羽沢家長男の隠し事   作:山本イツキ

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ゴールデンウィークも終わり、いつもの日常が始まりました。

皆様はいかがお過ごしでしょうか?


私は自分の考えを言葉に、文に変換するというのは難しいもので、試行錯誤の日々を送ってます……


恋の炎がまた灯る

 朽ちた木々からは色鮮やかな緑が芽吹き、また新たな季節を迎えた春。私は羽丘学園中等部を卒業した。

 卒業と言いつつも高等部に進学するだけなのでこれと言った悲しみはない。だが後輩たちはちがったようで、第二ボタンやら白衣やらをねだられ、号泣され、挙句の果てには告白までされてしまった。

 今生の別れでもあるまいし、私からすればよくわからない感情だ。

 

 卒業式を終えいつも通り家路に着き、真っ直ぐ羽沢珈琲店に向かう。

 

 

 「ただいま」

 

 

 カランカラン、とベルが鳴りお客様、そきて姉のつぐみがこちらに視線を向ける。

 

 

 「おかえり!」

 

 

 パタパタと駆け寄るつぐみ。

 手には何やら握りしめているようで………。

 

 

 「唐突でごめんだけど………卒業おめでとう!」

 

 

 和かな笑顔でクラッカーを鳴らすと、お客様を含め盛大な拍手を受ける。

 

 

 「びっくりしたなあ」

 

 「せっかくだからみんなでお祝いしようって思って♪」

 

 「嬉しいよ。本当にありがとう」

 

 

 決して大掛かりでは無くささやかなドッキリは心優しい姉らしいやり方だ。

 

 

 「ユウマさん!ご卒業おめでとうございます!」

 

 

 つぐみの背後からそう祝福するのはこの店でアルバイトとして働く、若宮イヴ。アイドルバンド "Pastel*Palette" のメンバーでもあり、部活動をいくつも兼任しているという多岐に渡り活躍している人だ。

 純粋で人懐っこく、常連さんからも可愛がられていて姉に次ぐ看板娘でもある。

 

 

 「イヴさんも、バイトお疲れ様です」

 

 「まだまだこれからです!」

 

 「ボクもすぐに準備しますね」

 

 「き、今日は休んでいいよ!?」

 

 

 姉は慌てたように通り過ぎる私の腕を掴む。

 

 

 「別にやることもないし、いいでしょ?」

 

 「でも………」

 

 「大丈夫。ジッとするのが嫌なだけだから」

 

 

 中等部生徒会長という役職の任期も終え、肩の荷が降りた今、やることがあるとすれば家業の手伝いぐらい。

 ここ最近は "刺客" が来る気配もなく日常は平和そのもの。暇なのだ。

 姉はこう告げた私が引くことはないと理解している。和やかな笑みを浮かべた私に対し、仕方ないなあといった様子で腕から手を離し苦い表情を浮かべた。

 

 

 「ユウマさんはすごく働き者なんですね!」

 

 「だから心配なんだけどね………」

 

 「働き者なのはお姉ちゃんもですよ。イヴさん」

 

 「確かに!!」

 

 「わ、私は関係ないよ!!」

 

 「はははっ。それじゃあ、準備してきますね」

 

 

 私はそう告げ店の裏手へと足を進める。

 制服を脱ぎ、ボタン付きのシャツの上に白衣を羽織り着替えが完了。普段、私は姉やイヴのような黄色いエプロンは着用しない。

 白衣(これ)は私のポリシーであり師匠(おや)の形見。季節や場所問わず必ず着続けなければならない。

 側から見れば違和感しかないだろうが、常連さんたちには受け入れられてるし、不衛生にならないよう、手入れに非常に力を入れている。

 ガチャリ、と裏手口から店へ入ると大方のお客様は退店されたようで店の中には、つぐみとイヴだけが残り父の賄いを口にしていた。

 

 

 「休憩ですか?」

 

 「はい!店長から差し入れを頂いています!」

 

 「プリンアラモードだよ。優馬も食べる?」

 

 「うん。もちろん」

 

 「分かった!じゃあ用意するね!」

 

 

 カウンター席に腰掛ける二人の横に腰を下ろし、姉は冷蔵庫からプリンを取り出しガラスの丸皿に移すとイチゴやミカン、パイナップルといった果物を盛り付け、ホイップクリームを添えた。

 そして棚から私専用のカップを取り出し、予め用意していたアイスティーとミルクを注ぎ、私に差し出す。

 

 

 「どうぞ、召し上がれ♪」

 

 「ありがとう。いただきます」

 

 

 一つ一つの動きに無駄がなく、慣れた手つきに感心する。およそ15年。そばに居続けて見てきたが、一朝一夕で出来るわけではない。

 積み重ね。コツコツと繰り返し、仕事をこなしてきたことで身についたつぐみの技だ。

 つくづく、つぐみが私の姉で良かったと思う。

 プリンアラモードの味は言わずもがな。双方、最高の出来だ。

 

 

 「ツグミさん!昨日のドラマ見ましたか?」

 

 「うん!なんだか、大人な恋愛って感じでドキドキしたなあ」

 

 

 昨晩放映された恋愛ドラマ。

 チラッと覗いただけだが、オフィス恋愛に興じるカップルが内緒で恋愛を続けるといった内容だったか。

 

 

 「羨ましいですね!」

 

 「ふふっ、私にはまだ早いよ」

 

 「そんなことありません!ツグミさんなら今すぐにでも素敵な男性と巡り会えますよ!」

 

 「は、恥ずかしいなあ………」

 

 

 イヴも上手いことを言う。これもアイドルとして公の場に立つことで身についた技術なのだろうか。

 

 

 「ユウマさんはどう思いましたか?」

 

 「そうですね、難しいことはよくわかりませんが、恋愛って大変なんだなと思いました」

 

 「ユウマさんは誰ともお付き合いしていないんですか?」

 

 「ええ、生憎ですが」

 

 「ええ!?意外です!」

 

 「そうですか?」

 

 「はい!」

 

 

 一点の濁りもなく、純粋無垢といった様子でそう言い切るイヴ。

 私はこれまで恋愛に興味がないと散々口にしてきたが、生前、恋人関係にあった女性が一人だけいる。

 名は、アシュリー。

 マーメイドグリンの長い髪を一つにまとめ、凛とした立ち振る舞いが魅力的女性だった。そんな彼女に私は一目惚れしたのだ。

 彼女という美しさに魅了された私はすぐさま愛の言葉を伝えたのだが、頬を殴られ盛大に振られてしまった。これまで人を愛した経験のなかった私は、泥棒に心を盗まれたかのように夢中になったのだ。

 

 事実、アシュリーは泥棒だった。

 

 金銀財宝を目当てに盗み回り、貧困に喘ぐ住民たちを助けるという、言わばダークヒーローのような存在。市民たちからは慕われ、また彼女自身も多くの市民たちに慈愛の心で接していた。

 この時、私と生涯を共にできるのはこの人しかいないと確信し、任務中、任務後など、時間と場所を問わず猛アタックを続けた。

 あの可憐さを目にすれば私の行動も無理はない。自らを擁護するわけではないが、仕方のないことだったと思う。

 そのようなことが何十、何百と繰り返し起こりその思いが伝わったの彼女はようやく私の想いに首を縦に振った。

 私が病にかかり距離を置いたことで、付き合いは僅か1ヶ月ほどだったけれど、濃密だったあの頃の記憶は昨日のように覚えている。私が病気にならなければ、ずっと関係が続いていたのだろうか。

 結婚し、子を産み、田舎の大きな家で幸せな家庭を築く───そんな妄想をずっと繰り返している。 

 

 (……我ながら少し気持ちが悪いですよね)

 

 自らそう呟き罵倒する。

 未練がましいといったらそれまでだが、生涯にわたってあの女性以外とお付き合いする気は毛頭ない。

 たとえそれが、転生した今現在においても。

 

 

 「き、気になる人は、いないの?」

 

 

 どこか動揺した様子でつぐみが問う。

 

 

 「声は掛けられてるけど、今は誰とも付き合うつもりはないよ」

 

 「そ、そっか!そうなんだね!よかった!」

 

 

 ホッと胸を撫で下ろす姉に構わず、食べ終えた食器を手に取り二人の分も合わせて皿とカップを洗う。

 一体、何が良かったのだろうか。意味がわからない。

 

 カランカラン。

 私たち従業員しかいない店内に新たなお客様が来店された。

 

 

 「いらっしゃいませ!」

 

 

 カウンター越しに挨拶し、つぐみとイヴはお客様の元へパタパタと歩み寄る。

 

 

 「いらっしゃいませ!紗夜さん!」

 

 「サヨさん!いらっしゃいませ!」

 

 「ごきげんよう。二人とも」

 

 

 3人の様子を察するにどうやら知り合いのようだ。つぐみは私の方へ顔を向けると、二人に見えないように手招きし、それに従い手の水気を拭った後合流する。

 

 

 「紹介するね。こちら、氷川紗夜さん。バンド仲間だよ」

 

 「初めまして。氷川紗夜と申します」

 

 

 そう名乗る女性は深々と頭を下げる。実に礼儀正しい人だ。

 

 

 「初めまして。羽沢優馬と………」

 

 

 エメラルド色の目をした女性と対面した途端、言葉を失った。

 キリッとした顔つきや平均以上の背丈に加え、まるでモデルのような細身の体型はまさに、私が生前恋心を抱いた彼女(ひと)そのものだったのだ。

 

 

 「アシュリー………」

 

 

 思わず口からその名が溢れる。

 

 

 「アシュリー?」

 

 「………っ!!し、失礼しました!!」

 

 

 粗相を働き誠心誠意謝罪した。

 ここまで動揺したのはいつぶりだろうか。ドキドキと効果音が聞こえるほど激しく鼓動し、頬が熱くなってることが自分でもわかる。

 

 この体験は初めてではない。

 

 

 そう、これはあの日以来訪れてこなかった胸の高鳴り。 

 

 恋に堕ちた瞬間である。

 

 

 「………ふふっ」

 

 

 お客様は口元に細くしなやかな指を添え、小さく笑う。

 

 

 「羽沢さんから訊いていたより、面白い人ですね」

 

 「あ、はは………」

 

 

 一体つぐみはこの方に何を教えたのだろうか。まあ、余計なことは口にしているとは思えないが。

 

 

 「改めまして、羽沢優馬です。以後、お見知り置きを」

 

 「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 

 ファーストコンタクトは生前と異なり、和やかなものになった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 「〜♪〜♪」

 

 

 まるで夢のような時間だった。

 かつて愛した女性に瓜二つの人と談笑し、手作りのお菓子も喜んで食べていただけたのだから。それに、「また来ます」と別れ際に告げられたのだから、ベッドの上で上機嫌になり鼻歌を歌ってしまうのも必然と言える。

 

 今の私は、顔面に熱湯をかけられようと、スタンガンで高圧電流を流されようとも笑顔を崩すことはないほど穏健な気持ちに満たされている。

 これほど幸せなことは他にない。

 殺伐としたあの日常からは考えられないほど、濃密な時間を過ごした。

 

 

 『随分と機嫌がよさそうですねー』

 

 

 久々に聞く神の声。

 普段は鬱陶しく感じる天界からの通信だが、今はそのようなことは全く思わない。

 

 

 「ええ。頗る穏やかですよ」

 

 『それは良かった♪()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 この展開は自分が作り出した、とでも言わんばかりの口ぶりだ。しかし、この悪女にはそれを可能にする力を備えているから、やりかねても不思議ではない。

 

 だが、もうどうでもいい。

 今はただ、この幸福に満ちた気持ちを味わっていたいのだから。

 

 

 「それで、要件は何ですか?」

 

 『失礼ですね〜。要件がなければ話しかけたらダメなんですか〜?』

 

 「あくまで私の邪魔をしたいと?」

 

 『いえいえ。決してそのようなことは』

 

 「では、お引き取りを」

 

 

 これまでよりも冷たくあしらう。

 

 

 『わかりました。では、端的にお話ししますね』

 

 

 観念したのか、神は咳払いし本題に入った。

 

 

 『天界において今、私が神として権威を振り翳し好き勝手にやりすぎていると苦情が他の神から殺到されてしまって………私、これ以上好き勝手すると神の権限を剥奪すると脅されているんです』

 

 

 私にとってこれほどどうでも良いことはない。呆れたように、「へぇ」と適当に返すも神は話を続ける。

 

 

 『おまけに、成仏できない犯罪者の魂を監獄から勝手に送り込んで遊んでいることもバレて、本当にピンチなんです』

 

 

 人の命を弄ぶからそうなる。当然の報いだ。

 

 

 『どうやら他の神たちは、あなたのような大罪人を野放しにするのが許せないみたいでして、今すぐ始末しなさいと言ってきているんです。私自身、それは簡単なことなのですが15年間見守ってきて呆気なく終わるのも何だかなあ……というのが正直な気持ちで………』

 

 

 後半は私の癪に触るようなことを漏らしたみたいだが、今は許そう。

 

 

 『なので他の神たちに折衷案を提示しました。一つ、私の遊戯はこのまま継続すること。一つ、他の神たちはこの件について一切干渉しないこと。一つ、殺人鬼ユーマがどのような結末を迎えようとも、ユーマの死後、私は神としての権限を全て失い、天界から追放される。以上です』

 

 

 全てはこの女の責任なのだろうがあまりに重すぎる罰に思う。どうしてそこまで私に固執するのか。どうでも良いと考えていたことだが気になった以上、訊く以外の道はない。

 

 

 「私を生かして、あなたに何かメリットでもあるのですか?」

 

 『いいえ。全く』

 

 

 やはり理解不能だ。この女は。

 

 

 『ですが、永遠の命というのも退屈なんです。ならばいっそのこと、地上で最も凶悪な殺し屋だったあなたに殺して貰おうとも考えましたが、それも無理だった。私って、強すぎるんですよ。ウフフッ♪』

 

 「強者の笑みというやつですか?羨ましい限りです」

 

 『あなたも、永劫の命を手に入れればきっと分かります。一生終わることのない退屈が、ね』

 

 「その前に、私があなたを殺して差し上げましょう。この世に死なない生物なんて存在しないのですから」

 

 『ええ、期待していますよ』

 

 

 ありえるはずがない、といった口調でそう返すと天界との通信を一方的に切られる。

 

 永遠の命。

 そんなものを欲する程、生に貪欲ではない。私が真に欲するのは、平和で安全な暮らしを大切な家族や友人たちと過ごすこと。ただ、それだけだ。




最近、エヴァンゲリオン(アニメバージョン)を見る機会がありまして、一気見したわけですが………いやあこれが面白い。
キャラ設定と言い、物語の構成と言い、是非ともご教授いただきたいなあと感じた出来事でした。
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