羽沢家長男の隠し事   作:山本イツキ

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久しぶりの投稿です。
大変お待たせして申し訳ないです………


こっから物語が大きく動き出します!!


発育の良い桃色髪の美少女は誰かに付き纏われている

 学校終わりの夕方16時頃。

 平日のこの時間はお客さんの入りが少なく、主に学校帰りの学生たちが訪れる。

 今日は生徒会の用事もなかったから早めに帰宅し店を手伝おうと思っていたのだが、突如ある人物からメッセージで『相談に乗ってほしい』と告げられた。

 すぐさまOKと返事を返し、今はカウンター席に座るその人物と話をしている。

 

 

 「ねえねえ、優馬くん〜。聞いてよ〜」

 

 

 テーブルに顎を置きぷくーっと頬を膨らます彼女、上原ひまりはどこか不満そうな表情を見せる。

 

 

 「なんでしょう」

 

 「この前モカにね、『ひーちゃん、また太ったねー♪』って言われたの!酷くない!?」

 

 「あはは………」

 

 

 女子にとって体型に対する話題はデリケートだ。

 つぐみもよく体重計に乗っては恐怖し、運動に勤しむ様子を度々目撃するのだが、見た目だけではその変わり様はよくわからない。

 

 

 「わたしだってテニス部で運動とかちゃんとしてるのにな〜」

 

 「人には個人差がありますから」

 

 

 私はその言葉と共に余り物のプリンを差し出すと、普段は喜ぶひまりが今日は違った反応を見せた。

 

 

 「もぉ〜!優馬くんのイジワル〜!!」

 

 

 バンっ!と机を叩き顔を突っ伏すひまり。

 どうやらコレのせいで機嫌を損ねてしまったらしい。

 

 

 「イジワル、と言われても………ひまりさんのアドバイスが一番なので、ぜひ感想をと思いまして」

 

 「む〜。食べるけど」

 

 

 一体この娘の情緒はどうなっているのやら。

 スプーンで掬い、口に含むとすぐさまいつもの明るい表情に戻りパクパクと食べ進める。

 

 

 「やっぱりひまりさんは笑顔が似合いますね」

 

 「やだ〜♡そんなことばっかり言って、同級生の女の子を誘惑したらダメだよ〜?」

 

 「ははっ。しませんよ」

 

 「またまた〜!言い寄ってくる子も多いって聞いたよ〜?」

 

 「全て断ってます」

 

 「うそっ!?なんで!?」

 

 「生憎ですが、今は恋愛をする気はありません」

 

 「ほんっと、真面目だなぁ」

 

 

 先日のつぐみと巴、そしてあこといい、女子というのは恋バナが大好きなようだ。年老いたわたしからすれば、他人の恋愛事情の何が楽しいのか皆目見当付かない。

 

 

 「それで、メッセージで訊いた "相談" というのは、モカさんから揶揄われたことに対する悩みだということであってますか?」

 

 「それもあるけど、もう一つあるの!」

 

 

 彼女のことだ。きっと恋の悩みでも抱えたんだろうと安易に考えていたその時だった。

 私の想像とは違った深刻な相談が語られる。

 

 

 「それがね、最近誰かに付き纏われてるんじゃないかって感じててさ〜………」

 

 「付き纏い、ですか……!?」

 

 

 一才の戯れはなく真剣に耳を傾ける。

 

 

 「うん。気のせいかもしれないんだけどね」

 

 「気のせいでも構いません。よければその時のことを全て教えてください」

 

 「そ、そんなに気になる!?」

 

 「ひまりさんのためですから」

 

 「えへへ。ありがと」

 

 

 簡単にまとめるとこうだ。

 普段はAfterglowのメンバーたちと帰っているが、部活後で1人の時、背後から後をついてくる男がいるらしい。一度くらいは偶然か、と思い過ごしていたら、それが何度も、同じ人物がいるもんだから心配になったという。

 親に迷惑をかけたくないからと警察にも相談できず今に至る。まずは自分の身を第一に考えればいいものを、この娘は………。

 

 

 「とにかく、これからは一人で夜に出歩かないようにすることです。最低でも2人、いや、3人と行動するようにした方がいいですね」

 

 「それしか方法はないよね〜……」

 

 「間違えても、撃退しようなんて考えないでくださいね?」

 

 「そ、そんな度胸わたしにはないよ!?」

 

 「心許ないとは思いますが、これを持っていてください」

 

 

 そう告げひまりに渡したのは小学生がよくカバンにぶら下げている防犯ブザー。

 この音が鳴れば近くの大人が助けに来てくれるという、この国が誇る最強の防犯グッズの一つだ。

 

 

 「優馬くんってほんと優しい♡」

 

 

 嬉しそうな顔でわたしの頭をヨシヨシ、と摩るひまり。

 

 

 「子供じゃないんですから」

 

 「これ、大切に持ってるね!今日はありがとう!」

 

 

 そう言い残したひまりは手渡した防犯ブザーをカバンに取り付け、まるで嵐のように去る。

 急に怒ったり、喜んだり、嘆いたり………これだけ喜怒哀楽がハッキリしているならもっとわかりやすい人物なはずなのだが、そのスイッチがどこで切り替わるのかいまいち理解できない。人心掌握術を再度勉強し直す必要がありそうだ。

 

 

 

 姉の幼馴染の相談に乗ったその日の晩。

 夕食、そして学校の宿題を済ませたわたしは今日の件について本職である警部さんに電話をかけていた。

 

 

 「ーーーと、いうことがありまして」

 

 『すまねぇなァ坊ちゃん。警察はそれだけじゃ動けねぇんだわ』

 

 「それだけって………!」

 

 

 警部さんの言葉に腹を立てる。

 赤の他人からしたら些細なことでも、当事者からしたらその限りではない。日本の警察は優秀と昔耳にしてはいたが、それは間違いだったか。

 

 

 『世の中には大なり小なり事件が溢れ出ている。窃盗、詐欺、強姦、殺人ーーーその全てに対応できるほど警察「ウチ」の人手は足りちゃいねェんだ』

 

 「しかし、自衛にも限度があります。一歩間違えればこちらが犯罪者に堕ちる可能性だって………!!」

 

 

 ここ最近世間を騒がしていた【私人逮捕系YouTuber】がその例だ。

 日本法では現行犯を捕える時のみそれが認められているが、そこにつけ込んだ正義のヒーロー擬き共が多数暴徒化し、遂には逮捕されるという事案が起きている。これに関しては彼らが悪いのもあるが、一方的に "悪" と決めつけるには少々お粗末に思う。

 曖昧な法律を制定する国や典型的な言葉で役目を果たそうとしない警察にも問題はあるんじゃないだろうか。

 平和な日本では殺し屋みたいなことはしなくていいと考えていたが………こういった目に見えない犯罪を止めるためなら喜んで復帰しよう。急を要するのであれば今すぐにでも。

 

 

 『坊ちゃんの気持ちはよーくわかる。だからこそ、一人一人の防犯に対する意識の高さが重要になる。憶測だけじゃあ警察は動かねェ』

 

 「警察官の言葉とは思えません」

 

 『耳がイテェなァ……』

 

 「仕方ありません。警部さんは、悪くありませんから」

 

 『とにかく!羽丘学園付近は警備を強化しておくよう近くの交番にも通達しとくからよ!』

 

 「それだけでも大助かりです」

 

 『………おっと悪ィ。これから会議だ。そんじゃな。また情報提供頼むぜ』

 

 

 どうやら忙しい時に電話をかけてしまったらしい。そんな状況下でも私の話を訊いてくれるなんて、心優しい人だ。

 彼も組織の人間。彼にだって大切な家族がいる。独断行動で組織から弾かれるわけにもいかない。

 

 携帯の電源を切り、ベッドに横になる。

 

 

 (さて、どうしたものか………)

 

 

 ひまりの話が本当だとして、付き纏いを始末するのは中学生のわたしでも実に容易い。

 拘束し拷問にかけるもよし、人目につかないところまで拉致し殺害するのもよし。ただ一つ、その瞬間を幼馴染や家族に見られなければいいだけだ。

 

 これも神による試練の一つなのか?

 

 どうせ意地悪なあの女のことだ。偶然を装って家族たちがその瞬間を目撃するように鉢合わせるように運命を導くことも可能だろう。わたしから手を出す時は細心の注意を払わなければならない。

 

 

 『まあ!なんて失礼なことを考えてるのですか!?』

 

 

 突如耳鳴りのように訴えかける神の声。

 わたしにしか聞こえないのだからタチが悪い。

 

 

 「違うとでも?」

 

 『そんな禁忌を犯す行為、私にはできません』

 

 「神の世界にもそのようなルールがあるのですね」

 

 『当然!罪を犯せば罰を受ける。下界と同じです』

 

 

 下界と蔑みながらも随分と面倒な環境下にいるようだ。

 

 

 「あなたなら自分の身を犠牲にしてでもわたしを陥れようと考えても不思議ではないでしょう?」

 

 『そんなことするなら今すぐあなたを地獄に堕としていますよ?』

 

 「くふふっ。確かにその通りでしたね」

 

 『ちなみにですが、ストーカーと私は一切の関係はありません』

 

 「ほう。では、あの娘のストーカーは実在すると考えて良さそうですね」

 

 『…………あっ』

 

 

 わざとなのか、天然「バカ」なのか。

 この女を殺せないことに怒りを込み上げる。

 

 

 『とにかく、私から余計なことはしないのでご安心を♪』

 

 (口から出まかせを………)

 

 『それじゃあ引き続き、自由を得るために頑張ってくださいね〜』

 

 

 心にもないエールを受け取り神からの通信を遮断する。時計に目をやると針は午前0時を指していた。

 成長期である今はこの時間には就寝しなければならないのだが、生憎昔からの習慣のせいか、極端に睡眠を必要としない身体になってしまった。

 悪人が動き出すのは決まって夜。殺し屋だった私とて例外ではない。睡眠は最低限に。寝込みを、私を敵視するFBIなどの世界中の警察組織が私を捕まえにくる可能性だってあった。

 それ故に、ふかふかのベッドと鍵付きの安全な住処がある今の生活に違和感を覚える。というか、慣れる気がしない。

 

 日常茶飯事な殺人。

 飲食物の困窮。

 孤独な生活。

 平和とは程遠い劣悪な環境だった。羽沢 優馬と同い年の過去の私が今の私を見ると、きっと幻滅するだろう。

 

 『なんだ?その腑抜けた姿は?』と。

 

 "慣れ" というのが一番怖い。少しでも気を抜いてしまえば私の正体がバレ、羽沢 優馬は絶命する。もう今後一切人として生まれわかることはおろか、生を受けることすらないだろう。

 

 

 (………早く、朝になれ)

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 結局一睡もすることなく翌朝を迎えた。

 ひまりのストーカーに対する策はすでに練り終え、後は実行するのみ。彼女の不安をいち早く取り除くためにも、今日中に始末をつけたい。まずはーーー。

 

 

 「おはよう。ゆうちゃん!」

 

 

 ガチャリと扉を開くと同じタイミングでつぐみが部屋から出て鉢合わせになった。

 

 

 「うん。おはよう」

 

 「………あれ?目にクマができてる」

 

 

 私の変化にいち早く気づくとはさすが実の姉だ。

 

 

 「少し考え事をしててね。あまり眠れなかった」

 

 「何か悩みでもあるの?お姉ちゃんでよかったら相談に乗るよ?」

 

 「大丈夫。今日片付くからね」

 

 「片付く?」

 

 「なんでもない。ほらっ、早く支度しないと遅刻するよ?」

 

 「うん………」

 

 

 納得はしていないが、私の言うことを信じ朝食を食べに居間へ向かうつぐみ。申し訳ないとは思うが、これは姉の幼馴染に関係ある話だ。安易に口にすることはできない。

 そのままつぐみとは顔も合わすことなく登校し、いつも通り授業を受け、休み時間をクラスメイトと談笑して過ごし下校の時間を迎える。

 生徒会の仕事もなく一目散に教室を飛び出し先ほど受診したメッセージを確認する。

 

 『本屋の裏路地にて、頼まれた荷物を渡す』

 

 既読をつけ、すぐさまその場所へ駆けつけた。

 

 

 「すみません。お待たせしてしまって」

 

 

 私たち以外に誰もいないことを確認し、ゴミ箱に腰を下ろす男に声をかける。

 

 

 「全く、急にも程があるで坊ちゃん」

 

 

 サングラスをかけたその男は、咥えていたタバコを手に持ちふぅーっと煙を吐く。

 

 

 「ほれっ、頼まれてたブツや」

 

 

 昨晩用意するようお願いしたものが入った紙袋を受け取り、礼をする。

 

 

 「あなたには本当に頭が上がりません」

 

 「ええってええって!坊ちゃんの実力はワシが一番、よー知っとる」

 

 

 カッカッカと豪快に笑う関西弁のこの男は、情報屋仲間である。裏の世界では結構なの知れた人物のようで、本人曰く『人を見る目に長けている』らしい。まあ確かに、そうでなければこんな学生風情を信じるはずもなく、その言葉の信憑性は極めて高い。

 

 

 「お礼はいずれ必ず」

 

 「いつも言うてるやろ?坊ちゃんが成人したら一緒に酒を酌み交わす。それで手打ちやって」

 

 「ふふっ、そうでしたね」

 

 「ほなワシ、今からパチンコ行ってくるわあ。頑張ってな〜」

 

 

 ヒラヒラと手を振り男は暗闇へと姿を消す。男から手渡された中身を確認する。………うんっ、頼んだものは全て入ってる。適当そうに見えて仕事はキッチリこなす。彼の優秀さが伺えるな。

 

 (さあ、ストーカー狩りの時間だ………!)

 

 サングラスの男に続き、私も闇に溶け込みその時を待つ。静かに潜んでいたその時、珍しく神から脳内に通信が入った。

 

 

 『盛り上がってきましたね〜♪』

 

 

 まるで野球中継を見るような感覚でいる様子だ。

 

 

 「邪魔しにきたのならとっとと消えてください。気が散ります」

 

 『またまたー!計画してた時間からまだ数時間あるじゃないですか。私とお話ししましょうよ〜』

 

 「全てが終わった後に、いくらでも」

 

 『その言葉。忘れないでくださいね♪』

 

 

 こうして一方的に接触できるのはズルい。私からも話せるようにーーーいや、その機会はないだろうから必要ないか。

 今の時刻は午後4時。神の言った通り、計画の時刻までまだ余裕がある。闇に紛れたまま、片耳にイヤホンを装着し音楽を聴きながら時間を潰すとしよう。

 

 

………………

 

 

………

 

 

 

 陽が完全に暮れ、悪人たちの時間がやってきた。学校の近くであるにも関わらず街灯の少ない駅までの通学路は特に変質者が好みそうな道でもある。ひまりが言うには、この道でストーカーが出没するんだとか。

 きっと被害者はひまりだけには止まらない。気づいてないにしろ、何人もマークされているはずだ。そんな男、野放しにしておけない。

 

 私はというと、今姿を隠しているのは姉や幼馴染たちが在籍する羽丘高校。それもただ身を隠しているわけではない。

 

 

 「先生!さようならー!」

 

 「はい、さようなら。気をつけて帰るんだぞ」

 

 「はーい!」

 

 

 ………こんな感じだろうか。とりあえず、元気っ娘として接していればバレることはないか。校舎を出て校門も抜ける。

 私の他に人はいない。ストーカーからすれば格好の的だ。コツ、コツ、とローファーがコンクリートの地面を蹴る音だけがあたりに響いている。

 

 

 (………いた)

 

 

 細長い裏路地。その奥から受ける視線を私は見逃さない。瞬時に男の存在を確認し、気付かぬふりをして前へ進む。

 しばらく駅の方へ歩いていると男がその姿を現し私の後を追う。ニヤァっ、とへばりつくような瞳が私の身体の隅々を舐め回す。実に不快。そして気持ちの悪い感覚だ。ひまりがずっとこの仕打ちを受けていたと言うなら同情する。

 

 スタスタと歩き、計画に移る。

 

 通学路より暗く、町外れの方へどんどんと歩いていき遂には人の住む家のない場所へと辿り着いた。この先は高い壁に阻まれ行き止まり。背後にはストーカーがピッタリと後についており、ここは2人だけの空間となった。

 今まで沈黙を貫いていた両者が向き合い口を開く。

 

 

 「結構歩いたつもりだったんですけど、よく着いてこられましたね」

 

 「ぐふっ、まあね。ジムに通ってるから余裕さ」

 

 

 額から吹き出した汗をハンカチで拭う小太りな男が私の前に立ち塞がる。コイツがひまりを苦しめていたストーカー。

 人を見た目で判断してはいけないとよく耳にするが、この場合致し方ないだろう。まさに、といった感じだ。

 

 

 「もしかしてキミ、俺のこと知っててここにきたの?なーにー?そーゆー趣味?」

 

 「さあ、どうでしょう」

 

 「キミの内情は全て調べた。俺はキミ以上にキミのことを知っているよ。ぐふっ、俺のストーキングは完璧だからね」

 

 「へぇ………」

 

 「後は身体だけなんだあ………!ねえ、キミの全部を、教えてよ………!」

 

 

 いやらしい手つきを見せながらゆっくりと近づく男。こういう輩がいるから、警察の手が足りなくなる。こんな下衆、生きる価値はない。

 

 

 「いいですよ♪それじゃあーーー」

 

 

 ニコリとした表情で私はポケットに忍ばせてあったスタンガンを近寄ってきた男の腹部に当て、スイッチを入れると、突然の痛みに襲われ男は膝から崩れ落ちた。

 

 

 「…………?っ!?」

 

 「私も教えていただきますね。醜男から一番大切な欲望を奪うとどうなるか、をね」

 

 

 スタンガンを口に当て、冷徹な目つきで見下ろす。男は状況が掴めず混乱している様子だ。

 

 

 「だ、だって………キミは………!?」

 

 「私?私が、いったい誰に見えるというのですか?」

 

 「キミは………上原 ひまりちゃんじゃあ………!?」

 

 

 男の瞳に映る、発育の良い桃色髪の美少女。

 かねてからずっとストーキングを続けていた上原 ひまりそのものだ。男が困惑するのも無理はない。彼女の全てを知ってる以上、今のこの状況は、心優しいあの娘からは一切想像できないシチュエーションだったからだ。

 

 

 「上原 ひまり?それはーーー」

 

 

 私は頬に手をかけ、姉の幼馴染から私本来の素顔へと戻り、長桃色髪のカツラを取る。

 

 

 「こんな顔を、していましたか?」

 

 

 薄っぺらい笑みを浮かべそう問いかける。

 あまりの変貌ぶりに言葉を失う男。

 

 

 「あっ…………がっ………!」

 

 「あなたのためにも、時を少し遡ってみましょうか」

 

 

 つい数時間前、関西弁の情報屋仲間から受け取ったのは、上原 ひまりそっくりに変装できるコスプレ衣装だった。

 顔、髪、身体全てを再現することができ、なんと彼女の仮面をつければ声まで真似することができるという超優れもの。事前に、彼にひまりの音声、写真を送り、一晩で全てを完成してくれたのだ。

 実用方法次第ではあらぬことにも使えるが、私はそれを許さない。いくら仲間でも、大事な姉の幼馴染を侮辱する行為は命を持って償ってもらう所存。まあ、信用してるからこそこういった頼み事をするんですけどね。

 変装した後学校に忍び込み、あたかも今から帰宅するように見せ男を騙したのである。

 

 

 「まんまと騙されてくれて、本当に助かりました。残念ながら本物の彼女は今、喫茶店で宿題をしている最中なんです」

 

 「そ、そんな………そんな予定、どこにも………!」

 

 「ストーキングは完璧、でしたか。フッ、笑わせてくれますね」

 

 

 外堀もちゃんと埋めている。昼休み、姉にメッセージを送っておいた。

 

 『昨日ひまりちゃんから、勉強でわからないところが多くて困ってるって相談を受けてね。よかったら今日の放課後にでも勉強を教えてあげられないかな?僕じゃ力になれなくて………』

 

 そのメッセージに姉は『わかった!誘ってみる!』と即答し、今は羽沢喫茶店で勉強会の真っ最中だ。嘘、ではあるがひまりが勉強に苦戦してるのは事実だから100%嘘とは言い難い。

 彼女には申し訳なく思うが、ストーカーを始末するためだ。少しばかりは代償を支払ってもらうということで勘弁してもらおう。

 

 

 「それでは始めましょうか。人体実験をーーー」

 

 

 男の悲鳴は誰に耳にも届くことなく、私が考えた拷問を受け続けた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 『いやあ、私今も興奮がおさまりませんよ!』

 

 「左様ですか」

 

 

 全てが終わった夜、約束通り神と話をしている。

 

 

 『あの薬はどうやって調合したのですか?』

 

 「裏の世界にはそういうのが多く出回っています。手に入れるなんて簡単。調合方法は、生前実験を繰り返してきたから見ずともできます。今回は理科室を借りて行いましたが、上手くいきましたね」

 

 『殺し屋としての技術がこんな平和な国で活用されるとは………』

 

 「殺す、と一括りにされますがその方法は数限りない。刺殺、絞殺、銃殺、毒殺。殺し屋なら全ての分野において完璧でなくてはなりません」

 

 『今回あのストーカーにしたのも、殺す手段の一つなのですか?』

 

 「ええ。もちろん」

 

 

 あの後男に用いた手段は、精力剤を注入し去勢させる、というもの。

 欲望が増長し今すぐにでも発散したい雄豚から、男にとって一番大切な部分を奪い取る。結果、自慰行為すら出来なくなった醜男は身悶えし、発狂死したことでその生涯を終えることとなった。

 遺体は裏の世界の住民に引き渡し、決して表沙汰になることなく、臓器売買の組織に売られることになるだろう。犯罪者にはお似合いな末路だ。

 

 

 『うふふっ。あなたもその犯罪者のうちの一人なのでは?』

 

 「少なくとも感情に任せた殺人はしたことありませんよ」

 

 『人殺しも立派な犯罪です』

 

 「クフフっ、何も言い返せませんね」

 

 

 人は必ず罪を犯す。それが大きくとも小さくとも変わらず "罪" という言葉で括られる。

 決して罪を犯さず潔白な人生を送っている人間なんていない。断言できる。聖人なんてこの世のどこにも居やしないのだ。

 神の言った通り、どんな犯罪者でも殺してしまえばそれも罪。弁明する暇もなく、同じ犯罪者として扱われてしまう。

 

 "人は生まれながらにして罪を負っている"

 

 キリスト教の基本となる考え方だが私は非常に共感している。

 例えるなら、私たち人間は自らの理想の為に森や海を害し環境汚染をおこなっているが、森や海に生息する生物たちからしたら人間は悪。罪を犯していると考えるだろう。

 知能が発達しているが故にあの手この手で他者の生活を脅かす、それが人間。なんとも罪深い生物だ。その中でも、人を殺して回る殺し屋の私はその最上級と言える。

 

 そんな私にできることは、神に祈り懺悔することではなく、他者の命を奪ってきたことを後悔し自ら絶命することでもない。

 

 同じ犯罪者を葬り続けること。

 それが私の役目なのだと、殺し屋になった日から言い聞かせ続けている。




いかがだったでしょうか?

罪は何か?重いですが心当たりがあるのではないでしょうか?
一日一善。良いことを積み重ねていきましょう。
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