「リンク様、起きてください。リンク様」
「ん……ぅ……」
早朝七時頃、わたし……フリーレン様の弟子であるフェルンは、先日出会い仲間になった少年、リンク様を起こしています。
「ほら、リンク様。起きてください」
わたしは彼の小さな肩を何度もゆすり、リンク様を起こそうとする。
しかし、リンク様は起きる気配が無い。
「……ふぅ」
つい、ため息が出る。
今まで一緒に旅をしてきてわかったが、彼はどうやら寝るのが好きらしく、良く木陰でお昼寝したりベッドで長い時間眠っている。
「すぅ……すぅ……」
そんな気持ちよさそうなリンク様の姿は『ちゃんと少年らしい所もあるんだな』とほっとする。
でも、まるでフリーレン様が二人に増えたような感覚で、個人的には少々疲れます。
「ん……ぅう……」
格闘して約三分程度。ようやくリンク様はむくりと起き上がり、猫のように目をこする。
「おはようございます、リンク様」
「おはよう」
□ □ □
「「…………ぅ」」
そして昼食中。
フリーレン様とリンク様はほとんど寝落ちになりかけながら朝のパンを食べます。
リンク様もフリーレン様も、格好いい時といつものギャップが激しい方達です。強い人はそんな物なのでしょうか。
「フリーレン様、今日は魔法防御に付き合ってくださるんですよね」
「……あああ。そうだね」
完全に頭が回っていないのか、まるで話しを流すような返答をするフリーレン様。
そして眠気のせいかジャムをべちゃっと服に落としてしまうリンク様。わたしはジャムがこびりついてしまった服を拭く。
そして、やっと覚醒したであろうフリーレン様が口を開く。
「今回の魔法の特訓には、リンクも手伝ってもらおうと思ってね」
「……僕も?」
リンク様は自分には関係が無いと思っていたのか、ほんの少しだけ目を見開く。
「ああ、ちょっと気になることもあるから。どうかな」
「………………」
「何だいその目は」
フリーレン様のその提案に、リンクは何処か冷たい目をしていた。
「少しくらい付き合ってくれても良いんじゃないかな」
「フリーレン様、恐らくすでに魔法に関しては信用を失っているかと」
「え、なんで」
本当にわかっていない様子のフリーレン様を見て、わたしは小さくため息をつく。
「魔法の旅に関して色々連れ回してしまいましたから。こうなってしまうのは仕方が無いかと」
「そんなに連れ回してないよ、根拠の無いこと言わないでほしい」
「森を一週間彷徨った挙げ句に手に入れた魔法は『ちょっと多く食べれるようになる魔法』。倒してはいけない敵に何時間も逃げ回った挙げ句手に入れた魔法は『爪が綺麗に磨ける魔法』」
「…………」
「根拠に関しては枚挙に暇がありませんけど」
「今日はこのくらいで勘弁してあげよう」
わたしの言葉を聞くと、あっさりと論破を諦めるフリーレン様。
ハッキリ言って、リンク様に我々は良い印象を持たれていない。
リンク様がどんな理由で旅をしているかも、我々の旅に同行することを承諾したかもわからない。
しかし、ハッキリ言えることは……彼から見た我々の旅はただの時間の浪費でしかないと言うことだ。
そして、リンク様は多少黙り込んだあと、口を開いた。
「いいよ、付き合う」
「あ、付き合ってくださるんですね……」
□ □ □
そして、訓練が始まった。
最初はいつも通りフリーレン様と一対一、フリーレン様が放つ魔法を上手く防御する。
「――――」
フリーレン様が構えると、杖の先に複雑な魔法陣が展開し、その中心に集まるかのように魔力が集中し出す。
その魔力の流れは螺旋を描いて杖の先に吸い込まれ、
――波動。
次の瞬間、魔力が一気に解放。
その束になった魔力はわたしめがけて一直線に飛び、魔力の煌めき……光線となって放たれる。
「っ」
それを確認したわたしはすぐさま魔法陣を展開。
当たったらひとたまりも無い魔力を魔法陣で受け止める。
その瞬間、魔法陣を通して私に多大な重圧がかかった。重い一撃で片腕が持っていかれそうになるが、耐える。
――次に魔法陣を解いたときには自分の足下以外、辺りの土は削れて後ろにあった木は土から抉られて倒れていた。
「お見事、随分成長したね」
「光栄です」
表情を一切変えず、助走が一切無い突然の褒め言葉に、わたしはぺこりと返す。
リンク様は静かに木陰に座ってこちらを観察している。
「どうだい? 威力の高い魔法を見た感想は」
「すごいよ、こんなに強い魔法は初めて見た」
そう言ってリンク様は無表情でコクリと頷くが、その瞳は何処か新しい物を見たような子供の輝きを放っている。
「さぁ、出来れば君の魔法もフェルンに見せてほしいんだけど――」
「見せびらかす物じゃ無い」
フリーレン様が美魔女のような怪しげな笑みを浮かべるが、リンクは一蹴した。
「僕はそもそも剣士だから」
「それにしては、魔力の備蓄が並みじゃ無いみたいだけど?」
「旅をしている時に魔法が必要だっただけだよ」
「…………」
「なにその顔」
見事に見せたくないオーラを放っているリンク様に、フリーレン様は目を細くいつも見せる気の抜けた顔になる。
「リンク様、どうか見せていただけませんか」
そんな師匠に助け船を出すべく、わたしはリンク様に近づいてこそこそと話した。
「フリーレン様、すねると三日三晩泣きわめくらしいんです。どうか」
「…………わかった」
リンク様はマジかよ、といったような表情を浮かべた後仕方なしと承諾した。
その言葉を聞いた瞬間「ひゃっほい」とフリーレン様はテンションが高くなる。
「それじゃあ、見せるよ。そこから入ってこないでね」
リンク様は平地に作られた円の中心にたつ。
わたし達はリンク様に言う通り円の外から彼を観察する。
――そして、リンク様が構えたのはクリスタルのような何か、魔法石だ。
透明なクリスタルの真ん中は赤く光っており、そこから何かエネルギーを感じる。
それが魔力なのかなんなのか、わたしにはわからない。
「――っ」
――紅蓮。
リンク様が膝を突き、その魔法石を地面に叩きつけたその刹那、リンク様を囲うようにして炎がドーム状に広がる。
その炎はリンク様を守るように燃えさかり、拡散するように弾ける。
その火の粉はすぐに消えたものの、本来だったらもっと威力はあったであろう。
「どうかな?」
「……ワォ」
リンク様のその言葉に、フリーレン様は珍しく目を丸くしていた。
□ □ □
その日の夜、わたしはお風呂上がりに窓の外を見る。
そこには穏やかな風で木が揺れサワサワと葉擦れするその場所で、オカリナの演奏をしているリンク様を見つけた。
リンク様は木にもたれかかり、優しげで儚い……子守歌のような曲を演奏している。
「綺麗な音色ですね」
わたしは、無意識にリンク様に近づいていた。
リンク様はわたしの目を見てにっこりと笑い、二人で木陰に座った。
。
「このオカリナ、僕のお気に入り」
「へぇ、昔から持ってるんですか?」
「僕が旅立つときに友達から譲り受けて――」
そう言いかけた瞬間、リンク様はすぐに言葉を訂正した。
「いや、もうその友達は、僕のことは忘れてると思うから。友達【だった】人から、かな」
その訂正に、わたしは少し顔をしかめてしまった。
「リンク様、そんなことを言ってはいけません。人の関係はそんな簡単に消える物ではありません」
「…………」
「リンク様が覚えているのなら、その方も絶対覚えていますよ」
「……うん、ありがとう。あの子とはずっと友達、だからね」
わたしのその言葉に、リンク様はコクリと頷いた。
わたしは自分の長い髪をくるくるといじった後、話題を変えた。
「今日の魔法、お見事でした。自分もまだまだだと精進させられます」
「ありがとう、僕は見せないほうがよかったと思った」
そう言って、リンク様は遠い目をする。
何故こんなことを言うのか、それはリンク様があの魔法を見せたときフリーレン様のテンションがぴょんぴょんとあがり、リンク様から魔法石を奪っていったのだ。
しかも、奪ってから今までずっと自室にこもっており、出てくる気配が無い。
「……戻ってくるかな」
「…………多分」
わたしはリンク様と遠い目をした後、話題をまた変えた。
「そういえば、リンク様は剣術も豊富ですし魔法も出来る。誰か師匠はいるのですか?」
「師匠?」
わたしはふと、そんなことを聞いた。
これほどの剣術と魔法の使い手だ、優秀な師の元でどれだけの研鑽を積めばここまで成長が出来るのか興味があった。
ここまで成長させたリンク様の師匠は、どんな人だろうと。
「ううん……」
すぐに答えてくれると思っていた。
しかし、リンク様は困ったような顔をして、顎に手を当てて考える素振りを見せた後、
「いないや、そういえば」
「え」
そういった。
わたしは目を丸くしてしまう。
「全部独学だね、基本的には。誰かの剣術見たわけじゃないし、教えてもらってもない」
「えぇ……」
「あ、そっか僕独学か、独学であんなに。ぼくすごい」
のほほんと言うリンク様に、わたしは苦笑する。
信じられない、あれが全部独学? どれだけの経験を積めばあれだけの技術を覚えることが出来る?
彼の実力には底が見えない。
「あ、師匠はいないけど弟子なら一人だけいる」
「その年で弟子いるんですか……?」
リンク様が思い出したかのようにそんなことを言う。
まぁ、この人の実力なら違和感は無いが――
「その弟子さん、どんな人だったんですか?」
「しらない」
「はい???」
知らない?
弟子なのにどんな人物か知らない? 意味がわからない、頭が混乱してきた。
「真っ白な世界でね、ほとんど喋らずに剣術教えてたから。どんな人だったのかもどんな性格かも全然知らない。でも生涯で教えたのはその一人だ――」
そう言いかけた後、「あれ?」とリンク様は考え込む。
「――いや、その時に僕死んでたかな? 骸骨だった気がする」
「?」
「死んでから弟子を取ったら、生涯一人の弟子にはなるのかな」
「??」
「あれ、その時僕狼だった気もする」
「???」
「あ、でもその子は勇者だと思う。性格知らないしやってること知らないけど」
「????」
意味のわからない言葉を連発。
わたしの頭が理解を拒否している、状況を脳内で再生できない。今なら彼が虚言癖だと言われても信じてしまう。
そして、最後に――
「とりあえずあの剣が認めてたから、多分弟子」
「????????」
そう締めくくり、訳がわからなすぎた。