こんな状況ではありますが、バンドリ布教会に今回参加させていただくことになりました!
他作品においても投稿予定なのでぜひご覧ください。
「雨、か………」
生徒会室の窓から外を覗くと、窓を打ち付ける豪雨が降り注ぐと同時にビューッと強い風が吹きまるで台風……いや、嵐が吹き荒れている。
朝の天気予報では『警報レベルの豪雨が降る』とだけ伝えられていたが、それを遥かに上回る勢いの雨風が襲う。
「ふっふっふ………我が闇の魔力が今宵、この街に………ええっと………」
いつも通り何の前触れもなく生徒会室に訪れていたあこが、言葉を詰まらせる。
「ふふっ。これがあこさんの
「え?なんで?」
「もうじきわかりますよ」
そう告げてすぐ、ピカッと一瞬空が光ると数秒の沈黙の後、ゴロゴロとどデカい雷音が鳴り響き窓ガラスを震わせた。その轟音にあこは驚いた声をあげる。
「わあぁ!?」
「今のは近かったですね」
子供らしい反応に小さく笑みを浮かべる。
「ゆーまくんはびっくりしないの?」
「ええ。この程度ではなんとも」
「うーん……ゆーまくんの苦手なものってなんだろう?」
「ふふふ。絶対教えません」
「えぇ〜!?」
普段は誰に対しても物腰が柔らかい私ですが、あこにだけは特別な接し方をしている。
姉の幼馴染の妹、つまりは私とあこも幼馴染という関係性にあり他より濃い付き合いをしているのだ。だからこうして揶揄ったりするのは日常茶飯事で、彼女の純粋な反応を見て楽しんでいる。
学校では一緒にいることが多い故か、付き合っているのではないかと噂が度々流れているが互いに否定し続けているのが現状である。
「そういえばさっき、あこが能力を使ったらーって言ってたけどどうしてなの?」
「………雷が苦手な人にとっては、この天気は最悪でしょう」
「ああー」
私の言葉で全てを察したあこは苦い表情を浮かべた。私とあこの共通の友人、そして知人は数少ない。その中で雷が苦手という個性を持っているのは1人だけ。そう、私の実の姉、羽沢つぐみである。
幼少期の頃からやたらと雷に打たれ弱く、天気が崩れた日に限り姉弟の立場が逆転する。一度落雷の音を耳にすればその場で小さく丸くなり、動かなくなるのだ。
普段はしっかり者の姉のギャップに面白さは感じるが、本人は余裕もなく怯えているので揶揄いはほどほどにいつもそばにいることを欠かさない。今は放課後。高等部も授業を終え今から帰る生徒もいるだろうが………姉も生徒会の一員だ。きっと何かしらの仕事を抱えて残っているに決まっている。
「あこさん。生徒会室の鍵の施錠、任せてもいいですか?」
「いいけど、まさかこの雨の中行く気なの!?」
あこが指差す窓の外は風が吹き荒れ、横殴りの雨が降り続いている。今外に出るのはあまりに危険。しかし、それ以上に………。
「関係ありません。行ってきます」
高等部の生徒会の方々に姉がご迷惑をおかけするわけにはいかない。幸いにも高等部は目と鼻の先にある。少々雨に濡れる程度で済むだろう。
全く、完璧な弟を演じるというのも酷なものですね。
この雷雨のせいで傘は全く役に立たないことを見越して、カッパ代わりにもなる防水仕様の白衣を身につけておいて正解だった。対して濡れることなく高等部の正面玄関へと辿り着く。
雨が上がるのを待っていたのだろうか、そこらで年上の方々から熱視線が送られる。
「誰?この子」
「中等部の子みたいだね」
「それにしても、なんで白衣?」
「あー!確か噂になってる中等部の生徒会長さんだよ!」
などと噂され、たちまち人だかりができる。不用意に目立ちたくはなかったが致し方がない。
「あれ?優馬くん!?」
人ごみをかき分け、テニスウェア姿のひまりが声をかけてきた。
「どうも。ご無沙汰してます」
「こちらこそ〜………ってそうじゃなくて!なんでここにいるの?」
「外の状況を察していただけるとありがたいのですが………」
「あー」
幼馴染故、直ぐ理解してくれて助かる。
「つぐなら生徒会室にいるはずだよ!」
「やはりそうですか。教えていただきありがとうございます」
「それにしても………つぐが心配でわざわざ来てくれるなんて、お姉ちゃん想いで可愛いなぁ♡」
湿気のせいでややボサボサになった髪をわしゃわしゃと撫で私を褒めるひまり。
「その、あまり子供扱いされるのは………」
「わかってるわかってる!今だけだよ〜♪」
まるで自分の弟のように甘やかすひまりに母性を感じたのは言うまでもないだろう。第二の人生を歩んでいく中で、家族にも、姉の幼馴染たちからもこうして撫でられ続けてきたのだから。
すぐさまひまりは部員の1人に呼び出され、名残惜しくもこの場を後にする。さながら彼女は今の天候のように嵐のように現れ、嵐のようにさっていった。
人ごみをかき分け生徒会室を目指す。来年からここへ進学することもあってかどこにどの教室があるかすでに把握済みだ。すぐさま、目的の場所へと辿り着く。
コンコン、と扉をノックするも返事がない。扉の隙間からは僅かな光が差し込んでいるから間違いなく誰かいるはずなのだが………。
「………失礼します」
不躾ではあるが仕方ない。ドアノブを捻り入室する。
「あのー………」
辺りを見渡すも人影はない。しかし、部屋の明かりは付いているし微かに人の気配はする。一体どこに、と考えていたその時だった。
「ゆう………ちゃん………?」
消え入りそうな声で私の名を呼ぶ声を聞き逃しはしない。
「早く出ておいで。お姉ちゃん」
その声色の主にそう告げると、部屋の奥にあった生徒会長の席の下から勢いよくつぐみが飛び出し私の元へ駆け寄った。
「ゆうちゃああああああん!!!」
「ぐふっ」
未だ成長途中の体のせいか、単につぐみの力が強かったのか、鳩尾に飛び込んできた姉の突進を耐え切ることができずその場に倒れ込む。
油断大敵、とはよく言ったものです。
「お姉ちゃん………苦しい………」
倒れて尚、姉は腕の力を弱めることなくむしろそれを増しながら私から離れようとしない。
「怖かった………怖かったよぉ………!!」
「全く、無茶をしないでっていつも言ってるのに」
「だってぇ………!!」
泣きじゃくる姉の頭を優しく撫でる。彼女に触れればビクビクと全身が震え、いかにこの雷雨を恐怖に感じたのか物語る。
まるで子猫でも愛でているような感覚だ。
普段は弱みなど見せない姉だがこういった機会はそう訪れない。とりあえず今は彼女を落ち着かせることに専念いたしましょう。
「今日の生徒会の仕事は?」
「………書類をまとめて、先生に─────ッ!!」
つぐみが話し始めたその瞬間、再度空が光り大きな落雷音が部屋に響く。それと同時に声にならない声を発しながらつぐみは私に抱きつく腕に力を込めた。
これ以上やられたら意識が飛ぶ。それほどの痛みだった。
「わ、わかった………とりあえず、進捗状況を見させてもらうね」
姉という名の装備を抱えたまま机の上にまとめられていた書類を見ると、既に大方まとめられていてあとはホッチキスで閉じるだけの状態だった。さすがはつぐみ。仕事が早い。
「あとはボクがやっておくよ。お姉ちゃんはそのままゆっくりしてて」
「で、でも………」
「今のままじゃ何もできないでしょ?先生もまたしてるだろうし、じっとしてて」
「うぅ、ごめんねぇ………」
こうして姉の仕事を引き継いだ私は次々と書類をまとめていく。そうしている間も雷は何度も落ち、その度に私の意識を刈り取るかのようなつぐみの抱擁が襲いかかる。これが無意識なのだから恐ろしい。
これだけの悪天候でもきっと神ならば────なんてことも考えたが他人に頼ることを、ましてあの神に頼むなど私のプライドが許さない。
それに、ニヤニヤと人を嘲笑うかのようなあの表情で小言を言うに決まっている。誰があなたなんぞに頼るものですか。ふんっ!
仕事はあっという間に終わり先生の元へ向かおうとしたそのとき、生徒会室の扉がガチャリと開く。
「失礼しま………おぉっ?」
生徒会室へ現れたのは宇田川巴。あこの姉だ。
「巴さん!」
「えぇ!?優馬ぁ!?」
いるはずのない私の姿を見て驚いた様子を見せる。
「驚くのも無理ないですよね」
「いや、優馬がここにいるのにもビックリしたけど、それ以上に………」
巴さんの視線が机の下にいるつぐみへと向く。落雷から身を隠すように机の下に隠れた我が姉はそこから私の鳩尾に顔を埋めている状態だ。側から見ても、知り合いとして見ても異常な光景に映っているのは間違いない。
「とにかく優馬がいるなら安心だな!」
「すみません。姉がご迷惑おかけして……」
「まあいつも通りだ。今日は蘭もモカも用事があるとかで先帰っちゃって心配だったんだよ」
「巴さんダンス部ですよね?部活は大丈夫なんですか?」
「アタシのとこはフリーだから。今日はこのあとバイトがあるから休んだ!」
「自由ですね」
「それがウリだからな!」
巴さんが高笑いすると同時にゴロゴロと落雷が落ちる。いい加減慣れて欲しいものだが、姉は変わらず私から離れることなく抱きつく力を強める一方だ。
私の知らないところでも誰かにこうして迷惑をかけていると思うと申し訳なく感じる。
「つぐがその様子だと帰るのも大変じゃないか?」
「帰ろうと思えばいつでも帰れますよ」
「どうやって?」
「ボクがお姉ちゃんを担いで帰ります」
「それ、家まで持たないだろ………」
「大丈夫ですよ。お姉ちゃん、軽いので」
「そういう問題じゃなくてだな………」
巴を背負うとなるの身長差があって難しいが、つぐみとはそこまで背丈が変わらない。筋力がないとはいえ、女子高生1人持ち上げるぐらい容易だ。
「無理ならアタシが背負ってもいいんだぞ?」
「くふふ、それは無理ですよ。この状態なんですから」
私から離れようとしないつぐみを見て巴は察したように頭を抱え大きくため息をついた。
「悪いけど、つぐを頼めるか?」
「もちろん」
即答し帰りの支度を始める。この豪雨だ、鞄の中の物が濡れるのは容易に想像がつく。生徒会室の備品を借り姉の鞄を袋で覆うとそれら全てを背負ってみる。
動きづらさはあるものの支障はない。問題は落雷音でつぐみが暴れ出さないことだが………まあ最悪の場合気絶でもしてもらったらいいだろう。最低限体にあざが残らない方法で。
「この書類はアタシが先生に届けとくよ」
「すみません。助かります」
「気をつけてな!」
ニコッと笑みを浮かべ別れを告げるとそのまま渡り廊下を歩き階段を降りる。
「うう………恥ずかしいよぉ………」
ぶつぶつと文句を垂れるつぐみ。
「仕方ないでしょ?こうするしか帰る手段がないんだから」
「でもぉ………!」
「なるべく人目につかないよう頑張るから」
姉には私の白衣を纏わせ誰かわからないようにしてはいるが、長時間雨空の下にいては風邪を引くリスクが高まる。
生前の私ならこんな小娘を抱えたまま縦横無尽に駆け回れたが嘆いたところで仕方ない。中学生らしく地に足をつけて帰宅するとしましょう。
校舎を出るが雨の強さは決して変わらず、むしろ勢いが増しているようにも感じる。空がピカッと光る時間も段々短くなり小さくゴロゴロと未だ鳴り続けている。
「ねぇ、ゆうちゃん」
雨が降り続ける中、つぐみが弱々しく問いかける。
「なに?」
「ゆうちゃんって、怖いものとか、ないの?」
「怖いもの?」
「水の中とか、虫とか………何かないの?」
怖いもの。実に抽象的な言葉だが、人それぞれ一つや二つ抱えてると聞く。
つぐみの雷嫌いと同じように、巴とひまり、蘭はお化けが苦手なことが挙げられる。モカはのほほんとしてそういった姿を見せることはないが必ずある。もちろん、この私にもだ。
怖いもの、それは────無知であること。
何も知らないというのは未知であり不明、不詳、漠然ということでもある。知識や経験がなければ危険やトラブルを回避できない。殺し屋にとってそれは致命的。そうして死んでいった同業者を何十人と見てきた。
私が病に倒れたのもその病について無知だったから。正しい知識があればもっと延命することができただろうしあの神と出会うこともなかった。
何も知らない自分自身が非常に憎くそして愚かだ。そんな私を私自身が許さない。
「ゆうちゃん………?」
「あ、ごめん。怖いものだったよね。何かなぁ………」
もちろんこんなことを口にすることはできずはぐらかす。
「ゆうちゃんって、なんだか時々大人っぽく見えるのはなんでだろう?」
「え?」
「………ううん。私が子供っぽすぎるからだよね」
ようやく落ち着きを取り戻したのか、あははと自虐をするようになった。願わくばこのまま穏便に─────
ドオォォオオォン!!!
空が一瞬光ったと思えば数秒のラグもなく雷が落ちその音が辺り一体に轟いた。
鼓膜が震えるような轟音に加え、姉の泣き叫ぶ声と背後から鳩尾を締め付けられ意識を刈り取られかける。
(いい加減にしてくれ………)
心優しい弟に対するあまりに酷い仕打ちに心の中で独り嘆いた。
ボクは虫が大の苦手です!特に蝉!!
冗談でも虫投げつける奴がいたらもう………ね?