白い寝台の上で、杉谷善住坊が眠っている。毛布も掛けず、両手を力なく伸ばし、人形のように横たわっている。白い雪山が二つ、緩やかな起伏を繰り返す。同じ波の映像を何度も再生するような起伏である。スカーフと数珠は外され、白い肌がより光る。
マスターはスツールに腰掛け、安らかな寝顔を鑑賞していた。周回中にオベロンのスキルを受けてから、善住坊はなかなか起きる気配を見せなかった。ダ・ヴィンチ曰く睡眠状態が従来より長いだけで数刻すれば目覚めると言うので、看病という面目で自室へ連れてきた次第である。
いつになく無防備な寝顔を覗き込む。安定した寝息、長い睫毛に、顔に掛かる一房の髪、鼻の頭を横切る一筋の傷跡。唇は花弁が挿せる程度に開いている。指先で控えめに熟れた下唇に触れてみる。柔らかく、微かに温かいが少し乾いている。サーヴァントには効果がないかもしれないが、後でリップクリームでも塗ってあげようか。どんな匂いがいいか刹那思案したが、やはり無臭がいい。斯様なものに頼らずとも、善住坊だけの香と草花の匂いがある。
指先で弾力のあるそれを弄んでいると、善住坊の微かな吐息が漏れる。薄く唇が開き、閉じる。夜に眠る花一華のような艶やかさ。
今度は首に手を移し、決して外れない赤い首輪に触れてみる。暗殺失敗の末路、鋸挽きの跡。杉谷善住坊という一狙撃手の名は凄惨な最期と共に歴史に刻まれた。音羽の城戸のように自害すれば、彼女は今、おそらく此処にはいなかった。
刹那胸が痛む。それは惨い死を憐れんでのことではない。死して尚残る傷を付けた者への嫉妬である。他人が付けたキスマークといったところか、マスターは胸の底で泥水が煮えていく感覚を覚えていた。無論あの結果があってこその出会いであると解っているが、尚も小火に炙られる。
やにわ席を立ち、寝台の上へ移り、マスターは善住坊を押し倒すような姿勢になった。こうしても身じろぎひとつしないということは、それだけ熟睡している証左であろう。これは僥倖と、マスターは豊かな胸乳へ手を伸ばした。まずは露出した餅を突いてみる。しっとりとした柔肌に指が埋まる。乳香を塗ったような甘く柔らかな感触──斯様なもの、一度触れればもう止まらず。両手を広げ、法衣の上から、外側から包むように胸乳を揉む。布の上からでも吸い付くような触感。胸筋で持ち上がった二つの餅には、力強い生命力が宿っている。腹の奥で煮えてきた欲に緊張や興奮が混ざり溜まった唾を飲む。意を決して襟から手を忍び込ませると、中に指が沈んでいく。
善住坊は微かに身動いだが、やはり目を覚ます様子はない。胸乳に顔を寄せ、谷間から醸し出される官能の匂いを肺いっぱいに吸い込む。麻薬を吸ったのように頭の中に靄がかかる。乳白の谷間に頬擦りし、赤子のように甘え、唇を強く押し付ける。このまま抱き締めてほしい。白い腕で包んで、母のように甘やかして、そのまま胸の中で眠らせてほしい。背徳的な欲に全身が蕩けていく。胸乳を揉む手が強くなる。沸騰した湯のように、熱い情に満たされる。
吸えば吸うほど欲しくなる。舌で白い肉を舐め、食み、吸う。石灰の谷に赤い花が一輪咲く。すぐに枯れてしまうがその時は希ってまた咲かせよう。とくとくと湧く愛欲に溺れながら、今度は襟に手を掛ける。するりとずらすと白い肩が剥き出しになる。首の傷も同じであるが、一を描く古傷さえ艶めかしい。いつ、どこで、誰が付けたのか問いたくなる。マスターは傷のそばに一つずつ跡を残すようにキスをした。外腿にも内腿にもキスをした。花に囲まれた彼女は美しかった。
一通り跡を付けたら、服を直す。善住坊は一刻後に目を覚ました。マスターは何食わぬ顔で「おはよう」と言った。