だ。

 今の私は羽沢優馬。家族との絆を何よりも重んじる男なのだから。

 

 

 「お腹は空いてる?」

 

 「全然。食欲はあまりないかも」

 

 「そっか。なら、米か麺、スープならどれがいい?」

 

 「スープがいいけど…………作れるの?」

 

 「食材があればね」

 

 

 そう言い、冷蔵庫を開けるとちゃんとものは揃っており棚にしまってある調味料の数も申し分ない。

 疲労が溜まっている姉にぴったりなスープの調理に入る。

 

 野菜室からじゃかいも、にんじん、玉ねぎを取り出して皮を剥き、大きめにカット。

 キャベツは芯を芯を切り落とし一口大に切り、朝食用のウインナーも切る。

 鍋に水を入れ沸騰させてからコンソメとカットした具材たち(キャベツ以外)を放り込み煮込んでいく。

 10分経過したらキャベツを投入しさらに5分ほど加熱し塩と胡椒で味を整えたら特製コンソメスープの出来上がり。

 今は携帯で調べればなんでも知ることができるから本当に便利な時代だ。

 このレシピもネットから参照したものである。

 

 スープ皿に盛り付け、テレビを見ながらソファでくつろぐ姉にスプーンと共に渡す。

 

 

 「召し上がれ」

 

 「ありがとう。わあ、美味しそう!」

 

 

 嬉しそうにそう呟くつぐみ。

 ふぅふぅと息で冷ましながら一口啜る。

 

 

 「………うん!美味しい!」

 

 「よかった」

 

 「ゆうちゃんって本当にお料理上手いよね」

 

 「そんなことないよ。お父さんたちの教え方が上手いだけ」

 

 「ゆうちゃんはきっといいお嫁さんになるね♪」

 

 「お婿さんじゃなくて?」

 

 「……あっ」

 

 

 家では少しおっちょこちょいなところも彼女の魅力の一つと言える。

 恥ずかしそうにするつぐみを見てフッと小さく笑う。

 

 

 「……………」

 

 

 そんなつぐみだが、ずっと私の方を見たまま動かない。

 自らつけたテレビは夕方のニュースが流れ、どうやら警察は私の情報提供通りプランを立て確保に至ったと言う。

 実に喜ばしい出来事だ。しかし、その裏話を知らない姉は目もくれずただ私の顔を見つめる。

 

 

 「な、なに?」

 

 

 不可解な姉の考えに首を傾げる。

 

 

 「髪………」

 

 「えっ?」

 

 「切らないの?」

 

 

 つぐみはスープ皿とスプーンをテーブルに置き、私の頭にそっと手を伸ばす。

 指で髪を滑らすように撫で、頭の後ろで束ねる髪を解くと肩口まで伸びた艶やかな茶髪は重力に逆らうことなく降ろされる。

 

 

 「切ったほうがいいかな?」

 

 「ううん。今の方がかっこいいと思うよ」

 

 「そっか」

 

 

 特別伸ばそうとしていたわけではないが姉や両親、クラスメイトたちからの評判もいい。

 もうしばらくこのままでも悪くないだろう。

 

 

 「ゆうちゃんって────変わってるよね」

 

 

 ツグミの何気ない一言にドキッと心臓が跳ねる。

 まさかこの女、私の正体に勘付いているというのか?場合によっては、敬愛する姉だとしても容赦はしない。

 

 

 「どういう意味?」

 

 

 真剣な眼差しを向け問いかける。

 

 

 「だってほらっ、女の子みたいに髪が長いし、白衣を好んで着るし、誰と話す時でも敬語を使うし」

 

 

 朗らかな見た目とは裏腹に結構人のことを観察している。やはり始末すべきか。

 

 

 「…………なーんて!あははっ、全部ゆうちゃんの個性だもんね!気にしないで!」

 

 

 あっけらかんと笑って見せるつぐみ。

 その様子を見て私も、なーんだ、と呟き懐中に忍ばせていた睡眠薬を滲ませたハンカチをそっとしまう。

 

 

 「ここでは別に構わないけど、店で『ゆうちゃん』って呼ぶのだけはやめてよね」

 

 「どうして?」

 

 「その、恥ずかしいから…………」

 

 「もぉ〜、照れちゃって可愛いんだから〜」

 

 

 つぐみは私の頭をよしよしと撫でる。

 前世ではあだ名で呼ばれることもなければ、誰かに撫でてもらうといったこともほとんど経験がない。

 未だ慣れることができず、私はただ姉に身を委ねている状態だ。

 もちろん、決して心地悪いことはない。

 

 敬愛する家族にこれほどまで大切にしてもらえてるのだから私は本当に幸せ者だ。

 これから訪れるであろう刺客には決して邪魔させない。

 

 

 私は私の願望のために今日も心優しい弟を演じる。




ありふれた転生物の中でも特に好きなのは『盾の勇者の成り上がり』なんですよねぇ。

キャラ構成といい、物語の内容と言い、すごく参考になります笑
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