木が生い茂り、川のせせらぎが優しく聞こえる場所で、私達は目的地に行く途中に魔物退治に来ていた。
「ここが最近村人が消えた場所だね」
村人達の話しによると、死んだ身内や知り合いの幽霊が生前の姿のまま目撃された。
話しかけられたと言う人もおり、アンデッドでは無いだろう。
知り合いの幽霊が話しかけてきて行方不明……恐らく、アインザームの仕業だ。
「だね、どうにかしないと」
「はい」
そいつは面倒なので避けて通ろう思ったのだが、二人は村人を助ける気満々らしい。
まぁ、修行にはなるから良いが。
「ここで魔法が使われた形跡があります」
「そうだね、どんな魔法だと思う?」
「幻影魔法です、幻を見せて、獲物を誘い出す魔物がいると魔法生態学の本に書かれていました」
私はフェルンのその考察に頷いた後、そいつの名前を教えた。
「アインザーム。その主の魔物の中でも狡猾で貪欲で、等しく捕食しない偏食家。死者の幻影を見せて人を誘い込む」
「そんなので、誘い込めるの?」
「その人にとって大切だった人の幻を見せるんだよ」
リンクの問いに私はそう答えた。
しかし問題は無い、奴は高密度な魔力を放てば離散させることが出来る。彼の持つディンの炎で十分。
「死者の幻影を撃てばいいのですね」
「撃てる?」
「当然です、偽物だとわかっているのですから」
私は振り返り、フェルンに覚悟を問う。
フェルンはあっけらかんと答える。
「私は命乞いをする先生の幻影を撃ったよ……まぁ先生の命乞いは聞き慣れていたから、そこまで罪悪感は無かったけどね」
「「え」」
「でも気分の良い物じゃ無い」
そんな話をすると、何故かフェルンはよそよそとリンクに耳打ちをしていた。
「……命乞いを聞き慣れるって、どんな状況なんでしょう」
「本とか物語の中では、師匠を超えた弟子は『師匠を超えた』という名目で殺すことがあるから。多分それ」
「うわぁ」
「違うからね」
□ □ □
そして、私達は霧が覆う樹海に入った。
まるで夜になったと錯覚しそうなほどなにも見えず、魔力も漂っている事から奴は近いだろう。
「近いね、幻影が出てきたら迷わず撃つんだよ」
そういうと、フェルンは杖を構える。
「…………」
「リンク、君もあの魔法石を――」
「僕は僕のやり方でやる、大丈夫」
しかし、リンクはあの魔法石を持とうとせずに、特に考えなしに周囲を見渡している。
「あいつは魔法でしか離散しないよ」
「そう」
「惑わされたら捕食されてしまう」
「…………」
私は何度か注意喚起をするが、リンクは黙ったまま歩を進める。
しかたない、何かあったらこちらで対処するしかなさそうだ。
そして、
――リンクの前に幻影が三体現れる。
『久しぶりゴロ』
「うん、ダルマーニ」
一体は大きな巨体で黄土色が特徴的なのにもかかわらず、優しげなつぶらな瞳をしている化け物だ。
服はほとんど着ておらずふんどし一丁。
『ohベイベー! 俺のご機嫌なカーニバルを聞きに来てくれたのかい?』
「そうかもね、ミカウ」
もう一人は半魚人のような容姿であり、魚の骨の形をしたギターを携えている真っ白な身体の化け物だ。
『…………』
「……やぁ」
そして、最後の一体は小柄で薄気味悪い顔をしており、身体は奇妙にも樹木で出来ている。
その小柄な化け物に向かって、リンクは歩み膝を突く。
「リンク、魔法を撃って」
私はリンクにそういう。
彼らがどんな存在なのか、彼にとってこの化け物達は何なのかはわからない。
しかし、それでもこれは幻影だ。本物でもないし、ただ惑わせるだけの物だ。
「…………」
しかし、リンクは一切動く気配は無い。
わたしは再度言葉をかける。
「リンク、それは幻影。惑わされないで」
再度リンクにそう言うが、リンクはやはり動く気配が無い。
仕方ない、気は進まないが私が撃とう。
彼はどうやら撃てそうに無い。魔法を構えようともしなければ驚きもしていない。
――まだ彼の心は幼いと言うことなのか。
「――幻じゃない」
ふと、リンクはそんなことを言った。
目の前の光景が幻とわかっているはずなのに、魔物のせいだと理解してるはずなのに、リンクは優しい声でそう断言した。
「そう、君達は幻なんかじゃないよ。夢じゃないし悪夢でもない」
リンクは木の化け物の頭をなでながら、微笑んだ。
「君達のことは、ずっと僕が覚えてる。たとえ悪夢だったとしても、存在しない時間だったとしても、僕は君達をずっと覚えている。君達の力を借りて、世界を救った夢をずっと忘れない」
――僕の心の中には、ずっとみんな存在してるんだよ。
――たとえ、それが本当は存在しない世界であっても。
リンクはオカリナを取り出し、吹いた。
その音色は優しげであり不協和音さも感じられる不思議な曲で、まるで魂を浄化し除霊するような。
神秘的でありながらも、真っ暗な墓地を彷徨っているような恐怖心を感じる曲調だ。
□ □ □
あの曲のこと、あの三体の化け物のこと。
私は聞かないことにした、何処か訳がありそうだったし、なんとなく掘り返してはいけない気がした。
けど彼はあの曲を……『癒やしのうた』とだけ教えてくれた。
中央諸国リーゲル峡谷。
そこで私達は物陰に隠れ、今回の獲物を観察していた。
「あれが、目的の竜……」
目の前の竜の姿に唖然とするフェルン。
その竜はリンクが倒した個体よりも明らかに大きく、堅い鱗と角を持っている赤い竜だ。
そしてそいつの巣の中に、目的のブツがあった。
「巣を見て、魔導書があるでしょ? アレ探していた奴なんだよね」
「相変わらず好きだね、魔法」
リンクがそう言うので、「ほどほどにね」と答える私。
竜は魔力のこもった物を好んで営巣の材料にする。
「紅鏡竜、こいつは冒険者を何人も喰っている。どちらにせよ仕留めた方が良いでしょう。巣に当てないように気をつけて」
「はい」
私がそう指示をすると、フェルンは魔法陣を展開し、魔力を竜に向けて照射した。
その攻撃は見事に命中し、ドラゴンの後ろにあった岩は衝撃で崩れる。
「フリーレン様……あまり手応えが……」
やはりと言うべきか、この程度では傷一つつけれないようだ。
「やっぱり堅いね、リンク。やれる?」
「やってみる」
そう言って、リンクは私を持ち上げ、手をイス代わりにして頭の上まで持ち上げた。
「……なにやってるの?」
「投げれば倒せるかなって」
「無理だよ?」
「一応経験談」
「無理だよ?」
「大丈夫、いざとなったら多分最初の地点にワープするから」
「しないよ???」
□ □ □
そして、私達は竜を撒いた。
かなりの時間走り回っていたため、フェルンは既に息切れだ。
「し、死ぬかと思いました……」
「ようやくまけたか、飛ぶのも早いね。空中戦も無理そうだ」
「だね」
リンクはフェルンの背中をさすりながら、のほほんという。
「それにしても、君逃げるの早いね。なにあれ、前転?」
「アレが一番早いからね、あの竜どうする? 諦める?」
特に息切れしていないリンクの問いに、私はまずは質問を返す。
「リンクはアレを見てどう思った? 倒せそう?」
「倒せないとは言わない。けどあまり自信は無い」
そりゃそうだ。
あの堅い鱗は彼の持っている剣やブーメラン、魔法は明らかにきかないであろう。
他に奥の手はあるみたいだが、それでも倒せるかどうか。
「とりあえず、コレ続けて体力削ろうか」
「そうだね、撃って逃げてを繰り返してたら流石に倒せるでしょ」
淡々というリンクに、私は同意する。
この状況ではそれが一番合理的で効率的なやり方だ。
まぁミスったら即座に死ぬわけだが、死ななければどうと言うことはない。
と、思っていると。
――フェルンが私の服を引っ張った。
「…………」
「だよね、竜と追いかけっこなんて魔法使いのやり方じゃ無いよね」
私はフェルンの頭を撫でた後、近くにある村を指を指して『あっちにいく』という意思をリンクに伝える。
――これは、素直に仲間にするか。