フリーレンと忘れられし時の勇者   作:エクソダス

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第4話



 竜から逃げた後、私達は近くにあった村に入っていた。

 理由はただ一つ、ある前衛の勧誘だ。

 ここには昔の仲間、戦士アイゼンの弟子であるシュタルクという少年がいるらしく、竜討伐のため勧誘に来た。

 

 

「お前らが竜に手を出していた連中か」

 

 

 そして、あちらも私達を探していたらしい。

 村人のおばあさんに連れられ、たどり着いた先でシュタルクは待っていた。

 

 

「あんまり刺激されると困るんだ。村に危険が及ぶ」

 

 

 そういうシュタルクは大樹の近くにある岩に座り、その横には彼の武器であろうアックスが立てかけられていた。

 そして、シュタルクは髪をかき上げ、額を見せる。

 

 

「竜ってのはお前らが思ってる以上に恐ろしい存在だ」

 

 

 そこにはやけどで肌が抉れたであろう痕跡があり、その跡は眉間まで届いている。

 

 

「この額の傷は竜と戦ったときに――」

「そんな大層な傷じゃ無いでしょ」

 

 

 私がそういうと、シュタルクという少年は黙った。

 恐らく脅して追っ払うつもりだったのであろう、瞳は『無駄か』という意思を感じ取る。

 

 

「お前ら、師匠の差し金か。なにもんだ」

「魔法使い、フリーレン」

 

 

 私が自分の名を名乗ると、シュタルクは少しだけ驚いたような顔をして、近くにいるおばあさんと子供達に捌けるように伝えた。

 そしてその者達が消えた辺りで、シュタルクは再度口を開く。

 

「師匠、怒っていただろう? 黙って出てきちまったからな」

「シュタルク、なんで竜を倒さないの? 村にとどまる理由なんて無いでしょ」

「……先にそっちの要件を教えてくれないか? 師匠のところに戻れって言うならごめんだぜ」

 

 

 シュタルクに要件をきかれ、私達は仲間になってほしいと直球で言った。

 

 

「仲間か……それは別にかまわないぜ、師匠が連れて行けって言ったんだろ? ただ紅鏡竜だけは倒してもらう」

「…………」

「正直、俺一人じゃ厳しくてな。フリーレン、お前なら倒せるんだな」

「三十秒足止めをしてもらえれば、確実に」

「なるほど、三十秒か」

 

 

 

「それ、俺がやらないと駄目かな?」

 

 

「何を言ってるんですかこの人は」

 

 

 いきなり投げ出すような事をシュタルクが言い放ち、フェルンが冷たい目をする。

 そして、リンクが次のことをきいた。

 

 

「気になったんだけど、シュタルクさん。魔物との戦闘経験は?」

 

 

 すると、

 

 

「ゼロだよっ――――!!!」

 

 

 めちゃくちゃ元気よく、しかし涙ながらに言った。

 そして、彼は私の足下にしがみつく。

 

 

「助けてくれよフリーレン!! 俺だって最初は立ち向かったんだよ!! でも、こわくて一歩も動けなかったんだよ!! あいつ家を野菜みたいに輪切りにしちまうんだぜ!! 人間が戦って良いような相手じゃねーよ!!」

「…………」

「竜の気まぐれで助かったと思ったら、何故かその後竜が村を襲わなくなって英雄扱い! 村の人たち超良い人なんだよ! もう逃げられる雰囲気じゃないんだよ!!」

 

 

 あれあれまあまあ……、随分と長い泣き言だ。

 恐らく戦闘経験が無いだけだが、ここまで自信が無いとこっちまで不安になってくる。

 

 

「フリーレン様、コイツは駄目です。他を当たりましょう」

 

 

 しかも、その不甲斐なさにフェルンは見下すような残酷な目で見ている始末だ。

 ――完全に信用なし、そしてとうの本人も度胸なし。

 

 

「ううん、この人は竜と戦えるよ」

 

 

 しかし、『彼は戦える』と思っていたのは私だけでは無かったようだ。

 

 

 □ □ □

 

 そして、決行当日。

 私達は待ち合わせ場所の付近に来たが、まだ彼の姿は見当たらなかった。

 

 

「……いませんね」

「逃げたか」

 

 

 正直期待していたのだが、来ないのなら仕方が無い。

 冷たいが彼はその程度の奴だったと言うことだ。どちらにしろこれで逃げる人間を旅には連れて行けない。

 

 

「仕方ない、フェルン、リンク。竜と追いかけっこだ」

「え」

 

 

 私のその指示を訊いた瞬間、フェルンの顔が固まり、近くの木に抱きつくようにしがみついた。

 私は彼女の服を引っ張って引き剥がそうとする。

 

 

「くるよ」

 

 

 そんなことをしてる最中。

 いや、先程からずっとだ。彼はシュタルクが来ると何故か確信している。

 

 

「なぜそう言い切れる?」

「彼の目は、何か強敵に立ち向かう目だった」

「……なるほどね」

 

 

 彼の言いたいことはよくわかる。

 何せシュタルク、彼の目は彼の師であるアイゼンによく似ているから。

 でも、瞳だけでそこまで信用できる物か。

 

 出来るとするならどれだけその『何か強敵に立ち向かう目』を見たら確信できるようになる?

 

 

「フリーレン」

 

 

 そんな事を考えていると、後ろから声が聞こえてきた。

 その声の方向を見ると、そこにはシュタルクがたっていた。

 

 

「遅かったじゃん」

 

 

 どうやら彼の勘、そして私の勘は当たったらしい。

 

 

「足止めは三十秒で良いんだよな」

「うん」

「一つ約束してくれないか? 俺が途中で死んだとしても、竜は必ず仕留めてほしいんだ」

「わかった、約束する」

 

 

 私はそれを承諾するが、どこか腑に落ちない。

 何故自分が死ぬ前提でも仕留めてほしいと願う?

 本来は彼と村に接点は無く、逃げればいつでも逃げれたはずだ。彼には村を助ける義理も理由も無い。

 

 

「でも何故、村の人たちの為にそこまでするの?」

 

 

 ふと、私は思考した疑問をそのままぶつけていた。

 そうするとシュタルクは優しく笑い、こういった。

 

 

 

 

「俺はこの村に三年もいたんだぜ」

「…………」

 

 

 

 

 ――ああ、そういうことか。

 こいつも、ヒンメルと同じなのか。

 

 

「短いね」

「超長ぇよ」

 

 

 □ □ □

 

 

 そして俺、シュタルクは竜の前に立った。

 

 

「でかいね」

 

 

 この緑のガキと一緒に。

 竜の大きな身体に威圧される事も無く、怖がることも無くただぼーっと竜を見つめている。

 ……確か名前は、リンク。だったか?

 

 

「なあ、お前戦えるの?」

「まあね」

 

 

 フリーレンの話しだとかなり強いらしいが。

 どうにも信じられない、だって明らかに十歳ぐらいのガキだぞ。

 

 

「僕達は三十秒稼げば良いから、頑張ろう」

「お、おう」

 

 

 とはいえ、明らかに俺より物怖じしていない。

 彼は覚悟があるんだ、自分より強大な敵であっても戦う覚悟が。圧倒的な危険生物にも怯えず、相手を真っ正面から観察する能力が。

 

 俺も覚悟を決めねぇと……。

 

 師匠も怖かったんだよな、あいつに震え方まで一緒って言われたぞ。 そう、必要なのは覚悟だけ。

 

 

 

 

 

 ――――ペチペチペチペチ。

 

 

 

 

 

「…………あ?」

 

 

 そんな音が聞こえたので、リンクの方を見ると。

 なんとリンクが持っていたのは後ろにある剣でも盾でも無く、まさかの子供なんかが遊ぶ『パチンコ』だった。

 そうあれ、弓矢の子供版みたいな。石とかを撃てるアレだ。

 

 

 ――――ペチペチペチペチ。

 

 

「あ、あの……リンクさん?」

 

 

 ――――ペチペチペチペチ。

 

 

「おーーーい……」

 

 

 ――――ペチペチペチペチ。

 

 

 俺の問いかけなど何のそのだ。

 リンクは何度も何度もパチンコを撃ちまくっている。

 ……言うまでもないと思うが、当然その攻撃は竜の鱗にコツンッと当たるだけ。

 

 

「な、なぁ。真面目にやってくれないか?!」

「真面目だよ」

「パチンコをむやみやたらに撃ってるこれの何処が真面目なんだ!」

「真面目に竜を怒らせてる、お兄さんがいるから簡単には怒ってくれそうに無いから」

「怒らせてどうするんだよ!? 三十秒持つだけで良いんだから穏便にいけ穏便に!」

「む」

 

 

 そう言いながらも、リンクはペチペチと無駄にパチンコを撃つのをやめない。

 と、次の瞬間、

 

 

 ガァアアァアアアアア――ッッ!!!

 

 

 そのふざけた攻撃が竜の怒りの火種になるのは必然だった。

 竜は怒気の満ちた咆哮を上げ、こちらに襲いかかってくる。

 

 

「危な――」

「はい、動いた」

 

 

 俺は反射的にリンクを庇うためバネのように強く地面を蹴る。

 しかし、先に動いたのは竜でも俺でも無くリンクだ。

 リンクはいつの間にか後ろにあった大きなゴミ袋くらいの袋を竜の口にめがけてぶん投げた。

 

 

 ――爆発。

 

 

 その瞬間、辺りに無造作に炎が舞い爆発音が響く。

 どうやら中には大量の爆弾が入っていたらしい。怒らせたのは取り乱して口を開けた時を狙った訳か。

 

 

「いやいや残酷すぎるだろ!!」

 

 

 パチンコで煽った後口に爆発物ツッコむとか。

 無邪気な子供は時に残酷なことを実行する……そんなレベルじゃねえぞおい!

 

 

「良し倒れた、弱点っぽいところはないから……」

 

 

 リンクは倒れる竜をじっと観察した後。

 こう言い放った。

 

 

「とりあえず目玉切り刻もう」

「こっっっわ!!!」

 

 

 □ □ □

 

 

「期待以上だ。偉いぞ」

 

 

 結局、あの後はシュタルクが斧を脳天に振り下ろしただけで終わった。

 流石にアイゼンから教わっていただけのことはある。

 

 

「リンク様、大丈夫ですか?」

「大丈夫」

「無理はなさらないでくださいね」

 

 

 フェルンは爆発で汚れたリンクの服を拭いてあげる。

 最近思うが、フェルンはリンクに母性を発揮している気がする。

 

 

「なぁ、ホントに俺必要だったか??」

「ああ、それは正直私も思った」

「?」

 

 

 私とシュタルクの視線に、リンクは訳もわからず首を傾げる。

 口に爆弾とかなんて残酷なことを思いつくんだ、逆に『自信は無い』といったやり方を見てみたい気はする。

 

 

「すごかった、竜を一撃で倒せた」

「そ、そうか?」

 

 

 リンクのその素直な褒め言葉に、シュタルクはなんとも言えない笑みを浮かべる。

 

 

「宝の山だー、うひょー」

「全部は持って行けませんよ」

 

 

 さて、今回の宝を手に入れるとしよう。

 私はとりあえず例の服が透けて見える魔法の魔導書を回収する。

 

 

 ――さて、問題はこれだね。

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

 触れた瞬間、突然意識を刈り取られそうになる。

 ここまで魔法の闇の部分が凝縮している物は見たことが無い。私で無ければこの仮面の狂気に飲み込まれていたであろう。

 

 

「ふむ……」

 

 

 この禍々しい仮面がなんなのかはわからない。

 しかしこの邪悪さはあまりに強大で普通の人間が扱える代物では無いことは確か。

 

 

 ――そして、この仮面は何故かリンクの魔法石に共鳴している。

 

 

 

 

「研究し甲斐がありそうだ」

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