羽沢家長男の隠し事   作:山本イツキ

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やる気、根気、生気。

大事な三つの気。


羽沢家長男は学校生活も大変です

 私は羽沢優馬として三つの顔を持っている。

 一つはごく僅かしか知らない情報屋としての顔。

 次に羽沢珈琲店で家族のためにと働く店の後継としての顔。

 そしてもう一つは────

 

 

 「それでは、生徒会会議を終わります。お疲れ様でした」

 

 

 終わりの号令と共に生徒会室に集まった生徒たちが解散する。

 それと同時にこの会議の様子を見ていた先生から声をかけられる。

 

 

 「円滑に進めてくれてありがとう。羽沢会長」

 

 「ふふっ。やはりその呼び方は慣れませんね」

 

 

 そう溢し照れくさそうに頬を掻く。

 私の顔、最後の三つ目は羽丘高校中等部の()()()()()()()()()だ。

 この学校の生徒会は立候補、もしくは学校推薦というものがあるのだが私は後者で指名され引き受けた。

 元々生徒会長に立候補するような人がいなかったというのもあるけど、こうして皆から認められ支持してくれるのは素直に嬉しい。

 

 

 「お姉さんは元気にしてるのかしら?」

 

 「ええ。もちろん」

 

 「彼女が中学にいた時もあなたのように学校をまとめてくれていたの。本当に助かっていたわ」

 

 

 心から姉を誇らしく思う。

 そしてまた、私自身姉に負けじと学校をより良いものにしていかなければならないという使命を背負っている。

 だが、私は不安や緊張で押し潰されるような小さい人間ではない。誰もが楽しく過ごせるような環境づくりを心がけたい。

 

 

 「お姉さんのようになって欲しい、なんて言わないわ。羽沢くんは羽沢くんらしくしてくれれば先生は嬉しいから」

 

 「そのお言葉、大事にさせていただきます」

 

 「恥ずかしいから今言ったことは誰にも言わないでね?」

 

 「もちろんです」

 

 

 指先を口元で立たせる先生はそのままを生徒会を後にし、私だけが残り今後の引き継ぎやこれからの行事に関しての資料に目を通す。

 中学生生活も残り僅か。油断も慢心もない。

 

 

 「ふっふっふっ………漆黒の闇より生まれし深淵なる我が…………えっと…………」

 

 

 元気溌剌といった様子で入室してきた紫髪のツインテール少女、宇田川あこは姉の幼馴染である巴の妹であり私と同い年の女の子だ。

 姉たちでいうところの私とあこも幼馴染という関係性になる。生徒会室にはこうして度々アポ無しで訪れることがあるから特別驚きもない。

 

 

 「いらっしゃい。あこさん」

 

 「しっつれいしまーす!」

 

 

 元気溌剌といった感じで手を上げる。

 なにやらイタイセリフを言おうとするが、毎度言葉に詰まり慌てふためくのが一連の流れだ。私としては、その光景が面白いから最後まで泳がせているのだが必ず適当になる。

 クラスメイトにこのことを話すと、これは "厨二病" というらしい。全く、日本語は様々な言葉があって覚えるのが大変です。

 

 

 「それで、要件は?」

 

 「ええっと………一緒に帰らない!?」

 

 (初めからそう言えばいいのに)

 

 

 ため息混じりにそう心の中で呟く。

 

 

 「構いませんよ。今日の業務は終了したので」

 

 「やったー!」

 

 

 大喜びするあこを連れ、生徒会室を出る。

 

 

 「羽沢生徒会長だ!」

 「今日もかっこいい……」

 「また勉強教えてくださいねー!」

 

 

 黄色い声援を受けニコリと笑みを浮かべ手を振る。

 

 

 「ゆーまくん、すごい人気だね!」

 

 「お恥ずかしい限りです」

 

 「そういえばお姉ちゃんが言ってたけど、ゆーまくんのことが高校でもすっごい噂がたってるらしいよ?」

 

 「ほお。それは初耳ですね」

 

 「あこもよくゆーまくんのことよく聞かれるから、どう答えたらいいか分からなくてさー」

 

 「ボクたち幼馴染ですもんね」

 

 「まあね〜♪」

 

 

 嬉しそうに話すあこ。

 彼女は自分とは違い子供っぽいところが魅力と言ったらいいのか、話していて飽きることのない印象だ。

 

 

 「ユーマくんって何でいつも白衣(それ)着てるの?」

 

 「うーん………これを着ていると何だか落ち着くから、ですかね」

 

 

 実際、羽丘学園は設立して日が浅いため校則が緩いことで知られている。

 服装や髪型などで注意されることはほとんどないため、私が制服の上から白衣を着ようとも特に突っ込まれることはない。

 寧ろ、一種のトレードマークとして認知されているのだ。

 

 

 「まあカッコいいからいいと思うけど!」

 

 「ありがとうございます」

 

 「もぉ〜、あこたち幼馴染なんだから敬語はいいっていつも言ってるのに〜!!」

 

 「何だか慣れなくて………」

 

 

 昔からの話口調だから今すぐ変えることなんて不可能だ。

 それに師匠からは敬語(コレ)しか教わらなかったから、タメ口や標準語といったことに不慣れなのもある。

 変装時にはその人物になりきることができるから無難にこなせはするが、羽沢優馬の姿では長年染みついた敬語癖は治らない。

 

 

 「そういえばあこさん、チーズケーキ好きですか?」

 

 「うん!大好き!」

 

 「よかったら試食していただけませんか?もちろん、お代はいただきません」

 

 「わーい!やったー!」

 

 

 同い年ではあるが、まるで自分の娘でもあやしているような気分だ。本来なら私も今頃………などと想像するが生憎今はそのような願望はない。

 年上年下、そして同級生。何人かの女の方に告白された経験はあるが全て断り続けている。

 私が惚れるような女性はきっと、この先現れることはないと断言できるのだから。

 

 

 

 時計の針は17時を示し、店も閉店まで残りわずかとなったところで帰宅する。

 

 

 「いらっしゃいませー!」

 

 

 カランカラン、とベルが鳴り姉が私たちを出迎える。

 

 

 「ただいま」

 

 「あれ、優馬?どうしたの?」

 

 

 普段は店の反対にある家の出口から帰るはずが、いつもとは違う行動に首を傾げるつぐみ。

 

 

 「お邪魔しまーす!」

 

 「あこちゃん!いらっしゃい!」

 

 「ボクの試作品を食べてもらいに来てもらったんだ。厨房借りるね」

 

 「うん!あっ、今日は巴ちゃんが来てるから後で挨拶してあげて」

 

 「了解」

 

 

 そう返事を返し、あこをカウンター席に座らせ冷蔵庫からチーズケーキを取り出しあこに差し出す。もちろん、コーヒーもセットで。

 

 

 「どうぞ。召し上がれ」

 

 「いただきまーす!」

 

 

 やはりどこか餌付けしてるみたいだ。

 微笑ましく彼女が嬉しそうに食べている様子を頬杖をつきながら覗く。

 

 

 「…………あれ?優馬とあこじゃん!」

 

 

 先ほどまで姿のなかった巴が私たちの姿を見て声をかけてきた。

 ハンカチで手を拭いてるそぶりを見るあたり、トイレに行っていたのだろう。

 

 

 「お姉ちゃん!」

 

 「ご無沙汰してます。巴さん」

 

 「おぉー!なんだなんだ〜?二人して、デートか?」

 

 「そ、そんなことないよ!!」

 

 

 揶揄うように笑う巴をあこは全力で否定する。

 

 

 「嘘つく必要ないぞ?優馬とならアタシは大賛成だからな!」

 

 

 勝手に話が進む宇田川姉妹をよそに、つぐみは距離をそっと詰める。

 

 

 「それで…………実際のところはどうなの?」

 

 

 耳打ちするように話すつぐみは興味津々といった様子だった。

 いくら真面目な姉といえど多感なお年頃。

 気になるのも必然なのだろう。

 

 

 「あこさんの言う通り。何も隠してなどいません」

 

 「優馬がそう言うなら追求したりはしないけど」

 

 「お姉ちゃんこそどうなの?恋人とか、そろそろできてもいいんじゃないのかな?」

 

 「わ、私なんてそんな人できるわけないじゃん!!」

 

 

 つぐみは手をブンブンと振り全力で否定する。

 

 

 「まあ、お二人に恋人ができたとしても僕はそっと見守るつもりですよ。もちろん相談には乗らせていただきますので」

 

 「なんだか優馬の方が年上みたい………」

 

 

 まあ事実、ひとまわり近く年上なわけですが。

 

 

 「優馬は恋愛とか興味ないのか?」

 

 「僕は全然。今はただ、生徒会長としてより良い学園づくりに尽力するだけです」

 

 「言い寄ってくる人もいるんじゃないの?」

 

 「あこ知ってる!この前告白されてたとこ、みたっ!」

 

 「やっぱりな!!で、どう返事を返したんだよ!?」

 

 

 思春期であり、異性への関心が疎い彼女たちからしたら "恋愛" というカテゴリーは非日常的であり、未知の世界に等しい。

 漫画やアニメ、テレビドラマなら目にすることはあるが、実際に経験するとなったら話が別。それらでは味わうことのできない体験をすることは、弟として、そして友人として結構なのだが………姉を含めたAfterglowの方々はどうもその気がないらしい。

 だからこうして私の話を食いつくように聞き入るのだ。

 

 

 「もちろんお断りしましたよ。少なくとも、今は恋愛にうつつを抜かしている余裕はありません」

 

 「かぁーっ!モテる男は言うことが違うなぁ!」

 

 「これで何人目だっけ?30人目?」

 

 「ふふっ、それは噂での数字でしょう。実際はもっと少ないですよ」

 

 「優馬はいい子だから、いつか優馬に相応しい子に巡り会えるよ。きっと」

 

 「そうだったら嬉しいね」

 

 

 少なくとも、今の私にガールフレンドは必要ない。距離が近いということは、いずれ私の正体が知られる可能性が高まると言うことだから。

 それに私の心の中で、かつて惚れた彼女は生きている。

 あれから何十年も目にすることはないが、その容姿や仕草はしっかりと記憶に刻まれている。

 殺し屋だった私が唯一心を開いた相手。

 そんな人物、そうそう現れるはずはないだろう。

 

 

 

 その日の夜、私はベッドの上で横になり昔の光景を思い出していた。

 とある国の栄えた街。キラキラと輝く人々の笑顔が眩しいその場所で、彼女と出会った。

 長いマーメイドグリーンの髪を風に靡かせた凛とした佇まいに対し、リスのような可愛らしい食事姿のギャップが素晴らしい彼女は私の最愛の人。

 別れを告げることなく私のそばからいなくなってしまったが、想いが潰えたことは決してない。

 今もなお、その気持ちは健在だ。

 

 

 「………アシュリー」

 

 

 瞳を閉じながら、そっと彼女の名をつぶやく。

 

 

 『うふふっ♪随分と黄昏ているようですね』

 

 

 人を揶揄うような、いや、小馬鹿にするようなその笑い方。忌々しい。あの時私を殺しかけた神の声。

 

 

 「………なんの用でしょう」

 

 

 嫌悪感を隠すことなくそう問い詰める。

 

 

 『あらあら。随分と嫌われてるようですね、わたし』

 

 「当然でしょう」

 

 『まあ、別にあなたに好かれようが嫌われようがどっちでもいいんですけどねっ!』

 

 「はぁ………」

 

 『それはそうと、第二の人生は順調に歩めていますか?』

 

 「見ての通り。順風満帆そのものですよ」

 

 『そうですかあ。それはよかったです〜』

 

 

 わざとらしい言い方に腹が立つ。まるで自分のおかげとでも言いたいのでしょうか。

 

 

 「それで、今更私に何の用が?転生してからこれまで一度たりとも "刺客" とやらは現れてはきませんが?」

 

 

 その言葉の通り、およそ15年の第二の人生を歩む中で神の言う刺客が私を襲いにきたことは一度たりともない。

 焦らして焦らして私の精神を削ろうとしているのか、はたまたそんな余裕が神になかったのかはわからないですが。

 

 

 『ご安心を。あなたが深夜徘徊しても怪しまれない高校生になるまで温存してますよ。中学生のままでは何かと不便でしょう』

 

 「ええ。まあ」

 

 

 どうやら神も考えていたらしい。見た目はバカそうに見えるのに。

 

 

 『それにしても、情報屋とはよく考えましたねぇ。これならどんな刺客が出現しても警察から情報を得らますね』

 

 「情報は他の何にも変え難い重要な武器ですよ。そんなもの、常識です」

 

 『流石は元・世界一の殺し屋さん♪』

 

 「はいはい。殺し屋ユーマは病で死んでこの世にはいませんよ」

 

 『ご所望とあらば今すぐにでも犯罪者を解き放てますが、いかがいたしますか?』

 

 「結構です」

 

 『あ、今ニュースで取り上げられてるような犯罪者はわたしとは無関係なので勘違いしないでくださいね?』

 

 「はいはい」

 

 

 神の話を適当に流す。

 

 

 『さっきまで頭の中に思い浮かべていた女性の方………すごく綺麗でしたねぇ』

 

 「………ええ。とても」

 

 

 名はアシュリー。私の実年齢より二つ年上のとても凛々しい女性でした。

 

 

 『今でも思い出すくらい素敵な人だったんですねえ』

 

 「ですが、もう過去の話。今生きていたら、すでに結婚して子供もいるでしょう。過去の恋愛を引きずるほど私は脆くありません」

 

 『そんな話をしてるんじゃないんですよ〜!』

 

 「だとしたらなんです?」

 

 『いやあ、夕方お友達としていた恋バナに大変興味がありまして〜☆』

 

 「神も恋愛をすると?」

 

 『それはもちろん!じゃなかったらわたしは生まれていませんからね!?これでも父と母はいるんです!』

 

 

 神は自分の姿に似せて人間を作ったと聞きますが、どうやら本当だったようですね。

 下等種族と罵る割に、やることは人間と同じ。実に滑稽です。

 

 

 「そんなに気になるならあなたがこの世界に降り立てばいい。神なのだから可能でしょう?」

 

 『可能ではありますが、それはあくまでイレギュラーが発生した場合のみ。言ったでしょう、これは実験だと』

 

 「こちらとしても、あなたが来られては迷惑です。調子が狂いそうなので』

 

 『ふふっ、言いますねぇ』

 

 「どうかそのまま黙って天から結末を待つといいです」

 

 『うふふ♪あなた、やっぱり────』

 

 「………ゆうちゃん?」

 

 

 ガチャリと部屋の扉が開き、体を起き上がらせるとつぐみの姿が目に映る。

 

 

 「どうしたの、お姉ちゃん」

 

 「もう夜も遅いから、早く寝るようにね。お友達と電話するのも楽しいと思うけど………」

 

 「うん。わかった。もう寝るよ」

 

 「それじゃあ、おやすみ」

 

 「うん。おやすみ」

 

 

 姉はヒラヒラと手を振り部屋の扉を閉める。この光景を目にし、天で神が笑い転げているのが容易に想像できる。

 

 

 「これもあなたが?」

 

 『いやいやまさか。偶然ですよ☆』

 

 「にわかに信じがたい」

 

 『たまにはこうしてお話ししましょうね♪』

 

 

 願わくば、ごめん被りたい。

 




まあ、ぼちぼちといきましょうか。

急いで終わらせる必要はないので。
次回はあの桃髪少女のお話です。


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