「はっ! 生きてる」
「どうやら上手くいったみたいだね……」
どうやら生き残ったようだ。
フリーレンは木の葉っぱに突っ込み、フェルンは馬車で顔を上げた。
リンクは葉っぱに突き刺さっているシュタルクを引っ張り上げる。
「シュタルク、戦士ならこの位の高さは慣れないと駄目だよ」
「……リンクは慣れてんのかよ」
「冒険の最初から、高い距離から落ちて蜘蛛の巣破いてた。日常だよ」
「何言ってんの?」
リンクの言っていることが一切わからないシュタルク。
彼は馬の元に行き、傷を確認する。
「馬は、大丈夫みたい。ザイン、そっちは?」
「馬車は駄目だな、修理が必要だ」
親指で馬車を指すザイン。
やれやれと、リンクはため息をついた。
「……ごめん」
「むしろ感謝しています。私一人では死んでいましたから」
フリーレンと商人がそんな話をしている。
一端は馬車の修理をするという話に落ち着き、少しの時間この場所で過ごすことに。
◇
「最近温かくなってきましたな……」
「そろそろ衣替えの季節ですかね」
それは、シュタルクとフェルンの二人が春の陽気を感じた頃。
ザインはフェルンの手首を見て、問いかける。
「そういや、フェルン。そのブレスレットって」
「……はい、シュタルク様からの誕生日プレゼントです」
特に反応することもなく、あっけらかんと応えるフェルン。
シュタルクは悲しげな顔でぼやいた。
「選ぶのに三時間もかかったぜ……」
「選んであげたんだね」
「私が好きに選んでほしいと言ったので」
「ああ、なるほど」
その言葉に、リンクは何かを納得する。
「大変だったね、一番面倒なパターンだ」
「顔色うかがいながらの三時間、生きた心地がしなかった」
「たいへんだったなぁ……」
シュタルクのぼやきに、ザインは同調したように悲しげな顔をした。
「でも、気に入ってもらえたなら。良かったよ」
「…………」
シュタルクの言葉に、フェルンは一瞬固まる。
その後ブレスレットに目を向け、優しく笑った。
「嬉しそうだね、フェルン」
「リンク様、そう、見えますか?」
「うん、とっても」
「……ならそうかもしれません」
フェルンはシュタルクを見た後、興味なさげに呟いた。
「モヤモヤの気持ちとか、嬉しい気持ちとか。そういうのが宝物になるらしいよ?」
「そう、なのですかね」
「うん、僕も奥さんへの対応はいつも苦労する。男の子は、女の子の気持ちを理解するのはすごく難しいんだよ」
「そうなんです……え?」
突然、リンクから聞き慣れない単語が聞こえた。
ついフェルンは聞き返す。
「奥さんって、誰のですか?」
「え、そりゃあ。僕のだけど」
「え……?」
「?」
◇
それから数日たった夜。
リンクは毎晩抜け出しているフリーレンを、林の奥で見つける。
「フリーレン、馬車の修理終わったから。明日には出発できるよ」
「そう」
「毎晩抜けだして、なにやってるの?」
地面を見てしゃがんでいるフリーレンに問いかけるリンク。
「ヒンメルからもらった指輪、無くしちゃってね」
「それは大変、手伝うね。出発は延期だね」
リンクもしゃがみ、指輪を探し始める。
「いいや、今夜見つからなかったら諦めるよ。なくし物には慣れている」
「……」
「ヒンメルからもらったものは、あれだけじゃないしね」
ランタンの明かりに照らされて、静かに笑うフリーレン。
その顔が少し曇って見えたのは、リンクはお人好しだからだろう。
「でも、そんな小さなものを貴女は探してる。どこにあるかもわからないのに」
「……どういういみ?」
「わかるよ、失ってから気付くなんて。みんな経験することだからね」
リンクは考え込む。
「しかし困った、何かを見つける方法なんて。僕知らないからな」
「リンク……」
「ま、地道に行くのも勇者の道筋かな」
爽やかに笑うリンクの姿。
それが、フリーレンには自身の勇者と重なった。
すると、
――くいっ。
「ん、なに?」
リンクが突然振り向いた。
しかし、そこには何もいない。
「どうしたの、リンク」
「おかしいな、さっき確かに引っ張られたような……」
リンクが不思議に思っていると。
またくいくいっと、何者かがリンクの服を引っ張る。
引っ張っているはずだが、
「……なにか、ひっぱってるね、見えないけど」
それを視認することは、フリーレンには出来なかった。
何も存在しないはずの暗闇、それが引っ張っているように見える。
「……敵?」
「ううん、多分違う」
警戒するフリーレンを止めた後、リンクはあるものを取り出す。
それは三つのトゲがついた不思議な虫眼鏡、ほんの少しの魔力が宿っている。
「リンク、それは?」
「まことのメガネ、色々見えるすごい奴」
リンクはそう言った後、レンズ越しに正体を見る。
――それは、葉っぱだった。
「……なにこれ」
フリーレンは無表情に目を丸くする。
正確には葉っぱのお面を被った木の姿をした小人。
「魔物? 随分小さいけど」
「……なるほどね」
目の前の存在が理解できないフリーレン。
だが、リンクはどこか訳知り顔だ。
――たったったっ。
その生き物はリンク達が自分を認識したのを確認すると、走りだす。
そして、こちらに大きく手を振った。
「どうやら、指輪の場所に案内してくれるみたいだよ」
◇ ◇ ◇
「……ほんとにあった」
フリーレンは感嘆の声を小さく漏らす。
彼の持つ道具でしか見れない魔物、最初は警戒したが、
「まさかこんな簡単に見つかるとは思わなかったよ」
案内してくれた先にあったのは、紛れもなくあの指輪。
「良く見つけてくれた、ありがとう」
フリーレンはそう言った後、しゃがんで指輪を取る。
ふとリンクの方を見ると、魔物を見て悲しげな表情をしていた。
「……どうしたの? リンクももっと喜んでくれてもいいんじゃない?」
「え、あっ、うん、そうだね……」
フリーレンの視線を受けたリンクは、軽く愛想笑い。
彼らしくもない、作り笑いだった。
「なにか、思うことでもあるの?」
「ううん、ただ……少し悲しくなってね」
「?」
「もう……肉眼では見れなくなっちゃったか」
彼はまことのメガネで葉っぱの魔物を見つけている。
その顔は慈悲深くありながら、奥底に冷たさがあった。
□ □ □
勇者ヒンメルの死から29年後。
北側諸国、ラオブ丘陵。
「なあ。このパーティーには足りないものがある。何だと思う?」
階段を降りていると、真剣な顔で言うザイン。
フリーレンは考える。
「うーん、前衛はいるし、魔法使いも僧侶も揃っているし……」
「
最初に答えを出したのはフェルンだ。
「フリーレン様がミミックに引っかかるので」
「宝箱には無限の可能性があるんだよ」
「あまりフェルンを困らせないであげてね」
ふんす、と胸を張るフリーレンに苦笑するリンク。
ザインは首を横に降った。
「違う。足りないものはもっと重要なものだ」
「強いて言うなら、妖精……」
リンクも答えを出してみた。
だがその瞬間、
「ぐ……っ」
何かが刺さった、心に。
「リンク、なんか自分でダメージ受けてないか?」
「だ、いじょうぶ」
シュタルクがリンクの心配をしていると、
「そう! 妖精のような年上のお姉さんだよ!」
突然ザインが絶叫した。
リンクはびくりと肩をふるわせる。
「普通はパーティーに一人くらいはいるだろう!! 色っぽい大人のお姉さんがさあ!」
「そうかなぁ……」
「フリーレンがいるでしょうが」
ザインはシュタルクの言葉に一瞬フリーレンを見る、
「嫌だ……お姉さんじゃないもん……」
「すごく辛そう」
その顔はとても絶望に満ちているザイン。
「なあ! リンクもそう思うだろ!?」
「さあ……? 僕はあんまりパーティーを組むことがないから」
その後、リンクは考える。
(そもそも、こんなに賑わっている冒険も、あんまり無かったな。彼女が今の僕を見たら、なんて言うかな)
つい、思い出さずにはいられない。
時の勇者としての功績を知っている、彼女を……
「……リンク様?」
「なんでもない、行こう」
□ □ □
フリーレン一行は次の村に着く。
だが、その村は今異変が起きていた。
「これは……?」
その村の住人が、倒れていた。
リンクはすぐさま一人の倒れた住人に駆け寄り、フェルンも続く。
「どうですか、リンク様」
「大丈夫、眠ってるだけみたい」
見たところ、争ったような痕跡はない。
「皆眠ってる、どういうことだ?」
「のろい、だな」
シュタルクの言葉に答えを出したのは、ザインだ。
フリーレンは「やっぱり」という顔をする。
「やっぱりか、面倒だね」
「なあフリーレン、呪いってなんなんだ?」
「魔物や魔族が使う魔法の中には、人を眠らせたり石にしたりするものがあってね、その中で人類が未だに解明出来ていない魔法を呪いと言うんだ」
「?」
リンクは呪いの解釈に違和感を覚えた。
だが、口には出さない。
「人類の魔法技術じゃ原理も解除方法もわからない」
「じゃあ、この村は手遅れなのか? リンク、なんとかならないか」
シュタルクの問いに、リンクは唸る。
「呪い、か。方法がないわけじゃないけど」
「ホントか!」
「ただし、これを生身の人間にやったことがない。最悪寝ている人間が天に昇るけど、それでもいいなら」
「遠慮しときます……」
リンクの提案にゾッと身体が悲鳴をあげるシュタルク。
フリーレンがザインに話しかける。
「ザイン、なんとかなりそう?」
「急かすな、今は呪いの種類と発信源を調べている」
ザインが探知をしている中。
リンクは木陰でぽけーっとしていると、
『時のマスター、報告します』
リンクの耳だけに声が聞こえた。女性らしい、やさしい精霊のような声。
片目だけ開け、精霊の姿を捉える。
「どうしたの? 最近は随分おしゃべりだね」
水色の女性をもした、その精霊の名はファイ。
マスターソードに宿る、様々な勇者を導いてきた精霊だ。
『魔力残滓に該当あり、ゾーラ族の魔法の可能性、九十二%』
「……へえ」
リンクは目を細くした。
『さらに、その力が水の賢者に関連する可能性、四十五%』