中学生というのは世間一般からするとまだまだ子供として扱われる。カラオケ店では、18時以降は親の同伴なしでは入店できなかったりと不憫な扱いを受けることが多い。深夜徘徊なんてしようもんなら容赦なく警察に補導される。
そんな非行を羽丘学園中等部生徒会長の私が行った日には信頼は地に堕ち、両親や姉からは不良として認知されるなどで今後の生活に支障をきたす恐れがある。
もちろん、そんな愚行をする私ではない。
要は
時計の針は深夜1時を指し、家族は夢の世界へ行った頃、私はマップにも表示されない隠れ家のようなバーへと足を運ぶ。目的は、ただ一つ。
「よお。坊ちゃん」
季節外れのアロハシャツを羽織った関西弁の男が扉の前で私を出迎える。
「もう集まってますか?」
「おぉ。今日は結構人がおるさかい」
「なるほど。それは楽しみですね」
扉を開き、カランカランとベルが鳴ると店の中にいた人たちがこちらを覗く。
白衣を見に纏い丸型サングラスをかけたチビ。明らかに成人してるとは思えない容姿をした私を見て、初見の方々はコソコソと何かを話し出す。
「おいおい。あれって………」
「大丈夫なのか?」
「隣にいるのってアイツだろ?関西弁の」
「へぇ。ちょっかいかけるか?」
「やめとけ。あの関西弁、"
どうやら私より隣の男に話題が集中してるようだ。何食わぬ顔で皆を横切る彼の自己紹介をしよう。
虎狼。本名、
彼にとって私は『歪な中学生』として認知しており、大変気に入っている様子である。私自身、彼の実力は認めているし、話が合うためこうして2人きりでも全然苦に感じない。
まさに理想的なビジネスパートナーだ。
私たちは、ガラガラのカウンター席に腰を下ろす。
「坊ちゃん、そのサングラス似合うとるやん♪」
「フフッ、あなたのおかげですよ」
私が身につけているサングラスは彼から譲り受けたもの。仮面をつけることも検討したが、あまりにも似合わなすぎると盛大に笑われ今に至る。まあ、サングラスが似合うほどカッコ良くないけれども。
私たちの座る席にバーテンダーが近寄る。
「ご注文は?」
「ワシはバーボンのロック。こっちは………」
「プッシー・キャット」
「かしこまりました」
私たちの注文を受けバーテンダーは準備に取り掛かる。隣に目を向けると、彼は驚くと同時にイタズラな笑みを浮かべ話始める。
「坊ちゃんも罪な男やなあ」
彼がそういう背景には日本の法律が絡んでいる。まあ、誰もが知る常識的な法だ。一度は耳にしたことがあるであろう『お酒は20歳になってから』というやつである。
しかし、ノンアルコール飲料に関しては『飲んではいけない』という明確な法はない。私が注文したプッシー・キャットもその中の一つ。まあ、売ってはいけないという通達もされてはいるが、私が未成年ということは隣に座る蛇塚以外に誰も知らない。
「さあ、なんのことやら」
まあ、未成年に販売することはタブーではあるみたいだが。
「それにしても、よーそんなの知ってたな。家ではすでに酒浸りか?」
「まさか」
プッシー・キャットをすぐさまオーダーできたのは生前、酒を嗜んでいた影響が大きい。
ワイン、ウィスキー、ラム……世界中の酒の味は熟知しているつもりだ。だが、私の肉体はまだ15歳。未成年が飲酒することによってもたらされる害は将来足枷となるのはわかっているため口にするのは控えている。
「お待たせしました」
蛇塚とそう話していると、二人の目の前にそれぞれオーダーした酒の入ったグラスが渡された。
オレンジ、パイナップルといった明るい色が溶け込んだ見事な橙色をしていて、グラスの淵にはオレンジが添えられている。見事な出来栄えだ。
「それじゃあ。坊ちゃん」
「はい」
カチン、とグラス同士を当て乾杯し口に含む。
「とりあえずこれでこの前の借りは返してもらったってことにさせてもらうで」
「もちろんです。あの時は本当に助かりました」
「お安いご用や!」
「今更ではありますけど、その坊ちゃんってのはやめていただけないのですか?」
「なんでぇな。坊ちゃんは坊ちゃんやろ?」
「それはそうですが………」
イマイチ、子供扱いを受けるとムッとなるのは、実際は彼らより歳が上だからなのだろうか。
「坊ちゃんは制服着てる限りは坊ちゃんや。それとも───本名で言うたほうがええんか?」
「そうくるなら、こちらもあなたの本名を晒して差し上げても構いませんよ。今、ここで」
互いの
情報屋というのは決して表立って動き回るものではない。秘密主義。それが絶対条件だ。
だからこそ自身の個人情報。特に、親や兄弟の名前、友人関係から家の住所など、命と同価値の情報は何が何でも守り抜かなければならない。万が一それらが流出し、脅迫の道具にでも使われればその情報屋は死んだも当然。無能と位置付けられてしまう。
それは私と彼にも言えること。互いに手を組むと決まった時に互いの情報収集から開始し、互いに致命傷となる情報をその手に握っている。
蛇塚は大切な妻子を。私は両親とつぐみ、そして互いの本名や住所までも知られてしまっている。
ここまで私と張り合えるのだから、蛇塚の能力は世界トップレベルと言えるだろう。
だが彼と言えど、私が転生者であることは知らないようだ。それが知られてしまっては私の命が文字通り終わってしまうのだから当然と言えば当然か。
「………プッ。ガッハッハ!!やめだやめ!テメェと潰し合うのはゴメンだァ」
先ほどまでの真剣な眼差しはどこへいったのやら。蛇塚は豪快に笑い、私の背中をドンドンと強く叩く。
「ちょっとー、痛いんですけど……」
「ハッハ!まだまだ華奢やなァ」
成長期真っ只中のこの身体は痩せ型で、申し訳程度の筋肉がついてるのみで肉弾戦には非常に不向きだ。
世界最高の殺し屋なら全ての分野において圧倒的でなければならない、と私の師はよく口にしていた通り、この肉体をなんとかしない限り殺し屋として完全復帰するのは難しいか?いや、今は情報屋として警察に捜査協力しつつ、その手が及ばない時のみ腕を振るうとしよう。筋力はなくとも知力は衰えていないのだから。
「それで、連れてきてもらったのは良かったのですが、ここでは一体何をするのですか?」
「………ああ!説明すんの忘れとったな」
思い出したかのように彼は手をポンと叩くと、後ろのテーブル席に座る人たちをぐるっと見てから話を始める。
「まず一つ質問するで。坊ちゃんにとって "情報" ってなんや?」
「そうですね………ものによって変わりますが、最強の矛にも最強の盾にもなる………という感じでしょうか」
「ハッ!おもろい例えやなあ!そうか、矛と盾ねえ………。確かに、知られたくない情報を知られたらそれを脅しに使えるし、対して自分の秘密は絶対にバラさないように黙っておくもんやから、その表現は正しいな」
「では逆に、あなたにとって情報とはなんでしょうか?」
「っんなもん一つや。"銭" ……金や」
「お金?」
「まあ見た方が理解しやすいわ。ほれっ、あのテーブルをよー見てみぃ」
男が指をさし示す方を覗く。
私の目には、真剣な顔つきで話す男たちの様子が映り、片方の男が鞄から厚みのある茶封筒を渡しもう片方の男がその中身を確認するとニヤリと笑みを浮かべ席を立った。
察するに、なんらかの取引が行われていたようだ。
「アレが坊ちゃんと違う情報の使い方や。坊ちゃんの言った通り、情報は武器にして使うたらそら強いわ。目に見えぬ凶器って感じで。やけどそれは使い方によっては別のもんに化ける。ワシとアイツらの場合やとそれが金や」
生前、全て自分でこなしていたからこういった発想が出たことはなかった。なるほど、これは面白い。
「あなたはそれでお金を稼いでいるのですね」
「情報屋ってそういうもんや。企業や個人、ありとあらゆる情報を売買することを生業としてんねん。同業者同士やったら駆け引きするのも一興やで」
再度高笑いし、グッとお酒を胃に流し込む蛇塚。そんな私たちのもとに筋骨隆々のタンクトップ姿の大男が声をかけてきた。
「おい。ちょっといいか」
………おっと、少し騒ぎ過ぎてしまったか?(主に隣に座るこの男だけではあるが)
「どちらにご用が?」
「
「ボク、ですか」
「ああ。隣座るぞ」
そう断りを入れ、私の隣に腰掛ける。全く面識のないこの男が私に一体何の用か。
冷やかし、あるいは警告?未成年であることを確信したとでもいうつもりなのだろうか。
「あんたに一つ頼みがある」
「頼みですか?」
「以前、ストーカーに使ってやった精力増強剤を渡して欲しい」
曰く、男はヤクザに属する組員でその跡取りができないことに悩む組長にその薬を渡し子作りを成功させてあげたいんだとか。
聞く限り献身的なら男だと感じた反面、問題はそれ以外にある。
「精力増強剤?一体なんのことでしょうか」
どこでその情報が漏れたか知らないが、適当にはぐらかしてみせる。
「惚けても無駄だ。あんたがストーカーに去勢したことも、臓器売買の組織に引き渡したことも全て知っている」
「…………」
これが蛇塚のいう駆け引きというやつか。立場はこちらが下と見て間違いないだろう。
私は男について何も知らないが、男は私のことを熟知しているような口ぶりだ。
下手にはぐらかしたのはこちらのミスだったか?しかし、もう取り返しはつかない。
蛇塚の方を反応を確認しようとチラッと覗くと、私たちに干渉することなくバーテンダーに次の酒を注文している。『自分でなんとかしてみせろ』という無言のメッセージを飛ばしているように見えた。
(………まだまだ実力不足ですね。痛感しました)
殺すことにおいて他の追随を許さない私でも、この世界においての言葉の駆け引きはひよこ同然。
これまでほとんどの情報収集を独りでしてきたためか、こういったシチュエーションに慣れておらず致命的なミスを犯した。
慣れていない、と言い訳する私自身が実に腹立たしい。駆け引きという点において深く学ぶ必要があると認識した瞬間だった。
「嘘をついたことを謝ります。お詫びといってはなんですが、タダでお渡ししましょう」
以前の事件で使用した余物を男に手渡す。
「助かった。お礼はいずれさせてもらう」
そう言い残し男は店を出た。
ふぅっ、と息を吐き心を落ち着かせると蛇塚はニヤニヤとした表情を浮かべながら私を見る。
「………未熟者、とでも言いたそうですね」
「まあまだ中学生やからな。当然やろ?」
「子供だからと慰められるのは癪です」
グッと握った拳に力が入る。これほど屈辱的な思いをしたのはいつぶりだろうか?
私は先ほどの駆け引きにおいてなんの手も打てなかった。無力だった。その事実が、重くのしかかる。
「ほなっ、そんな坊ちゃんにおじさんからアドバイス。おまえさんは────
「えっ?」
「あのおっちゃんが取引しにきた時点で坊ちゃんに勝ち目なんてなかったんや」
「それは、どういう………?」
「わからんか。しゃーない!特別に教えたるわ」
蛇塚の話に対し真剣に耳を傾ける。
「ワシが、情報とは何か?って話の時に金の取引してたテーブルあったやろ?」
「ええ………」
「その別の場所でも取引は始まってたんや。ワシらの視線の外れた場所でな」
「それって、まさか………!?」
「そう。坊ちゃんに関する情報や」
まるで全てを知っていたかのように彼は話を続ける。
「会話はこうや。『薬を手配できるやつを知らないか?』『カウンター席の白衣を着たチビがそうだ』『そのチビの情報を売ってくれ』ってな。読唇術で読み取れたんはそれぐらいやったけど、もう少し話してたかもな」
「私の情報を渡した男は、一体どこでそれを………」
「ワシの想像やけど、坊ちゃんがストーカー犯を引き渡した人身売買の組織とつながってたんちゃうか?情報ってのはどこから漏れるかわからんから怖いよなァ。まさに、目に見えぬ凶器や。気ぃついたら自分の首元にナイフが向けられとる」
「その組織を手配したのはあなただったはずですけど?」
「ワシはなんもしてへんよ?『薬漬けにした死体を渡したがってるチビがおるから協力したって』って言うただけやもん♪」
全ては仕組まれていた。この関西弁の男によって。
「全てあなたの手のひらの上だったということですか」
「ええ勉強になったやろ?」
「せっかくの機会です。もっと………もっと、駆け引きについてご教授ください」
「おいおい。明日、っていうか今日か。学校あるんちゃうん?」
「朝までに帰宅すればなんの問題もありません」
「授業中に爆睡して勉強が疎かになっても知らんでェ♪」
蛇塚は意気揚々とし、話を再開した。対価は決して求めず自らの知識と技術を私に教え込む。まるで、学校の先生と生徒のように。
たった数時間では完璧にマスターすることはできなかったものの、また後日教えてやるということで解散となった。
明朝、何事もなかったように自室の窓から帰宅し寝起きの姉に挨拶し羽沢 優馬の朝がスタートした。
私が関西出身なのでこうやって関西弁のキャラ出すの、すごいこだわってるんですよねぇ笑
再度、原作キャラ無しでごめんなさい!次回は登場させますので、どうか私を見捨てないでェェェェ!!