羽沢家長男の隠し事   作:山本イツキ

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この回から本格的にスタートかな?

せっかくだから、もっと残酷でグロイ描写を増やしていこうか……


聖夜に訪れるは嫉妬の炎を上げる放火魔

 12月25日。二度目の人生を歩む私にとって15度目のクリスマス。我が家は喫茶店であるが故か、食べ切るのが困難なほどの豪勢な食事がテーブルに並び、クリスマスプレゼントが両親から手渡されるのが恒例だ。稀にではあるがAfterglowのメンバー全員と聖夜を共にすることもある。

 これほど非日常的なイベントはそう訪れないからか、この日を心待ちにしている自分がいる。楽しいと感じることは幾つになっても変わらない。

 そんな聖夜を迎えた深夜。

 昼間は賑やかな商店街は静まり返り梟がホーホーと鳴く声だけが寂しく響いている。部屋のベッドに寝転がっている私に向け、神から通信が入る。

 

 

 『成長期なのですから少しは寝たらどうですか?』

 

 「昔のクセでなかなか寝付けないんです」

 

 『そのままだとお姉さんの身長を超えられそうにありませんね』

 

 「大きなお世話です」

 

 

 前置きはこの辺にしといて、と仕切り直し神は本題に入る。

 

 

 『高校を迎える前ではありますが頃合いでしょう。本日から "刺客" を放ちます』

 

 「ようやくですか」

 

 

 いつになく真剣な声色に驚きながらも、心待ちにしていたと言わんばかりに私は笑みを浮かべる。

 

 

 『もう十分平和な日常は満喫できたでしょう?これからはあなたの望みに向けたくさん血を流してもらいます』

 

 「クフフッ、それはどうでしょう」

 

 『怖くはないのですか?』

 

 「相手が同じ人間なのであればいくらでも対処できます。まあ、あなたのように非現実的な能力(ちから)を使われては敵いませんが」

 

 

 念の為にと釘を刺す。

 いくら私といえど、念力や瞬間移動といった超能力を有した敵と相対すれば勝ち目は薄い。  

 万が一、某バトル漫画のキャラクターのように5本の指に触れるだけで全てを崩壊させる刺客が現れれば一貫の終わりだろう。

 意地悪なあの女の子のことだ。そんな人物を創造して作り出すなんて芸当も可能なはず。私は油断しない。常に最悪の状況を想定して立ち回らなくてはならない。

 

 

 『安心してください。相手はただの人間ですよ』

 

 「それはよかった」

 

 『ただし、過去に大犯罪を起こし悪名を世間に轟かせた亡霊たちにはなりますが』

 

 

 やはり一筋縄にはいきそうにない。

 

 

 『実はと言うと、あの世にも監獄があるんです』

 

 「監獄?」

 

 『このまま別の生物に生まれ変わらせるにはいかない危険な人物たちを取り締まり、隔離するところです。まあその扱いが面倒で、拷問にかけたところで誰一人として過去の過ちを悔い改めることがないんですよ』

 

 「なるほど。それはそれは………」

 

 『そこであるゲームを持ちかけました。「一時的に転生させてあげる代わりに一人の男を殺すこと。そうすれば最高の待遇を用意して人に戻してやる」と』

 

 「人の命を弄ぶとは………神はそこまで偉いのですか?」

 

 『ええ、まあ。神ですから』

 

 「何も言い返せません」

 

 『向こうも全力であなたを殺しにきます。きっと今の家族に危害を加えようとする悪人も出てくるでしょう。あなたの望みのためにもせいぜい頑張ってくださいね♪』

 

 

 適当なエールを送り神は通信を切る。

 私の望み………そう、初めは平和な暮らしと永遠の命が目的だった。しかし今はその考えが変わっている。第二の人生を歩む中で出会った家族や友人との安全で平和な暮らし。

 それが今の私の望みだ。

 永遠の命なんて必要ない。喧嘩や仲直りを繰り返し、共に歳をとり、大切な人たちに囲まれて笑顔で死ぬ。そんな素朴な未来を欲している。

 その為ならば手段を選ばない。

 私たちの暮らしを邪魔する輩は全員皆殺し。斬って、刺して、撃って、埋めてーーーかつて身につけた殺し屋の技術「スキル」を余すことなく披露して差し上げましょう。

 

 殺し屋の、名において。

 

 

 

 そして迎えた朝。

 僅かな隙間から陽の光が差し込み朝を知らせる。二度寝などする間もなく起き上がり朝食をとりに居間へとむかう。

 

 

 「あっ、ゆうちゃんおはよう!」

 

 「おはよう。お姉ちゃん」

 

 

 制服の上にエプロンをつけたつぐみと挨拶を交わす。

 机には既に、カリカリに焼いたベーコンと目玉焼き、サラダなどが置かれていていつでも食べられるようになっていた。朝は仕込みなどで忙しい両親の代わりに用意したのだろう。

 それらに手をつける前にテレビの電源を入れニュース番組を見る。

 

 

 『昨夜、東京都〇〇区の8階建マンションの

で火災が発生しました。火はほぼ消し止められましたがこの火事により6人が重軽傷を負い、2人が死亡。目撃者によると、怪しい人物が辺りをうろうろしていたという証言があり警察はこの犯人がなんらかの形で事件に関わっているとみて捜査を進めています』

 

 

 朝から物騒なニュースだ。

 食器を洗っていた手を止め、つぐみも後ろから悲しい顔をしながらテレビを覗く。

 

 

 「ここの近くだね………」

 

 「うん。一刻も早く捕まってほしいね」

 

 

 放火は殺人に次いで罪が重い。だからといって殺人よりはマシだというわけではなく、放火によって人を死なせてしまったら現住建造物放火罪と殺人罪の二つが成立してしまう。どんな罪を犯そうとも関係のない人を死なせてはならない。

 

 

 「ゆうちゃんも気をつけてね」

 

 「お姉ちゃんもね」

 

 

 互いにそう約束しテレビが次のニュースを読み上げる頃には、姉は身支度を済ませ生徒会の仕事をしに家を出た。

 私は茶碗に白米を寄せ、用意された朝食を食べながら常連の刑事さんに電話をする。彼は3コール以内に電話に出てくれた。

 

 

 『どうした?坊ちゃん』

 

 「羽沢珈琲店の近くで起きた放火事件。その犯人についてどこまで調べられてるか確認しようかと」

 

 

 先ほど報道された放火事件。私はその犯人が神からの刺客だと断定している。

 理由を聞かれると明確なものはないが、あの意地悪な女のことだ。きっとすぐにでも行動を起こしてもおかしくない。

 

 

 『残念だが有力な手がかりは見つかっていない。何せ目撃証言があっただけで防犯カメラには何も映っていなかったからなあ』

 

 「この街を熟知している人間、ということで間違いなさそうですね」

 

 『ああ。警察「こっち」もその線で捜査している。とりあえず、現状わかってることはまとめて送っておくから目を通しておいてくれ』

 

 「ええ。もちろんです」

 

 

 刑事さんは電話を切ると、走り書きしたメモをスクショして送信する。その情報はどれも決定打となるようなものはなく、マンションにはどんな人物が住んでいたのかとか周辺で火災対策はされていたかというものだった。

 刑事さんの言葉通り、真相に辿り着くには程遠いのが現状だ。

 今度は自分で情報を集めようと、ネットニュースで先ほどの事件の概要を確認する。

 やはりというべきか、どの記事も "不審な人物" だとか "計画的犯行" という曖昧な情報しか載せられていない。優秀な日本の警察も出かかりが掴めないとなると神からの刺客という推理が現実味を帯びてくる。だとすれば、非常に危険な犯罪者だということ。逮捕される前に更なる犠牲者が増えることが容易に想像がつく。

 ここからそう遠くない場所での犯行を考えると、私の親しい人たちが巻き込まれる可能性が大いにある。ここは『情報屋』としてではなく、『殺し屋』として本格的に動いたほうがよさそうだ。

 

 

 「………おっと、いけないいけない」

 

 

 時計の針はすでに8時を指していた。

 朝礼まで残り30分ほど。殺し屋の前に私は中学生という身分を全うしなくてはならない。手早く朝食を済ませ学校へと向かう。

 

 

……………

 

 

………

 

 

 午前中の授業を終え迎えた昼休み。

 生徒会長という身分もあってかお昼を共にしたいという友人たちが後をたたないが、今日はそんな余裕はない。生徒会の仕事があるから、という言い訳をしてなんとか一人になる。

 周囲に人がいないことを確認し携帯で放火事件の記事を読もうとすると、放火犯はこの数時間の間にも数々の事件を引き起こしていたようだった。

 その場所は多種多様で、大学やファストフード店、水族館など行く先々で多数の負傷者、そして死者を出してしまったようで警察も組織的犯行とみて捜査に臨むとのことらしい。

 授業の合間を縫って情報屋仲間に放火事件について情報提供を求めていたのだが、誰からも返信はない。彼らも手がかりは掴めていないようだ。中学生でなければ今すぐにでも調査を始めるというのに………今に限ってはこの身分が煩わしく思う。

 そう感じていた時だった。校庭から生徒たちのの叫び声が耳に入る。

 

 

 「あれは………!?」

 

 

 騒ぎになっている方へ目を向けるとそこには校庭に植えられている木々が、轟々と燃える様子が映った。先生たちが消化器で対応しようとしているが火は一向に消える気配がない。

 私はカバンの中に仕込んでおいた自作の消化ボトル数本を手に火の手が上がる校庭へひた走る。

 

 

 「みなさん!離れて!」

 

 

 群がる生徒や先生を押し除け消化ボトルを投げ込むと、火はすぐさま収まり被害は最小限に済んだ。

 

 

 (……………ッ!!)

 

 

 火が消えたと同時にどこからか視線を感じる。驚くと共に憎悪のような感情がこもってこちらを覗いた人物は、私がその方角を向いた時にはすでに姿を消し去っていた。

 殺し屋の勘が囁いている。間違いなく犯人だ。

 

 目的は一体………?

 

 

 考える時間もなく生徒たちから称賛の声を浴びる一方、先生たちからは厳重注意を受け一連の騒動は幕を下ろした。

 

 

 

 結局その後、警察が出火原因を調べるとかで休校措置が取られることとなった。

 騒ぎが大きくなりすぎていて落ち着いて考える余裕がなかったから私としては非常にありがたい。警察からの事情聴取もほどほどに他の生徒から数時間遅れで帰路に着く。

 

 まずは事件の整理から始めよう。

 

 初めに第一のマンション放火事件。

 2名の死傷者と6名の重軽傷者を出したこの悲惨な事件が起きたマンションは世帯持ちの家庭が多く住んでいたこともあり被害者の中には子供や老夫婦、結婚間近の若いカップルが放火被害に遭ったそうだ。

 その他の場所も人通りが多い所で放火されていて、相当数の被害者が出ている。クリスマス真っ只中ということが裏目に出てしまったのだろう。

 

 それらを踏まえて考えるのであれば愉快犯という可能性は限りなく低い。もしそんな単調な犯人なら、目に映るもの全てを燃やそうと考えてもおかしくない上に、わざわざ場所の離れた学校や施設で放火するのにも違和感がある。

 それがないということは、何かしらの意図を持って犯行に及ぶ "自己満足型の犯人" という可能性が高い。他者からしたら迷惑極まりない動悸を抱き、犯行を繰り返す人間ならある程度私の考えが一致する。

 

 唯一気がかりなのは羽丘中学で感じた視線。 

 アレは明らかに私に対してのものだ。火を消したことに対する怒り、或いは………私に対する恨みや妬み。仮に後者とするならば、前世の私を知っている人間という可能性が浮上する。

 

 (放火を武器とする殺し屋………そんな人いたっけなあ………)

 

 薄い記憶を辿っていると背後から私の名を呼ぶ声が聞こえた。

 

 

 「優馬く〜ん!」

 

 

 姉の幼馴染のひまりだ。ブンブンと嬉しそうに手を振っている。その横にはAfterglowの面々が連ねる。

 

 

 「あれ?一人じゃん優馬」

 「奇遇ですな〜」

 「中等部も休校になったんだってな」

 「そりゃそうだよ!中等部で火災が起きたんだから!」

 

 

 昔からそうだったが高校になった今でも仲が良いことに驚きだ。それも5人変わらず。こういう間柄を刎頚の友というのだろうか。

 

 

 「優馬!!!」

 

 

 私を見るや否や一目散に駆け出した姉、つぐみはとても心配した様子で駆け寄ってきた。

 

 

 「なんでメッセージ返してくれなかったの!?すっごい心配だったんだよ!?」

 

 

 肩を強く揺らすつぐみに対し、私はなんのことかわからずポカンとした表情で首を傾げる。

 ポケットにしまってあった携帯の電源を入れると確かにつぐみからのメッセージやら着信が数十件受信されており、その言葉の重さを物語る。

 

 

 「ごめんなさい………」

 

 

 姉を落ち着かせるためにあえてしゅんとした態度を取る。

 

 

 「もう、これからは気をつけてね」

 

 

 私の頭を小動物でも愛でるかのように撫でるつぐみ。その心地よさに自然と口元が緩む。

 

 

 「つぐって絶対ブラコンだよね」

 

 「そ、そうかな?」

 

 「まあアタシはその気持ちわかるけどなー!」

 

 「巴は過保護なだけ」

 

 「なんだとー!?」

 

 「まーまー。みんな兄弟想いってことで〜♪」

 

 

 まるで一流芸能人のコントでも見ているような言葉の掛け合いだ。

 

 

 「なあ優馬。この後予定あるか?」

 

 「ありませんよ」

 

 「じゃあせっかくだし一緒にクリスマスパーティーの買い出し行こうぜ!」

 

 「今年もつぐのお家でパーリナーイ」

 

 

 そうだった。あまりに濃い時間を過ごしてきたからか、今日がクリスマスということをすっかり忘れてしまっていた。

 

 

 「いいですね。お付き合いしますよ」

 

 「よしっ!決まりだな!」

 

 「巴、声デカすぎ」

 

 「だって待ちきれなくてさあ!」

 

 「わかるわかる!早く美味しいご飯食べたい!」

 

 「ふふっ、もう少し我慢してね」

 

 「美味しいご飯を食べ過ぎて、後にひーちゃんはダイエットを決意するのであった………」

 

 「モカあぁぁぁあぁぁ!!」

 

 

 モカの核心を作る言葉にひまりがとうとうキレた。残りの3人も苦笑いを浮かべ傍観している。これがこのグループのいつも通り。

 この5人の掛け合いは本当に愉快だ。見ていて全く飽きることはない。願わくばこのまま関係が切れることなく大人になっていって欲しいものだ。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 買い出し、飾り付けを済ませ迎えた夜。

 窓の外を覗くと雪がしんしんと降り注いでいて、今年はホワイトクリスマスになった。暖かな店の中にはクリスマスにふさわしい様々な装飾が施されており、テーブルには豪華な食事が並ぶ。

 借り切り状態となった羽沢珈琲店にて、今宵クリスマス会が開かれるのだ。

 開会の挨拶をしようと、リーダーのひまりが椅子の上に立ち上がった。

 

 

 「え〜、コホンッ。それでは!第16回 Afterglowクリスマス会を始めたいと思いまーす!」

 

 「いぇーい。ひゅーひゅー」

 

 

 鳴物を響かせ喜びを露わにするひまりと適当に便乗するモカ。他の3人も2人のハイテンションさに呆れつつもどこか楽しそうな様子を見せている。

 

 

 「………こ、これ美味しい!」

 

 

 ピョンっと椅子から飛び降り、早速と言わんばかりにひまりがテーブルに並んだ料理の一つを口にする。

 

 

 「ラタトゥイユですね。フランスの煮込み料理なんですけど、今回は冬野菜をメインに色々入れてみました」

 

 「すっごい美味しい〜♡」

 

 「喜んでいただけて何よりです」

 

 

 カフェの店員として料理にも手を抜かない。

 

 

 「もしかして優馬が作ったの?」

 

 「ええ。父から以前教わったのを試してみたんですが、上手くいきました!」

 

 「勉強もスポーツもできて、愛想も良くて、それに料理もできるなんて………!」

 

 「完璧超人かよ!」

 

 「出来すぎて逆に怖い……」

 

 「つぐも鼻が高いですな〜♪」  

 

 「み、みんな………やめてよお………」

 

 

 姉の幼馴染たちから各々言葉を受け取るが、肝心の姉、つぐみはまるで自分が誉められているかのように頬を真っ赤に染め顔を手で覆い隠した。

 その様子を見た幼馴染達は姉を揶揄うのを確認して裏手の扉から店を出る。そのまま細い路地を進み続け街灯の灯らない空き地へと辿り着く。そこには、怪しげな動きを見せる男が1人。

 

 

 「こんなところで何をされているのですか?」

 

 

 和かな笑みを浮かべ声をかける。男はゆっくりとこちらに顔を向けたかと思いきや、突如として銃口を私の身体に向け、炎を放射する。

 轟々と音を立てながら一直線に飛んできたが間一髪で回避した。

 大きさはアサルトライフルほどか。銃弾ではなく火を放出したということは火炎放射器で見て間違いないだろう。

 

 

 「全く、穏やかじゃありませんね」

 

 

 服についた汚れを払いながらため息混じりに吐露する。

 

 

 「白衣を着た女顔のガキ………オマエが、あの女が言っていた奴だな?」

 

 

 あの女、つまり私の知る神と考えて間違いない。その問いに私は質問で返す。

 

 

 「標的は私一人のはずなのに連続放火事件を引き起こすとは、どういうつもりなのですか?」

 

 「ようやくあの地獄から舞い戻ってきたんだ。テンションが上がってついやっちまった」

 

 

 不敵な笑みを浮かべるこの男に罪悪の念を感じられない。犯罪を日常的に起こし続ける典型的な悪人の顔だ。

 

 

 「つい………!?」

 

 「幸せそうな面をしてる奴を見るとムカついて仕方ねぇんだ。特に若いカップル!!公衆の面前でイチャつきやがって………虫唾がはしんだよ!」

 

 

 男の醜い感情のこもった言葉が静かな空き地に響く。中でも『若いカップル』という部分が強調されていて過去の事件のカギにもなりそうだ。

 

 

 「あなたの気まぐれで何人の命が奪われたと思っているのですか?罪のない人たちを殺して、なんとも思わないのですか?」

 

 「へっ、よく言うぜ。テメェも散々殺してきただろ!罪のない人間達をヨォ!!」

 

 「…………確かに、私は過去、人を殺した。何十、何百人と。だが、少なくとも私情で人を殺めたことは一度たりともない!」

 

 「屁理屈言うなよ!所詮俺もオマエも、同じ人殺しだ!!」

 

 

 興奮し切った様子で男はポケットからマッチを取り出し火をつけると私の後方に放り投げ、勢いよく炎が舞い上がる。

 無臭の可燃剤でも撒いていたのだろう。炎の壁に閉じ込められ私たちは周囲から孤立した。

 

 

 「ケホッ、ケホッ………!」

 

 

 立ち上る煙と周囲の温度で咽せるも、男は対照的に何食わぬ顔で仁王立ちしている。

 

 

 「どうした?苦しそうだな?」

 

 「くっ………!」

 

 「オマエには二つの選択肢がある。大火傷を覚悟でここから逃げるか、今ここで俺に焼き殺されるか。まあ好きな方を選べや」

 

 

 再度火炎放射器の銃口がこちらを向き、絶体絶命の境地に立たされる。私が少しでも動けば指にかけた引き金を容赦なく引き、骨すら残らず燃え尽きるだろう。

 逃げるのは不可能。このまま無抵抗で焼かれるか─────

 

 

 (………なーんて)

 

 

 この程度の状況(シチュエーション)、過去に数えきれないほど経験してきている。こんなものピンチにすら入らない。

 両手を上げ降参のポーズをしようとした瞬間、低姿勢になり一気に男との距離を詰め服に仕込んでいた武器を手に取り男にその中身を噴射する。

 

 

 「………!?ぎゃああぁぁぁ!!熱い!!熱いいぃぃ!!!」

 

 

 至近距離で中身のガスを顔に浴び、ドロドロに溶け出す。

 

 

 「熱いと感じるのは何も "火" だけではない。死ぬ前にいい勉強になりましたね」

 

 

 理科室で極秘に調合した有毒の化学物質。無闇に吸い込めば呼吸困難を引き起こすほど危険な物質を、噴射器にたんまりと納入し備えていたのだ。

 100度は下らない高温のガスはたちまち男の身体を蝕み、立っていられないほどの苦痛を与える。

 

 

 「クフフッ、どうやら顔の原型は無くなってしまわれたようですね。愚かな犯罪者にはお似合いの醜顔だ」

 

 「あっ………あぁ………!」

 

 

 かつて経験のしたことのない痛みに悶える男の顔を踏みつけ動きを止める。

 

 

 「貴様の下らない嫉妬のせいで何人もの善人が犠牲になった。万が一私の大切な友人たちが巻き込まれていたら、この程度ではすまなかったでしょう。よかったですね。死ぬほど痛むだけで済んで」

 

 

 冷酷、そして残忍。

 かつて殺し屋として恐れられてきた男が本領を発揮し始める。

 

 

 「ですが貴様はやりすぎた。社会のゴミは処分(スクラップ)です」

 

 

 踏んづけていた男を掴み上げ、炎の壁が燃え上がるところまで移動し抵抗されることもなくその業火へ放り投げる。

 途端に火の手が増し、人が焼ける悪臭が漂うと同時に消防車の音がこちらに近づいてきた。もうこの場所にはいられない。

 私は灰になる刺客を振り返ることなくこの場を去る。

 

 

 (せめて、あの悪人の魂が牢獄から出てこないことを祈ろう)

 

 

 命を落とした聖者よ。

 どうか安らかに………。




いかがだったでしょうか?

自分勝手な人間は身を滅ぼすとはまさにこのことです。
どうか皆さんも自惚れにはご注意を。
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